外因死者遺族に対する効果的な心のケア実践システムの構築

文献情報

文献番号
201616039A
報告書区分
総括
研究課題名
外因死者遺族に対する効果的な心のケア実践システムの構築
課題番号
H28-精神-一般-006
研究年度
平成28(2016)年度
研究代表者(所属機関)
一杉 正仁(国立大学法人 滋賀医科大学 医学部社会医学講座法医学部門)
研究分担者(所属機関)
  • 山田 尚登(国立大学法人 滋賀医科大学 医学部精神医学講座)
  • 辻本 哲士(滋賀県立精神保健福祉センター)
  • 反町 吉秀(国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 自殺総合対策推進センター)
  • 澤口 聡子(国立保健医療科学院)
  • 吉永 和正(協和マリナホスピタル)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者政策総合研究
研究開始年度
平成28(2016)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究費
3,400,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 外因死では、警察官が事件性を調べ、医師が死体検案を行い、必要に応じて法医解剖される。その際に、関係者の説明不足や配慮に欠けた対応で、さらに遺族がPTSDを発症することがある。したがって、外因死者の遺族に対しては、死亡直後から関係者が遺族感情に十分配慮した対応を行い、必要に応じた心のケアが長期的に必要である。
 滋賀県では平成27年6月に死因究明等推進協議会(会長は申請者)を全国4番目に発足させた。そして、平成28年3月に全国で初めて第一次提言が知事に提出され、遺族へのケアを進めることが明示された。そこで本研究では、法医実務担当者と心のケア担当者が早期に連携し、遺族に対して必要に応じたケアを長期的に実施できる体制を構築する。
研究方法
1.死亡直後に遺族に接する関係者への教育と心のケア実践システムについての啓発
2.法医実務者と心のケア担当者の連携体制構築
3.遺族のための相談窓口設置と遺族へ必要なケアを長期的に実施できる体制の構築
4.心のケアについての効果検証方法に関する検証
5.外因死者遺族に配慮した対応についての教育法の検討
(倫理面への配慮)
 本検討に関しては、滋賀県立精神医療センター・精神保健福祉センターの倫理審査委員会における許諾を得た。
結果と考察
1.死亡直後に遺族に接する関係者への教育と心のケア実践システムについての啓発
 平成29年3月に開催された第71回滋賀県法医会において、死体検案を行った医師と捜査を行った警察官が家族に対して十分な説明を行うべきことを教育した。平成28年12月の医師会主催死亡診断書・死体検案書の書き方講習会において、医師に対して外因死被害者遺族に対するケアの重要性について啓発を行った。
2.法医実務者と心のケア担当者の連携体制構築
 死体検案や法医解剖を行った医師が、遺族に対して精神的ケアを望むか否かを確認した。そして、ケアを望む場合には、遺族の同意のもとに死者に関する情報を、心のケア担当者に連絡する仕組みを構築した。また、一定期間経過してから、再度遺族の状況を確認するシステムも構築した。すなわち、医療従事者側から遺族の心身状況を確認する連絡を望むか否かを尋ね、望む場合には3か月及び6か月後に状況確認を行う体制にした。
3.遺族のための相談窓口設置と遺族へ必要なケアを長期的に実施できる体制の構築
 滋賀医科大学社会学講座法医学部門内に電話回線を開設し、法医実務に携わるスタッフが平日の日中に相談を応需できるようにした。次に、相談を受けたスタッフがその問題点を理解し、県の精神保健福祉センター及び被害者対策支援センター等に連絡を行い、遺族が必要とするケアが受けられる体制を構築した。相談窓口の連絡先を含め、詳細な手続きを分かり易く記載したパンフレットを作成した。
4.心のケアについての効果検証方法に関する検証
 外因死の背景(自殺、他殺、不慮の事故)別の心のケアの効果を評価する方法を検討した。すなわち、既存の報告書・文献を再解析し、評価に有用なパラメータを探索した。
5.外因死者遺族に配慮した対応についての教育法の検討
 自死遺族に対してであるが、医療従事者のみならず行政職員も遺族の心理状態に配慮した対応ができるべく、効果的な教育法を検討した。次に、大規模災害時における遺族対応についてであるが、日本DMORT研究会が中心となり、熊本地震における、遺体安置所での災害死亡者家族支援の問題点分析や課題の整理を行った。そして、経験豊富な医療従事者でも惨事ストレスが残ることが分かった。
結論
 まず、急性期に遺族と接する関係者が、遺族の心情に十分配慮することを目標に啓発、教育が実施された。これは、二次被害の予防につながる。適切な対応によって二次被害を予防することは、遺族の精神的健康につながるため、先ずは心のケアの入り口として重要である。
 次に、遺族がいつでも相談できる窓口を開設でき、その運用体制が構築できた。上記のように、事象が起きてから時間の経過とともに悲嘆反応は改善していくと考えられがちであるが、一定期間経ても悲嘆反応が遷延する人や、何かのきっかけで再燃することがある。このような場合でも、いつでも相談できる窓口があることは、遺族に対する十分な配慮がされていると考える。さらに、相談窓口から関連部署への連絡体制が整ったこと、死体検案や法医解剖医と心のケアを行う医師が連携することは、その後に専門家から速やかな心のケアが実施できることになり、理想的な対応と考える。また、遺族の希望に応じて、一定期間経過後に医療者側から遺族の状況を確認する体制を整えたことは、遺族にとって支えがあることを示している。

公開日・更新日

公開日
2017-05-30
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
201616039Z