免疫の関与する難病の原因解明のための基盤技術の開発に関する研究

文献情報

文献番号
199800552A
報告書区分
総括
研究課題名
免疫の関与する難病の原因解明のための基盤技術の開発に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
山本 一彦(東京大学大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 西村泰治(熊本大学大学院医学研究科)
  • 東みゆき(国立小児病院小児医療センター)
  • 高 昌星(信州大学医学部)
  • 斉藤 隆(千葉大学大学院医学研究科)
  • 佐伯行彦(大阪大学医学部)
  • 住田孝之(筑波大学臨床医学系)
  • 中尾真二(金沢大学医学部)
  • 山村 隆(国立精神・神経センター神経研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 感覚器障害及び免疫・アレルギー等研究事業(免疫・アレルギー等研究分野)
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
37,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究班の柱とするテーマは、「免疫疾患の病因となる特異抗原を検索する新たな技術、さらにその特異抗原に対する免疫応答を検出、解析し、制御する基盤技術を開発、推進する。」である。上述のテーマから、主として研究の対象とする分子群は、抗原提示細胞上の主要組織適合遺伝子複合体(MHC)分子、それに結合する抗原ペプチド、それらを認識するT細胞レセプター(TCR)、さらにこれらの細胞間抗原認識に重要な役割をはたす細胞表面機能分子などである。本班は方法論が主眼なので、対象疾患は限定していない。
研究方法
研究方法と結果=特に重要な研究成果としては、まず西村らの組換えインバリアント鎖遺伝子を利用したHLAクラスII・ペプチド発現細胞ライブラリーの開発がある。免疫疾患の病態を解明し、より理想的な抗原特異的免疫療法を開発する上で、免疫応答の司令塔とも言うべきCD4陽性T細胞の認識抗原を同定することは極めて重要である。今まで合成のペプチドを数多く作成しクラスII分子に結合させるなどの方法で一定の成果をあげてきたが、限界も多かった。そこで、西村らはより高率良くクラスII分子に抗原ペプチドを結合させ、T細胞を刺激したのち、その抗原の情報を回収できる方法の開発を目指し、細胞内でクラスII分子に抗原ペプチドを結合させる時に決定的な役割をはたすインバリアント鎖に注目し、その中のクラスII結合領域(CLIP)に自由に目的抗原ペプチドを挿入できるベクターを開発した。今後この部位にランダムな塩基配列を導入してペプチド発現ライブラリーが作成できることが明らかになった。
次に佐伯らの慢性関節リウマチ(RA)における病態形成性T細胞の解析が挙げられる。免疫疾患に関する多くの動物モデルでは、病変形成に関して抗原特異的T細胞の重要性が明らかにされており、それを制御することで抗原特異的免疫療法が可能であることが示されている。しかし、ヒトの疾患においてこれを行うことは困難であり、したがって将来とも病因となるT細胞を明確に同定することは極めて難しいと考えられている。この点でSCIDマウスへの細胞移入は、一つの重要な方法になると期待されている。佐伯らはこの方法を用いて、RAの滑膜病変由来のT細胞を解析し、病因となるT細胞の同定と病因抗原の特定に向けた研究を進めた。結果は、滑膜病変に多く発現しているT細胞にVβ14とVβ8があることが判明し、それぞれを多く発現する患者の滑膜由来T細胞には、それぞれのVβごとに共通なドミナントなCDR3領域の配列があることが判明した。この共通配列を持つT細胞クローンG3は、同じ患者由来の末梢血単核球とともにSCIDマウスの関節腔内に移入することで、滑膜増殖を誘導できた。患者間で共通のT細胞レセプター配列を持つT細胞クローンが、実際に病因T細胞である可能性が示された。
