循環器疾患における集団間の健康格差の実態把握とその対策を目的とした大規模コホート共同研究

文献情報

文献番号
201608019A
報告書区分
総括
研究課題名
循環器疾患における集団間の健康格差の実態把握とその対策を目的とした大規模コホート共同研究
課題番号
H26-循環器等(政策)-一般-001
研究年度
平成28(2016)年度
研究代表者(所属機関)
岡村 智教(慶應義塾大学 医学部 衛生学公衆衛生学教室)
研究分担者(所属機関)
  • 二宮 利治(九州大学 医学研究院 総合コホートセンター)
  • 大久保 孝義(帝京大学 医学部 衛生学公衆衛生学)
  • 磯 博康(大阪大学 医学系研究科 公衆衛生学)
  • 玉腰 暁子(北海道大学 医学系研究科 公衆衛生学)
  • 宮本 恵宏(国立循環器病研究センター 予防医学・疫学情報部)
  • 三浦 克之(滋賀医科大学 医学部 公衆衛生学)
  • 斎藤 重幸(札幌医科大学 保健医療学部看護学科 基礎臨床医学講座)
  • 辻 一郎(東北大学 医学系研究科 公衆衛生学)
  • 中川 秀昭(金沢医科大学 総合医学研究所 公衆衛生学)
  • 山田 美智子((公財)放射線影響研究所 臨床研究部)
  • 坂田 清美(岩手医科大学 医学部 衛生学公衆衛生学)
  • 岡山 明((同)生活習慣病予防センター)
  • 村上 義孝(東邦大学 医学部 医療統計学)
  • 木山 昌彦((公財)大阪府保健医療財団 大阪がん循環器病予防センター)
  • 上島 弘嗣(滋賀医科大学 アジア疫学研究センター)
  • 石川 鎮清(自治医科大学 医学部 医学教育センター)
  • 八谷 寛(藤田保健衛生大学 医学部 公衆衛生学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究費
28,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
貧困など社会学的な指標の改善を通じた健康格差の解消は、抜本的なものであり長期的には重要であるが、より即効性のある格差是正施策も必要である。特に循環器疾患領域では危険因子管理の延長線上で格差是正を考えて行くのが現実的である。本研究は先行研究で構築した14コホートの統合データベースを継承・拡充し、危険因子とアウトカムの関連の解析を継続すると同時に集団間の格差の規定要因や是正法を検討した。
研究方法
初年度に構築した拡大データベースを用いた昨年度の解析結果を踏まえて、循環器疾患死亡率の地域差がどこまで危険因子レベルの差で説明できるのかという解析を進めた。今年度は、今まで死亡率の地域格差に影響を与える指標として考慮してこなかった「時代効果」を補正する方法を考えて真の集団間の絶対リスクの差を明らかにすることを試みた。これにより危険因子の管理によってどれだけ地域格差が解消するかという数値目標の設定に繋げていく。さらに拡大データベースを用いて、リアルワールドにおいて危険因子のレベルや集積が循環器疾患リスクに与える影響を細かい年齢別や非服薬・服薬を分けた解析を通じて明らかにする。これは危険因子の管理状況から個人の循環器疾患リスクや集団での患者数等を推計する統計モデルを作成する際の基礎資料となり得る。
結果と考察
解析に用いたのは17コホートの合計 203,980人の平均14.4年追跡データ(EPOCH-JAPAN拡大データベース; 256万人年)のうち、循環器疾患イベントについての情報がある14コホート(105,945人)のデータである。ポワソン回帰を用いて、男女別の年齢調整循環器疾患死亡率、多変量調整死亡率を算出したのは昨年と同様だが、昨年度の解析でコホート研究の開始時期(時代効果)によって死亡率が大きく異なることが判明したため、その影響を年齢と暦年を別の変数として取り扱うことで調整した。これは例えば1990年の60歳と2000年の60歳では異なるベースラインハザードを持つという考え方に基づいている。今回は各コホートの追跡期間を考慮し、1995年と2000年の2つを基準とする暦年を設定し、時代効果を両年にそろえたもとでの比較を実施した。また追跡開始直近の早発イベントの影響を除外するため、1995年、2000年が追跡開始から5年以上にあたるコホートをそれぞれの解析対象とした。
その結果、危険因子調整によってコホート間の死亡率の差は、CVD死亡で約20%の減少、脳卒中死亡でも男性約30%、女性約10%の減少、CHD死亡で男性は約15%減少することが確認された。CVD死亡率におけるコホート間差は、各危険因子を多変量調整することで年齢調整の場合の約8割になることがわかった。個々の危険因子では男性は総コレステロール、収縮期血圧の調整の影響が大きく、女性は喫煙の影響が大きかった。以上の結果から循環器疾患の主要危険因子への介入による格差是正効果は約20%程度であることが示された。逆に言うと循環器疾患死亡の格差の80%はそれ以外の主要危険因子以外の要因が寄与している可能性が示唆された。一方、今回の検討から絶対リスクである死亡率で観察されたコホート間の差も、相対リスクである死亡率比ではあまり顕著でないことも確認され、統合データを用いて相対危険度を算出することの妥当性は担保された。そこで引き続き、異質性の有無に留意しつつ複数のコホートを統合した大規模データを用いて単独のコホートでは検証困難な予防医学上のエビデンスの構築を継続し多くの研究成果を出した。
結論
本研究は本邦の質の高いコホート研究の統合研究、個別研究を推進してきた。本研究独自の取り組みとして危険因子からみた循環器疾患死亡率の格差の解明、危険因子管理による格差是正の到達レベルを明らかにできた。また大規模データの強みを生かして単独のコホートだと検証できない個々の危険因子の組み合わせが個人や集団の循環器疾患リスクにどのような影響を与えているかを明らかすることができた。

