ダイオキシンの生分解機能の探索と特性評価

文献情報

文献番号
199800566A
報告書区分
総括
研究課題名
ダイオキシンの生分解機能の探索と特性評価
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
平石 明(豊橋技術科学大学エコロジー工学系 教授)
研究分担者(所属機関)
  • 鈴木 慈郎(豊橋技術科学大学エコロジー工学系 教授)
  • 薮内 英子(愛知大学 客員教授)
  • 鈴木 晋一郎(大阪大学大学院理学研究科化学専攻 教授)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 生活安全総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
-
研究費
4,600,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ダイオキシンは自然界では他の有機化合物に比べて分解されにくく、一旦環境を汚染すると長期間残存する。運搬制御が可能な局所的ダイオキシン汚染環境の汚染除去については物理化学的技術で対応できる可能性があるが、広範囲の環境の汚染除去と修復にはコストと技術面から生物学的方法に頼らざるを得ない。本研究では、既にダイオキシン分解菌として知られているスフィンゴモナス(Sphingomonas)属細菌RW1株を比較対照として既知細菌種におけるダイオキシン分解能を探索し、加えて汚染環境中に潜在するであろうダイオキシン分解微生物群集の動態を調査し、その生分解機構を生態学的、生化学的、および分子レベルの観点から明らかにすることを目的とした。この成果をもとに、ダイオキシン汚染除去に必要な生物学的環境修復(バイオレメディエーション)技術を確立することが最終目標である。
研究方法
ダイオキシン汚染環境の生物学的修復を考えた場合、技術的に取り扱いやすいジオキシゲナーゼ系による好気的ダイオキシン分解を示す細菌を探索した。まず既知のダイオキシン分解菌Sphingomonas sp. RW1株を比較対照としてスフィンゴモナス属の既知菌種およびその他のプロテオバクテリアα-4グループに属する菌種について、ジベンゾフラン(DF)
ジベンゾ-p-ジオキシン(DD)を炭素源とする生育能とダイオキシン分解に関わる遺伝子の有無について調べた。生育試験は、無機塩培地にへプタメチルノナンに溶解したDF、DDを加えた二層培地で好気培養して行った。ダイオキシン分解遺伝子は、DF、DD の骨格を分解するジオキシゲナーゼのA1サブユニットであるdxnA1を標的とし、0.9 kbのDNAフラグメントをPCRで増幅分離した。汚染環境としては、ダイオキシン汚染地域として知られている大阪府豊能郡能勢美化センター付近の土壌を選択し、ダイオキシン分析と微生物調査を行った。微生物調査では、総菌数、生菌数測定とともに、バイオマーカーである呼吸鎖キノンの分子種組成をみるキノンプロファイル分析を行った。総菌数はDAPI染色-直接検鏡法によって測定した。生菌数は寒天平板塗沫法により計数した。土壌中のキノンはクロロホルム・メタノール混液を用いて抽出し、SepPakシリカカラムを用いてユビキノンとメナキノン画分に分けた後、HPLCで分離同定した。
結果と考察
Sphingomonas属およびその他の菌属のいくつかの既知種に弱いながらもDF、DDを利用した生育が認められた。しかし対照として用いたSphingomonas sp. RW1株を上回る生育を示した菌株は存在しなかった。これらいくつかの菌種からは、ダイオキシン分解酵素系のdxnA1遺伝子に相当する0.9 kbのDNA断片が検出された。 dxnA1に類似する遺伝子は好気性光合成細菌である"Agrobacterium sanguineum"からも検出された。ダイオキシン汚染環境の土壌の微生物学的調査を行なったところダイオキシンの汚染レベルと微生物量(総菌数やキノン量)との間に逆相関の関係が認められた。したがってダイオキシン汚染によって、土壌微生物群が影響を受けていることが推察された。呼吸鎖キノンをバイオマーカーとしてこれらの汚染土壌の微生物相を解析した結果、Q-10含有微生物およびMK-6含有細菌が特徴的に優占することが判明した。とくにMK-6は通常の土壌には主要分子種としては存在しないことから、MK-6含有細菌とダイオキシン汚染量との関係が興味をもたれる。ダイオキシン汚染土壌をDF培地で集積した結果、ダイオキシン汚染レベルに比例して生育量が高くなる傾向が認められたが、その生育量はRW1株と比較して20%以下であった。したがって汚染現場の微生物群集の分解特性は、分解力の強いRW1株とは異なることが推察された。 Sphingomonas sp. RW1株の分類学的性状を試験したところ、本株は既知のいずれの菌種にも該当せず新種とすべき細菌であることが示唆された。
結論
既知細菌の中には、プロテオバクテリアα-4グループの細菌を中心としてダイオキシン分解能を有するものが多く存在することが考えられ、これらの細菌の分解性を利用した環境修復技術が開発できる可能性がある。しかし、一般的に細菌は多塩素化ダイオキシンを分解できず、分解できたとしてもきわめて微弱な活性であるため、単独菌によるダイオキシン分解技術は考えにくい。本研究におけるダイオキシン汚染現場の微生物調査から、汚染の影響と考えられる特有の微生物群集構造が形成されている可能性が示されており、また代表的ダイオキシン分解菌スフィンゴモナス RW1株と汚染土壌細菌群集の分解特性が異なるため、強い分解性をもつ単一菌のみによる汚染修復よりも複数の菌、あるいは現場に生息している複合微生物群集を利用した環境修復技術の方がより考えやすい。今後現場環境に即した低濃度のダイオキシンに親和性をもつ菌を探索すると同時に、共生分解系を利用した複合微生物群集による分解技術を研究開発していく必要がある。加えて現場の群集構造や生態環境に応じた微生物効果促進法(biostimulation)による修復技術も考慮してく必要がある。

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