文献情報
文献番号
201616023A
報告書区分
総括
研究課題名
BPSDにより精神科病院に入院する認知症患者を対象とした全国規模での入院実態調査
課題番号
H26-精神-一般-004
研究年度
平成28(2016)年度
研究代表者(所属機関)
岡村 仁(広島大学 大学院医歯薬保健学研究院)
研究分担者(所属機関)
- 石井 伸弥(東京大学 医学部附属病院老年病科)
- 石井 知行(医療法人社団知仁会)
- 渕野 勝弘(医療法人社団渕野会)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者政策総合研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究費
14,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
認知症病棟(急性期病棟、一般病棟を含む)を持つ精神科病院に、新規に認知症行動・心理症状(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia:以下「BPSD」)管理のために入院した認知症患者を対象に、入院時の患者、家族の特性のみならず、入院中の身体疾患を含めた治療の実態とBPSDの経過、退院支援の実態とその結果、退院後の経過を評価する前向きコホート研究を行うことで、これまでに調査されていない因子も含めて治療や退院・在宅復帰を妨げる危険因子を同定することを目的とした。
研究方法
全国の認知症専門病棟を持つ精神科病院に入院した認知症患者を対象とし、介護者に対する質問票、および医師・看護師・臨床心理士・精神保健福祉士・薬剤師の多職種による質問紙と面接調査によって患者情報を収集した。各患者に対して入院時、入院2、4、6か月後に調査を繰り返し、入院中の経過を調べた。追跡期間は入院後6か月、または患者が死亡・退院するまでとした。解析にあたっては、入院後2か月以内の退院を早期退院とし、まず検討項目と早期退院との関連を単変量ロジスティック回帰分析によって検討した。この単変量解析においてP値が0.100未満であった変数を選択し、選ばれた変数を予測変数とした多変量ロジスティック回帰分析を行った。さらに、入院後2か月以内に退院できなかった患者について、6か月以内(2~4か月)の退院を阻害する入院後2か月時点での要因について、同様の方法で検討を行った。
結果と考察
229病院(認知症病棟を持つ精神科病院の52.8%)から研究参加の同意が得られ、145病院から、654名の症例登録が行われた。このうち調査票が回収された569症例について検討を行った。結果は以下の通りとなった。
1.569名中98名が除外となったため、解析対象者は471症例となった。
2.471症例の平均年齢は81.4±8.5歳、性別は女性が58%であった。診断名はアルツハイマー病が最も多かった(64%)。471症例のうち、94症例(20.0%)が入院後2か月以内に退院(早期退院群)、さらに143症例(合計237症例:50.3%)が入院後6か月以内に退院していた。
3.早期退院を阻害する要因を単変量ロジスティック回帰分析によって調べ、単変量解析おいてP値が0.100未満であった5項目を用いて多変量ロジスティック回帰分析を行った。その結果、入院前の介護負担度が強いこと(P=0.016)、入院後にADLが低下すること(P=0.036)、退院支援が行われていないこと(P<0.001)の3因子が早期退院を阻害する有意な要因として抽出された。
4.6か月以内の退院を阻害する入院後2か月時点での要因を多変量ロジスティック回帰分析で検討したところ、NPIで測定されたBPSDの重症度(P=0.033)および退院支援が行われていないこと (P<0.001)の2因子が退院を阻害する有意な要因として抽出された。
本結果より、介護者の介護負担の軽減、入院後のADLを維持・向上させるためのアプローチ、退院支援を積極的に行っていくことにより、早期退院を実現できることが示唆された。また、6か月以内の退院には、退院支援を継続して積極的に行うとともに、入院後のBPSDの管理が重要であることが示唆された。
1.569名中98名が除外となったため、解析対象者は471症例となった。
2.471症例の平均年齢は81.4±8.5歳、性別は女性が58%であった。診断名はアルツハイマー病が最も多かった(64%)。471症例のうち、94症例(20.0%)が入院後2か月以内に退院(早期退院群)、さらに143症例(合計237症例:50.3%)が入院後6か月以内に退院していた。
3.早期退院を阻害する要因を単変量ロジスティック回帰分析によって調べ、単変量解析おいてP値が0.100未満であった5項目を用いて多変量ロジスティック回帰分析を行った。その結果、入院前の介護負担度が強いこと(P=0.016)、入院後にADLが低下すること(P=0.036)、退院支援が行われていないこと(P<0.001)の3因子が早期退院を阻害する有意な要因として抽出された。
4.6か月以内の退院を阻害する入院後2か月時点での要因を多変量ロジスティック回帰分析で検討したところ、NPIで測定されたBPSDの重症度(P=0.033)および退院支援が行われていないこと (P<0.001)の2因子が退院を阻害する有意な要因として抽出された。
本結果より、介護者の介護負担の軽減、入院後のADLを維持・向上させるためのアプローチ、退院支援を積極的に行っていくことにより、早期退院を実現できることが示唆された。また、6か月以内の退院には、退院支援を継続して積極的に行うとともに、入院後のBPSDの管理が重要であることが示唆された。
結論
BPSD管理のために精神科病院に入院した認知症患者を対象に、入院時の患者、家族の特性のみならず入院中の身体疾患を含めた治療の実態とBPSDの経過、退院支援の実態とその結果を評価する前向きコホート研究を行うことで、治療や退院・在宅復帰を妨げる危険因子を同定することを目的に研究を行った。研究成果の一つとして、2か月以内の早期退院を阻害する要因が抽出されたことから、今後これらの要因にアプローチしていくことで、早期退院を実現できる可能性が示された。
公開日・更新日
公開日
2017-05-22
更新日
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