ダイオキシン微生物処理技術の研究

文献情報

文献番号
199800571A
報告書区分
総括
研究課題名
ダイオキシン微生物処理技術の研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
古市 徹(北海道大学大学院工学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 保科定頼(東京慈恵会医科大学臨床検査医学教室)
  • 小口深志(前田建設工業(株)技術研究所)
  • 惣田昱夫(神奈川県環境科学センター環境工学部)
  • 郷田浩志(東和科学(株)技術研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 生活安全総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、ダイオキシン類によって汚染された土壌・地下水、及び不適正埋立処分場における埋立浸出液の実用的な処理技術を開発することである。これまでのダイオキシン分解は、溶融処理や超臨界水による分解が検討されてきているが、いずれも高熱、高温、高圧でコストが高く、副生成物による二次汚染も懸念されるため、安全で低コストな技術が求められている。そこで本研究では環境に優しい微生物処理技術を開発し、物理化学的な前処理も含めたトータル的な処理システムの構築を検討することにした。そこで今年度の研究の達成目標を、①我々の単離した微生物によるダイオキシン分解を確認すること、②前処理技術も含めた実用的な処理プロセスの可能性を検討することとし、研究を進めた。
研究方法
研究は大きく(1)微生物によるダイオキシン分解の既往の研究レビュー、(2)バッチ実験によるダイオキシン微生物分解の確認、(3)分解遺伝子の同定のための基礎的検討、(4)実用的な処理技術開発のためのバイオリアクター実験、(5)前処理技術の可能性検討に分けて行った。(1)では既存の報告されている微生物によるダイオキシン分解効率、分解経路、処理技術の現状について主に文献調査を行った。(2)では2つの菌体(62℃で活性を呈する好熱菌、コプラナーPCBを分解するPCB分解菌)を用いたバッチ実験を行い、無塩素置換のダイオキシン、ジベンゾフラン、2,3-、2,8-、2,3,7-、2,3,7,8-のクロロジベンゾダイオキシンの分解特性を調べた。(3)については、分担研究者の保科がアメリカでおこない好熱菌によるダイオキシン分解メカニズムの基礎的検討として、菌から分解に関与する遺伝子を把握するための実験を行った。(4)は有効容量15Lのバイオリアクターによる連続処理実験を行った。(5)は、主に文献調査によりダイオキシン類のUV分解について知見を入手した。
結果と考察
今年度の達成目標である①の我々の単離した微生物によるダイオキシン分解を確認することに関しては、好熱菌を用いたバッチ実験(65℃、22時間培養)により、1ppmの2,3-ジクロロジベンゾダイオキシン(2,3-DCDD)を95.4%、2,8-DCDDを87.5%分解し、さらに0.01ppmの2,3,7-TCDDを60.5%、2,3,7,8-TCDDを12.4%分解することを確かめた。好熱菌は、高温で活性を呈するため他の競合菌の影響が少なく、また増殖速度が速いため、実用的なプロセス化に適している。さらに好熱菌にプラスミド(45,000塩基長)を確認しており、今後ダイオキシン分解遺伝子のクローニングを行う予定である。
次にダイオキシン類の一つであるコプラナPCB分解菌により、30℃、15日間の培養でコプラナPCBである3,4,3'.4'-Tetrachlorobiphenylを最大61.0%分解すること、及び無塩素置換のジベンゾフランは約60%分解することを確かめた。コプラナPCB菌は、従来微生物による分解が困難であると指摘されている高塩素置換のダイオキシン類を比較的速い速度で分解する可能性がある。いずれの菌も現在報告されているダイオキシン類分解微生物に比べて、高い分解能力を示した。
次に、②の前処理技術も含めた実用的な処理プロセスの可能性を検討することに関しては、埋立浸出液処理施設における脱窒プロセスを模擬したバイオリアクター(容量15L)を用いた室内実験を行った。リアクターは好熱菌槽(A槽)、コプラナPCB分解菌槽(B槽)、そして脱窒槽から得られた菌体によるK汚泥槽(C槽)の計3槽である。そこで、A槽、B槽に関して、外気に接した状態での単離菌の増殖可能性、ダイオキシン類処理可能性(安全性を考慮して無塩化のジベンゾフランを用いた)を確認するために実験を行ったところ、A槽ではバッチ状態、4日間の培養が達成でき、ほぼ100%の注入ジベンゾフランが分解されることを確かめた。またB槽に関しては、4日間の連続運転を達成でき、95%のジベンゾフランが分解されることを確かめた。これらの結果より、我々の単離した菌による実処理の可能性をしめすことができた。またC槽に関しては、4価~8価までのジベンゾダイオキシンとジベンゾフランの混合物を対象に実験を行った。そして計28日間の連続運転(流量6L/day)の条件で、総量15ngのうち約96%のダイオキシン類が分解されることを確かめた。今後さらに実験回数を積み重ねる必要があるが、これは実際の浸出液中のダイオキシン類レベルに近いレベルの汚染水の処理可能性を示すものである。さらにK汚泥の微生物によるダイオキシン分解を裏付けるダイオキシン分解可能性のある菌をいくつか単離することができた。
またUVを照射することにより8価、7価のダイオキシンが分解されることを文献調査により確かめた。このことより実用的な処理システムを構築できる可能性のあることを示すことができた。
結論
今年度研究で得られた結論を以下にまとめる。(1)好熱菌によって2,3-、2,8-、2,3,7-、2,3,7,8-クロロジベンゾダイオキシンが分解されることを確認し、プラスミド(45,000塩基長)を確認した。(2)コプラナーPCB菌よって、コプラナーPCB及び無塩化ジベンゾフランが分解されることを確認した。(3)有効容量15Lのバイオリアクター用いた好熱菌、コプラナPCB菌によるリアクター処理の可能性を検討したところ、4日間の運転と無塩化ジベンゾフランの分解を確認することができた。(4)4価から8価間でのジベンゾダイオキシン及びジベンゾフランの混合物を対象に、K汚泥を用いたリアクター実験を行ったところ、計28日間の連続運転が可能であり、約96%の注入ダイオキシンが処理されることを確かめることができた。しかし、今後さらに実験を重ねる必要がある。(5)UV分解により、8価及び7価のダイオキシン類が分解されることを文献調査により確かめた。つまりUV処理と微生物処理の組み合わせによるダイオキシン類の処理の可能性を示すことができた。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-