麻酔方法が術後認知機能に与える影響についての研究

文献情報

文献番号
201615006A
報告書区分
総括
研究課題名
麻酔方法が術後認知機能に与える影響についての研究
課題番号
H26-認知症-若手-002
研究年度
平成28(2016)年度
研究代表者(所属機関)
安村 里絵(東京都済生会中央病院 麻酔科)
研究分担者(所属機関)
  • 落合 亮一(東邦大学医学部 麻酔科学講座)
  • 杉浦 孝広(独立行政法人国立病院機構東京医療センター 麻酔科)
  • 加藤 奈々子(佐藤 奈々子)(独立行政法人国立病院機構東京医療センター 麻酔科)
  • 吉岡 宏恵(東京都済生会中央病院 麻酔科 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 認知症政策研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究費
1,009,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年手術適応が拡大されている高齢者では術後認知機能の回復が大きな問題となるが、麻酔方法や麻酔薬の選択と術後認知機能障害(Postoperative Cognitive Dysfunction: POCD)の関係については明らかでないことも多い。
POCDを認めた患者では入院期間の延長を認め、退院後の社会復帰が困難になると報告されている。さらに退院時にPOCDと判定された患者では3ヶ月後の死亡率が高く、術後3ヶ月でPOCDと判定された患者は術後1年以内の死亡率が高いと報告されている。本研究を行うことでPOCD発生率の低い麻酔方法が明らかになった場合は、認知症高齢者に対して推奨される麻酔方法を決定することが可能となる。さらに本研究でPOCDに関わるリスク因子が判明した場合は、周術期に関わるリスク因子を減らすことでPOCDの予防につながる可能性がある。POCDの予防が可能となれば、高齢手術患者の在院日数の減少や死亡率の低下、ひいては医療費削減にも貢献することが期待される。
研究方法
対象は65歳以上の患者で、脊髄くも膜下麻酔を行うICが得られている患者とする。POCDの診断には統一された評価法が存在しないのが現状であるが、認知機能についての評価も含む術後回復の質を評価するスケール(postoperative quality of recovery scale:PQRS)が発表された。PQRSの認知機能についての評価は、見当識、数字順唱、数字逆唱、単語記銘、語想起の5項目で評価を行う。日本語版PQRSはMMSE(Mini-Mental State Examination)と比較し、日本における術後の認知機能回復検査として劣らないと報告されている。PQRSの評価項目には様々な項目が含まれており、POCDに関連するリスク因子についても解析が可能である。
麻酔施行前の基準として、麻酔前患者質問表に則りPQRSの評価を行う。麻酔は等比重もしくは高比重のブピバカインを用いて脊髄くも膜下麻酔を施行する。術後の評価として術後1日目および術後3日目にPQRSの評価を行う。統計学的検定はPQRSの各項目について平均値と標準偏差を求め、単変量解析にはt検定およびFisher正確確率検定を用いる。
結果と考察
国立病院機構東京医療センターおよび東京都済生会中央病院倫理委員会にて審査終了後、65歳以上を対象とし脊髄くも膜下麻酔がPOCDに与える影響について、PQRSを用いて検討を行った。51名が研究に参加したが、その後全身麻酔への移行や本人の参加拒否のため13人が評価から除外された。対象患者の年齢は76.6±6.9歳で男性34人女性4人であった。
結果として術後1日目は13.2%、術後3日目は15.6%の患者がPOCDと診断された。さらに術後1日目に認知機能が回復していると診断された患者のうち14.8%が、術後3日目にPOCDと診断された。
POCDに関わる患者背景やリスクとなり得る因子についての解析では、年齢や性別、体重、身長、BMI(Body mass index)、アルコール摂取・喫煙・就労の有無、併存疾患(糖尿病・高血圧・高脂血症)について認知機能回復群と非回復群で有意差を認めなかった。しかし、性別については対象が男性に極端に偏っているため対象が全体を反映していない可能性がある。どのような麻酔方法を選択するかに関わらず、高齢者では術後認知機能障害に留意して術後管理をする必要がある。また術後1日目に認知機能が回復していると診断されたにも関わらず、術後3日目にPOCDと診断される場合もあり、退院までPOCD発生の可能性に留意する必要がある。また高齢者のPOCD発生には、手術や麻酔という要因のみならず、入院という環境変化が大きく影響を与えている可能性もあると考えられる。
結論
65歳以上の高齢者を対象に脊髄くも膜下麻酔が術後認知機能障害に与える影響についてPQRSを用いて検討を行った結果、術後1日目は13.2%、術後3日目は15.6%の患者が術後認知機能障害と診断された。年齢、性別、体重、身長、BMI、アルコール摂取・喫煙・就労の有無、併存疾患(糖尿病・高血圧・高脂血症)についてはリスク因子とならなかった。
どのような麻酔方法を選択するかに関わらず、高齢者では術後認知機能障害に留意して術後管理をする必要がある。さらに術後3日目になって初めてPOCDと診断される場合もあるため、退院までPOCD発生の可能性に留意する必要がある。

