関節リウマチ(RA)や炎症性腸疾患(IBD)罹患女性患者の妊娠、出産を考えた治療指針の作成

文献情報

文献番号
201610105A
報告書区分
総括
研究課題名
関節リウマチ(RA)や炎症性腸疾患(IBD)罹患女性患者の妊娠、出産を考えた治療指針の作成
課題番号
H28-難治等(難)-一般-023
研究年度
平成28(2016)年度
研究代表者(所属機関)
齋藤 滋(国立大学法人富山大学 大学院医学薬学研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 森信 暁雄 (神戸大学 大学院医学研究科)
  • 村川 洋子(島根大学 医学部)
  • 松井 聖(兵庫医科大学)
  • 渡辺 守(東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科)
  • 鈴木 康夫(東邦大学医療センター佐倉病院)
  • 牧野 真太郎(順天堂大学 医学部附属順天堂医院)
  • 藤田 太輔(大阪医科大学)
  • 宮崎 晴菜(川口 晴菜)(大阪府立病院機構大阪母子医療センター)
  • 武井 修治(鹿児島大学 大学院医歯学総合研究科)
  • 宮前 多佳子(東京女子医科大学 附属膠原病リウマチ痛風センター)
  • 高橋 尚人(東京大学医学部附属病院総合周産期母子医療センター)
  • 村島 温子(国立研究開発法人国立成育医療研究センター周産期・母性診療センター)
  • 渥美 達也(北海道大学 大学院医学研究院)
  • 奥 健志(北海道大学病院)
  • 中島 研(国立成育医療研究センター 薬剤部)
  • 関根 道和(富山大学 大学院医学薬学研究部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等政策研究(難治性疾患政策研究)
研究開始年度
平成28(2016)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 自己免疫疾患は女性に多く、20~30歳代の生殖年齢にある女性の推定患者数はRAで22万人、潰瘍性大腸炎で2.4万人、クローン病で0.5万人存在し、これらの女性が生物製剤の出現により妊娠・出産を考えるように変化してきた。しかし、40歳未満で発症したRA患者では出産経験が17.5%に留まるという報告(第57回リウマチ学会 杉山隆夫)もあり、多くの闘病中の女性患者は妊娠・出産できていない現状がある。また治療薬であるメトトレキサート(MTX)やミゾリビン、レフルノミド、D-ペニシラミンには催奇形性があり妊娠中は禁忌である。生物製剤であるインフリキシマブはMTX併用がRAでは必須であること、エタネルセプト、セルトリズマブでは胎盤通過性が少なく胎児への安全性は高いが、IBDへの適応がないこと、インフリキシマブ、アダリムマブ、ゴリムマブでは胎盤通過性があり、出産後の児の感染防御力の低下が危惧される。TNF阻害薬の胎児毒性については脊椎、肛門、心臓、食道、腎の奇形を伴うVACTERL形態異常が増加するという報告(Carter et al. J Rheumatol 2009)とそれを否定する報告(Østensen Nat Rev Rheumatol 2009)があり、日本でも再調査する必要がある。
また、非ステロイド系鎮痛消炎剤(NSAIDs)の使用は妊娠32週以降は禁忌となるなど治療が複雑であり、対応に苦慮しているのが現状である。
 そこで本研究班では膠原病内科、産婦人科、小児科、薬剤師のエキスパートが協議して、妊娠前からの管理、妊娠中ならびに出産後の管理指針を策定し、これらの指針を各学会の意見聴取した後に取りまとめ、PDF化して医療関係者ならびに患者に公開することを目的とする。
研究方法
 膠原病内科、産婦人科、小児科、薬剤部17名が協議し、2回の班会議のあとメールにて修正し10のClinical Questionにつき医師用、患者用の管理指針を作成した。
 関節リウマチ患者を対象とした多施設共同データベース(NinJa)をもとに生殖可能年齢(15-45歳)1,279人の女性の出産状況を調査し、日本における同年代の女性の出産と比較した。全国の周産期センターにSLE、RA、IBD合併妊娠の実態調査を行ない、合併症妊娠の母体予後、新生児予後、妊娠中の投薬状況につき調査した。
結果と考察
1.SLE、RA、IBD合併妊娠管理指針の作成
10のClinical Questionにつき班員で作成した。妊娠許可基準、不妊症、不育症との関連、産科管理、妊娠中もしくは分娩後の薬剤使用等についてまとめた。
なお、現在修正中であるため、詳細は割愛する。
2.関節リウマチ患者を対象とした多施設データベースによる妊娠・出産状況の把握
RA罹患患者からの出生は一般女性に対して42.2%(95%CI:24.1-60.2%)と低値であり、半数以上の女性が妊娠をためらっていることが判った。
3.自己チェックリストによる妊娠可能かを知るシステムの構築                 
医師用、患者用のチェックリストを作成し、患者側から積極的に妊娠を考えることができるシステムを構築した。
4.周産期センターへのアンケート調査
248施設にアンケート調査を依頼し、現在31施設から回答を得ている。再度、調査に対しての協力を依頼しているところである。
 RAについては罹患女性の半数以上が妊娠をためらっている現状が判った。SLEやIBDでも同様であることが推定される。
 そこで、研究班では妊娠前チェックリストを作成し、妊娠を推奨できる状況にあるかを患者自らができるようにした。このようにすれば妊娠に対して前向きに取り組めると考えられる。
 妊娠中や出産後の留意点や、薬剤について研究班で取りまとめ、禁忌の薬剤と使用可能な薬剤に大別して、臨床的に参考となる表を作成した。これにより多くの臨床現場で適切な妊娠、出産後の薬物加療が行なわれると考えられる。今後、関連諸学会の承認を得た上で広報していきたい。
結論
 他分野のエキスパートが集まることにより、SLE、IBD、RA罹患患者の妊娠・出産を考えた治療指針案が策定された。従来と大きく変化した点は、十分な根拠がなく妊娠中や授乳中の投与が禁忌となっていた薬剤を、専門家の意見と海外からの文献を基に、再検討して、現時点での基準を定めた点である。また、RA罹患患者の妊娠出産が、同年代の女性と比べて低率である事も判明した。そのため妊娠推奨できるかを判断できることが出来、妊娠・出産に前向きになれるようになったと考えられる。今後、関係諸学会と協議の上、最終的に小冊子にまとめ、またホームページにPDF化した情報を掲載する予定である。

公開日・更新日

公開日
2017-07-24
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
201610105Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
6,500,000円
(2)補助金確定額
6,500,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 2,679,797円
人件費・謝金 800,193円
旅費 845,450円
その他 674,560円
間接経費 1,500,000円
合計 6,500,000円

備考

備考
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公開日・更新日

公開日
2018-02-19
更新日
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