文献情報
文献番号
199800561A
報告書区分
総括
研究課題名
ダイオキシン類の汚染状況及び子宮内膜症等健康影響に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
金子 豊蔵(国立医薬品食品衛生研究所)
研究分担者(所属機関)
- 井上 達(国立医薬品食品衛生研究所)
- 菅野 純(国立医薬品食品衛生研究所)
- 藤井義明(東北大学大学院理学部)
- 今田中伸哉((財)化学品検査協会日田研究所)
- 安田峯生(広島大学医学部)
- 三国雅彦(群馬大学医学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 生活安全総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
18,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
本研究は、ダイオキシン類の健康影響のメカニズムを解析し、以てその健康影響評価の科学的基盤に資することを目的とする。この目的に沿って、ダイオキシンの生体影響のうち、特に、①器官形成期における奇形の誘発、②成熟期における発がん性、及び③障害発現へのアリールハイドロカーボン受容体(AhR)の関与の3点に焦点をしぼって、「暴露一般」、「発がん性(in vitro指標及び、in vivo指標の双方)」、「AhRそのものの機能変化」、更に「ステロイドやコルチコイドなどの他の受容体への共役性の変化」を指標として研究を進める。
研究方法
① 奇形誘発等:PCBと類似の化学構造をもったPCTs(polychlorinated terphenyls)によるddYマウスの口蓋裂が母体で増加する内因性のCorticosterone(CS)が一つの原因になっていると考えられることから、2,3,7,8-TCDDをC57BL/6妊娠マウスにIP投与し、口蓋裂の発生率とCS量の関連を調べた。また、TCDDの催奇形作用の分子的基礎解析を行った。加えて、マウスにおける子宮内膜症モデルを作製し、ダイオキシンの子宮内膜症誘発について検討した。
② 成熟期における発がん性:発がんプロモ-タ-作用の in vitro 培養系での表現系の一つとされているギャップ結合細胞間連絡(GJIC)阻害作用について、ラット肝由来のWB細胞を用い、既知の肝発がんプロモ-タ-物質によるGJIC阻害作用及びその機構に関わるコネクシンの発現量、リン酸化、細胞内局在に対する変化を調べた。また、in vivo指標として、発がんプロモ-タ-作用に感受性のあるTg/ACマウスを用いるとともに、同マウスより採取した初代培養細胞および、v-Ha-ras導入非形質転換BALB由来細胞株(Bhas42細胞)を用いて、プロモ-タ-作用の検出系の検討と、その分子生物学的メカニズムの解析を試みた。
③AhR の機能解析:AhRは、ダイオキシンと極めて高い親和性で結合し、XREと命名された制御配列に結合することによって制御される一群の遺伝子の発現を活性化する。AhRはリガンドがない状態ではHSP90と複合体を形成し、細胞質に存在している。核内ではArntとヘテロ2量体を形成して、XRE結合能を持ち、転写活性能を持ち、転写活性能を発揮することが明らかになっている。これらのことから、催奇形性、発がんのプロモ-ション、胸腺縮退による免疫不全、肝毒性、クロ-ルアクネ、体重減少、薬物代謝誘導などの多彩なダイオキシン毒性作用がAhRを介するか否かを検討するために、AhR遺伝子欠出マウスを作製し検討した。
④ダイオキシンの生体影響:胎生期のストレス負荷や dexamethasone 処置が胎生期に暴露されたダイオキシン類の影響を受けやすくするか否かについて明らかにすることを目的とし、ダイオキシン類が中枢神経系に与える直接的作用を調査した。まず副腎皮質刺激ホルモンの反復処置がラット大脳皮質の糖代謝を低下させることを 18F-FDG を用いた PET 検査で明らかにし、副腎皮質ホルモンの持続的過剰に基づくことを明らかにした。この点を踏まえ,ダイオキシン類の暴露が脳内の糖代謝に同様の影響を与えるか、否かを検討した。
⑤高度ケミカルハザード対応動物施設:作業者の暴露防止法や漏出防止法、廃棄物の処理・保管法について配慮する必要がある。それらをふまえて、高度ケミカルハザード対応動物施設の設計案を提案するとともに、ダイオキシン研究に実績のあるカロリンスカ研究所(スウェーデン)の状況を調査した。
② 成熟期における発がん性:発がんプロモ-タ-作用の in vitro 培養系での表現系の一つとされているギャップ結合細胞間連絡(GJIC)阻害作用について、ラット肝由来のWB細胞を用い、既知の肝発がんプロモ-タ-物質によるGJIC阻害作用及びその機構に関わるコネクシンの発現量、リン酸化、細胞内局在に対する変化を調べた。また、in vivo指標として、発がんプロモ-タ-作用に感受性のあるTg/ACマウスを用いるとともに、同マウスより採取した初代培養細胞および、v-Ha-ras導入非形質転換BALB由来細胞株(Bhas42細胞)を用いて、プロモ-タ-作用の検出系の検討と、その分子生物学的メカニズムの解析を試みた。
