がん対策推進基本計画の効果検証と目標設定に関する研究

文献情報

文献番号
201607014A
報告書区分
総括
研究課題名
がん対策推進基本計画の効果検証と目標設定に関する研究
課題番号
H26-がん政策-一般-015
研究年度
平成28(2016)年度
研究代表者(所属機関)
加茂 憲一(北海道公立大学法人札幌医科大学 医療人育成センター)
研究分担者(所属機関)
  • 田中 純子(広島大学・大学院医歯薬保健学研究院)
  • 高橋 秀人(福島県立医科大学・放射線医学県民健康管理センター)
  • 坂本 亘(岡山大学・大学院環境生命科学研究科)
  • 片野田 耕太(国立がん研究センター・がん対策情報センター)
  • 伊藤 ゆり(大阪府立成人病センター・がん予防情報センター)
  • 雑賀 公美子(国立がん研究センター・社会と健康研究センター)
  • 松田 彩子(帝京大学・医学部)
  • 伊森 晋平(大阪大学・大学院基礎工学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん対策推進総合研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究費
3,373,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
がん対策推進基本計画における全体目標の1つとして
「がん年齢調整死亡率(75歳未満)を10年間で20%減少させること」
が掲げられている。ここで設定されている具体的な数値には
 ・年1%の自然減少
 ・10年で10%減少の努力目標
の要素が内包されている。「年1%の自然減」については、これまでの経年的な減少傾向から推測され、年1%の減少を10年間積み上げることにより、およそ10%の減少が見込まれることが根拠となっている。2つ目の「10年で10%減の努力目標」については、リスクファクターの減少(感染率や喫煙率などの低下)、早期発見(検診受診率の向上)、治療の影響(医療の均てん化や標準治療・新薬の普及)などといった予防・介入による成果として見込まれる数値である。これらを合算したものが「10年で20%減少」という数値目標の根拠となっている。現時点ではある程度情報が蓄積されており、達成状況を予見することができるが、目標としていた死亡率20%減少の達成は困難であるとされている。
このような数値目標設定の妥当性を検証するためには様々なアプローチが考えられる。本研究においては、その一つとして数理的にアプローチする手法について考察する。
研究方法
シミュレーションシステム完成のために以下の手順を経る:
① 先行研究の調査
② 自然史モデルの作成
③ 数理モデル構築
④ シミュレーションシステムの実装
⑤ 妥当性の検証
⑥ シナリオ設定に基づく予測
① 本研究と同様な試みは、CISNETプロジェクトが先行研究として存在し、複数の研究班においてシミュレーションシステムが実装されている。
② 自然史モデルとは、発がんの機序を表現した図説である。発がんまでの全パターンを網羅するよりも、研究目的に対して必要な最低限の設定が必要である。
③ 自然史モデルの状態間遷移は数理モデルにより表現する。
④ 数理モデルを実行するために、マイクロシミュレーションと呼ばれる、仮想的な人口分布設定に対し、個々人に対して状態遷移確率をコンピュータにおいて乱数を発生させるプログラムを構築する。バーチャルな個人の結果を集約し、人口全体の挙動が把握できる。
⑤ 数理モデルおよびシミュレーションシステムの妥当性は、既存データの再現性により検証される。
⑥ リスクファクター減少、早期発見、治療などのシナリオ設定の下、予防・介入効果の期待値を算出する。また、個別のがん対策別将来予測により、重視すべき対策の優先順位や施策タイミングの最適化を行う。
結果と考察
大腸がんに関して、基本人口を30歳100万人の健常状態とし、性別に1年刻みでシミュレートした。
介入効果を考えない現状維持シナリオに基づき、モデルの妥当性を考察した。性別の累積リスクに関する適合度はそれほど悪くなく、本シミュレーションは正常に機能している(現状を的確に再現できている)ことを確認した。
次に介入効果について、検診効果として検診受診率と精検受診率をシミュレーションに組み込んだ。2013年の現状(男性受診率40%、女性受診率35%、精検受診率男女共に65%)を起点とし、
・受診率のみ向上
・精検受診率のみ向上
・両方共に向上
について、約10%刻みで代表的な組み合わせを設定した。受診率の目標値として設定されている「受診率50%、精検受診率90%」が達成されれば、男性では9.4%、女性では6.2%の死亡率減少が期待されると試算された。
もう一つの介入効果として、医療の均てん化についてシミュレートした。大阪府がん登録データに基づき、拠点病院とそれ以外に関する生存関数を推定し、全ての医療機関が拠点病院と同様な生存率に改善されれば、男性で4.3%、女性で4.0%の死亡率減少効果が試算された。
結論
がん対策推進基本計画における全がんに関する目標値設定の妥当性評価および様々なシナリオ設定に基づく予測が可能なシミュレーションシステムを構築することが研究目標である。部位別の特徴を考慮する必要があるが、3年間で全部位を網羅できなかったため、大腸に関する結果を外挿し、全がんの暫定的な評価を行った。介入効果としては
 ・検診(検診受診率と精検受診率の向上)
 ・治療(医療の均てん化)
の2つを対象とした。
検診に関しては、様々な【受診率、精検受診率】の組み合わせについて、年齢調整死亡率の変化をシミュレートした結果、検診受診率50%、精密検査受診率90%が達成されれば3.9%の死亡率減少効果が試算された。治療に関しては、医療の均てん化に着目し、全施設の生存率が拠点病院と同レベルに改善されると仮定した場合、3.0%の死亡率減少効果が試算された。全がんとしての効果に関しては、検診RCTの結果に基づいたものである。

