文献情報
文献番号
199800549A
報告書区分
総括
研究課題名
IgE抗体産生調節法の開発に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
徳久 剛史(千葉大学)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 感覚器障害及び免疫・アレルギー等研究事業(免疫・アレルギー等研究分野)
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
28,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
アレルギー疾患の予防法や治療法のひとつとして、このIgE抗体産生メモリーB細胞の特異的分化抑制法の開発が考えられる。最近、ヒトのB細胞リンパ腫の染色体転座部位よりクローニングされたBCL6遺伝子が、細胞内では転写制御因子として機能しており、リンパ球においてはメモリーB細胞への分化が進行する胚中心B細胞で強い発現が認められることが明らかにされた。私たちはBCL6遺伝子のノックアウト(KO)マウスを作製したところ、このKOマウスには胚中心の形成が見られなかったり好酸球性の炎症が多発することから、BCL6は胚中心を介したメモリーB細胞の分化に必須であることや好酸球性アレルギーの発症を制御しているこが示唆された。また、私たちはB細胞が抗原刺激を受けたときに最初期誘導遺伝子として発現誘導されるc-Fos遺伝子をリンパ球で過剰発現するトランスジェニック(Tg)マウスを作製したところ、IgM抗体の産生は正常であるにもかかわらず、IgGやIgE抗体の産生が全く見られないことから、クラススイッチ過程でのc-Fosの抑制的な機能が示唆された。そこで本研究ではアレルギー疾患の予防法や根治療法の開発をめざして、胚中心B細胞におけるBCL6やc-Fosの機能を明らかにする。さらに、BCL6の好酸球性アレルギー炎症発症抑制の機序を明らかにする。次に胚工学を応用して、生体内でB細胞特異的にBCL6やc-Fosの発現や機能を制御する方法や、好酸球性アレルギー炎症発症を抑制する方法を開発することにより、胚中心B細胞の分化障害によりIgE抗体産生メモリーB細胞の分化が障害された動物モデルや好酸球性アレルギー炎症発症の起こらない動物モデルを作製する。そして、その開発された方法を遺伝子治療法等を用いてヒトに応用することにより上記の目的を達成する。
研究方法
1)BCL6-KOマウスに見られる好酸球性アレルギー炎症の発症機序の解析:BCL6-KOマウスとRag-1-KOマウスを交配したダブルKOマウスにおける好酸球性アレルギー炎症を病理学的に解析した。2)BCL6-KOマウス由来のT細胞の機能解析:BCL6-KOマウス由来のT細胞を抗CD3抗体で刺激した時のリンホカインの産生を培養上清中のタンパク量としてELISA法で測定した。3)BCL6とその関連遺伝子BAZFの遺伝子転写抑制機能の解析:L細胞にGal4結合ドメインをもつLucifaraseのリポーター遺伝子とGal4融合BCL6やBAZF遺伝子を導入してLucifaraseの活性を測定した。4)c-Fos過剰発現による胚中心B細胞分化抑制機序の解析:INFで発現誘導可能なc-Fos遺伝子を導入したTg(Mx-c-fos)マウスの脾臓由来B細胞をLPSとIL-4で刺激して、IgG1やIgE抗体産生細胞に分化させた。その分化過程でc-Fosの過剰発現を誘導することにより引き起こされるB細胞の分化異常を分子のレベルで解析した。
結果と考察
1)BCL6-KOマウスに見られる好酸球性アレルギー炎症の発症機序の解析:BCL6-KOマウスとRag-1-KOマウスを交配したダブルKOマウス(BCL6-KOマウスでリンパ球のいない状態)では、六カ月を経過しても心臓を始めとする各臓器には好酸球の浸潤が見られなかったことから、好酸球性アレルギー炎症の発症にはBCL6-KOマウス由来のリンパ球の関与が示唆された。そこで、BCL6-KOマウス由来の骨髄細胞をRag-1-KOマウスに移植して骨髄キメラマウスを作製して好酸球性アレルギー炎症の発症を検討した。その結果、骨髄キメラマウスの眼瞼結膜や脾臓には高頻度に好酸球の浸潤をともなう炎症が見られたことから、BCL6-KOマウス由来のリンパ球の好酸球性アレルギー炎症の発症における一義的機能が示唆された。
