前向きコホート調査に基づく認知症高齢者の徘徊に関する研究

文献情報

文献番号
201615003A
報告書区分
総括
研究課題名
前向きコホート調査に基づく認知症高齢者の徘徊に関する研究
課題番号
H28-認知症-一般-001
研究年度
平成28(2016)年度
研究代表者(所属機関)
櫻井 孝(国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター もの忘れセンター)
研究分担者(所属機関)
  • 鈴木 隆雄(国立長寿医療研究センター 理事長特任補佐)
  • 斎藤 民(国立長寿医療研究センター 社会科学研究センター 室長)
  • 村田 千代栄(国立長寿医療研究センター 社会科学研究センター 室長)
  • 鄭 丞媛(ジョン スンウォン)(国立長寿医療研究センター 社会科学研究センター 研究員)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 認知症政策研究
研究開始年度
平成28(2016)年度
研究終了予定年度
平成30(2018)年度
研究費
4,847,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
徘徊に関連した行方不明は、最も深刻な介護負担の原因となる行動・心理症状(BPSD)である。わが国における認知症高齢者の行方不明の実態はほとんど把握されていない。その先駆けとして当施設で行った先行研究(後方視的分析)から、認知症の徘徊に関連した行方不明実態の解明には、前向き追跡調査が必要であることが明らかになった。
そこで本研究の目的は、徘徊に関連した行方不明の実態を、外来患者・介護者を対象としたコホート研究で明らかにすることである。本研究では行方不明の発症をエンドポイントとする。また、徘徊に関連した行方不明者の出現状況や行方不明の予測因子を明らかにすることも目的とする。
研究方法
本研究では行方不明の定義は、「認知症に関連すること」「移動を伴うこと」「屋外であること」「介護者からみて行方不明であること」とした。そこでまず横断調査を行い、行方不明の頻度や臨床的な特性を探索した。もの忘れ外来に受診する135名の対象に、高齢者総合機能評価と行方不明を聞く質問票について調査を行った。
結果と考察
「行方不明で探した」が14%、「行方不明に気付いて心配した」が15%にみられた。患者の年齢層は70~80歳代が最も多かった。「行方不明」となった転機は、「患者さんが家から外出して、想定した時間内に帰ってこなかったので探した」「屋外で、患者さんの居場所が分からなくなって探した」が最も多かった。
「行方不明」となった患者のMMSEの成績は5~27点まで幅が広く、16~20点が最も多かった。BPSDはDBDで8~74点であり、J-ZBIの成績も8~61点まで様々であった。「行方不明」の介護認定では要介護1が最も多かった。また介護保険の未申請多くみられた。つまり軽症(早期)の認知症から、BPSDが目立つ認知症まで、行方不明が発生していることが示された。一方、介護者の特性をみると、年齢は大きく2グループ(60~70歳、40~50歳)に分けられた。つまり配偶者世代と子供世代であった。
今回の横断調査で、14%の患者にて行方不明が発見され、行方不明となり心配されたものが、さらに15%にみられた。両者を合わせると、30%に行方不明となるエピソードとなる。私どもが行った先行研究で予測された推計値 3.9%を大きく上回っていた。この点について、行方不明の定義が先行調査と異なることは重要である。先行研究では、警察や自治体に届け出があった行方不明を対象としていた。一方、本研究では、家族が気づいた行方不明であり、「行方がわからないので探した」ものを対象とした。「行方が分からないことがあったが、一人で戻ってきた」ものは、行方不明の高リスク群と位置づけた。警察に届けられるケースのみを対象としていては、その背景にある危険因子を見落とす可能性がある。そこで本調査では、行方不明の幅を広げた操作的定義を行った。
本研究で行方不明が多かった理由として、調査の精度も重要である。先行研究では、診療記録の自由記載から「徘徊」をキーワードに探索した。このため、患者や家族が、外来受診時に担当医に報告しないと記録されなかった。本調査では、選択基準・除外基準に合致する限り悉皆調査であり、高い頻度で行方不明が発見されたといえる。しかし、選択基準では家族介護者の協力が得られるものを対象にしていること、薬剤情報を把握できていることなどにバイアスがあり、行方不明の頻度はなお過小に評価されている可能性もある。
行方不明の臨床的特徴は、認知症のすべての病期で生じえることである。本研究ではMMSEの成績は5~27点まで幅が広く、16~20点が最も多かった。BPSDの程度は、DBD総得点で8~74点、J-ZBIの成績も8~61点で広範囲にわたり、BPSDや家族負担の程度には関係なく行方不明は発生していた。介護認定の評価では要介護1が最も多く、介護保険の未申請の場合でも多くみられた。つまり家族による介護が安定する以前の段階から、行方不明は生じていることになる。一般に、行方不明は進行した認知症で多いと考えられがちであるが、MCIを含む初期の認知症から生じることを広く啓発していくことが重要である。
一方、介護者の特性をみると、年齢は大きく2グループ(60~70歳、40~50歳)に分かれた。つまり配偶者世代と子供世代が見守っている。介護者の属性により見守り時間も内容も異なることが想定され、行方不明の関連因子を明らかにするうえで、重要な要因であると思われる。
結論
本年度は研究プロトコールを作成し、レジストリシステムを作った。また、登録時の予備(横断)調査により、全患者の15%に行方不明がみられ、予想を超えた頻度であることが明らかになった。今後、前向きに一年間観察することで、行方不明に関する実態調査ができると考えられる。

公開日・更新日

公開日
2017-05-25
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
201615003Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
6,300,000円
(2)補助金確定額
6,284,000円
差引額 [(1)-(2)]
16,000円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 157,899円
人件費・謝金 3,384,794円
旅費 20,220円
その他 1,268,513円
間接経費 1,453,000円
合計 6,284,426円

備考

備考
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公開日・更新日

公開日
2017-12-18
更新日
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