文献情報
文献番号
201617003A
報告書区分
総括
研究課題名
性感染症に関する特定感染症予防指針に基づく対策の推進に関する研究
課題番号
H27-新興行政-一般-001
研究年度
平成28(2016)年度
研究代表者(所属機関)
荒川 創一(神戸大学 大学院医学研究科)
研究分担者(所属機関)
- 中瀬 克己(岡山大学 医療教育総合開発センター)
- 釜萢 敏(公益社団法人 日本医師会)
- 白井 千香(大阪市立大学 大学院医学研究科)
- 余田 敬子(東京女子医科大学 医学部)
- 濱砂 良一(産業医科大学 医学部)
- 三鴨 廣繁(愛知医科大学 医学部)
- 川名 敬(日本大学 医学部)
- 伊藤 晴夫(千葉大学 大学院医学研究院)
- 砂川 富正(国立感染研究所 感染症疫学センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究費
4,231,000円
研究者交替、所属機関変更
研究者交替
小森 貴(平成28年4月1日~平成28年7月4日)→ 釜萢 敏(平成28年7月5日以降)
所属機関変更
研究分担者 川名 敬
東京大学医学部(平成28年4月1日~平成28年8月31日)→ 日本大学医学部(平成28年9月1日以降:)
研究報告書(概要版)
研究目的
1.先天梅毒について、児の臨床像・治療実態および児の親の梅毒感染・治療に関連する背景をインタビューにより明らかにする。2.自治体での性感染症発生動向調査結果特に、増加している梅毒への対応をアンケート調査した。3.中高生向け啓発スライドの普及と評価を試みた。4.経年的に行ってきた性感染症のセンチネルサーベイランスを引き続き行った。5.梅毒I期およびII期患者におけるT. pallidumの髄液中への侵入頻度を検討した。6.妊婦の尖圭コンジローマについて、現状を把握し、これを今後の啓発ツールに結びつけることを目的とした。7.口腔・咽頭梅毒患者の臨床所見を後ろ向きに検討し、臨床医に向けて発信する啓発情報を考察した。8.わが国におけるM. genitaliumのマクロライド耐性、キノロン耐性遺伝子を検討した。
研究方法
1.先天梅毒の背景をインタビュー形式で調査した。2.サーベイランス活用を担う都道府県/保健所設置市の性感染症対策担当者を対象に質問紙を送付回収した。3.中高生向け啓発スライドの効果について、研究協力者間のメール等で議論した。4.4モデル県の10月ひとつきに医療機関を受診した性感染症患者を集計し、疫学的手法により、全国の10万人対年罹患率を推計した。5. T. pallidumの髄液中侵入の状況について、PCR法を用いて検討した。6.日本産科婦人科学会の研修施設を対象として、「性感染症による母子感染実態」アンケート調査を実施した。7.口腔・咽頭顕症梅毒の臨床的特徴や診療に当たる際の注意点について検討した。8.男子尿道炎より分離されたM. genitalium株におけるマクロライド耐性、キノロン耐性に関わる遺伝子を検討した。
結果と考察
1.対象妊婦のインタビューで、学校教育やメディア・雑誌、妊婦健診等のいずれの情報源からも、妊娠中に気を付けるべき性感染症の情報を得ていなかった。妊娠中期・後期のスクリーニング検査の実施を適宜考慮すべきと考えられた。2.多くの自治体で、定点医療機関の見直しや、変更についての検討をしていない。今後、適切な定点医療施設の変更を検討すべきと考えられる。3.医療関係者から、スライド内容の問い合わせや意見があり、また、学校関係者から、スライドを使用する際の条件や問い合わせ、健康教育の依頼があった。実践的な効果について、まずは多くの対象者に目に留めてもらうことが重要である。4.2015年に比したデータで示す。梅毒は、2016年に男女とも明らかに増加していた。特に、男女とも20代で最も多かった。淋菌感染症、性器クラミジア感染症、性器ヘルペス、尖圭コンジローマは、同等かやや減少していた。STD全体では男女ともやや減少傾向にあった。ただし、クラミジア感染症の20代前半(20~24歳)の頻度は上昇していた。クラミジア感染症の保菌も含めた年間推計値は男女合わせて約45万人であった。梅毒は4年間で3倍以上に増加し、男にやや多いが、男女差が縮まってきている。本研究は4つの「県」の全数調査結果を統計学的に全国データに敷衍したものであるが,「国」(国立感染症研究所)とデータを相互に共有し、より正しいわが国の性感染症の実態を明らかにしていく必要がある。5.梅毒I期およびII期患者においてもT. pallidumの髄液中への侵入を認めた。感染早期から病原体のPCRによる髄液検査が必要かどうかを検討する必要性がある。6.尖圭コンジローマで、経腟分娩で良いと考える施設は15%に留まっている。妊婦では不顕性感染からコンジローマが発生しやすいことが示唆された。7.初診時の口腔咽頭所見としては、第2期病変である口狭部粘膜、特に軟口蓋の粘膜斑が明らかとなった。8.M. genitaliumのマクロライド耐性は著明に進んでおり、キノロン耐性も徐々に増加している。 今後、非淋菌性尿道炎に対してマクロライドの使用を制限せざるを得ない時期にきていると考える。
結論
1.各方面への啓発等を通して先天梅毒への効果的な対策に繋げる事が重要である。2.定点医療機関を見直すとともに、口腔での性感染症検査を推進すべきである。3.スライド閲覧を、適切な行動促進に資するべきである。4.センチネルサーベイランスと国立感染症研究所動向調査との成績を補完させてより実態を明らかにできる。5.梅毒I期およびII期患者においてもT. pallidumの髄液中への侵入を認める症例が存在する。6.母子感染防止の観点からコンジローマの啓発が必要であり、4価HPVワクチンの普及も急務である。7.梅毒発生届けに口腔咽頭梅毒の項目を追加し、口腔・咽頭梅毒患者の実態を把握することが求められる。8.M. genitalium性非淋菌性尿道炎の治療はマクロライドに代わる治療法を考案する必要がある。
公開日・更新日
公開日
2017-05-26
更新日
-