2)BCL6-KOマウス由来のT細胞の機能解析:BCL6-KOマウス脾臓由来のTリンパ球を抗CD3抗体で刺激してリンホカインの産生量をELISA法で測定した。その結果、IL-4やIL-5などのTh2細胞が産生するリンホカインの産生増強が見られた。とくにIL-5の著しい産生増強が見られたことから、正常T細胞内ではBCL6がIL-5の遺伝子転写を負に調節していることが示唆された。さらに、IL-5遺伝子のDNA配列中のBCL6結合配列をデータベース上で検索したところ、第四エクソンにその配列がみられた。そこで、BCL6タンパクがそのDNA配列と直接的に結合するかどうかをGel-Retardation法で解析したところ、その配列に特異的に結合することを明らかにした。このことから、BCL6がIL-5を始めとするTh2細胞由来のリンフォカインの産生を抑制的に調節していることが考えられ、BCL6の作用機序の解析は、メモリーB細胞分化を含むIgE抗体産生機序の開発に有用であるばかりでなく、Th2細胞の活性過多により引き起こされる好酸球性アレルギー炎症の新しい治療法の開発にもつながる点で有用であると考えられた。
3)BCL6とその関連遺伝子BAZFの遺伝子転写抑制機能の解析:BAZFを単離してその構造をBCL6と比較すると、DNAと結合する zinc finger の部位ではアミノ酸レベルで94%相同であり、BCL6と同一のDNA配列に結合し転写抑制活性を示した。さらにBCL6で転写抑制活性の認められた中央部にあるProlin-richな部位の17アミノ酸で100%の相同が認められ、この相同な17アミノ酸部位を欠損させるとその転写抑制活性が消失した。さらに、その17アミノ酸部位だけで転写抑制活性が見られた。これらの結果から、BCL6ファミリーの抑制活性はこの17アミノ酸の部位と特異的に反応する核内タンパクが関与していることが示唆された。
4)c-Fos過剰発現による胚中心B細胞分化抑制機序の解析:c-Fosを恒常的に発現しているH2-c-fosマウスをT細胞依存性抗原で免疫して、その脾臓における胚中心の形成を免疫組織学的に解析したところ、胚中心の形成は著しく障害されていた。その原因をInVitro系でc-Fos発現誘導可能なMx-c-fosマウス脾臓由来のB細胞をLPSとIL-4で刺激して解析した。その結果、c-Fosの過剰発現誘導によりB細胞がクラススイッチしてその細胞表面にIgG1やIgE抗体を発現した後にアポトーシスに陥ることを明らかにした。そこでこのc-Fosによるアポトーシスが過剰のBcl-2により予防出来るかどうかを明らかにする目的で、H2-c-fosマウスをIg-Bcl-2トランスジェニックマウスと交配した。このF1マウスでは抗原免疫により胚中心の形成は回復したが、血中のIgG1やIgE抗体の産生は抑制されたままであった。このことから、過剰のc-FosによりIgクラススイッチB細胞にアポトーシスが誘導され、そのアポトーシスはBcl-2では予防出来ないことが示唆された。すでにc-FosがB細胞表面のIgレセプターで抗原刺激を受けたときに一過性に発現誘導されることが知られており、抗原刺激が強力であればc-Fosの発現誘導も強力であることから、この現象は自己抗原と強力に反応したB細胞が生体内から除去される自己免疫寛容誘導機序を説明していることが示唆された。このことは、c-Fosとその標的遺伝子の機能改変により免疫不全症や自己免疫病の治療法やワクチン療法の開発に向けての新しい展開が可能であることを意味しており、現在その標的遺伝子を解析中である。