その他の研究では中尾らは、シクロスポリン依存性再生不良性貧血患者の骨髄中のT細胞に注目し、異なる患者でVβ15陽性で類似のCDR3モチーフを持つT細胞がクローナルに増殖していることを既に明らかにしている。そこで、今年度は限界希釈法とTCRに関するRT-PCR/SSCP法を組み合わせ、注目するT細胞クローンを同定し、さらにHerpesvirus saimiriで不死化し単離する技術を開発した。この方法が確立されれば、実際に患者で病態形成に関与するT細胞の解析が容易になると考える。
山村らは、多発性硬化症患者およびマウスモデルにおける自己抗原特異的T細胞を解析している。今年度は、naiveなマウス脾細胞から分離したCD4+CD25+T細胞の解析を行い、これらの中にドミナントなクローンが多くあり、その中の一つが脳炎惹起性T細胞のTCRα鎖CDR3領域を認識することをRT-PCR/SSCP法で示した。調節性T細胞の一つである可能性が高い。住田らは、SSCP法とペプチドライブラリーを用いる法、West-Western法を用いる法、TCRトランスフェクタントを用いる方法などにより、T細胞の対応自己抗原を解析する手法の確立を目指し、実際にシェーグレン症候群患者の口唇唾液腺に集積しているT細胞クローンの標的抗原を決定することが可能であることを示した。さらに、自己抗原α-アミラーゼに対する反応の解析を開始した。
一方、自己免疫疾患では現在のところepitope spreadingの概念が確立しつつあり、この考えに従えば、病気の始まりは限られたT細胞クローンが限られた自己抗原エピトープを認識しているが、時間の経過とともに数限りないエピトープを認識する数限りないT細胞クローンが活性化され病態が形成されることになる。そうであれば、これらのT細胞を標的にした治療法は現実的でない。これを検証するために山本らは、既に確立しているSSCP法を用いたT細胞クロノタイプ解析法を用いて、自然発症自己免疫疾患モデルマウスでの臓器病変における抗原特異的T細胞クローンの動態を調べた。結果は、時間経過とともに、病変集積T細胞クローンは、数の減少と異なる病変でのクローンの同一性の増加が観察され、必ずしもepitope spreading ではなく、clonal なrestrictionの現象があることが判明した。
抗原認識以外の分子に関する研究では、東らは、共刺激分子の研究を続けている。本年は血管内皮細胞の様なノンプロフェッショナルな抗原提示細胞について解析した。抗原特異的T細胞刺激には、CD80/86-CD28経路を介した共刺激の関与は少なく、CD2-CD58やCD134-CD134Lなどが重要で、CD80/86はむしろCTLA4と優位に結合し、IL-2依存性のアポトーシスを回避させる方向に働いていることを示した。臓器病変の形成に重要な因子となる可能性がある。さらに高らはタイラー脳脊髄ウイルスによる免疫性脱髄疾患モデルにおいて、Fas/FasL誘導のアポトーシスは抑制 性に働いていることを示し、このメカニズムと病態形成との関係の重要性を示した。この点で、斉藤らはTCRを介した刺激においての活性化に伴うアポトーシスで、その極めて初期にFas非依存性の細胞死があることを見いだした。自己反応性T細胞の維持、増殖に重要なメカニズムである可能性があり、免疫の人為的干渉法を確立する上でも今後の進展が注目される。
結果と考察
考察=本免疫班の研究は、基盤技術の確立を主としており、本年度の成果だけで十分満足できるものは多くはないが、病態を形成するT細胞の解析技術、その特異抗原の決定法、クローン確立の新たな技術などは、欧米のそれと異なる我が国独自の方法を確立しつつあると考える。また共刺激分子と疾患との関連の解析でもユニークな成果が出ている。
わが国の免疫学の分野は、基礎的研究では国際的にリーダーの役割を果たしているが、疾患に関する研究は十分進んでいない。また抗原特異的免疫応答の解析については、国内外でまとまった研究体制が組まれる機会は多くない。しかし、各疾患の病因、病態の解析、将来的な抗原特異的免疫療法などの重要性を考慮すると、疾患における抗原特異的免疫異常を追及する手法を確立し、その異常を制御する方法の研究を推進することは大きな意義がある。今後もこの方向の研究の必要性は十分にある。

結論

公開日・更新日

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