精神科病院に入院する認知症高齢者の実態調査—入院抑制、入院期間短縮、身体合併症医療確保のための研究

文献情報

文献番号
201616024A
報告書区分
総括
研究課題名
精神科病院に入院する認知症高齢者の実態調査—入院抑制、入院期間短縮、身体合併症医療確保のための研究
課題番号
H26-精神-一般-005
研究年度
平成28(2016)年度
研究代表者(所属機関)
前田 潔(神戸学院大学 総合リハビリテーション学部)
研究分担者(所属機関)
  • 粟田 主一(東京都健康長寿医療センター研究所)
  • 斎藤 正彦(東京都立松沢病院)
  • 北村 立(石川県立高松病院)
  • 服部 英幸(認知症介護研究・研修センター)
  • 森川 孝子(神戸学院大学 総合リハビリテーション学部)
  • 中前 智通(神戸学院大学 総合リハビリテーション学部)
  • 本間 昭(認知症介護研究・研修東京センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者政策総合研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究費
6,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
わが国では認知症者が精神科病院に安易に、また長期に入院していることが問題とされている。精神科病院の入院認知症者の実態を明らかにすることにより、認知症者の入院の抑制、長期入院の解消のための対策に資する知見を得ることを目的とする。
研究方法
前田/森川は、全国の介護老人保健施設(以下、老健)600施設を対象に精神科病院から退院する認知症者の受け入れについてアンケート調査を実施した。前田/中前は、2016年1月~3月の間に、全国の認知症治療病棟を有する精神科病院を対象に「認知症患者リハビリテーション(以下、認知症患者リハ)」の実施についてアンケート調査を行った。粟田は、東京都健康長寿医療センター精神科を退院した210名を対象に精神科病院転院と関連する因子の抽出を試みた。北村は、訪問看護を受けている独居認知症者の介護家族の面接を行い、訪問看護による効果や変化を調査した。齊藤は、2012年以降の都立松沢病院合併症病棟への認知症者の入院について診療統計を分析した。服部は一般病院と協力精神科病院との患者紹介において、転院、連携が困難な事例を収集し、整理を試みた。
結果と考察
前田/森川の行った調査では、125老健(回収率20.8%)から回答があった。ほぼすべての施設に認知症者が入所していた。入所継続が困難となる理由の8割は認知症症状の悪化であった。精神科医が非常勤でも勤務している施設は2割に過ぎなかったが、半数以上の施設が、精神科医の支援が必要であると回答した。前田/中前は72精神科病院から回答を得たが、認知症患者リハを実施していたのは12病院(16.7%)に過ぎなかった。実施していない理由としては「採算が合わない」、「療法士に余裕がない」などであった。認知症患者リハを実施している病院は療法士が多かった。粟田の調査では総合病院から精神科病院転院と関連する因子としては医療保護入院、入院期間が長いなどであった。
北村の調査では、訪問介護導入時には、不安、混乱、苦悩の3つのキーワードが、導入後は安心感、ストレス緩和など4つが抽出された。齋藤の調査では、治療チームに精神科医が加わることによって在院日数が短縮された。服部は、事例をまとめた結果、「相互の連携システムの不備」の頻度が高かった。相互の役割分担を明確にする必要があると結論した。
結論
わが国の認知症者の精神科病院入院を抑制し、入院期間を短縮し、合併症医療を確保する方策、その課題の一端を示すことができた。退院認知症者の多くは老健に入所するが、老健の受けいれについての課題、すなわち、精神症状悪化の際の対処の体制を構築する必要があると考えられた。われわれは認知症の早期退院には、リハが効果的であることを明らかにしているが、精神科病院のリハを充実させるための課題も指摘した。北村らの調査は訪問看護が認知症者の入院を抑制し、不安、混乱も軽減させることが明らかとなり、訪問介護をもっと活用すべきと考えられた。齋藤と服部の調査からは精神科病院と一般病院の身体合併症医療連携についての課題が明らかになった。身体合併症医療への対応は、服部らのように、病院間の連携が必要となる。緊密な連携システムの構築が必要であると指摘したい。