③AhR の機能解析:AhRは、ダイオキシンと極めて高い親和性で結合し、XREと命名された制御配列に結合することによって制御される一群の遺伝子の発現を活性化する。AhRはリガンドがない状態ではHSP90と複合体を形成し、細胞質に存在している。核内ではArntとヘテロ2量体を形成して、XRE結合能を持ち、転写活性能を持ち、転写活性能を発揮することが明らかになっている。これらのことから、催奇形性、発がんのプロモ-ション、胸腺縮退による免疫不全、肝毒性、クロ-ルアクネ、体重減少、薬物代謝誘導などの多彩なダイオキシン毒性作用がAhRを介するか否かを検討するために、AhR遺伝子欠出マウスを作製し検討した。
④ダイオキシンの生体影響:胎生期のストレス負荷や dexamethasone 処置が胎生期に暴露されたダイオキシン類の影響を受けやすくするか否かについて明らかにすることを目的とし、ダイオキシン類が中枢神経系に与える直接的作用を調査した。まず副腎皮質刺激ホルモンの反復処置がラット大脳皮質の糖代謝を低下させることを 18F-FDG を用いた PET 検査で明らかにし、副腎皮質ホルモンの持続的過剰に基づくことを明らかにした。この点を踏まえ,ダイオキシン類の暴露が脳内の糖代謝に同様の影響を与えるか、否かを検討した。
⑤高度ケミカルハザード対応動物施設:作業者の暴露防止法や漏出防止法、廃棄物の処理・保管法について配慮する必要がある。それらをふまえて、高度ケミカルハザード対応動物施設の設計案を提案するとともに、ダイオキシン研究に実績のあるカロリンスカ研究所(スウェーデン)の状況を調査した。
結果と考察
①:2,3,7,8-TCDDをC57BL/6妊娠マウスにIP投与し、口蓋裂の発生とCS量の関連を調べたところ、口蓋裂はTCDDの用量に伴って認められたが、CSの増加は認められなかった。TCDDのマウス口蓋裂誘発における口蓋突起内側縁上皮(medial edge epithelium、以下MEE)及び間葉の細胞動態の解析により、従来の定説を覆えし、TCDDは口蓋突起MEEの細胞動態には影響を与えず、口蓋突起間葉の細胞増殖を抑制することが明らかになった。また、マウスにおける子宮内膜症モデルの作製とこのモデルを用いてのダイオキシンの子宮内膜症誘発作用の予備的な検討から、大量のTCDDは腹膜に移植した子宮内膜の発育を抑制することが示唆された。
②:pentachlorophenol(PCP)をモデル物質として、肝細胞由来のWB細胞の GJICを scrape loading/dye transfer(SL/DT) 法により検討し、この阻害作用がいわゆる epigeneticな作用で起こる点でこの阻害機構の検討がTCDD等の環境化学物質による発がんプロモ-タ-作用の分子機構の解明に有用であると考えられた。また、ダイオキシンの発がんプロモ-タ-作用の検出系としてTg/ACマウスおよび Bhas42細胞のような系を用いることにより、そのメカニズムの検討につながることが示唆され、いわゆるダイオキシン類化合物の作用を検討する基礎となると考えられた。
③:ダイオキシンをマウスに投与すると野生型マウス胎児の100%に口蓋裂を発症するが、AhR(-/-)の胎児には全く発症しなかった。また、3-メチルコラントレンの発がんもAhR(-/-)マウスでは発生が認められなかった。これらのことは、AhRが化学発がんと奇形の発症に深い関わりを持つことを示している。
④:ダイオキシン類の暴露が脳内の糖代謝に抑制的に働くか否かを検討した。その結果、TCDDの処置により糖代謝率に低下傾向を認めた。
⑤:今田中による高度ケミカルハザ-ド対応施設の設計提案とダイオキシン研究に実績のあるカロリンスカ研究所(スウェ-デン)の状況報告は、ダイオキシン研究施設の改善や新設に有用なものとなると考えられる。
②:pentachlorophenol(PCP)をモデル物質として、肝細胞由来のWB細胞の GJICを scrape loading/dye transfer(SL/DT) 法により検討し、この阻害作用がいわゆる epigeneticな作用で起こる点でこの阻害機構の検討がTCDD等の環境化学物質による発がんプロモ-タ-作用の分子機構の解明に有用であると考えられた。また、ダイオキシンの発がんプロモ-タ-作用の検出系としてTg/ACマウスおよび Bhas42細胞のような系を用いることにより、そのメカニズムの検討につながることが示唆され、いわゆるダイオキシン類化合物の作用を検討する基礎となると考えられた。
③:ダイオキシンをマウスに投与すると野生型マウス胎児の100%に口蓋裂を発症するが、AhR(-/-)の胎児には全く発症しなかった。また、3-メチルコラントレンの発がんもAhR(-/-)マウスでは発生が認められなかった。これらのことは、AhRが化学発がんと奇形の発症に深い関わりを持つことを示している。
④:ダイオキシン類の暴露が脳内の糖代謝に抑制的に働くか否かを検討した。その結果、TCDDの処置により糖代謝率に低下傾向を認めた。
