70歳,80歳,90歳の高齢者の歯・口腔の状態が健康長寿に及ぼす影響についての前向きコホート研究

文献情報

文献番号
201608020A
報告書区分
総括
研究課題名
70歳,80歳,90歳の高齢者の歯・口腔の状態が健康長寿に及ぼす影響についての前向きコホート研究
課題番号
H26-循環器等(政策)-一般-002
研究年度
平成28(2016)年度
研究代表者(所属機関)
前田 芳信(大阪大学 大学院歯学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 池邉 一典(大阪大学 大学院歯学研究科 )
  • 村上 伸也(大阪大学 大学院歯学研究科 )
  • 北村 正博(大阪大学 大学院歯学研究科 )
  • 楽木 宏実(大阪大学 大学院医学系研究科)
  • 神出 計(大阪大学 大学院医学系研究科)
  • 新井 康通(慶應義塾大学 医学部)
  • 権藤 恭之(大阪大学 大学院人間科学研究科)
  • 石崎 達郎(東京都健康長寿医療センター研究所 老人総合研究所)
  • 増井 幸恵(東京都健康長寿医療センター研究所 老人総合研究所)
  • 新谷 歩(大阪市立大学 医学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究費
4,316,000円
研究者交替、所属機関変更
所属機関異動 研究分担者 新谷歩 大阪大学大学院医学系研究科( 平成26年4月1日~28年10月31日)→ 大阪市立大学医学研究科(平成28年11月1日以降)

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は歯・口腔の状態と健康・長寿との関係を、70歳約1000名、80歳約1000名、90歳約300名の高齢者を対象にして、前向きコホート研究によって明らかにすることを目的とした。対象地域は、関西と関東のそれぞれ都市部と農村部とし、地域の中の特定の地区の全住民を対象とした悉皆調査である。歯学のみならず、医学、栄養学、心理学、社会学、臨床統計学の各分野の専門家が参加した健康長寿に関する学際的な研究を進めている。さらに、縦断研究の結果より、健康日本21(第二次)に掲げられている「生活習慣病の発症予防・重症化予防」・「健康寿命の延伸」のための「歯・口腔の健康や咀嚼機能の維持」の役割、ならびに介護予防事業における「口腔機能の向上」の効果を明らかにすることを本研究の目的とした。
研究方法
対象者の歯および歯周組織の状態の評価、口腔機能評価、体重、BMI、頸動脈中膜内膜複合体(IMT)の測定を行った。また、栄養摂取状況の調査、運動機能、認知機能について評価を行なった。
結果と考察
90歳の体重は、咬合支持あり群(Eichner A1-B3、n=35)では51.7 kg、咬合支持なし群(Eichner B4-C3、n=71)では49.0 kg であり、有意差は認められなかった(p=0.22)。93歳の体重は、咬合支持あり群(n=119)では51.1 kg、咬合支持なし群(n=246)では49.5 kgであり、有意差は認められなかった(p=0.11)。 90歳のBMIは、咬合支持あり群(n=35)では22.5 kg/m2、咬合支持なし群(n=71)では21.9 kg/m2であり、有意差は認められなかった(p=0.43)。93歳のBMIは、咬合支持あり群(n=119)では22.0 kg/m2、咬合支持なし群(n=246)では21.9 kg/m2であり、有意差は認められなかった(p=0.75)。さらに、90歳時と93歳時における咬合支持と動脈硬化について検討を行った。90歳の平均IMTは、咬合支持あり群(n=35)で0.92 mm、咬合支持なし群(n=72)では0.91 mmであり、有意差は認められなかった(p=0.76)。93歳の平均IMTは、咬合支持あり群(n=67)では0.90 mm、咬合支持なし群(n=137)では0.92 mmであり、有意差は認められなかった(p=0.49)。90歳の最大IMTは、咬合支持あり群(n=35)では2.14 mm、咬合支持なし群(n=72)では2.20 mmであり、有意差は認められなかった(p=0.72)。93歳の最大IMTは、咬合支持あり群(n=68)では1.76 mm、咬合支持なし群(n=138)では1.96 mmであり、有意差は認められなかった(p=0.06)。
一方、70歳から73歳の追跡調査のデータを基に、歯周病と動脈硬化との関連についての検討を行ったところ、動脈硬化発症群の方が歯周病あり群の割合が高く、性別、喫煙、肥満、高血圧、高脂血症、糖尿病を調整したロジスティック回帰分析を行ったところ、歯周病は、動脈硬化に対して、有意な変数となった。本結果より、高齢の歯周病患者は動脈硬化を発症しやすいことが縦断研究モデルにおいて明らかになった。
90-93歳の追跡調査参加者のデータの分析では、咬合力、刺激時唾液分泌速度、体重は3年間で有意に低下していた。BMIは、有意差はないが低下傾向にあることがわかり、平均IMTならびに最大IMTは、有意差はないが増加傾向であった。一方、追跡調査に参加しなかった者も含めた90歳群と93歳群との比較においては、残存歯数は93歳群の方が多く、最大IMTは93歳群の方が小さい傾向が明らかとなった。このことより、93歳群は、90歳群と比較すると健康な者が多く含まれていると考えられる。
70-73歳の縦断研究の解析より、最大ポケットが深い者は動脈硬化を発症しやすいことが明らかとなった。これは、歯周病が、動脈硬化の発症に先行している可能性を示唆している。すなわち、高齢者の動脈硬化発症予防において、歯科医療、特に歯周病治療・予防が果たす役割が非常に大きいことが示されたと考えられる。
結論
90歳コホートの縦断研究モデルの分析では、咬合支持と動脈硬化に有意な関連を認めなかった。一方、70歳コホートの縦断研究モデルの分析において歯周病と動脈硬化との関連を認めた。さらに多変量解析の結果、歯周病は動脈硬化に対して有意な変数であった。すなわち、縦断研究モデルにおいて高齢歯周病患者が動脈硬化を発症しやすいことが明らかになった。