公開日・更新日

公開日
2017-06-23
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201607014B
報告書区分
総合
研究課題名
がん対策推進基本計画の効果検証と目標設定に関する研究
課題番号
H26-がん政策-一般-015
研究年度
平成28(2016)年度
研究代表者(所属機関)
加茂 憲一(北海道公立大学法人札幌医科大学 医療人育成センター)
研究分担者(所属機関)
  • 田中 純子(広島大学・大学院医歯薬保健学研究院)
  • 高橋 秀人(福島県立医科大学・放射線医学県民健康管理センター)
  • 坂本 亘(岡山大学・大学院環境生命科学研究科)
  • 片野田 耕太(国立がん研究センター・がん対策情報センター)
  • 伊藤 ゆり(大阪府立成人病センター・がん予防情報センター)
  • 雑賀 公美子(国立がん研究センター・社会と健康研究センター)
  • 松田 彩子(帝京大学・医学部)
  • 伊森 晋平(大阪大学・大学院基礎工学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん対策推進総合研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
がん対策推進基本計画における全体目標の1つとして
「がん年齢調整死亡率(75歳未満)を10年間で20%減少させること」
が掲げられている。ここで設定されている具体的な数値には、次の2種類の要素が内包されている:
 ・年1%の自然減少
 ・10年で10%減少の努力目標
1つ目の「年1%の自然減少」については、これまでの経年的な減少傾向から推測されるものであり、年1%の減少を10年間積み上げることにより、およそ10%の減少が見込まれることが根拠となっている。2つ目の「10年で10%減の努力目標」については、リスクファクターの減少(感染率や喫煙率などの低下)、早期発見(検診や精密検査の受診率向上)、治療の影響(医療の均てん化や標準治療・新薬の普及)などといった予防・介入による努力成果として見込まれる数値である。これらを合算したものが「10年で20%減少」という数値目標の根拠となっている。
このような数値目標設定の妥当性を検証するためには、様々なアプローチが考えられるが、本研究においては数理モデリングとシミュレーションによるアプローチを試みる。
研究方法
がん死亡率の減少に関する要因の按分を説明し得る数理モデルおよびシミュレーションシステムを構築する。がんは部位によって固有の特性を有すること、また想定される介入効果も様々であることから、以下の手順を部位別に行う必要がある:
① 先行研究の調査
② 自然史モデルの作成
③ 数理モデル構築
④ シミュレーションシステムの実装
⑤ 妥当性の検証
⑥ シナリオ設定に基づく予測
結果と考察
がん対策推進基本計画において活用可能な数値の算出を目標とし、数理と疫学を専門とする研究者の混成により研究を進めてきた。特に、大腸、肝臓、胃、肺に焦点をあて、他の代表的な部位についての網羅は3年では不可能と予測していたため、分析対象部位による結果を活用して、全がんとしての試算手法についても考察した。実際に、介入効果の部分も含めたシミュレーションシステムが完成したのは大腸がんのみであったため、この結果をRCT(メタアナリシス)の結果を用いて全がんへ外挿した。
 先行研究の調査については、特に「シミュレーションを用いたがん検診効果の評価」については重要課題であることからシステマティック・レビューを行った。
 次に部位別の自然史モデルについては、大腸、肝臓、胃は確定した。大腸に関しては全体を通しての数理モデルが完成し、シミュレーションシステムも完成した。介入効果については、検診効果と医療効果に着目した。検診効果については、検診受診率および精密検査(今後「精検」と略す)受診率の向上を想定した。具体的には、検診受診率50%、精検受診率90%が達成された際の死亡率減少効果を3.9%と試算した。また医療効果については、全施設の生存率が拠点病院と同程度に改善した場合の死亡率減少効果を3.0%と試算した。肝臓がんに関しては、数理モデルが完成しパラメータ収集も完了したが、介入効果の部分が未着手となっている。
 数理モデルの構築については、大腸・肝臓共に自然史モデルを再現できるものが完成している。大腸がんに関しては、介入効果(検診と医療の部分)部分も完了している。シミュレーションシステムの実装も数理モデルが完了した部分のプログラミングは完了している。
数理モデル・シミュレーションシステムの妥当性に関しては、現状維持シナリオでの累積リスク比較により、シミュレーションは正常に機能していると結論付けた。
結論
上記プロセスをがんの部位別に達成することを研究班の目標としていたが、全体を網羅することができなかったため、最終的には大腸がんの結果とRCT(メタアナリシス)の結果を融合させることにより、大腸がんに関する結果を全がんへと外挿した。
検診効果については、検診受診率と精検受診率に関して、2013年を起点とし、目標値として設定されている検診受診率50%、精検受診率90%が達成された際の、75歳未満における年齢調整死亡率を試算した。その結果、男性では9.4%、女性では6.2%の死亡率減少効果が推定された。医療の均てん化については、大阪府がん登録データに基づき、拠点病院とそれ以外に関する生存関数におけるパラメータを推定し、全ての医療機関が拠点病院と同様な生存率に改善された際の減少を試算した。その結果、男性で4.3%、女性で4.0%の死亡率減少効果が推定された。これらの結果を前述の手法により全がんに外挿すると、検診効果が3.9%、医療効果が3.0%と試算された。一方で、一次予防効果については、タバコ対策の効果の試算について、2022年に喫煙率12%を達成した際の死亡率減少効果が1.7%であることを加味すると、これらの介入により約8%の死亡率減少が見込まれる試算となる。

