文献情報
文献番号
199800548A
報告書区分
総括
研究課題名
アレルギー疾患の予知と予防(感作発症に及ぼす胎内環境因子と体外環境因
子)
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
佐々木 聖(大阪医科大学小児科)
研究分担者(所属機関)
- 古川 漸(山口大学医学部小児科)
- 藤本 昭(大阪友紘会病院産婦人科)
- 谷口恭治(済生会茨木病院小児科)
- 山本和子(島根医科大学医療情報学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 感覚器障害及び免疫・アレルギー等研究事業(免疫・アレルギー等研究分野)
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
13,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
研究目的と方法=小児アレルギー疾患の発症要因は、アトピー素因(遺伝因子)と環境因子に大別され、複雑な相互作用によって発症する。従来よりいわれている環境因子に加え、小児アレルギー疾患では母親のもつ胎内環境因子が重要である。特にアレルギー疾患の発症と予防を考える場合、約10カ月に及ぶ母体内の胎内環境は無視しえぬ要因である。
新生児から乳児期に認められるアトピー疾患の発症機序には経胎盤感作が考えられる。その成立機序として、母体から抗原の経胎盤移行による抗原の直接感作とIgG抗体や免疫伝達細胞、免疫伝達因子の経胎盤移行がある。
さらに胎児は成人循環とは異なり、胎盤-臍帯-胎児の連結血行路をもつ胎児循環により、羊水中で発育する。したがって羊水は直接胎児を包みこむ直接的生活環境であり、羊水の影響は非常に大きいと考える。
胎児のガス交換は胎盤で行われ、肺では行われない点、成人とは異なる。したがって胎児循環の特徴として肺への血行は不完全であり、肺の発育に必要な血液を供給するにすぎない。したがって胎児の呼吸器系への母体からの血行を介しての経胎盤感作の機会は胎児消化器系、皮膚に比べ極めて少ないと考えられる。
羊水循環の羊水は羊膜を介して母体血液からの滲出物であり、羊水と母体血漿との間で速やかに水分が移行される。
胎児は羊水を胎生15週頃より嚥下し、その量は胎生末期には1時間20ml、1日500mlにも達する。したがって羊水が直接胎児の皮膚、消化管に与える影響は極めて大きい。しかし羊水が胎児に及ぼす影響を免疫アレルギー学的に検討した研究は内外共に稀有である。
したがって筆者らは羊水、母体血、臍帯血を組で採取し、同時に同一の質問表を作成して妊娠中の母親のライフスタイルと共に、これが胎児に及ぼす影響を調査し、更にATS- DLT改訂版にて出生後のアレルギー疾患を年余にわたり追跡している。
さらに羊水、母体血、臍帯血についてIgE、IgG抗体、食物とチリダニ特異IgE、IgG抗体とそのsubclass、CD23、soluble IgEεreceptor、IL-4、IL-5、IFN-γ、IL-10、IL-13などを測定して、アレルギー発症との関係を検討して、予知と予防の指標を確立したいと考えている。さらに現在、実行し効果を得ているアレルギー発症予防対策として、環境抗原として最も重要なチリダニ抗原除去を目的とした掃除メニューを実行して気管支喘息児への二次予防を行い、発作減少による医療費の減少効果をみている。さらに未発症アトピー素因陽性児にも実行して一次予防の効果も得つつある。
新生児から乳児期に認められるアトピー疾患の発症機序には経胎盤感作が考えられる。その成立機序として、母体から抗原の経胎盤移行による抗原の直接感作とIgG抗体や免疫伝達細胞、免疫伝達因子の経胎盤移行がある。
さらに胎児は成人循環とは異なり、胎盤-臍帯-胎児の連結血行路をもつ胎児循環により、羊水中で発育する。したがって羊水は直接胎児を包みこむ直接的生活環境であり、羊水の影響は非常に大きいと考える。
胎児のガス交換は胎盤で行われ、肺では行われない点、成人とは異なる。したがって胎児循環の特徴として肺への血行は不完全であり、肺の発育に必要な血液を供給するにすぎない。したがって胎児の呼吸器系への母体からの血行を介しての経胎盤感作の機会は胎児消化器系、皮膚に比べ極めて少ないと考えられる。
羊水循環の羊水は羊膜を介して母体血液からの滲出物であり、羊水と母体血漿との間で速やかに水分が移行される。
胎児は羊水を胎生15週頃より嚥下し、その量は胎生末期には1時間20ml、1日500mlにも達する。したがって羊水が直接胎児の皮膚、消化管に与える影響は極めて大きい。しかし羊水が胎児に及ぼす影響を免疫アレルギー学的に検討した研究は内外共に稀有である。
