文献情報
文献番号
201610002A
報告書区分
総括
研究課題名
運動失調症の医療基盤に関する調査研究班
課題番号
H26-難治等(難)-一般-030
研究年度
平成28(2016)年度
研究代表者(所属機関)
水澤 英洋(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター)
研究分担者(所属機関)
- 石川欽也(東京医科歯科)
- 宇川義一(福島県立医科大学)
- 吉良潤一(九州大学大学院)
- 桑原聡(千葉大学)
- 佐々木秀直(北海道大学大学院)
- 佐々木真理(岩手医科大学)
- 祖父江元(名古屋大学大学院)
- 高嶋博(鹿児島大学大学院)
- 瀧山嘉久(山梨大学)
- 武田篤(国立病院機構仙台西多賀病院)
- 辻省次(東京大学)
- 中島健二(国立病院機構松江医療センター)
- 小野寺理(新潟大学脳研究所)
- 宮井一郎(森之宮病院)
- 吉田邦広(信州大学)
- 若林孝一(弘前大学大学院)
- 金谷泰宏(国立保健医療科学院)
- 大西浩文(札幌医科大学)
- 高橋祐二(国立精神・神経医療研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等政策研究(難治性疾患政策研究)
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究費
25,084,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
当研究班の対象疾患は脊髄小脳変性症、多系統萎縮症及び痙性対麻痺である。共通課題として、診断基準・ガイドライン・重症度指標の作成、鑑別診断と重症度評価のバイオマーカー・最適リハビリテーション法の開発、小脳機能定量的評価法の開発、遺伝要因の探索研究を実施する。脊髄小脳変性症については、診断基準改訂、患者登録、自然歴調査、生体試料収集、遺伝子診断標準化を実施する。多系統萎縮症については、診断基準改訂、自然歴収集、早期鑑別診断のバイオマーカー開発を実施する。痙性対麻痺に関しては、JASPACの活動により臨床試料の収集を継続する。
研究方法
(1)診療ガイドライン 日本神経学会と協力し、MINDSに準拠したガイドライン作成を行う。(2)診断基準 皮質性小脳失調症の診断基準を作成する。多系統萎縮症の早期診断に対応できる診断基準を作成する。(3)重症度分類 難病制度の変更に伴う重症度の見直しの依頼に応える形で、他班とも協議して共通重症度分類を作成する。(4)患者登録・自然歴調査・臨床試料収集 運動失調症の患者登録・遺伝子検査・自然歴調査のためのコンソーシアムJ-CAT(Japan Consortium of ATaxias)を構築する。生体試料を収集して共同研究を促進する。収集基盤としてJASPACとJAMSACも継続する。多系統萎縮症については、JAMSACを基盤とした前向きの自然歴研究体制やゲノム収集を推進し、関連遺伝子の研究も支援する。遺伝性脊髄小脳変性症については、共通の指標を設定し、長期間患者を追跡・調査できる体制を構築する。 (5)疫学・臨床・病理 皮質性小脳萎縮症を対象に臨床症状、検査所見、最終診断、遺伝性疾患との鑑別について調査を行う。免疫介在性小脳失調症など治療可能な疾患の鑑別指標を明らかにする。脊髄小脳変性症・多系統萎縮症の非典型例についても臨床・病理相関を再検討する。特定疾患治療研究事業対象の脊髄小脳変性症患者の疫学調査を行う。脳表ヘモジデリン沈着症の診断・治療実態を調査する。(6)MRI・機能画像 MRI拡散強調・T2*位相・神経メラニン・構造画像などにより、早期鑑別診断に有用な画像指標を確立する。[11C] BF-227PET検査の多系統萎縮症に対する有用性を評価する。(7)分子バイオマーカー 患者由来血清と髄液を用い、診断と病態評価に応用できる分子マーカーを開発する。 (8)小脳機能定量的評価法 プリズム適応過程、3軸加速度計を用いて、小脳性運動失調の定量的評価法を開発する。
結果と考察
(1)診療ガイドライン:ガイドラインの内容を確定し、評価調整委員・統括委員の査読を終了した。(2)診断基準:皮質性小脳萎縮症の臨床情報・遺伝子検査結果を分析し、新しい名称である「特発性小脳失調症」の提唱とその診断基準案を策定し、妥当性を検証した。 (3)重症度分類: mRS、呼吸機能、食事・栄養機能の3軸で評価する共通重症度分類を作成した。多系統萎縮症の臨床評価UMSARSの日本語版の統一を行った。痙性対麻痺の臨床評価尺度を策定し、治療効果判定における有用性を検証した。(4)患者登録・自然歴調査・臨床試料収集:運動失調症の患者登録・自然歴調査J-CAT(Japan Consortium of ATaxias)を構築した。臨床試料収集・遺伝子検査態勢も整備し、患者登録を開始した。JASPAC及びJAMSACの従来の臨床試料収集も順調に進捗した。臨床治験を見据えた多系統萎縮症のレジストリーシステムを新たに構築し、稼働を開始した。 (5)疫学・臨床・病理:特定疾患治療研究事業の登録症例を解析し、多系統萎縮症の病型別進展様式を明らかにした。全エクソーム解析により分子疫学の解明を進めた。SCA6において、遺伝子量効果の可能性を明らかにした。脳表ヘモジデリン沈着症のアンケート調査を実施した。(6)MRI・機能画像:[11C]BF-227 PET、拡散尖度画像(DKI)と定量的磁化率マッピング(QSM)を用いて、脊髄小脳変性症・多系統萎縮症の診断に有用な所見を得た。 (7)分子バイオマーカー:炎症性サイトカインが多系統萎縮症のバイオマーカーとなりうる可能性を明らかにした。 オートファジー関連分子のバイオマーカーを検討した。(8)小脳機能定量的評価法:プリズム順応、3軸加速度計、iPatax等を用いた小脳機能定量的評価法を考案し、重症度と有意に相関するパラメーターを見いだした。
結論
本年度は、診断基準・重症度分類の策定、診療ガイドライン確定、患者登録システムの稼働、疫学情報の充実、生体試料の収集、画像・分子マーカー候補の発見、運動失調症状の定量的評価法の確立を達成した。運動失調症の医療基盤の整備に向けて、着実に研究が遂行された。
公開日・更新日
公開日
2017-06-12
更新日
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