⑤:今田中による高度ケミカルハザ-ド対応施設の設計提案とダイオキシン研究に実績のあるカロリンスカ研究所(スウェ-デン)の状況報告は、ダイオキシン研究施設の改善や新設に有用なものとなると考えられる。
結論
マウスにおける口蓋裂の検討においては、ダイオキシン類による奇形発現に至る生体内での反応カスケ-ドの一端が明らかになり、実験動物での所見をヒトに外挿して危険性を評価するための基礎的情報が得られることが期待される。発がんプロモ-タ-作用との関連性が広く認識されつつあるGJIC阻害作用が epigeneticな作用で起こる点でこの阻害機構の検討がTCDD等の環境化学物質による発がんプロモ-タ-作用の分子機構の解明に有用であると考えられた。また、ダイオキシンの発がんプロモ-タ-作用の検出系としてTg/ACマウスおよび Bhas42細胞のような系を用いることにより、そのメカニズムの検討につながることが示唆され、いわゆるダイオキシン類化合物の作用を検討する基礎となると考えられる。
ダイオキシンの毒性がAhRを介するかどうかを検討する上でAhR遺伝子欠失マウスの作製は非常に有効であり、ダイオキシンの奇形や2-MCの発がんにAhRが関与することが明らかになったように、毒性発現機構の解明に役に立つと考えられる。AhRを介したものとしからざるものとの障害発生が峻別されるものと期待される。この結果はそうした化学物質のリスクマネ-ジメントに資する実利的な情報となるものと考えられる。毒性の発現には、どのような遺伝子の発現を促進するために起こるのか、その標的遺伝子については今後の検討を待たねばならない。
胎生期のストレス負荷や dexamethasone 処置は、胎生期に暴露されたダイオキシン類の影響を受けやすくするか否かについて投与量を変動させることにより明らかにし、これによって胎生期や新生児期のストレス刺激が神経系の発達に直接影響し,ダイオキシン類の暴露に対する脆弱因子を形成していることが明らかにできれば、治療法や予防法を確立するための対応が可能となる。
今田中による高度ケミカルハザ-ド対応施設の設計提案とダイオキシン研究に実績のあるカロリンスカ研究所(スウェ-デン)の状況報告は、ダイオキシン研究施設の改善や新設に有用なものとなると考えられる。 TDI設定に受容体原生障害としてのリスクマネジメントがジュネーブ会議で合意に達したことからみても、ダイオキシン問題はすべからく分子毒性学的課題の中心にあると言って過言ではない。 AhR遺伝子欠失マウスなどを用いた機構研究の成果に期待されるところは大きい。更に、AhR遺伝子欠失マウスを用いた種々の化学物質の暴露によって、AhRを介するものとしからざるものとの障害発生が峻別されることも期待され、同時にその結果は、これら化学物質のリスクマネジメントに資する今日的実利的な情報となることも期待される。さらに、ダイオキシンと他の化学物質、特に内分泌かく乱化学物質とのあり得べき相乗性などに鑑みて、奇形、発がん性などに関連した健康影響に関する科学的基盤の整備に資することも期待される。
ダイオキシンの毒性がAhRを介するかどうかを検討する上でAhR遺伝子欠失マウスの作製は非常に有効であり、ダイオキシンの奇形や2-MCの発がんにAhRが関与することが明らかになったように、毒性発現機構の解明に役に立つと考えられる。AhRを介したものとしからざるものとの障害発生が峻別されるものと期待される。この結果はそうした化学物質のリスクマネ-ジメントに資する実利的な情報となるものと考えられる。毒性の発現には、どのような遺伝子の発現を促進するために起こるのか、その標的遺伝子については今後の検討を待たねばならない。
胎生期のストレス負荷や dexamethasone 処置は、胎生期に暴露されたダイオキシン類の影響を受けやすくするか否かについて投与量を変動させることにより明らかにし、これによって胎生期や新生児期のストレス刺激が神経系の発達に直接影響し,ダイオキシン類の暴露に対する脆弱因子を形成していることが明らかにできれば、治療法や予防法を確立するための対応が可能となる。
今田中による高度ケミカルハザ-ド対応施設の設計提案とダイオキシン研究に実績のあるカロリンスカ研究所(スウェ-デン)の状況報告は、ダイオキシン研究施設の改善や新設に有用なものとなると考えられる。 TDI設定に受容体原生障害としてのリスクマネジメントがジュネーブ会議で合意に達したことからみても、ダイオキシン問題はすべからく分子毒性学的課題の中心にあると言って過言ではない。 AhR遺伝子欠失マウスなどを用いた機構研究の成果に期待されるところは大きい。更に、AhR遺伝子欠失マウスを用いた種々の化学物質の暴露によって、AhRを介するものとしからざるものとの障害発生が峻別されることも期待され、同時にその結果は、これら化学物質のリスクマネジメントに資する今日的実利的な情報となることも期待される。さらに、ダイオキシンと他の化学物質、特に内分泌かく乱化学物質とのあり得べき相乗性などに鑑みて、奇形、発がん性などに関連した健康影響に関する科学的基盤の整備に資することも期待される。
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