公開日・更新日

公開日
2017-06-23
更新日
-

研究報告書(PDF)

総括研究報告書
分担研究報告書
分担研究報告書
分担研究報告書
研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2017-06-26
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201608020B
報告書区分
総合
研究課題名
70歳,80歳,90歳の高齢者の歯・口腔の状態が健康長寿に及ぼす影響についての前向きコホート研究
課題番号
H26-循環器等(政策)-一般-002
研究年度
平成28(2016)年度
研究代表者(所属機関)
前田 芳信(大阪大学 大学院歯学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 池邉 一典(大阪大学 大学院歯学研究科)
  • 村上 伸也(大阪大学 大学院歯学研究科)
  • 北村 正博(大阪大学 大学院歯学研究科)
  • 楽木 宏実(大阪大学 大学院医学系研究科)
  • 神出 計(大阪大学 大学院医学系研究科)
  • 新井 康通(慶應義塾大学 医学部)
  • 権藤 恭之(大阪大学 大学院人間科学研究科)
  • 石崎 達郎(東京都健康長寿医療センター研究所 老人総合研究所)
  • 増井 幸恵(東京都健康長寿医療センター研究所 老人総合研究所)
  • 新谷 歩(大阪市立大学 医学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究者交替、所属機関変更
所属機関異動 研究分担者 新谷歩 大阪大学大学院医学系研究科( 平成26年4月1日~28年10月31日)→ 大阪市立大学医学研究科(平成28年11月1日以降)