公開日・更新日

公開日
2017-05-23
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2017-05-23
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201616024B
報告書区分
総合
研究課題名
精神科病院に入院する認知症高齢者の実態調査—入院抑制、入院期間短縮、身体合併症医療確保のための研究
課題番号
H26-精神-一般-005
研究年度
平成28(2016)年度
研究代表者(所属機関)
前田 潔(神戸学院大学 総合リハビリテーション学部)
研究分担者(所属機関)
  • 粟田 主一(東京都健康長寿医療センター研究所)
  • 斎藤 正彦(東京都立松沢病院)
  • 北村 立(石川県高松病院)
  • 服部 英幸(長寿医療研究センター)
  • 森川 孝子(神戸学院大学 総合リハビリテーション学部)
  • 本間 昭(認知症介護研究・研修東京センター)
  • 中前 智通(神戸学院大学 総合リハビリテーション学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者政策総合研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
わが国では精神科病院に認知症者が安易に、また長期に入院していることが問題とされている。本研究の目的は、精神科病院の入院認知症者の実態および身体合併症医療の現状を明らかにすることにより、入院認知症者の長期入院の解消、入院抑制、退院支援の方法、退院先の受け皿のあり方、身体合併症医療の確保などの参考資料を得ることである。
研究方法
前田/森川は認知症治療病棟を有する精神科病院を対象に現時点での入院の実態の解明を行った。次に新規に入院する認知症者の調査を実施した。さらに退院した後の受け入れについて全国の介護老人保健施設を対象に調査を実施した。前田/中前は精神科病院を対象に認知症患者リハの実施について調査を行った。粟田は全国の認知症疾患医療センターを対象に調査を実施し、精神科病院に併設された疾患医療センターの特徴の抽出を試みた。また、精神科病院への転院理由、頻度および要因の調査を実施した。さらに退院後の精神科病院転院と関連する因子の抽出を試みた。北村は認知症訪問看護の実態とその効果について調査した。次に事前の訪問看護の入院期間への影響について調査した。介護家族の面接を行い、訪問看護による効果や変化を調査した。齋藤は身体合併症対応の精神科病院と身体科病院の連携について調査した。次に総合病院ER受診例について比較した。さらに合併症病棟への入院について診療統計を分析した。服部は一般病院と精神科病院との入院患者についての連携の調査を行った。病院相互の転院例について検討し、転院、連携が困難な事例を収集し、整理を試みた。本間は向精神薬使用ガイドラインの有用性について専門医・かかりつけ医を対象にアンケート調査を行った。
結果と考察
前田/森川の行った精神科病院における調査により平均在院日数及び退院できない理由を明らかにした。また、4カ月以内に退院したもののうち約2割しか自宅に帰れていなかった。介護老人保健施設の入所継続が困難となる理由の8割は認知症症状の悪化であった。精神科医が勤務している施設は2割に過ぎなかったが、半数以上の施設が、精神科医の支援が必要であると回答した。前田/中前の調査では認知症治療病棟を有する精神科病院で認知症患者リハを実施していたのは12病院(16.7%)に過ぎなかった。実施していない理由としては「採算が合わない」、「療法士に余裕がない」などであった。粟田の調査でも2ヵ月以内退院率は32.9%と相変わらず低いことを見出している。精神科病院への転院を軽減するには、家族支援が得られにくい認知症者に対する生活支援・居住支援の確保の必要があると結論できた。北村は訪問看護の実態から世帯構成により訪問看護の目的が異なることを報告した。訪問看護は認知症者にも介護者にも有力な手段であることを示した。齋藤の調査より精神症状より身体症状の方が在宅復帰の支障になりにくいという結果を得た。また認知症者は救急車の利用率、入院率が有意に高く、入院後は行動制限が有意に高く、患者のADL低下が危惧された。治療チームに精神科医が加わることによって在院日数が短縮されることがわかった。服部は一般病院から精神科病院への紹介例および精神科病院から一般病院への紹介例のそれぞれの特性を抽出することに成功した。認知症疾患医療センターから精神科病院に転院する症例は合併身体疾患が少なく、ADLが有意に良好であった。精神科病院における身体疾患看護の負担を少なくする必要があることが推測された。事例をまとめた結果、「相互の連携システムの不備」の頻度が高かった。相互の役割分担を明確にする必要があると結論した。本間の調査で向精神薬使用の実態がわかり、かかりつけ医のためのガイドラインが認知症専門医にも有用であると結論された。これらの結果より入院認知症者を減少させるためには、精神科病院、一般身体化病院、介護施設、家族の支援、およびそれぞれの緊密な連携システムの構築が必要であると結論することができた。
結論
わが国の認知症者の精神科病院入院を抑制し、入院期間を短縮し、合併症医療を確保する方策、その課題の一端を示すことができた。退院認知症者の多くは老健に入所するが、老健の受けいれについての課題、すなわち、精神症状悪化の際の対処の体制を構築する必要があると考えられた。われわれは認知症の早期退院には、リハが効果的であることを明らかにしているが、精神科病院のリハを充実させるための課題も指摘した。北村らの調査は訪問看護が認知症者の入院を抑制し、不安、混乱も軽減させることが明らかとなり、訪問介護をもっと活用すべきと考えられた。齋藤と服部の調査からは精神科病院と一般病院の身体合併症医療連携についての課題が明らかになった。身体合併症医療への対応は、服部らのように、病院間の連携が必要となる。緊密な連携システムの構築が必要であると指摘したい。

