再発性多発軟骨炎の診断と治療体系の確立

文献情報

文献番号
201610053A
報告書区分
総括
研究課題名
再発性多発軟骨炎の診断と治療体系の確立
課題番号
H27-難治等(難)-一般-010
研究年度
平成28(2016)年度
研究代表者(所属機関)
鈴木 登(聖マリアンナ医科大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 遊道 和雄(聖マリアンナ医科大学 難病治療研究センター )
  • 山野 嘉久(聖マリアンナ医科大学 難病治療研究センター )
  • 清水 潤(聖マリアンナ医科大学 医学部 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等政策研究(難治性疾患政策研究)
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究費
770,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 RPはリウマチ医でも遭遇する機会が比較的少ない希少性疾患である。重症例では時に致命的になる症例が少なからず存在するにも関わらず、本邦における疫学情報や病態に関する研究は不十分であった。加えて診断・治療のための指針が作成されていない。軟骨が存在する多くの臓器に病変が起こるため、診療科が多岐にわたり、実地臨床医の認知度も低く適切な診断がなされない症例も少なくない。
 我々は既にRPの重症度を評価する指標として重症度分類試案を日本リウマチ学会で報告しているが、この重症度分類試案の妥当性を評価するために、さらなる症例の臨床情報を集積してRPの重症病態を詳細に解析する必要がある。そこで、発症頻度は1割程度で症例数は少ないものの、発症すると致命的になる場合の多い心血管病変、腎病変、さらに皮膚合併症をもつ症例について検討を行った。
研究方法
 現在の医療機関連携を中心にデータベースを拡張し重症度データおよび臨床情報を回収する。その際には既に報告している疫学調査の時系列データに留意する。RP患者会はH25年度までに、患者登録システムを完成させた(J-RARE.net)。これを利用して薬効を含めた前向き研究の確立を図る。
 現在60名以上の患者が本学RP外来に通院しているが拠点機関として患者をさらに集約し、患者ウェブ登録システムを活用した臨床情報の蓄積・データベースを構築する。
 平成21年度厚生労働科学研究費補助金難治性疾患克服研究事業で行った疫学調査では、心臓外科などの外科系病院や外科系診療科は含まれていなかった。そこで、平成26年6月全国の日本胸部外科学会心臓血管外科専門医認定修練施設、神奈川県下の主要病院循環器内科に対して1次アンケートを実施。その結果および平成21~23年度実施の全国疫学調査より、対象18症例に関して2次アンケート調査を平成26年10月より実施した。その結果として集積された症例の解析を含めた。
 本邦RP239例における主要10症状の有無をExcelにて解析し、線形回帰により相関行列を作成した。その結果を無向グラフにて表現した。
結果と考察
 再発性多発軟骨炎(RP)は、原因不明で稀な再発性の炎症性疾患である。自己免疫の関与が示唆されている。実地臨床医の認知度も低いことと、RPに特異的な臨床検査が存在せず、診断が見過ごされている症例も少なくない。臓器病変を伴う患者は時に致死的で、診断、治療法の確立と実地臨床医への啓発が急務である。
 H28年度研究では、RPの重症型を再解析して重症度分類をより正確なものへと修正を図った。重症型とは呼吸器、中枢神経、循環器、血液疾患をそれぞれ合併した状態であるが、既にすべて解析を終了し論文公表した。この結果を受け、重症度分類(案;第一案)を前年度日本リウマチ学会総会で公表し、その骨子を厚生労働省RP個人票作成に使用した。
 H28年度のRP症例の疫学情報の蓄積から、第一案では、中等症例と軽症例の分離にあいまいさが残ることが問題点として共通の認識とされるようになった。現在は、第二案とするべきRP重症度分類(案)の検討を疫学情報の集積とともに行っている。
 RPで出現する主要10症状(耳軟骨炎、鼻軟骨炎、前庭障害、関節炎、眼病変、気道軟骨炎、皮膚病変、心血管病変、中枢神経障害、腎障害)の間の相互の関連を明らかにする目的で、それぞれの症状の有無に基づき線形解析を行った。その結果、RP軟骨炎の分布には大きく「耳介軟骨を中心とした軟骨炎」タイプと「気道軟骨を中心とした軟骨炎」タイプに二分され、その他の軟骨炎の多くは耳介軟骨炎と相関する傾向がみられた。
 即ち、耳軟骨炎単独タイプでは重症気道病変を持つ症例はなく、逆に気道軟骨炎を持つ症例では重症神経病変を合併する症例は見られなかった。この成績はRPの病因・病態も二分される可能性を示唆している。
結論
 RP患者の半数に出現する気道病変を持つ患者では、気道閉塞や難治性、再発性の肺感染症により欧米同様に予後が悪い。脳血管障害、髄膜炎などの中枢神経合併症や心筋梗塞、弁膜疾患、動脈瘤などの循環器合併症の高死亡率も欧米に類似していた。これまでの解析では、血液疾患(特に骨髄異形成症候群)の予後がそれほど悪くない結果が得られており、我々の提唱した重症度分類(案)はほとんど修正の必要が無いと判断した。病態の詳細な解析からは、RPの病因・病態も二分される可能性が示唆された。