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は歯・口腔の状態と健康・長寿との関係を、70歳約1000名、80歳約1000名、90歳約300名の高齢者を対象にして、前向きコホート研究によって明らかにすることを目的とした。対象地域は、関西と関東のそれぞれ都市部と農村部とし、地域の中の特定の地区の全住民を対象とした悉皆調査である。歯学のみならず、医学、栄養学、心理学、社会学、臨床統計学の各分野の専門家が参加した健康長寿に関する学際的な研究を進めている。さらに、縦断研究の結果より、健康日本21(第二次)に掲げられている「生活習慣病の発症予防・重症化予防」・「健康寿命の延伸」のための「歯・口腔の健康や咀嚼機能の維持」の役割、ならびに介護予防事業における「口腔機能の向上」の効果を明らかにすることを本研究の目的とした。
研究方法
対象者の歯および歯周組織の状態の評価、口腔機能評価、体重、BMI、頸動脈中膜内膜複合体(IMT)の測定を行った。また、栄養摂取状況の調査、運動機能、認知機能について評価を行なった。
結果と考察
70歳時と73歳時の両方のデータがあり、栄養調査の除外基準に該当しなかった、今回の分析対象者は426人(男性216人、女性210人)であった。
同一被験者の、70歳時の総エネルギー摂取量は1956±612 kcalであり、73歳時は1985±548 kcalであった。同被験者の主要な食品群の摂取重量について、70歳時と73歳時との間に有意な差が認められるか、Wilcoxonの符号付き順位検定を用いて検討した(表9、10)。その結果、穀類の摂取重量は、70歳時に比べて73歳時の方が小さかった(p<0.001)。その一方で、緑黄色野菜(p=0.042)、肉類(p<0.001)、乳類(p=0.025)の摂取重量は、70歳時に比べて、73歳時の方が大きかった。その他の食品群については、有意な差は認められなかった。栄養摂取調査結果によると、70歳時よりも73歳時の方が、健康維持に重要な野菜類や肉類などの摂取が多かった。この理由として、自立して生活しており、さらに3年ぶりに2回目の調査に参加するような被験者は、特に健康意識が高く、加齢に従い、一般的に健康維持に重要であるとされている食品を、積極的に摂取している可能性が考えられる。我々の仮説においては、「加齢により、口腔の状態が悪化すると、健康維持に重要な野菜類や肉類などの栄養の摂取が少なくなる」と考えている。この3年間では、歯数など口腔の状態に大きな変化が起こっている被験者が少なかったため、我々の仮説を検討するには追跡期間が十分ではなかったと思われる。
80歳時の平均握力は、咬合支持あり群では平均22.8 kgf、咬合支持なし群では平均21.3 kgfであり、両者の間に有意差を認めた。83歳時の平均握力は、咬合支持あり群では平均21.6 kgf、咬合支持なし群では平均19.7 kgfであり、有意差を認めた。80歳時の平均MoCA-Jスコアは、咬合支持あり群の平均は21.9、咬合支持なし群の平均が21.5であり、有意差は認められなかった。83歳時の平均MoCA-Jスコアは、咬合支持あり群の平均は22.0、咬合支持なし群の平均が21.1であり、有意差が認められた。また、3年間でのMoCA-Jスコアの変化について比較したところ、80歳時に咬合支持ありの群では、平均0.27増加、咬合支持なしの群では、平均0.40以下し、有意差が認められた。ロジスティック回帰分析を行った結果、80歳時咬合支持がなかった群は、咬合支持があった群に比べ、認知機能低下群の割合が高かった。縦断研究の解析結果より、咬合支持のない者は歩行速度ならびに認知機能が低下しやすいことが明らかになった。これは、口腔機能の低下が運動機能や認知機能低下の原因となりうることを示唆している。
結論
70歳コホートの縦断研究モデルの分析において歯周病と動脈硬化との関連を認めた。また、80歳時に咬合支持のない者は、咬合支持のある者に比べ3年後の歩行速度ならびに認知機能が低下しやすいことが明らかになった。これらの結果から、後期高齢者の身体機能やQOLの維持において、歯科医療が果たすべき役割が非常に大きいことが示された。

公開日・更新日

公開日
2017-06-23
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201608020C

収支報告書

文献番号
201608020Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
5,610,000円
(2)補助金確定額
5,571,000円
差引額 [(1)-(2)]
39,000円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 1,099,094円
人件費・謝金 369,550円
旅費 947,080円
その他 1,862,217円
間接経費 1,294,000円
合計 5,571,941円

備考

備考
1000円未満は切捨てのため、941円は自己資金を充当した。

公開日・更新日

公開日
2017-11-10
更新日
-