公開日・更新日

公開日
2017-06-23
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201608019B
報告書区分
総合
研究課題名
循環器疾患における集団間の健康格差の実態把握とその対策を目的とした大規模コホート共同研究
課題番号
H26-循環器等(政策)-一般-001
研究年度
平成28(2016)年度
研究代表者(所属機関)
岡村 智教(慶應義塾大学 医学部 衛生学公衆衛生学教室)
研究分担者(所属機関)
  • 二宮 利治(九州大学 医学研究院 総合コホートセンター)
  • 大久保 孝義(帝京大学 医学部 衛生学公衆衛生学)
  • 磯 博康(大阪大学 医学系研究科 公衆衛生学)
  • 玉腰 暁子(北海道大学 医学系研究科 公衆衛生学)
  • 宮本 恵宏(国立循環器病研究センター 予防医学・疫学情報部)
  • 三浦 克之(滋賀医科大学 医学部 公衆衛生学)
  • 斎藤 重幸(札幌医科大学 保健医療学部看護学科 基礎臨床医学講座)
  • 辻 一郎(東北大学 医学系研究科 公衆衛生学)
  • 中川 秀昭(金沢医科大学 総合医学研究所 公衆衛生学)
  • 山田 美智子((公財)放射線影響研究所 臨床研究部)
  • 坂田 清美(岩手医科大学 医学部 衛生学公衆衛生学)
  • 岡山 明((同)生活習慣病予防センター)
  • 村上 義孝(東邦大学 医学部 医療統計学)
  • 木山 昌彦((公財)大阪府保健医療財団 大阪がん循環器病予防センター)
  • 上島 弘嗣(滋賀医科大学 アジア疫学研究センター)
  • 石川 鎮清(自治医科大学 医学部 医学教育センター)
  • 八谷 寛(藤田保健衛生大学 医学部 公衆衛生学)
  • 清原 裕(九州大学 医学研究院 環境医学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
貧困など社会学的な指標の改善を通じた健康格差の解消は、抜本的なものであり長期的には重要である。しかし医学的にはより即効性のある格差是正施策も必要である。特に循環器疾患領域では危険因子管理の延長線上で格差是正を考えて行くのが現実的である。本研究は、先行研究で構築した統合データベースを継承してデータベースを拡充し、危険因子とアウトカムとの関連の解析を継続していくと同時に集団間の格差の規定要因や是正目標設定の妥当性について検証した。