公開日・更新日

公開日
2017-05-30
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201610053B
報告書区分
総合
研究課題名
再発性多発軟骨炎の診断と治療体系の確立
課題番号
H27-難治等(難)-一般-010
研究年度
平成28(2016)年度
研究代表者(所属機関)
鈴木 登(聖マリアンナ医科大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 遊道 和雄(聖マリアンナ医科大学 難病研究治療センター)
  • 山野 嘉久(聖マリアンナ医科大学 難病治療研究センター )
  • 清水 潤(聖マリアンナ医科大学 医学部 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等政策研究(難治性疾患政策研究)
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 RPはリウマチ医でも遭遇する機会が比較的少ない希少性疾患である。そのため、重症例で時に致命的になる症例が存在するにも関わらず、本邦における疫学情報や病態に関する研究は不十分であったし、診断・治療のための指針が作成されていない。軟骨が存在する多くの臓器に病変が起こるため、診療科が多岐にわたり、実地臨床医の認知度も低く適切な診断がなされない症例も少なくない。
 臓器病変を持つ患者では予後不良であり、診断、治療法の標準化・広報が急がれる。ここでは厚生労働省の個人票データやJ-RAREでの臨床情報をデータベース化し、診断・重症度判定・治療のガイドライン作成を第一の目的として多面的に研究を実施する。
研究方法
 現在の医療機関連携を中心にデータベースを拡張し重症度データおよび臨床情報を回収する。その際には既に報告している疫学調査の時系列データに留意する。RP患者会はH25年度までに、患者登録システムを完成させた(J-RARE.net)。これを利用して薬効を含めた前向き研究の確立を図る。また、厚生労働科学研究費補助金の特定疾患治療研究事業の個人票データの解析を開始する。現在60名以上の患者が本学RP外来に通院しているが拠点機関として患者をさらに集約し、患者ウェブ登録システムを活用した臨床情報の蓄積・データベースを構築する。
 新規治療法の一つとして、免疫抑制剤の有効性評価のための前向き臨床試験が可能な状況となっている。その準備段階としてできうる限りの免疫抑制剤に関する臨床データを回収する。
診断した経験のない実地臨床医の多くにとってはRPの診断を想起することが容易ではない。臨床検査でRPの可能性を示唆する検査項目を確立する事は、RPの診断の見逃しを減らすために絶対的な必要事項である。バンク化した患者検体を用い、抗タイプ2コラーゲン抗体とTREM1の診断有用性の検討を行い、有用性が示されれば、これらの重症度分類への組み込みを行う。