したがって筆者らは羊水、母体血、臍帯血を組で採取し、同時に同一の質問表を作成して妊娠中の母親のライフスタイルと共に、これが胎児に及ぼす影響を調査し、更にATS- DLT改訂版にて出生後のアレルギー疾患を年余にわたり追跡している。
さらに羊水、母体血、臍帯血についてIgE、IgG抗体、食物とチリダニ特異IgE、IgG抗体とそのsubclass、CD23、soluble IgEεreceptor、IL-4、IL-5、IFN-γ、IL-10、IL-13などを測定して、アレルギー発症との関係を検討して、予知と予防の指標を確立したいと考えている。さらに現在、実行し効果を得ているアレルギー発症予防対策として、環境抗原として最も重要なチリダニ抗原除去を目的とした掃除メニューを実行して気管支喘息児への二次予防を行い、発作減少による医療費の減少効果をみている。さらに未発症アトピー素因陽性児にも実行して一次予防の効果も得つつある。
研究方法
結果と考察
研究結果=1)母体血、羊水、臍帯血におけるサイトカインの測定ではアレルギー歴陽性の母親の血清、羊水、臍帯血においてIL-13が共に高値を示す例が多く、次いでIL-4陽性例も少数認められた。IL-5は検出しえなかったが、乳児アレルギー疾患発症に好酸球性炎症が強く関与されていることが示唆された。
2)母体血、臍帯血より分離した単核球を培養し、卵白アルブミンとチリダニ(DerⅠ)抗原で刺激すると、IL-5、IL-13が共に検出される例が、IL-4検出例よりも多く認められた。
3)臍帯血におけるサイトカイン産生Tリンパ球を解析した。interferon-γ(IFN-γ)産生CD3陽性Tリンパ球は、健常小児の末梢血が最も高く、以下胎内感染児の臍帯血、胎内感染がなくアレルギーの家族歴のある児の臍帯血、胎内感染がなくアレルギーの家族歴のない児の臍帯血の順だった。interleukin 4(IL-4)産生CD3陽性Tリンパ球は、高い順に胎内感染児の臍帯血、胎内感染がなくアレルギーの家族歴のある児の臍帯血、健常小児の末梢血、胎内感染がなくアレルギーの家族歴のない児の臍帯血だった。臍帯血におけるサイトカイン産生Tリンパ球の解析は、胎内感染の示標およびアレルギー疾患の予知に有用である可能性が示唆された。
4)新生児より乳児期のアトピー素因陽性例にチリダニ特異IgE抗体が陰性であるが、チリダニ特異IgG抗体の上昇例がみられ、次第にリンパ球幼若化反応も陽性になり、次にチリダニ特異IgE抗体陽性を示すようになる。チリダニ抗原の自然暴露が出生時より始まることを示唆する成績をえた。
5)乳児期早期の卵白アレルギー児において卵白特異IgGとそのsubclassの推移を検討した。
出生直後の乳児期早期より卵白アレルギーに基づくアトピー性皮膚炎児10例について卵白アルブミン特異IgG抗体(以下OA-spec IgG)と卵白ムコイド特異IgG抗体(OM-spec IgG)を測定し、4カ月に1回の採血で約2年間その推移を検討した。
OA-spec IgGとそのsubclassでは20~1,000 GRU/mlに分布し、症状改善例にはIgG、IgG1とIgG2が低下する症例が10例中6例に認められた。
OM-spec IgGとそのsubclassの検討でも同様に症状改善例はIgG、IgG1、IgG2、IgG3の低下例が10例中7例に認められた。IgG4は一定の傾向は認められなかった。
6)アトピー素因の有無による母体血、臍帯血、羊水における免疫学的背景を検討した。母体血IgE値は高値群100 IU/ml以上、低値群100 IU/ml以下として2群間で検討したが、母体血IgG値(mg/dl)、母体血IgA値、母体血IgM値、母体血C3、C4、CH50ではいずれも両群間に有意差は認めなかった。
臍帯血、IgA、C3、C4、CH50はいずれも両群間に差が認められず、IgGおよびIgMが有意差(P≦0.05)を認め、抗原特異抗体との関連性が示唆された。
羊水においてはIgGには有意差を認めず、IgA、IgMが有意差(P≦0.05)を認めた。
7)アトピー素因と出生後の環境因子がアトピー疾患の発症に及ぼす影響を検討した。
対象189例中気管支喘息児4例(2.2%)、喘鳴児16例(8.47%)が認められた。189例中7例(喘息児4例を含む)において臍帯血IgE値が3.0 u/ml以上、母親の血清IgE値も400 u/ml以上の高値を示した。
出生後2年間の環境因子として、呼吸器感染症、dirty typeの暖房器具使用、乳児期の栄養、同居家族の喫煙歴が喘息発症群に有意に高く、加えて喘鳴群では乳児期の呼吸器感染既往歴が有意に高く、喘息発症における遺伝要因に加えて環境要因の関わりが乳幼児期早期より認められる成績をえた。
次にアトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎の乳幼児期の発症にはアトピー素因が強く関わっていることが示された。
2)母体血、臍帯血より分離した単核球を培養し、卵白アルブミンとチリダニ(DerⅠ)抗原で刺激すると、IL-5、IL-13が共に検出される例が、IL-4検出例よりも多く認められた。
3)臍帯血におけるサイトカイン産生Tリンパ球を解析した。interferon-γ(IFN-γ)産生CD3陽性Tリンパ球は、健常小児の末梢血が最も高く、以下胎内感染児の臍帯血、胎内感染がなくアレルギーの家族歴のある児の臍帯血、胎内感染がなくアレルギーの家族歴のない児の臍帯血の順だった。interleukin 4(IL-4)産生CD3陽性Tリンパ球は、高い順に胎内感染児の臍帯血、胎内感染がなくアレルギーの家族歴のある児の臍帯血、健常小児の末梢血、胎内感染がなくアレルギーの家族歴のない児の臍帯血だった。臍帯血におけるサイトカイン産生Tリンパ球の解析は、胎内感染の示標およびアレルギー疾患の予知に有用である可能性が示唆された。
4)新生児より乳児期のアトピー素因陽性例にチリダニ特異IgE抗体が陰性であるが、チリダニ特異IgG抗体の上昇例がみられ、次第にリンパ球幼若化反応も陽性になり、次にチリダニ特異IgE抗体陽性を示すようになる。チリダニ抗原の自然暴露が出生時より始まることを示唆する成績をえた。
5)乳児期早期の卵白アレルギー児において卵白特異IgGとそのsubclassの推移を検討した。
出生直後の乳児期早期より卵白アレルギーに基づくアトピー性皮膚炎児10例について卵白アルブミン特異IgG抗体(以下OA-spec IgG)と卵白ムコイド特異IgG抗体(OM-spec IgG)を測定し、4カ月に1回の採血で約2年間その推移を検討した。
OA-spec IgGとそのsubclassでは20~1,000 GRU/mlに分布し、症状改善例にはIgG、IgG1とIgG2が低下する症例が10例中6例に認められた。
OM-spec IgGとそのsubclassの検討でも同様に症状改善例はIgG、IgG1、IgG2、IgG3の低下例が10例中7例に認められた。IgG4は一定の傾向は認められなかった。
6)アトピー素因の有無による母体血、臍帯血、羊水における免疫学的背景を検討した。母体血IgE値は高値群100 IU/ml以上、低値群100 IU/ml以下として2群間で検討したが、母体血IgG値(mg/dl)、母体血IgA値、母体血IgM値、母体血C3、C4、CH50ではいずれも両群間に有意差は認めなかった。
臍帯血、IgA、C3、C4、CH50はいずれも両群間に差が認められず、IgGおよびIgMが有意差(P≦0.05)を認め、抗原特異抗体との関連性が示唆された。
羊水においてはIgGには有意差を認めず、IgA、IgMが有意差(P≦0.05)を認めた。
7)アトピー素因と出生後の環境因子がアトピー疾患の発症に及ぼす影響を検討した。
対象189例中気管支喘息児4例(2.2%)、喘鳴児16例(8.47%)が認められた。189例中7例(喘息児4例を含む)において臍帯血IgE値が3.0 u/ml以上、母親の血清IgE値も400 u/ml以上の高値を示した。
出生後2年間の環境因子として、呼吸器感染症、dirty typeの暖房器具使用、乳児期の栄養、同居家族の喫煙歴が喘息発症群に有意に高く、加えて喘鳴群では乳児期の呼吸器感染既往歴が有意に高く、喘息発症における遺伝要因に加えて環境要因の関わりが乳幼児期早期より認められる成績をえた。
次にアトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎の乳幼児期の発症にはアトピー素因が強く関わっていることが示された。
結論
1)胎児に影響を及ぼす胎内環境においては、母親の摂取する食物抗原の関与が強く示唆された。
2)出生後の乳児には食物アレルギーに基づくアトピー性皮膚炎が最も多く、関与する免疫アレルギー反応は1gEによるI型アレルギー反応以前に、細胞性免疫反応またIgGの関与するアレルギー反応が示唆された。
3)吸入性抗原のチリダニの感作はアトピー素因陽性児では乳児期初期より始まるので、その予防には出生直後よりの環境整備が必要である。
2)出生後の乳児には食物アレルギーに基づくアトピー性皮膚炎が最も多く、関与する免疫アレルギー反応は1gEによるI型アレルギー反応以前に、細胞性免疫反応またIgGの関与するアレルギー反応が示唆された。
3)吸入性抗原のチリダニの感作はアトピー素因陽性児では乳児期初期より始まるので、その予防には出生直後よりの環境整備が必要である。
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