ダイオキシン類のヒトの暴露状況の把握と健康影響に関する研究

文献情報

文献番号
199800559A
報告書区分
総括
研究課題名
ダイオキシン類のヒトの暴露状況の把握と健康影響に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
渡邊 昌(東京農業大学)
研究分担者(所属機関)
  • 宮田秀明(摂南大学)
  • 飯田隆雄(福岡県保健環境研)
  • 森田昌俊(国立環境研究所)
  • 三木太平(東京農業大学)
  • 秦 順一(慶応義塾大学医学)
  • 大滝慈(広島大学)
  • 中村好一(自治医科大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 生活安全総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
45,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ダイオキシン類は、その発生が有機塩素化合物の生産過程や廃棄物の処理過程等で発生すると考えられているが、その影響が人体に対し、どの程度起こり得ているのかを評価することが必要不可欠である。日本では耐用一日摂取量(TDI)を最近4pg/kg体重としたが、算定根拠とした海外のヒト暴露影響の研究は大量暴露後の追跡調査が主であり、我が国のように低濃度慢性的暴露が続いた場合にどうなるかは不明である。本研究においては、代表的地域で日本人の生活習慣による曝露程度を明らかにし、ダイオキシン類が人体にどの程度の影響を及ぼしているかについて基礎的研究を行う。またこれにより我が国におけるバックグラウンド値を作成し、もって人体影響データと比較するためのデータベースつくりを目的とする。
研究方法
我が国におけるダイオキシン類のバックグランド値を測定することを目的に、以下の方法で研究を実施する。昨年度の対象地区として宮城県、横浜市、大阪府、島根県の4カ所を選定し、焼却場3か所、最終処分場1ヶ所の2km以内に5カ年以上居住する30歳代、40歳代の周辺住民約20名、焼却場から3-5km以上離れた所に5カ年以上居住するほぼ同数の住民を対照者として、インフォームドコンセントをとって健診、採血をおこなった。
調査の内容としては血液中ダイオキシン類濃度(PCDD7種、PCDF10種、コプラナーPCB3種)、血液一般検査、血液生化学検査、リンパ球免疫指標検査、一般健診、および生活歴調査票による既往歴や食・生活習慣調査を行った。さらに今年から甲状腺ホルモン等の内分泌環境の測定項目も取り入れた。
血中ダイオキシン濃度は対象者の血液から硫酸アンモニウム飽和溶液:エタノール:へキサン=1:1:3混合液により脂質抽出を行い、脂質定量後、ダイオキシン類を多層シリカゲルカラムおよび活性炭埋蔵シリカゲルカラムでクリーンアップして、ガスクロマトグラフィーマススペクトロメーター(MAT95S)にて測定した。
結果と考察
調査対象者の特性:4地域の調査地域居住者は男性42名、女性53名の95名、対照地域は男性38名、女性43名の81名の合計176名がすべての調査項目を完了できた。
血中ダイオキシン類濃度:これら対象者の血中ダイオキシン類量は調査地域が平均26.1±7.4pg/g脂肪であり、対照地域は24.4±12.0pg/g脂肪で両者間に差はなかった。異性体別にみると、ヘキサ-、ヘプタ-、オクタクロロジベンゾダイオキシンが多いパターンで、労働省の発表したごみ焼却場作業者にみられるようなポリクロロジベンゾフランの増加は見られなかった(表1)。2名を除き全員50pg/g脂肪以下であった。50pg/g脂肪以上の2名は宮城県・島根県居住者でPCB濃度が高く、42.36、および30.5pg/g脂肪がPCBに由来するものであった。濃度別ヒストグラムでは2名を除き両群間に差はない。
ダイオキシン、ジベンゾフラン、コプラナーPCB濃度の関係では、ダイオキシンとジベンゾフランは密接に相関しているが、PCBは相関の程度が低くなる。年齢が高くなるほど、ダイオキシン類もPCBも増加するが、有意な関係とはならない。おそらく30歳代、40歳代と対象者の年齢分布が狭いためと思われる。
地域別の血中ダイオキシン類の量をみると各地域ともほとんど差がないが、宮城県においては都市外縁部調査地域居住者Aと蔵王山麓の対照地域居住者Bとで差がみられた。たの調査地域Aと対照地区Bではほとんど差はなく、島根県はB地区居住者の方がダイオキシン類濃度が高かった。
表1.ダイオキシン類異性体別血中濃度とTEQ (pg/g fat)
B地区 (n=80) A地区 (n=95)