公開日・更新日

公開日
2018-06-05
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201615006B
報告書区分
総合
研究課題名
麻酔方法が術後認知機能に与える影響についての研究
課題番号
H26-認知症-若手-002
研究年度
平成28(2016)年度
研究代表者(所属機関)
安村 里絵(東京都済生会中央病院 麻酔科)
研究分担者(所属機関)
  • 落合 亮一(東邦大学医学部 麻酔科学講座)
  • 小林 佳郎(独立行政法人国立病院機構東京医療センター 麻酔科)
  • 山崎 治幸(独立行政法人国立病院機構東京医療センター 麻酔科)
  • 杉浦 孝広(独立行政法人国立病院機構東京医療センター 麻酔科 )
  • 加藤 奈々子(佐藤 奈々子)(独立行政法人国立病院機構東京医療センター 麻酔科 )
  • 吉岡 宏恵(東京都済生会中央病院 麻酔科 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 認知症政策研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年手術適応が拡大されている高齢者では術後認知機能の回復が大きな問題となるが、麻酔方法や麻酔薬の選択と術後認知機能障害(Postoperative Cognitive Dysfunction: POCD)の関係については明らかでないことも多い。
POCDを認めた患者では入院期間の延長を認め、退院後の社会復帰が困難になると報告されている。さらに退院時にPOCDと判定された患者では3ヶ月後の死亡率が高く、術後3ヶ月でPOCDと判定された患者は術後1年以内の死亡率が高いと報告されている。本研究を行うことでPOCD発生率の低い麻酔方法が明らかになった場合は、認知症高齢者に対して推奨される麻酔方法を決定することが可能となる。さらに本研究でPOCDに関わるリスク因子が判明した場合は、周術期に関わるリスク因子を減らすことでPOCDの予防につながる可能性がある。POCDの予防が可能となれば、高齢手術患者の在院日数の減少や死亡率の低下、ひいては医療費削減にも貢献することが期待される。
研究方法
対象は65歳以上の患者で、脊髄くも膜下麻酔を行うICが得られている患者とする。POCDの診断には統一された評価法が存在しないのが現状であるが、認知機能についての評価も含む術後回復の質を評価するスケール(postoperative quality of recovery scale:PQRS)が発表された。PQRSの認知機能についての評価は、見当識、数字順唱、数字逆唱、単語記銘、語想起の5項目で評価を行う。日本語版PQRSはMMSE(Mini-Mental State Examination)と比較し、日本における術後の認知機能回復検査として劣らないと報告されている。PQRSの評価項目には様々な項目が含まれており、POCDに関連するリスク因子についても解析が可能である。
麻酔施行前の基準として、麻酔前患者質問表に則りPQRSの評価を行う。麻酔は等比重もしくは高比重のブピバカインを用いて脊髄くも膜下麻酔を施行する。術後の評価として術後1日目および術後3日目にPQRSの評価を行う。統計学的検定はPQRSの各項目について平均値と標準偏差を求め、単変量解析にはt検定およびFisher正確確率検定を用いる。

結果と考察
国立病院機構東京医療センターおよび東京都済生会中央病院倫理委員会にて審査終了後、65歳以上を対象とし脊髄くも膜下麻酔がPOCDに与える影響について、PQRSを用いて検討を行った。51名が研究に参加したが、その後全身麻酔への移行や本人の参加拒否のため13人が評価から除外された。対象患者の年齢は76.6±6.9歳で男性34人女性4人であった。
結果として術後1日目は13.2%、術後3日目は15.6%の患者がPOCDと診断された。さらに術後1日目に認知機能が回復していると診断された患者のうち14.8%が、術後3日目にPOCDと診断された。
POCDに関わる患者背景やリスクとなり得る因子についての解析では、年齢や性別、体重、身長、BMI(Body mass index)、アルコール摂取・喫煙・就労の有無、併存疾患(糖尿病・高血圧・高脂血症)について認知機能回復群と非回復群で有意差を認めなかった。しかし、性別については対象が男性に極端に偏っているため対象が全体を反映していない可能性がある。どのような麻酔方法を選択するかに関わらず、高齢者では術後認知機能障害に留意して術後管理をする必要がある。また術後1日目に認知機能が回復していると診断されたにも関わらず、術後3日目にPOCDと診断される場合もあり、退院までPOCD発生の可能性に留意する必要がある。また高齢者のPOCD発生には、手術や麻酔という要因のみならず、入院という環境変化が大きく影響を与えている可能性もあると考えられる。
結論
65歳以上の高齢者を対象に脊髄くも膜下麻酔が術後認知機能障害に与える影響についてPQRSを用いて検討を行った結果、術後1日目は13.2%、術後3日目は15.6%の患者が術後認知機能障害と診断された。年齢、性別、体重、身長、BMI、アルコール摂取・喫煙・就労の有無、併存疾患(糖尿病・高血圧・高脂血症)についてはリスク因子とならなかった。
どのような麻酔方法を選択するかに関わらず、高齢者では術後認知機能障害に留意して術後管理をする必要がある。さらに術後3日目になって初めてPOCDと診断される場合もあるため、退院までPOCD発生の可能性に留意する必要がある。

公開日・更新日

公開日
2018-06-05
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2018-06-26
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201615006C

収支報告書

文献番号
201615006Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
1,311,000円
(2)補助金確定額
0円
差引額 [(1)-(2)]
1,311,000円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 0円
人件費・謝金 0円
旅費 0円
その他 0円
間接経費 0円
合計 0円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2018-02-26
更新日
-