結果と考察
 再発性多発軟骨炎(RP)は、原因不明で稀な再発性の炎症性疾患である。自己免疫の関与が示唆されている。実地臨床医の認知度も低いことと、RPに特異的な臨床検査が存在せず、診断が見過ごされている症例も少なくない。臓器病変を伴う患者は時に致死的で、診断、治療法の確立と実地臨床医への啓発が急務である。我々はH21~23年度本研究事業「再発性多発軟骨炎の診断と治療体系の確立」において、RPに対する患者実態・疫学調査(全239症例)を行ない本邦の患者実態に加えて、RPの最重症型である呼吸器症状における免疫抑制剤の治療薬としての有効性を報告した。
 それと並行してフランス希少自己免疫疾患研究センターのARNAUD博士との国際多施設共同研究を行い、疾患活動性を評価する指標として疾患活動性基準RPDAIを提唱した。その後、RPDAIの結果を我々の疫学調査の結果と比較検討する形でRP重症度分類(案;第一案)の作成を行い、私案とした。 
 H27-28年度研究では、RPの重症型を再解析して重症度分類をより正確なものへと修正を図った。重症型とは呼吸器、中枢神経、循環器、血液疾患をそれぞれ合併した状態であるが、既にすべて解析を終了し論文公表した。この結果を受け、重症度分類(案;第一案)をH27年度日本リウマチ学会総会で公表し、その骨子を厚生労働省RP個人票作成に使用した。
 H28年度のRP症例の疫学情報の蓄積から、第一案では、中等症例と軽症例の分離にあいまいさが残ることが問題点として共通の認識とされるようになった。現在は、第二案とするべきRP重症度分類(案)の検討を疫学情報の集積とともに行っている。
 RPで出現する主要10症状(耳軟骨炎、鼻軟骨炎、前庭障害、関節炎、眼病変、気道軟骨炎、皮膚病変、心血管病変、中枢神経障害、腎障害)の間の相互の関連を明らかにする目的で、それぞれの症状の有無に基づき線形解析を行った。その結果、RP軟骨炎の分布には大きく「耳介軟骨を中心とした軟骨炎」タイプと「気道軟骨を中心とした軟骨炎」タイプに二分され、その他の軟骨炎の多くは耳介軟骨炎と相関する傾向がみられた。この成績はRPの病因・病態も二分される可能性を示唆している。
結論
 RP患者の半数に出現する気道病変を持つ患者では、気道閉塞や難治性、再発性の肺感染症により欧米同様に予後が悪い。脳血管障害、髄膜炎などの中枢神経合併症や心筋梗塞、弁膜疾患、動脈瘤などの循環器合併症の高死亡率も欧米に類似していた。これまでの解析では、血液疾患(特に骨髄異形成症候群)の予後がそれほど悪くない結果が得られており、我々の提唱した重症度分類(案)はほとんど修正の必要が無いと判断した。この重症度分類(案)を日本リウマチ学会で再公表し第三者の研究者と意見を交換した。

