先天性GPI欠損症の症例登録システムの構築と実態調査及び早期診断法の確立

文献情報

文献番号
201610089A
報告書区分
総括
研究課題名
先天性GPI欠損症の症例登録システムの構築と実態調査及び早期診断法の確立
課題番号
H28-難治等(難)-一般-007
研究年度
平成28(2016)年度
研究代表者(所属機関)
村上 良子(国立大学法人 大阪大学 微生物病研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 井上 徳光(大阪国際がんセンター 研究所)
  • 高橋 幸利(独立行政法人国立病院機構静岡てんかん・神経医療センター,)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等政策研究(難治性疾患政策研究)
研究開始年度
平成28(2016)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究費
924,000円
研究者交替、所属機関変更
分担者の井上徳光 所属先の名称が変更になった。大阪府立成人病センターから大阪国立がんセンターへ。

研究報告書(概要版)

研究目的
GPIアンカーは50種以上の蛋白質を細胞膜につなぐ糖脂質でその生合成に27個の遺伝子が関与する。これらGPI遺伝子群の変異により重要な機能を担うGPIアンカー型蛋白質(GPI-AP)の発現が低下し精神・運動発達遅滞やてんかん、奇形等の症状を来す。現在15種類の遺伝子変異による先天性GPI欠損症(IGD)が報告されているが、責任遺伝子が今後も拡大する可能性があり他疾患と診断されたものも病態からIGDに分類されるものがあると予想される。旧研究班でIGDの診療ガイドラインを作成したが症状が多彩で、最近GPI遺伝子以外を責任遺伝子とするIGDも見つかり正確な診断が難しい。さらに生後も病態が進行する症例もあるので早期診断が必要である。新研究班では疾患登録を構築して多症例の臨床像・検査所見を詳細に解析し、より鋭敏な疾患マーカーを見つけそれらを診療ガイドラインに反映させ、より早期の正確な診断を目指す。
研究方法
(1) 効率的なスクリーニング体制の構築と疾患登録の運用開始
精神発達遅滞、てんかんの患者の末梢血においてフローサイトメトリー検査で顆粒球におけるGPIアンカー型タンパク質の発現を確認する。CD16bの発現低下が見られれば、IGDの診断は確定する。責任遺伝子同定の為に末梢血から抽出したゲノムを用いてGPI関連遺伝子のターゲットエクソームシークエンスを行う。FACSで低下の見られない症例、あるいは遺伝子が同定できない場合は横浜市立大学の遺伝子解析拠点班と連携して全エクソームシークエンスを行った。さらに大阪大学未来医療開発センターと共同して、米国Vanderbilt大学が開発したデータ集積管理システムREDCapを使ったデータベースが完成したので患者登録を開始している。
(2) 診療ガイドラインの改訂と検査の委託
平成29年度より指定難病に認定されたので、それに向けて厚生労働省の指導を受け、診療ガイドラインを改訂した。スクリーニングに用いる顆粒球のFACS解析をベッドサイドで行えるようSRL社に委託し、患者検体のみで判定できるようカットオフ値を設定する試験運用を準備している。
(3) 疾患マーカーの検索
マーカーとなりうる血清GPI-APとしては、アルカリホスファターゼ(ALP)が知られているが、先天性GPI欠損症全例でALPが上昇する訳ではなく、時期変動も大きく、小児期では対照でも比較的高値のため、感度・特異度が低い。他のGPI-APタンパク質について疾患特異性を解析した。またIGDではアルカリホスファターゼの発現低下に由来する、ビタミンB6の取り込み低下による代謝異常が起こっていると考えられる。その測定システムを確立した。
結果と考察
今年度は国内から30例のフローサイトメトリー解析を行い、5人でCD16の明らかな低下を認め、IGDと診断した。うち3人がターゲットシークエンスで責任遺伝子が同定でき、他の2例については現在横浜市立大学にて全エクソーム解析を施行中であるが、まだ責任遺伝子が判明していない。また海外との共同研究により世界で初めてPIGP欠損症とPIGC欠損症を報告した。日本で症例数が多いPIGO欠損症について、変異PIGOの活性低下の度合いと患者の臨床症状の重症度が相関すること、また同じGPI生合成遺伝子の中でもPIGA欠損症とPIGO欠損症では共通の症状以外にそれぞれ特徴的な症状があることを報告した。また最近ではGPI pathway以外の遺伝子変異によるIGDも見つかっており、他の疾患とオーバーラップする症例も今後見つかってくると考えられる。多くの症例を集積してその特徴を詳細に観察することが重要である。
考察
疾患マーカーの検索のためには症例数を増やす必要があるが、希少疾患であるので難しい。全国規模の調査研究が必要である。FACS解析をSRL社に委託したので、このシステムを使って調査研究を実施したいと考えている。またAMEDが推進しているIRUDとの連携を図るためデータシェアリングのシステムが早く構築されることを期待している。


結論
先天性GPI欠損症(IGD)は新しい疾患であるが最近原因不明の運動発達障害や難治性てんかんの症例の中から次々と見つかっている。末梢血のフローサイトメトリーでスクリーニングが可能であり、遺伝子解析で変異遺伝子を同定し、機能解析で確認できる系がある。またビタミンB6(ピリドキシン)の投与がけいれん発作に著効する症例がある。早期診断・早期治療を実現する為にベッドサイドでの鋭敏な疾患マーカーの検索と、新たな治療法の開発が重要である。

公開日・更新日

公開日
2017-05-25
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
201610089Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
1,200,000円
(2)補助金確定額
1,200,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 671,648円
人件費・謝金 0円
旅費 39,560円
その他 212,792円
間接経費 276,000円
合計 1,200,000円

備考

備考
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公開日・更新日

公開日
2018-03-06
更新日
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