尿細管性蛋白尿を呈する遺伝性疾患の全国調査

文献情報

文献番号
201610078A
報告書区分
総括
研究課題名
尿細管性蛋白尿を呈する遺伝性疾患の全国調査
課題番号
H27-難治等(難)-一般-037
研究年度
平成28(2016)年度
研究代表者(所属機関)
三浦 健一郎(東京女子医科大学 腎臓小児科)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等政策研究(難治性疾患政策研究)
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究費
693,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
尿細管性蛋白尿は近位尿細管の再吸収機構(エンドサイトーシス)の障害によって生じる。代表的な疾患がDent病であり、高カルシウム尿症や腎石灰化を合併する。欧米では中年以降で末期腎不全に至るとされるが、日本における長期経過の詳細は不明である。そのほかエンドサイトーシスに関わる遺伝子の異常としてLowe症候群、シスチン症、Imerslund-Gräsbeck症候群、Donnai-Barrow/facio-oculo-acoustico-renal (DB/FOAR)症候群が知られており、青年期までの末期腎不全や精神発達遅滞を含めた多彩な症候を呈する。これらの疾患は希少疾患であり、世界的にも疫学的な調査がされておらず、その発症頻度や長期予後の詳細は不明である。本研究では、これらの疾患の本邦での患者数を推計し、各疾患の臨床像、長期予後を解析し、診断基準を確立することを目的とする。
研究方法
本研究は、東京女子医科大学倫理委員会の承認を得て行った(承認番号3916)。全国の200床以上の病院に勤務する小児科医、内科医、および日本小児腎臓病学会・日本小児内分泌学会・日本先天代謝異常学会の評議員(代議員)を対象にアンケート調査を実施した。一次調査のアンケート内容は、尿細管性蛋白尿を呈する遺伝性疾患患者の2013~2015年の3年間における診療の有無と患者数とした。診療ありと回答した施設(医師)に対して、二次調査票を送付し、得られたデータから臨床像を解析した。アンケート送付・収集に関してはジェイ・クルーズ株式会社(J-CRSU)に委託した。
結果と考察
一次調査では、対象となった1,814施設中、889施設(49.0%)から回答が得られた。患者の診療ありと回答した116施設を対象に二次調査を行ったところ、96施設(82.8%)から回答が得られ、最終的に、Dent病110名(102家系)、Lowe症候群67名(62家系)、特発性Fanconi症候群11名(11家系)、シスチン症2名(2家系)が集積された。一次調査から推計された尿細管性蛋白尿を呈する遺伝性疾患の患者数は535名(95%信頼区間:450-620名)であった。
Dent病は男性104名、女性6名が報告された。発見理由は90%が学校検尿等の機会検尿で、家族精査が7%であった。低分子蛋白尿は100%に認め、高Ca尿症、腎石灰化はそれぞれ49%、37%のみに認めた。20歳以上の16症例のうち、慢性腎臓病(CKD)ステージ3以上(eGFR 60 ml/min未満)を呈したのは3名(19%)のみであった。
Lowe症候群は67名が報告され、全例が男性であった。低分子蛋白尿(尿β2MG >5000 µg/L)を100%に認め、白内障と精神発達遅滞も100%に認めた。青年期から成人期のeGFRの推移を検討したところ、30代~40代で多くの症例が末期腎不全に至ることが示唆された。
特発性Fanconi症候群は11名(男性5名、女性6名)が報告された。発症年齢は中央値1.6歳(四分位0.7, 12歳)であった。低分子蛋白尿と糖尿を100%に認めた。代謝性アシドーシスは83%に、くる病/骨軟化症は78%に、低尿酸血症は71%に、低P血症は43%に認めた。末期腎不全を呈したのは61歳の1症例であった。10歳以上の症例は全例がCKDステージ3以上の腎機能障害を呈した。最終フォローアップ時の身長のSDスコアは中央値-2.1 (-4.4, -1.9) SDであり、ほとんどの症例で成長障害を認めた。
本研究はDent病やLowe症候群など、尿細管性蛋白尿を呈する遺伝性疾患について患者数を検討した初めての報告である。欧州のDent病のコホートと比較し、日本人Dent病は腎機能障害の進行が緩やかであることが示唆された。本コホートの97%が無症候性に診断されていることから(90%が学校検尿等の機会検尿、7%が家族精査)、本邦では軽症例が積極的に診断されているために全体の腎機能予後が良い結果になっている可能性が考えられた。本研究の臨床像をもとに、本邦のDent病の診断基準を策定した。
Lowe症候群に関しては、年齢とともに有意にeGFRが低下し、30代~40代で末期腎不全に至る症例が多いことが示唆された。これまでLowe症候群の腎機能の長期予後を示すデータはなく、有意義と考えられる。また、本研究のLowe症候群の臨床像から、本邦におけるLowe症候群の診断基準を策定した。
結論
尿細管性蛋白尿を呈する遺伝性疾患の全国調査を施行し、患者数の推計およびDent病とLowe症候群の診断基準案の策定を行った。本調査の長期予後を含めた臨床像の解析は、これらの患者の正確な診断と診療のために有益な情報となると考えられる。