    平均値 標準偏差     平均値 標準偏差
D2378      .9 .4     .9 .7
D12378     5.0 3.7     4.9 4.2
D123478   2.3 1.8     1.9 .7
D123678   43.8 33.4     33.8 4.2
D123789     6.2 5.5     4.2 1.4
D1234678     23.0 14.5     20.8 16.6
OCDD     522.6 648.4     474.9 3.4
F2378     .7 .4      .8 10.4
F12378      .7 .5      .7 528.5
F23478    9.6 6.9     10.1 .7
F123478     4.0 2.1     4.1 .5
F123678     4.6 2.4     5.5 6.4
F123789   .5 .1     .6 1.9
F234678     2.5 1.8     2.9 2.4
F1234678    4.0 2.6     5.3 .7
F1234789    .5 .2     .7 2.0
OCDF     4.9 .9     4.8 3.7
PCB77     10.4 7.8     21.7 .6
PCB126     63.6 38.7     86.6 .8
PCB169     54.1 32.3     79.3 20.4
DF_TEQ     17.5 9.5     16.6 66.9
PCB_TEQ     6.9 4.1     9.5 71.0
total_teq 24.4 12.0     26.1 7.4
ND値は検出限界の1/2値を加算。
血清生化学検査値:肝機能(GOT、GPT、γGTP、LDH、LAP、ALT、TBIL)、腎機能(BUN、CRE、UA)、糖代謝(AMYL、GLU)、タンパク質(TP、ALB、CPK)や脂質(TG、TCHO、HDL-C)等の栄養指標となる血清生化学的検査結果は調査地域、対照地域住民間に有意な差はなかった。血液検査、免疫指標の結果:白血球数(WBC),赤血球数(RBC),ヘモグロビン(HB)、ヘマトクリット(HT)、赤血球指標(MCV,MCH,MCHC)、血小板(PLT)に調査地域、対照地域間の有意な差はなかった。T-リンパ球の割合(CD3)、ヘルパーTリンパ球(CD4)、サプレッサーTリンパ球(CD8)、ヘルパー・サプレッサー比(CD4/8)、コンカナバリンA刺激試験(CONA、対照はCONTROL),PHA刺激試験(PHA,対照はPHA_CONT)、NK細胞(CD56)およびNK細胞活性も調査地域、対照地域住民間に有意な差はなかった。
食生活・生活習慣との関係:今回の対象者はダイオキシン類濃度が100pgTEQ/g脂肪以上の者はいなかった為、食生活、生活習慣との関係は明らかではなかった。各ファクターを主成分分析によって食生活との関連をみた。大阪府でFactor12の刺し身・トンカツの摂取、島根県でFactor13のごはんの摂取とジベンゾフラン濃度に正の相関があった。食事調査では頻度法に加え、目安量を取り入れているので、1日あたりの換算摂取量、個々
の食品とダイオキシン濃度との関係を示す。たばこを吸っている人は吸わない人に比べPCBの値が有意に高かった。食生活においては頻度法での食事調査から各地域ごとに主成分分析を行い、各主成分得点とコプラナPCB(pg-TEQ/g Fat)との関係をみたところ、宮城県では、Factor5の外食・ラードと、横浜市では遠海魚摂取・外食との間に正の相関がみられた。
結論
10年度に測定した3地域のごみ焼却場および1地域の最終処分場周辺住民(調査地域)および5km以上はなれた対照地域住民の血中ダイオキシン類濃度は、両者間に差がなかった。コプラナーPCBを加えても平均26.1pgと24.4pgと差はなかった。健康に影響がでる可能性のあるダイオキシン類濃度は83pgTEQ/g体重とされ、これは脂肪量あたりに換算すると250-400pgTEQ/g脂肪程度になる。今回の対象者の濃度は健康影響を起こす下限の10分の1以下といえる。測定したかぎりの検査結果から体内蓄積ダイオキシン類によって異常値を示したというものはなかった。今回の調査結果は母乳中のダイオキシン類濃度と比肩しうるものであった。今後、暴露状況をさらに明らかにするために、調査地域の拡大や、地域焼却場作業員と周辺住民と同一地域での比較検討や高値を示した者についての個別調査が必要である。

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