乳児特発性僧帽弁腱索断裂の多彩な病因に基づいた治療法の確立に向けた研究

文献情報

文献番号
201610091A
報告書区分
総括
研究課題名
乳児特発性僧帽弁腱索断裂の多彩な病因に基づいた治療法の確立に向けた研究
課題番号
H28-難治等(難)-一般-009
研究年度
平成28(2016)年度
研究代表者(所属機関)
白石 公(国立研究開発法人 国立循環器病研究センター 小児循環器部)
研究分担者(所属機関)
  • 武田 充人(北海道大学医学部 小児科)
  • 朴 仁三(東京女子医科大学 循環器小児科)
  • 賀藤 均(国立成育医療研究センター)
  • 山岸 敬幸(慶應義塾慶大学医学部 小児科)
  • 安河内 聰(長野県立こども病院)
  • 吉田 恭子(今中 恭子)(三重大学医学部 修復再生病理学)
  • 白井 学(国立循環器病研究センター 分子生物学)
  • 中村 昇太(大阪大学微生物病研究所 生命情報科学)
  • 市川 肇(国立循環器病研究センター 小児心臓外科)
  • 宮本 恵宏(国立循環器病研究センター 予防医学)
  • 黒嵜 健一(国立循環器病研究センター 小児循環器部)
  • 北野 正尚(国立循環器病研究センター 小児循環器部)
  • 坂口 平馬(国立循環器病研究センター 小児循環器部)
  • 池田 善彦(国立循環器病研究センター・臨床病理科)
  • 檜垣 高史(愛媛大学大学院医学系研究科 地域小児・周産期学講座)
  • 佐川 浩一(福岡市立こども病院 循環器科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等政策研究(難治性疾患政策研究)
研究開始年度
平成28(2016)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究費
3,847,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
生来健康である乳児に、数日の感冒様症状に引き続き突然に僧帽弁の腱索が断裂し、急速に呼吸循環不全に陥る疾患が存在する。本疾患は過去の報告例のほとんどが日本人という特徴をもつ。発症早期に的確に診断され、適切な外科治療がなされないと、急性心不全により短期間に死に至る。また救命し得た場合も人工弁置換を余儀なくされるか神経学的後遺症を残すなど、子どもたちの生涯にわたる重篤な続発症をきたす。しかしながら、多くの小児科医は本疾患の存在を認識していない。またその急激な臨床経過の特徴から、過去の死亡例は「乳児突然死症候群」と統計処理された可能性があり、実際の発症はさらに多いと考えられる。これまでの我々の調査の結果、腱索断裂の原因として、ウイルス感染、母体から移行した血中自己抗体(抗SSA抗体)、川崎病(回復期)などが考えられており、何らかの感染症や免疫学的異常が引き金になるが、詳細は不明である。また最近国内での症例報告が増加しており、早期の実態調査、早期発見の啓蒙、診断治療方針の確立が急務である。本疾患の全国実態調査を継続し、発症頻度、発症状況、危険因子などを明らかにする。また、診断基準や治療ガイドラインを確立することで、早期診断や早期治療が可能にし、死亡例や重篤な合併症を減らすことを目的とする。
研究方法
乳児特発性僧帽弁腱索断裂と診断された乳児。発症年齢、基礎疾患の有無、発症様式、血液生化学所見、画像所見、手術所見、病理組織所見、予後、転帰などについて調査。サンプルが得られた症例では、全血および血清サンプルの凍結保存、尿、弁、咽頭拭い液からのウイルス分離、弁置換を行った症例では弁組織の凍結保存やホルマリン固定病理組織標本の免疫組織科学的検討を行い、腱索断裂のメカニズムを解明する。
結果と考察
平成22年度より行った全国調査から、過去16年間に発症した95例について臨床所見を要約。発症は生後4〜6ヶ月に集中し(85%)、やや男児に多く(53:42)、春から夏の頻度が高かった(66%)。全体的に近年増加傾向にある。基礎疾患として、川崎病10例、抗SSA抗体陽性2例、細菌性心内膜炎1例が認められた。CRPの上昇は軽度で、外科治療は弁形成が52例(55%)、人工弁置換が26例(27%)に行われた。死亡例は8例(8.4%)で、中枢神経系後遺症は10例(11%)認められた。これらの結果は、2014年9月に米国心臓協会の公式雑誌(Circulation. 2014;130:1053-1061)に論文として掲載された。
 さらに本疾患の病因および病態を明らかにするために、新たな研究計画を国立循環器病研究センター倫理委員会に提出して承諾された(M25-097-2)。その結果、患者代諾者から同意書を得た上で、DNA, RNAを劣化させない固定液PaxGeneで固定し、そこからDNA, RNAを回収して、大阪大学微生物病研究所感染症メタゲノム解析研究分野教室において、ウイルスゲノムの検索を行っている。1例の新たな症例においてサンプルを解析した。また同様に過去に僧帽弁置換術を行った3例においてもホルマリン固定パラフィン切片(FFPE)からRNA, DNAを回収して、ウイルスゲノムの検索およびRNAトランスクリプトーム解析を行う。
結論
今回の研究で病態がかなり明らかになった。今後研究を継続して、早期発見および的確な治療法を早急に確立する。また基礎研究と疫学調査を継続して行い、病因解明に向けた努力を行う。とくに採取した弁組織からのウイルスゲノムの網羅的解析による病因解析、同じく組織からのRNAトランスクリプトーム解析による病態解明を行い、本疾患の診断および治療法の確立に向けて研究を発展させる予定である。

公開日・更新日

公開日
2017-06-20
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
201610091Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
5,000,000円
(2)補助金確定額
5,000,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 2,307,477円
人件費・謝金 40,000円
旅費 1,207,420円
その他 293,600円
間接経費 1,153,000円
合計 5,001,497円

備考

備考
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公開日・更新日

公開日
2018-03-15
更新日
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