公開日・更新日

公開日
2017-05-25
更新日
2017-05-26

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201610053C

成果

専門的・学術的観点からの成果
再発性多発軟骨炎(RP)の患者において、T細胞分化に作用するサイトカインの遺伝子発現異常を観察した。同時に腸内細菌叢メタゲノミクスの菌叢構成異常および菌遺伝子機能異常を観察し、関連を推察している。この関連を臨床検体で証明したことは、世界的にも希少であると考える。骨子を第62回日本リウマチ学会学術集会にて公表するとともに、現在論文投稿中である。
臨床的観点からの成果
我々は厚労科研費事業「再発性多発軟骨炎の診断と治療体系の確立」班研究における疫学調査の結果をもとに、本邦RPの実態調査を継続している。その結果、RPが気道軟骨炎型と耳介軟骨炎型に分類され、それぞれ臨床像が異なることを発見した。重症者は気道軟骨炎型か、心血管合併症または中枢神経合併症保有者に多く認められた。気道軟骨炎型と後者の二合併症の共存は少ない。この結果は現在論文投稿中であり、診療ガイドの作成に活用する予定である。
ガイドライン等の開発
上記研究の結果を受け、まず国際的な疾患活動性評価方法の確立に応用した(Autoimmun Rev 2012;12: 204–9)。その結果より重症度分類(案)を作成し、第59-61回日本リウマチ学会学術集会にて3回に亘って公表した。また、前項「臨床的観点からの成果」の研究データを、現行の診断基準に追加する形で診断ガイドを作成する予定である。
その他行政的観点からの成果
JPA/J-RARE研究班による患者登録サイトの立ち上げに協力した。このサイトでは主に患者QOLにおけるリアルタイム情報を取り扱っており、本研究の患者情報の一環として活用する予定である。厚生労働省が目指す難病患者データの「精度の向上と有効活用」という目標の実現の一助になると考える。
その他のインパクト
本班研究による、知的財産権の出願・登録状況は、1. 出願番号PCT/JP2006/318188 自己組織化軟骨様バイオマテリアル(2013年2月現在 特許査定手続き中)、および2. 特願2010-126487 平成22年6月2日「再発性多発軟骨炎の検査方法およびそれに用いられる検査キット」。RP患者会「HOPE」の患者実態調査と、その結果をまとめた「RP白書2017」発刊に協力した。また本研究班のホームページを開設し(平成26年3月~)、研究報告書アップロードを継続している。

発表件数

原著論文(和文)
8件
原著論文(英文等)
7件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
3件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
2件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

特許の名称
自己組織化軟骨様バイオマテリアル
詳細情報
分類:
特許番号: 特願2012-118647
発明者名: 学校法人 聖マリアンナ医科大学
権利者名: 学校法人 聖マリアンナ医科大学
出願年月日: 20120524
国内外の別: 国内
特許の名称
再発性多発軟骨炎の検査方法およびそれに用いられる検査キット
詳細情報
分類:
特許番号: 特願2010-126487
発明者名: 学校法人 聖マリアンナ医科大学
権利者名: 学校法人 聖マリアンナ医科大学
出願年月日: 20100602
国内外の別: 国内

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Sato T, Yamano Y, Tomaru U, et al.
Serum level of soluble triggering receptor expressed on myeloid cells-1 as a biomarker of disease activity in relapsing polychondritis.
Mod Rheumatol. , 2 (1) , 129-136  (2014)
10.3109/14397595.2013.852854.
原著論文2
Shimizu J, Oka H, Yamano Y,et al.
Cardiac involvement in relapsing polychondritis in Japan.
Rheumatology (Oxford). , 55 (3) , 583-584  (2016)
10.1093/rheumatology/kev320.
原著論文3
Shimizu J, Oka H, Yamano Y,et al.
Cutaneous manifestations of patients with relapsing polychondritis: an association with extracutaneous complications.
Clin Rheumatol. , 35 (3) , 781-783  (2016)
10.1007/s10067-015-3160-2.
原著論文4
Shimizu J, Yamano Y, Yudoh K, et al.
Organ involvement pattern suggests subgroups within relapsing polychondritis: comment on the article by Dion et al.
Arthritis Rheumatol. , 70 (1) , 148-149  (2018)
10.1002/art.40330.
原著論文5
Shimizu J, Yamano Y, Kawahata K,
Relapsing polychondritis patients were divided into three subgroups: patients with respiratory involvement (R subgroup), patients with auricular involvement (A subgroup), and overlapping patients with both involvements (O subgroup),
Medicine (Baltimore) , 97 (42) , e12837-  (2018)
10.1097/MD.0000000000012837.

公開日・更新日

公開日
2017-06-13
更新日
2019-06-04

収支報告書

文献番号
201610053Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
1,000,000円
(2)補助金確定額
1,000,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 571,737円
人件費・謝金 154,829円
旅費 7,794円
その他 35,640円
間接経費 230,000円
合計 1,000,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2018-02-15
更新日
-