がん診療ガイドラインの運用等の実態把握及び標準的治療の実施に影響を与える因子の分析

文献情報

文献番号
201607025A
報告書区分
総括
研究課題名
がん診療ガイドラインの運用等の実態把握及び標準的治療の実施に影響を与える因子の分析
課題番号
H28-がん対策-一般-001
研究年度
平成28(2016)年度
研究代表者(所属機関)
藤原 俊義(国立大学法人岡山大学 大学院医歯薬学総合研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 西山 正彦(群馬大学大学院医学系研究科 病態腫瘍薬理学)
  • 平田 公一(札幌医科大学医学部 消化器・総合、乳腺・内分泌外科学講座)
  • 佐伯 俊昭(埼玉医科大学国際医療センター 乳腺腫瘍科)
  • 徳田 裕(東海大学医学部外科学系 乳腺・内分泌外科学)
  • 向井 博文(国立研究開発法人国立がん研究センター東病院 乳腺・腫瘍内科)
  • 鹿間 直人(埼玉医科大学国際医療センター 放射線腫瘍科)
  • 山内 智香子(滋賀県立成人病センター 放射線治療科)
  • 渡邉 聡明(東京大学大学院医学研究科 腫瘍外科学・血管外科学)
  • 馬場 秀夫(熊本大学大学院生命科学研究部 消化器外科学)
  • 沖 英次(九州大学医学研究院 消化器・総合外科)
  • 沖田 憲司(札幌医科大学 消化器・総合、乳腺・内分泌外科講座大腸外科)
  • 青儀 健二郎(独立行政法人国立病院機構四国がんセンター 乳腺・内分泌外科)
  • 加賀美 芳和(昭和大学医学部放射線医学講座 放射線治療学部門)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん対策推進総合研究
研究開始年度
平成28(2016)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究費
8,462,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
がん対策推進基本計画中間報告書(平成27年6月厚生労働省がん対策推進協議会)では、がん診療連携拠点病院における標準的治療の実施率にはいまだ大きな施設間格差があり、大腸がん術後補助化学療法49.6%、乳房切除後高リスク症例放射線治療33.1%、高度催吐性リスク化学療法制吐剤処方60.5%等、極めて低い実施率にとどまる標準的治療法が存在するとされている。しかしながら、治療選択は、受療者の意思によって決定され、これに年齢や全身状態、生活環境等、受療者の医学的社会的要因等も深く関与してくると推測される。

本研究では、乳がん、大腸がん、制吐剤の適正使用に焦点を絞り、がん診療ガイドラインに示された標準的治療の実施率等、その運用の実態を調査するとともに、その実施に影響を与える因子を明らかにし、がん診療ガイドラインに示された標準的治療が、高齢者や併存疾患等の個体差、地域・生活環境特性等にも適応しうるものか、その有用性と安全性を検証し、その普及と今後の課題について明らかにする。

研究方法
乳がん、大腸がん、制吐剤の使用の3領域に絞り、診療ガイドラインの作成母体である日本乳癌学会、日本癌治療学会、大腸癌研究会との緊密な連携のもとに解析を進め、単年で標準的治療の実施状況の動向とこれに影響を及ぼす要因を明らかにして研究を総括した。
結果と考察
1)「乳癌診療ガイドライン」の運用と実施に影響を及ぼす因子の分析
・乳房温存術後放射線治療は70%以上で実施されている。
・乳房温存療法後の放射線療法施行率に比し、乳房切除術後の施行率は低い。
・乳癌の術後放射線治療の実施率に影響を及ぼす因子として、年齢が上げられる。
・施設層(拠点病院・認定施設か否か)間で乳房切除術後の施行率に差が認められる。非認定施設でのガイドラインのさらなる周知が望まれる。

2)「大腸癌治療ガイドライン」の運用と実施に影響を及ぼす因子の分析
・大腸癌の標準治療(D3リンパ節郭清、術後補助化学療法)の実施率は年々上昇し、2010年には70%以上に達している。
・施設による実施率の差はみられるが、2005年のガイドライン発刊後に実施率の低かった施設の底上げが認められた。
・Stage III大腸癌の術後補助化学療法の実施率に影響を及ぼす因子として年齢が挙げられる。
・「がん登録部会QI研究(代表:東 尚弘先生)では、Stage III大腸癌に対する術後補助化学療法の未実施理由として、「全身状態の低下」や「高齢」が挙げられている。適切な臨床判断に基づく未実施は許容されると考えられる。

3)「制吐薬適正使用ガイドライン」の運用と実施に影響を及ぼす因子の分析
・施設別回答率 75%、診療科別回答率 63.1%
・ガイドラインの推奨内容の認知度は、「内容を含め全て知っている」と「内容を一部知っている」を合わせると96%であり、十分に認知されていた。
・高度催吐性リスク化学療法施行時の予防的制吐薬投与における、ガイドラインの推奨(NK1受容体拮抗薬、5HT3受容体拮抗薬、ステロイドの3剤併用療法)の遵守率は76%であった。
・遵守率には診療科別に大きな偏りがあった(造血器腫瘍領域)。
・非遵守の理由の多くは「登録レジメンが3剤併用になっていない」であったが、その中の多くのレジメンにはステロイドが含有されているためであり、非遵守の理由としては許容できるものであると考えられた。
・ステロイド含有レジメンでは、3剤併用が必要かどうかはまだ明らかではない。
結論
1)がん診療ガイドラインに示された標準的治療の実施率は、がん対策推進基本計画中間報告書(DPCデータより算出)より高い傾向があった。その理由として、放射線・化学療法は他院で実施されている可能性がある。

2)ガイドラインの発刊は、実施率の向上に一定の効果を与えてきた。しかし、施設間にばらつきがあるため、非認定施設等へのガイドラインのさらなる周知を進めるとともに、施設の集約化についても検討を要する。ただ、非認定施設の患者背景が不明のため、さらなる検証が必要である。

3)高齢者では標準治療を控える傾向があり、年齢は実施率に影響を及ぼす大きな因子である。

4)個々の患者の状態や環境に合わせて適切な臨床判断に基づき治療を選択・調節することが重要と思われる。

公開日・更新日

公開日
2017-06-23
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2017-06-23
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201607025C

収支報告書

文献番号
201607025Z