文献情報
文献番号
201610019A
報告書区分
総括
研究課題名
特発性正常圧水頭症の病因、診断と治療に関する研究
課題番号
H26-難治等(難)-一般-052
研究年度
平成28(2016)年度
研究代表者(所属機関)
新井 一(順天堂大学 医学部脳神経外科)
研究分担者(所属機関)
- 青木 茂樹(順天堂大学医学部放射線科)
- 石川 正恒(洛和ヴィライリオス)
- 数井 裕光(大阪大学大学院医学系研究科精神医学教室)
- 加藤 丈夫(山形大学医学部第3内科)
- 喜多 大輔(横浜栄共済病院脳神経外科)
- 栗山 長門(京都府立医科大学大学院医学研究科地域保健医療疫学教室)
- 佐々木 真理(岩手医科大学医歯薬総合研究所超高磁場MRI診断・病態研究部門)
- 澤浦 宏明 (成田富里徳洲会病院脳神経外科)
- 伊達 勲(岡山大学大学院脳神経外科学)
- 橋本 康弘(福島県立医科大学医学部生化学講座)
- 松前 光紀(東海大学医学部外科学系脳神経外科学領域)
- 森 悦朗(東北大学大学院医学系研究科高次機能障害学分野)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等政策研究(難治性疾患政策研究)
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究費
7,007,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
特発性正常圧水頭症(iNPH)は,歩行障害,認知障害,排尿障害の3徴を呈し,脳室拡大はあるが,髄液圧は正常範囲内で,脳脊髄液シャント術によって症状改善が得られる疾患である。本疾患は、健常老化や他の認知症疾患(アルツハイマー病、ビンスワンガー病など)と類似、もしくはこれらを合併していることがあり、日常臨床上、確定診断が依然として困難な場合が少なくない。そのような背景のなか、2004年に本疾患に関する診療ガイドラインが刊行され、さらに2011年にはガイドラインの改訂版が刊行された。iNPHの早期診断、早期治療の推進は、高齢者において予防可能な認知障害と治療可能な歩行障害を見逃さずに適切に対処することにつながり、厚生労働行政の面からも大いに意義深いことと考える。
研究方法
本年度は診断基準の改訂を目的として、1)iNPHのMRI画像診断ソフトウエアの開発と普及、2)iNPH診断に有用な髄液バイオマーカーの選定と検証、3) iNPH診療の医療経済学的検証、4)iNPHの全国疫学調査の解析、5) AVIM(asymptomatic ventriculomegaly with features of iNPH on MRI)の追跡調査、6)iNPH重症度評価法についての上記6項目について検討した。
結果と考察
1)iNPHのMRI画像診断ソフトウエアの開発と普及: クラウドプラットフォームによるオンライン環境上にiNPHにおける脳脊髄液容積変化の全自動解析アプリケーションを実装するとともに、スタンドアロン型ソフトウエアを開発した。2)iNPH診断に有用な髄液バイオマーカーの選定と検証: 髄液中のトランスフェリン(Tf) をウェスタンブロット法で測定すると、コントロール群と疾患群で有意差が認められた。一方、全自動分析法では、両者の間で有意差が認められなかった。全自動分析法では、血清型Tf-2は直接定量を行っているのに対し、髄液型Tf-1は間接的に算出しているため、正しい値が得られなかったと考えられる。3) iNPH診療の医療経済学的検証: 次のような仮定のもと医療経済効果について検討した。 ⑴DPCデータを基に入院治療費を計算した。 ⑵Andrenらの報告を参考に, 非手術群の予後を算出した。 ⑶脳内出血に関するmRS 別のutility valueで代用した。 このようなlimitationがあるが、 QALYとICERを計算したところ、 VP shunt、 LP shuntいずれであっても術後1年の段階でLaupacisらのGrade3のevidenceをもち、 最短でVP shuntで18か月、 LP shuntで21か月から医療経済的に安価、 すなわちLaupasisらのGrade1のevidenceを持つことが証明された。4)iNPHの全国疫学調査の解析:粗有病率を推定すると,約10.2人/10万人となり、ノルウェーからの既報告に類似していた。臨床的特徴として、70歳代が発症ピークであること、初発症状は、男性で歩行障害、女性で認知障害が多いこと、併存症は、男性で高血圧症、女性で糖尿病が多いことが明らかとなった。AVIMの追跡調査: 3年間の追跡の結果、48%はAVIMのままであったが、残りの52%はiNPHに進行した。単純平均すると、AVIMからiNPHへの移行率は17.3% / 年であった。重症度分類の改訂:定性法と定量法の利点・欠点を意識して、新たな重症度評価法を作成することが必要であると意見で一致したが、国際的な重症度評価法の作成の気運もあり、当班での新たな重症度評価法の作成には至らなかった。
結論
研究成果全体としては、特発性正常圧水頭症診療ガイドライン改訂の為の資料とする。個別的には、MRI画像診断ソフトウエアは、さらなる改良を行うとともに、種々の装置や撮像法における信頼性を検証した後、広く公開していく。髄液バイオマーカーは、髄液型Tf-1を全自動分析し、iNPHの補助診断法を確立する。iNPHの全国疫学調査から、医療現場では、iNPHは、高齢疾患の一つとして広く認知されてきていることが明らかとなった。AVIMの追跡調査より、他覚的に無症候の段階であっても自覚症状があるAVIMの場合、数年のうちにiNPHに進展する危険性が高く、自覚症状があるAVIM例は、特に注意深い経過観察を行うことの必要である。
公開日・更新日
公開日
2017-05-31
更新日
-