公開日・更新日

公開日
2017-06-23
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201607014C

成果

専門的・学術的観点からの成果
がん対策の立案におけるシミュレーションシステムの活用に関し、成果を次で発表する。
がん予防学術大会2017大阪(平成29年6月16日)(メインシンポジウム)。
国際疫学会(平成29年8月20日)(企画セッション)。
臨床的観点からの成果
大腸がんシミュレーションに関しては、ステージ分布に関して臨床的立場からの確認を行い、ほぼ再現できていた。
肝臓がんに関しては自然史モデル作成について、臨床アドバイザーを設け、妥当性の検証を行っている。
ガイドライン等の開発
なし
その他行政的観点からの成果
がん対策推進協議会(平成28年12月21日、平成29年1月19日)において、研究成果を発表した(分担研究者:片野田耕太)
その他のインパクト
平成29年1月12日(木)「がん対策推進基本計画における医療の質評価(がん登録・DPCデータの活用)」大阪科学技術センター

発表件数

原著論文(和文)
31件
原著論文(英文等)
4件
その他論文(和文)
5件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
3件
学会発表(国際学会等)
7件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
1件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
K.Katanoda, K.Kamo, S.Tsugane
Quantification of the increase in thyroid cancer prevalence in Fukushima after the nuclear disaster in 2011 - a potential overdiagnosis?
Japanese Journal of Clinical Oncology , 46 (3) , 284-286  (2016)
原著論文2
Akita T, Tanaka J, Ohisa M, et al.
Predicting future blood supply and demand in Japan with a Markov model: application to the sex-age specific probability of blood donation
Transfusion , 56 (11) , 2750-2759  (2016)
原著論文3
Muzembo BA, Akita T, Matsuoka T, et al.
Systematic review and meta-analysis of hepatitis C virus infection in the Democratic Republic of Congo
Public Health , 139 , 13-21  (2016)
原著論文4
Asao T, Oki K, Yoneda M, et al.
Hypothalamic-pituitary-adrenal axis activity is associated with the prevalence of chronic kidney disease in diabetic patients
ENDOCRINE JOURNAL , 63 (2) , 119-126  (2016)
原著論文5
Murakami E, Tsuge M, Hiraga N, et al.
Effect of tenofovir disoproxil fumarate on drug-resistant HBV clones
Journal of Infection , 72 (1) , 91-102  (2016)
原著論文6
Tada T, Kumada T, Toyoda H, et al.
Viral eradication reduces al-cause mortality in patients with chronic hepatitis C virus infection: a propensity score analysis
Liver International , 36 (6) , 817-826  (2016)
原著論文7
Tada T, Kumada T, Toyoda H, et al.
Impact of FIB-4 index on HCC incidence during nucleos(t)ide analogue therapy in CHB patients: an analysis using time-dependent ROC
Journal of Gastroenterology and Hepatology , 32 (2) , 451-458  (2017)
原著論文8
Tada T, Kumada T, Toyoda H, et al.
Post-treatment levels of α-fetoprotein predict long-term hepatocellular carcinoma development after sustained virological response in patients with hepatitis C
Hepatology Research , 47 (10) , 1021-1031  (2017)
原著論文9
Morimoto H, Ide K, Tanaka Y, et al.