研究方法
研究代表者(岡村)は、研究全体を統括し循環器疾患分野における格差の実態についてのエビデンスを収集して全体の研究方針を決めた。データベースの管理は、先行研究に引き続き大規模データ管理の経験を有する三浦が滋賀医科大学で行った。これは既存データベースの移動には保守管理上のリスクが伴うこと、倫理性を担保するためには研究代表者とデータ管理者が分離していることが望ましいからである。岡村、清原、二宮、磯、大久保、玉腰、辻、斎藤、中川、山田、宮本、坂田、木山、石川、八谷はそれぞれが担当している地域コホートの追跡期間の延長と専門領域の危険因子等について解析を行った。村上と岡村は追加データ統合、予測ツールの開発を行った。そして岡山と上島は主に危険因子対策の市町村等における導入や保健施策への導入について検討した。
結果と考察
本研究ではデータベースの継承と拡充が行われ17コホートの計 203,980人の平均14.4年追跡データ(256万人年)が構築された.このうち循環器疾患イベントの解析が可能だったのは14コホート(105,945人)の16年追跡データであった。集団の違いによる男性の年齢調整死亡率(10万人年あたり)の範囲は、全循環器疾患で170~1521、脳卒中で70~743、冠動脈疾患で27~307であった。そして危険因子にも相応のばらつきがあり、危険因子のプロフィールが悪いほど循環器疾患死亡率が高い傾向を示した。男女別の年齢調整循環器疾患死亡率の差が、主要な危険因子の調整でどの程度小さくなるかを検討したが、予想以上にコホートのベースライン調査時期(時代効果)の影響が大きいことが判明した。そのため年齢と調査時の暦年を別の変数として取り扱う新たな統計解析を実施した。その結果、健康日本21で用いられている主要な危険因子(高血圧、高コレステロール血症、糖尿病、喫煙)をすべて調整することによって、コホート間差は、循環器疾患死亡で約20%の減少、脳卒中死亡でも男性約30%、女性約10%の減少、冠動脈疾患死亡で男性は約15%減少することが確認された。個々の危険因子では男性は総コレステロール、収縮期血圧の調整の影響が大きく、女性は喫煙の影響が大きかった。一方、死亡率(絶対リスク)で観察されたコホート間差も、相対リスクである死亡率比では顕著でないことが確認され、統合データを用いて相対危険度を算出することの妥当性は担保された。そこで異質性の有無に留意しつつ複数のコホートを統合した巨大なデータセットを用いて単独のコホートでは検証困難なエビデンスを構築することを試みて多くの知見を得た。本研究は自己申告等でない実測データを曝露要因として持つ循環器コホート研究として、アジア人単独では最大規模であり、母体となったコホートもそれぞれで質の高い疫学研究を実施してきた。本研究により集団間の循環器疾患等の格差是正に資する有用な知見を得ることができた。本研究は当初の計画通りにデータベースの先行研究からの継承とその拡充が順調に実施され、研究班メンバーの得意分野に応じて分析課題を分担した。その結果、統合データのみならず個別研究としても多くの成果をあげた。
結論
本研究はアジア人単独としては最大規模のコホート研究統合データベースを用いて実施される。それぞれのコホートで質の高い疫学研究情報が蓄積されており、本研究により集団間の循環器疾患等の格差是正に資する有用な知見を得ることができた。研究成果は健康日本21の中間評価や特定健診項目の見直しに際して重要なエビデンスを提供しつつあり、健康政策の決定に大きく資することが期待される。

公開日・更新日

公開日
2017-06-23
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2017-06-26
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201608019C