公開日・更新日

公開日
2017-05-23
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2017-05-23
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201616024C

成果

専門的・学術的観点からの成果
日本では、認知症者の精神科病院入院が少なくないがEUなどでは認知症者が精神科病院に入院することはほとんどないとされている。本研究課題では認知症の精神科病院入院を少なくし、在院期間を短くするために、様々な面から調査を行った。それによると平均入院期間は400日近く、新規入院患者でも2か月以内に退院する割合は30%前後であり、50%が退院するためには3.5か月を必要とした。本研究により我が国の認知症者の実態が明らかとなった。また早期の退院のために受け入れの充実、訪問看護の導入の必要性を報告した。
臨床的観点からの成果
認知症者の精神科病院入院を抑制し、早期退院を図り、身体合併症対応の充実を目指した研究課題である。まず入院認知症者の実態調査を行った。その結果、平均入院期間は1年を超えており、退院できない理由は自宅や施設での受け入れが整備されていないということが明らかとなった。退院困難に関連する要因は医療保護入院、独居などであった。また訪問看護の充実や総合病院での精神科医の関与が入院期間を短縮する可能性を報告した。これらは精神科病院への入院、退院促進を考えるうえで臨床的意義が大きいと考えられた。
ガイドライン等の開発
今年度は無
その他行政的観点からの成果
今年度は特筆すべきことは無
その他のインパクト
今年度は無

発表件数

原著論文(和文)
10件
研究分担者含む
原著論文(英文等)
9件
研究分担者含む
その他論文(和文)
35件
研究分担者含む
その他論文(英文等)
1件
研究分担者含む
学会発表(国内学会)
50件
研究分担者含む
学会発表(国際学会等)
6件
研究分担者含む
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Takako Morikawa, Kiyoshi Maeda,Toshio Kawamata, et al.
Admission of people with dementia to psychiatric hospitals in Japan: factors that can shorten their hospitalizations.
Pshchogeriatrics  (2017)
DOI:10.0000/psyg.12244
原著論文2
加藤真司、仁木美砂子、前田 潔,他
介護老人保健施設における認知症短期集中リハビリテーションの効果とその持続,
認知症の最新医療 , 6 (4) , 185-188  (2016)
原著論文3
斎藤正彦
精神科病院における身体合併症医療-東京都立松沢病院の実践-
老年精神医学雑誌 , 27 (4) , 375-381  (2016)
原著論文4
樫山鉄矢、西田賢司、齋藤 正彦
認知症患者おける身体救急の現状と課題
老年精神医学雑誌 , 27 (4) , 399-405  (2016)
原著論文5
犬尾英里子、樫山鉄矢、齋藤 正彦
認知症における誤嚥性肺炎
老年精神医学雑誌 , 27 (4) , 421-426  (2016)
原著論文6
Tatsuru Kitamura, Shigehito Shoita, Shigetoshi Jinkawa, Maki Kitamura and Shoryoku Hino
Effect of preceding home-visit nursing on time to discharge in hospitalization for the treatment of behavioural and psychological symptoms of dementia among patients with limited familial care
PSYCHOGERIATRICS , 18 , 36-41  (2018)
原著論文7
Tatsuru Kitramura, Chie Tanimoto, Shoryoku HIno, et al
Familial caregivers’ experiences with home-visit nursing for persons with dementia who live alone
PSYCHOGERIATRICS , 19 , 3-9  (2019)
doi:10.1111/psyg.12352

公開日・更新日

公開日
2017-06-13
更新日
2020-06-09

収支報告書

文献番号
201616024Z