Different sensitivity of rituximab-treatment to B-cells between ABO-incompatible kidney and liver transplantation
Human Immunology , 77 (6) , 456-463  (2016)
原著論文10
Hosoi T, Kohda T, Matsuzaki S, et al.
Key role of HSP90 in leptin-induced STAT3 activation and feeding regulation
British Journal of Pharmacology , 173 (15) , 2434-2445  (2016)
原著論文11
Tada T, Kumada T, Toyoda H, et al.
HBcrAg predicts hepatocellular carcinoma development: An analysis using time-dependent receiver operating characteristics
Journal of Hepatology , 65 (1) , 48-56  (2016)
原著論文12
Tada T, Kumada T, Toyoda H, et al.
Long-term prognosis of patients with chronic hepatitis C who did not receive interferon-based therapy: causes of death and analysis based on the FIB-4 index
Journal of Gastroenteroloy , 51 (4) , 380-389  (2016)
原著論文13
Harada Y, Akita T, Takenaka J, et al.
Reproducibility of optic disk evaluation in supine subjects with a Heidelberg Retina Tomograph II laser tomographic scanner
Clinical Ophthalmology , 24 (10) , 1617-1622  (2016)
原著論文14
Shimomura M, Shinozaki K, Hinoi T, et al.
A multi-institutional feasibility study of S-1/oxaliplatin plus bevacizumab in patients with advanced/metastatic colorectal cancer: the HiSCO-02 prospective phase II study
Springerplus , 5 (1) , 1800-1800  (2016)
原著論文15
Matsuoka T, Sato T, Akita T, et al.
High Vaccination Coverage among Children during Influenza A(H1N1)pdm09 as a Potential Factor of Herd Immunity
International Journal of Environmental Research Public Health , 13 (10) , 1017-1017  (2016)
原著論文16
Otani K, Teshima T, Ito Y, et al.
Risk factors for vertebral compression fractures in preoperative chemoradiotherapy with gemcitabine for pancreatic cancer
Radiother Oncol. , 118 , 424-429  (2016)
原著論文17
Kinoshita FL, Ito Y, Nakayama T
Trends in Lung Cancer Incidence Rates by Histological Type in 1975-2008: A Population-Based Study in Osaka, Japan
J Epidemiol. , 26 , 579-586  (2016)
原著論文18
Ito Y, Nakaya T, Ioka A, et al.
Investigation of Spatial Clustering of Biliary Tract Cancer Incidence in Osaka, Japan: Neighborhood Effect of a PrintingFactory
J Epidemiol. , 26 (9) , 459-463  (2016)
原著論文19
Noura S, Ohue M, Ito Y, et al.
New Staging System for Colorectal Cancer Patients with Synchronous Peritoneal Metastasis in Accordance with the JapaneseClassification of Colorectal Carcinoma: A Multi-Institutional Study
Dig Surg , 33 (1) , 66-73  (2016)
原著論文20
海嶋照美, 藤井紀子, 松岡俊彦, 他.
肝炎ウイルス検査受検状況と検査後の医療機関受診率の検討―都道府県別にみた認識受検率と非認識受検率―
肝臓 , 57 (1) , 42-44  (2016)

公開日・更新日

公開日
2017-09-26
更新日
-

収支報告書

文献番号
201607014Z