成果

専門的・学術的観点からの成果
循環器疾患イベントについての情報がある14コホート(105,945人)において、年齢と暦年を別の変数として取り扱い、高血圧、高コレステロール血症、糖尿病、喫煙を解析に用いてコホート間の循環器疾患格差を検証した。その結果、危険因子調整によってコホート間差は、循環器疾患死亡で約20%の減少、脳卒中死亡でも男性約30%、女性約10%の減少、冠動脈疾患死亡で男性は約15%減少することが確認された。個々の危険因子では男性は総コレステロール、収縮期血圧の調整の影響が大きく、女性は喫煙の影響が大きかった。
臨床的観点からの成果
絶対リスクである死亡率で観察されたコホート間の差も、相対リスクである死亡率比ではあまり顕著でないことが確認され、統合データを用いて相対危険度を算出することの妥当性は担保された。そこで異質性の有無に留意しつつ複数のコホートを統合した巨大なデータセットを用いて単独のコホートでは検証困難なエビデンスを構築することも本研究のもう一つの目的として実施し、多くの研究成果を得た。
ガイドライン等の開発
日本動脈硬化学会のガイドライン(動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017年版)に複数の研究成果が引用されている。また厚生労働省 健康局 特定健康診査・特定保健指導の在り方に関する検討会(平成28年1月~現在)、同 標準的な健康・保健指導プログラム改訂作業班(健診作業班)(平成29年1月~現在)において複数回引用され健診制度の見直しに貢献した。その成果は標準的な健康・保健指導プログラム(平成30年度版)として公表された。
その他行政的観点からの成果
現在、厚生労働省 厚生科学審議会専門委員(健康日本21(第二次)推進専門委員会)で審議中の健康日本21(第二次)の中間評価において後継研究と含めて循環器分野の評価に用いられている。
その他のインパクト
特になし。

発表件数

原著論文(和文)
15件
原著論文(英文等)
127件
その他論文(和文)
5件
その他論文(英文等)
1件
学会発表(国内学会)
45件
学会発表(国際学会等)
5件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
2件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Asayama K, Satoh M, Murakami Y, et al.
Cardiovascular risk with and without antihypertensive drug treatment in the Japanese general population: participant-level meta-analysis.
Hypertension , 63 , 1189--97  (2014)
原著論文2
Satoh M, Ohkubo T, Asayama K, et al.
Combined effect of blood pressure and total cholesterol levels on long-term risks of subtypes of cardiovascular death: evidence for cardiovascular prevention from observational cohorts in Japan.
Hypertension , 65 , 517-524  (2015)
原著論文3
Nakamura K, Nakagawa H, Murakami Y, et al.
Smoking increases the risk of all-cause and cardiovascular mortality in patients with chronic kidney disease.
Kidney Int , 88 , 1144-1153  (2015)
原著論文4
Zhang W, Iso H, Murakami Y, et al.
Serum Uric Acid and Mortality Form Cardiovascular Disease: EPOCH-JAPAN Study.
J Atheroscler Thromb. , 23 , 692-703  (2016)
原著論文5
Li Y, Iso H, Cui R, et al.
Serum γ-glutamyltransferase and Mortality due to Cardiovascular Disease in Japanese Men and Women.
J Atheroscler Thromb. , 23 , 792-799  (2016)
原著論文6
Nakai M, Miyamoto Y, Higashiyama A,et al.
Calibration between the Estimated Probability of the Risk Assessment Chart of Japan Atherosclerosis Society and Actual Mortality Using External Population: Evidence for Cardiovascular Prevention from Observational Cohorts in Japan (EPOCH-JAPAN).
J Atheroscler Thromb. , 23 , 176-195  (2016)
原著論文7
Hirakawa Y, Ninomiya T, Kiyohara Y, et al.
Age-specific impact of diabetes mellitus on the risk of cardiovascular mortality: An overview from the Evidence for Cardiovascular Prevention from Observational Cohorts in the Japan Research Group (EPOCH-JAPAN).
J Epidemiol. , 27 , 123-129  (2017)
原著論文8
Hirata T, Sugiyama D, Nagasawa SY, et al.
A pooled analysis of the association of isolated low levels of high-density lipoprotein cholesterol with cardiovascular mortality in Japan.
Eur J Epidemiol. , 32 , 547-557  (2017)

公開日・更新日

公開日
2017-06-23
更新日
2018-06-08

収支報告書

文献番号
201608019Z