文献情報
文献番号
201610102A
報告書区分
総括
研究課題名
副腎ホルモン産生異常に関する調査研究
課題番号
H28-難治等(難)-一般-020
研究年度
平成28(2016)年度
研究代表者(所属機関)
柳瀬 敏彦(福岡大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
- 成瀬 光栄(国立病院機構京都医療センター 臨床研究センター)
- 西川 哲男(独立行政法人労働者健康福祉機構横浜労災病院 内分泌糖尿病センター)
- 笹野 公伸(東北大学 大学院医学系研究科)
- 長谷川 奉延(慶應義塾大学 医学部)
- 田島 敏広(自治医科大学 とちぎ子ども医療センター)
- 勝又 規行(国立研究開発法人国立成育医療研究センター 研究所分子内分泌研究部)
- 棚橋 祐典(旭川医科大学 小児科学講座)
- 岩崎 泰正(高知大学 教育研究部医療学系臨床医学部門)
- 宗 友厚(川崎医科大学)
- 柴田 洋孝(大分大学 医学部)
- 山田 正信(群馬大学 大学院医学系研究科)
- 武田 仁勇(金沢大学附属病院 先端医療開発センター)
- 曽根 正勝(京都大学 大学院医学研究科)
- 佐藤 文俊(東北大学 医学系研究科)
- 上芝 元(東邦大学 医学部)
- 方波見 卓行(聖マリアンナ大学 横浜市西部病院)
- 大月 道夫(大阪大学 大学院医学系研究科 )
- 三宅 吉博(愛媛大学 大学院医学系研究科 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等政策研究(難治性疾患政策研究)
研究開始年度
平成28(2016)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究費
10,385,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
副腎ホルモン産生異常症の実態把握に努め、科学的根拠に基づき、診断・診療指針を作成し、適切な診断・治療法を国民に提示することを目的とする。
研究方法
1.副腎不全症診療指針の英語版の作成:日本内分泌学会の診療ガイドライン作成委員会で原案を作成、その後、本班で、査読、改訂を行った。2.副腎性サブクリニカルクッシング症候群(SCS)の診断基準の作成:平成26-27年度に多施設共同研究により作成した副腎腫瘍530例のデータベースを解析しエビデンスを構築した。その後、関連論文等のエビデンスも参照し、診断基準案並びに取り扱いめやすの原案を作成した。その後、副腎班会議でその妥当性を議論、検証した。3.偽性低アルドステロン症の診断基準を含む診療指針、重度分類の改訂:関連学会(日本小児内分泌学会、日本腎臓学会)と協議しながら、作業を進め、最終的に本班の班会議で改訂案の妥当性を議論、検証した。4.原発性アルドステロン症診療におけるコンセンサスステートメントの作成:日本内分泌学会の臨床重要課題でもあり、学会主導で作成後、メール会議等を経て本班班会議で検証した。
結果と考察
(1)副腎不全症(アジソン病、先天性副腎低形成症、ACTH不応症、先天性副腎酵素欠損症:何れも指定難病)の英語版診療指針の作成:本班と日本内分泌学会が連携して出版した「副腎クリーゼを含む副腎皮質機能低下症の診断基準と治療指針作成」(日本内分泌学会雑誌 91(suppl)1-78, 2015)の英語版に相当する英文論文を出版した(Endocrien J 63:765-784,2016)。これにより今後、我が国の副腎不全症並びに副腎クリーゼの診療指針が国際的にも認知されると同時に、その妥当性に関してグローバルな議論が可能となった。(2)サブクリニカルクッシング症候群(SCS)の診断基準と取り扱いめやすの作成:長年、議論が続いている日本内分泌学会の臨床重要課題(委員長:柳瀬敏彦)でもある。多施設共同の臨床研究から現行基準の1mgDSTの血中コルチゾール値3μg/dl未満の条件で非機能性副腎と判断される症例群の中で1mg DSTの血中コルチゾール値1.8μg/dl以上の症例は何らかの合併症リスクを高率に内包することが示唆され、1.8μg/dl以上を非健常と判断するカットオフ値として採用した。多くの海外ガイドライン(GL)がこの基準をスクリーニング基準として採用しており、国際的整合性にも配慮した。一方で、改訂に伴う混乱を避ける意味で、現行の1mg DSTの血中コルチゾール値 3.0μg/dl以上の診断基準はそのまま残した。また、診断基準として、多くの海外の診療GLが、自律性の強さの観点から、1mg DST時の血中F値5μg/dlを単独でSCSの診断基準として採用している点も考慮し、1mgDST 後の血中 F値5μg/dl単独でSCSの診断可能とした。このことは、今回の多施設共同研究においても、1mg DST後の血中F値5μg/dl以上の条件では、ほほ全例で陽性項目の何れかを全て満たすことからも裏付けられた。今回のSCS診断基準は、国際的整合性にも配慮して作成したことから、診療、研究面での混乱の解消と同時に、今後の活用が期待される。SCSの副腎腫瘍の取り扱い目安では、副腎腫瘍取り扱い規約2015で提言を取り入れた。すなわち、副腎腫瘍か副腎癌である可能性に配慮した手術選択の重要性に関して、腫瘍径に関しては副腎腫瘍取り扱い規約2015に準じ、腫瘍径3cm以上で画像所見上、副腎癌の可能性を否定できない場合には手術を考慮するとした。これらの内容は本班並びに日本内分泌学会で承認された。(3)偽性低アルドステロン症の診断基準を含む診療指針、重症度分類の改訂:平成28年6月に厚労省より新たな指定難病の追加候補疾患として要請があり、資料を提出した。資料の提出に際し、診断基準、診療指針上、III型(後天性)が欠けていたことから、新たに追加作成した。また重症度分類も若干修正した。これらの改訂版は、日本内分泌学会、日本腎臓学会、厚労省副腎班の承認を得た。(4)原発性アルドステロン症(PA)診療におけるコンセンサスステートメントの作成:日本内分泌学会の臨床重要課題(委員長:成瀬光栄)として学会主導でまとまり、本班でも協議の末、承認した。今後、一般診療における活用が期待される。なお、このスステートメントを反映したPA診断基準案の作成に関して検討を継続している。
結論
副腎ホルモン産生異常に関する調査研究を様々な観点から行い、診断基準や診療指針に関する多くの成果が得られた。これらは本領域の病態の理解、新たな診断法や治療法の開発に有用と考える。
公開日・更新日
公開日
2017-06-07
更新日
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