2)BCL6-KOマウス由来のT細胞の機能解析:BCL6-KOマウス脾臓由来のTリンパ球を抗CD3抗体で刺激してリンホカインの産生量をELISA法で測定した。その結果、IL-4やIL-5などのTh2細胞が産生するリンホカインの産生増強が見られた。とくにIL-5の著しい産生増強が見られたことから、正常T細胞内ではBCL6がIL-5の遺伝子転写を負に調節していることが示唆された。さらに、IL-5遺伝子のDNA配列中のBCL6結合配列をデータベース上で検索したところ、第四エクソンにその配列がみられた。そこで、BCL6タンパクがそのDNA配列と直接的に結合するかどうかをGel-Retardation法で解析したところ、その配列に特異的に結合することを明らかにした。このことから、BCL6がIL-5を始めとするTh2細胞由来のリンフォカインの産生を抑制的に調節していることが考えられ、BCL6の作用機序の解析は、メモリーB細胞分化を含むIgE抗体産生機序の開発に有用であるばかりでなく、Th2細胞の活性過多により引き起こされる好酸球性アレルギー炎症の新しい治療法の開発にもつながる点で有用であると考えられた。
3)BCL6とその関連遺伝子BAZFの遺伝子転写抑制機能の解析:BAZFを単離してその構造をBCL6と比較すると、DNAと結合する zinc finger の部位ではアミノ酸レベルで94%相同であり、BCL6と同一のDNA配列に結合し転写抑制活性を示した。さらにBCL6で転写抑制活性の認められた中央部にあるProlin-richな部位の17アミノ酸で100%の相同が認められ、この相同な17アミノ酸部位を欠損させるとその転写抑制活性が消失した。さらに、その17アミノ酸部位だけで転写抑制活性が見られた。これらの結果から、BCL6ファミリーの抑制活性はこの17アミノ酸の部位と特異的に反応する核内タンパクが関与していることが示唆された。
4)c-Fos過剰発現による胚中心B細胞分化抑制機序の解析:c-Fosを恒常的に発現しているH2-c-fosマウスをT細胞依存性抗原で免疫して、その脾臓における胚中心の形成を免疫組織学的に解析したところ、胚中心の形成は著しく障害されていた。その原因をInVitro系でc-Fos発現誘導可能なMx-c-fosマウス脾臓由来のB細胞をLPSとIL-4で刺激して解析した。その結果、c-Fosの過剰発現誘導によりB細胞がクラススイッチしてその細胞表面にIgG1やIgE抗体を発現した後にアポトーシスに陥ることを明らかにした。そこでこのc-Fosによるアポトーシスが過剰のBcl-2により予防出来るかどうかを明らかにする目的で、H2-c-fosマウスをIg-Bcl-2トランスジェニックマウスと交配した。このF1マウスでは抗原免疫により胚中心の形成は回復したが、血中のIgG1やIgE抗体の産生は抑制されたままであった。このことから、過剰のc-FosによりIgクラススイッチB細胞にアポトーシスが誘導され、そのアポトーシスはBcl-2では予防出来ないことが示唆された。すでにc-FosがB細胞表面のIgレセプターで抗原刺激を受けたときに一過性に発現誘導されることが知られており、抗原刺激が強力であればc-Fosの発現誘導も強力であることから、この現象は自己抗原と強力に反応したB細胞が生体内から除去される自己免疫寛容誘導機序を説明していることが示唆された。このことは、c-Fosとその標的遺伝子の機能改変により免疫不全症や自己免疫病の治療法やワクチン療法の開発に向けての新しい展開が可能であることを意味しており、現在その標的遺伝子を解析中である。
結論
1)BCL6-KOマウスに見られる好酸球性アレルギー炎症の発症機序の解析から、BCL6がIL-5の産生を抑制的に調節していることが示唆された。2)BCL6の関連遺伝子BAZFを単離しその構造と機能をBCL6のそれらと比較解析した。これらの結果から、新たなBCL6の刺激伝達系の阻害法の開発への道がひらけた。3)c-FosのメモリーB細胞分化における抑制機序が明らかにされた。
公開日・更新日
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