ダイオキシン類による健康影響の機構に関する研究

文献情報

文献番号
199800567A
報告書区分
総括
研究課題名
ダイオキシン類による健康影響の機構に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
小栗 一太(九州大学薬学部)
研究分担者(所属機関)
  • 内海英雄(九州大学薬学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 生活安全総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ダイオキシン類は世界規模で汚染を引き起こしている有機塩素系の環境汚染物質である。西日本で起こった油症の原因物質でもある。極めて強い毒性を有しており、環境レベルの汚染でのヒトの健康に対する影響が危惧されている。ダイオキシン類の作用は細胞質に存在する転写調節因子である AhRを介すると考えられている。これらの化合物は、体重増加抑制、胸腺や脾臓の萎縮、肝肥大、免疫機能低下、生殖障害などの作用を示すことが知られているが、これらの遅発性の作用機構についてはよく理解されていない。本研究では、いわゆるストレス応答性のタンパク質である熱ショックタンパク質がダイオキシン類への暴露による誘導性について検討した。ダイオキシン類によるストレスタンパク質の応答性については、これまで知られていない。ダイオキシン類の多様な作用を明らかにすることができると考えられる。
研究方法
化合物には、3,3',4,4',5-pentachlorobiphenyl (PenCB) を用いた。In vivoでは、ラットに投与して、肝サイトソルのHSP70とHSP90の発現量の変化を、イムノブロットにより観察した。また、培養細胞系では、ラットの雄性生殖細胞であるライヂッヒ細胞を用いて、PenCB添加の効果を同様な方法で観察した。
結果と考察
ラット肝サイトソルの分子シャペロン HSP70 および HSP90 が、 PenCB投与 により著しく誘導されることが明らかになった。これら 2 種の分子シャペロンは、雄性生殖細胞であるラット精巣ライヂッヒ 細胞においても誘導され、これらのタンパクの発現誘導は、環境汚染レベルの 10 pM PenCB により惹起されることが明らかであった。
また、ステロイドホルモンレセプターのヘテロコンプレックス形成において key mediatorとなる Hop もライディッヒ 細胞において HSP70 および HSP90 と同様に PenCB による顕著な誘導が認められた。さらに、ラット精巣ライディッヒ 細胞の サイトソル分画中のエストロゲンレセプターが、 PenCB により発現抑制される傾向にあることが示唆された。
分子シャペロンである HSP70 および HSP90 は、命名の由来のように様々なストレスにより誘導されることが知られている。ダイオキシン類による影響についてはこれまで報告されていなかった。 HSP70 は様々のターゲットタンパク質と結合し、新生タンパク質の高次構造形成や細胞内輸送、あるいは不必要なアグリゲーションや不活性化を防ぐ分子シャペロンとして、生体の恒常性維持、ならびに細胞防御に密接に関わっている。また、 HSP90 は細胞内のシグナル伝達経路に関わるタンパク質が正常なコンフォメーションをとり、それらが機能を発現するために必要な因子である。従って、PenCB によるこれら 2 種の分子シャペロンの著しい発現誘導、あるいは現在の環境汚染レベルに近い PenCB によって誘導されたことは、ダイオキシン類の作用と関連した現象ではないかと思われる。
また、精巣ライディッヒ 細胞において、ステロイドホルモンレセプター複合体形成に関わる Hop もまた、環境汚染レベルの PenCB により誘導されることが明らかとなった。このことは、PenCB によりステロイドホルモンレセプター複合体の形成が影響され、リガンドを介する転写調節に変化を及ぼす可能性を推測させる。
結論
ダイオキシン類によって、ストレスタンパク質であるHSP70 および HSP90 が、ラット肝細胞およびラットの雄性生殖細胞であるライヂッヒ細胞で顕著に誘導されることが明らかになった。極めて低濃度のダイオキシン類に対するストレスタンパク質の応答性が注目される。

公開日・更新日

公開日
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更新日
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研究報告書(紙媒体)