公開日・更新日

公開日
2017-06-23
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201610078B
報告書区分
総合
研究課題名
尿細管性蛋白尿を呈する遺伝性疾患の全国調査
課題番号
H27-難治等(難)-一般-037
研究年度
平成28(2016)年度
研究代表者(所属機関)
三浦 健一郎(東京女子医科大学 腎臓小児科)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等政策研究(難治性疾患政策研究)
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
尿細管性蛋白尿(低分子蛋白尿)は近位尿細管の再吸収機構(エンドサイトーシス)の障害によって生じる。代表的な疾患がDent病であり、高カルシウム尿症や腎石灰化を合併する。欧米では中年以降で末期腎不全に至るとされるが、日本における長期経過の詳細は不明である。そのほかエンドサイトーシスに関わる遺伝子の異常としてLowe症候群、シスチン症、Imerslund-Gräsbeck症候群、Donnai-Barrow/facio-oculo-acoustico-renal (DB/FOAR)症候群が知られており、青年期までの末期腎不全や精神発達遅滞を含めた多彩な症候を呈する。これらの疾患は希少疾患であり、世界的にも疫学的な調査がされておらず、その発症頻度や長期予後の詳細は不明である。本研究では、これらの疾患の本邦での患者数を推計し、各疾患の臨床像、長期予後を解析し、診断基準を確立することを目的とする。
研究方法
本研究は、東京女子医科大学倫理委員会の承認を得て行った(承認番号3916)。全国の200床以上の病院に勤務する小児科医、内科医、および日本小児腎臓病学会・日本小児内分泌学会・日本先天代謝異常学会の評議員(代議員)を対象にアンケート調査を実施した。一次調査のアンケート内容は、尿細管性蛋白尿を呈する遺伝性疾患患者の2013~2015年の3年間における診療の有無と患者数とした。診療ありと回答した施設(医師)に対して、二次調査票を送付し、得られたデータから臨床像を解析した。アンケート送付・収集に関してはジェイ・クルーズ株式会社(J-CRSU)に委託した。
結果と考察
一次調査では、対象となった1,814施設中、889施設(49.0%)から回答が得られた。患者の診療ありと回答した116施設を対象に二次調査を行ったところ、96施設(82.8%)から回答が得られ、最終的に、Dent病110名(102家系)、Lowe症候群67名(62家系)、特発性Fanconi症候群11名(11家系)、シスチン症2名(2家系)が集積された。一次調査から推計された尿細管性蛋白尿を呈する遺伝性疾患の患者数は535名(95%信頼区間:450-620名)であった。
Dent病は男性104名、女性6名が報告された。発見理由は90%が学校検尿等の機会検尿で、家族精査が7%であった。低分子蛋白尿は100%に認め、高Ca尿症、腎石灰化はそれぞれ49%、37%のみに認めた。20歳以上の16症例のうち、慢性腎臓病(CKD)ステージ3以上(eGFR 60 ml/min未満)を呈したのは3名(19%)のみであった。
Lowe症候群は67名が報告され、全例が男性であった。低分子蛋白尿(尿β2MG >5000 µg/L)を100%に認め、白内障と精神発達遅滞も100%に認めた。青年期から成人期のeGFRの推移を検討したところ、30代~40代で多くの症例が末期腎不全に至ることが示唆された。
特発性Fanconi症候群は11名(男性5名、女性6名)が報告された。発症年齢は中央値1.6歳(四分位0.7, 12歳)であった。低分子蛋白尿と糖尿を100%に認めた。代謝性アシドーシスは83%に、くる病/骨軟化症は78%に、低尿酸血症は71%に、低P血症は43%に認めた。末期腎不全を呈したのは61歳の1症例であった。10歳以上の症例は全例がCKDステージ3以上の腎機能障害を呈した。最終フォローアップ時の身長のSDスコアは中央値-2.1 (-4.4, -1.9) SDであり、ほとんどの症例で成長障害を認めた。
本研究はDent病やLowe症候群など、尿細管性蛋白尿を呈する遺伝性疾患について患者数を検討した初めての報告である。欧州のDent病のコホートと比較し、日本人Dent病は腎機能障害の進行が緩やかであることが示唆された。本コホートの97%が無症候性に診断されていることから(90%が学校検尿等の機会検尿、7%が家族精査)、本邦では軽症例が積極的に診断されているために全体の腎機能予後が良い結果になっている可能性が考えられた。本研究の臨床像をもとに、本邦のDent病の診断基準を策定した。
Lowe症候群に関しては、年齢とともに有意にeGFRが低下し、30代~40代で末期腎不全に至る症例が多いことが示唆された。これまでLowe症候群の腎機能の長期予後を示すデータはなく、有意義と考えられる。また、本研究のLowe症候群の臨床像から、本邦におけるLowe症候群の診断基準を策定した。
結論
尿細管性蛋白尿を呈する遺伝性疾患の全国調査を施行し、患者数の推計およびDent病とLowe症候群の診断基準案の策定を行った。本調査の長期予後を含めた臨床像の解析は、これらの患者の正確な診断と診療のために有益な情報となると考えられる。

公開日・更新日

公開日
2017-06-23
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201610078C

収支報告書

文献番号
201610078Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
900,000円
(2)補助金確定額
900,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 4,034円
人件費・謝金 0円
旅費 0円
その他 688,966円
間接経費 207,000円
合計 900,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2018-03-01
更新日
-