手術療法の標準化に向けた消化器外科専門医育成に関する研究

文献情報

文献番号
201607009A
報告書区分
総括
研究課題名
手術療法の標準化に向けた消化器外科専門医育成に関する研究
課題番号
H26-がん政策-一般-009
研究年度
平成28(2016)年度
研究代表者(所属機関)
今野 弘之(国立大学法人浜松医科大学)
研究分担者(所属機関)
  • 後藤 満一(大阪府立急性期・総合医療センター)
  • 森 正樹(大阪大学大学院 消化器外科学)
  • 宮田 裕章(慶應義塾大学 医療政策・管理学教室)
  • 太田 哲生(金沢大学 消化器・乳腺・移植再生外科)
  • 若林 剛(上尾中央総合病院 消化器外科)
  • 國土 典宏(東京大学大学院医学系研究科 外科学専攻 臓器病態外科学講座 肝胆膵外科・人工臓器移植外科分野)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん対策推進総合研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究費
9,360,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
消化器外科医は本邦における固形がん治療において主要な役割を担っており、わが国は長年に渡り整備されてきた専門医制度を有している。専門医取得は多くの医育機関における消化器外科卒後教育の目標となっているが、消化器外科専門医制度が実際どのように診療の質や治療成績向上に寄与しているかは十分に検証されていない。本研究の目的はNational Clinical Database (以下、NCD)システムを利用してより質の高い専門医育成システムを構築することである。
研究方法
NCD登録専門医分野で「消化器外科専門医」を選択している2972の施設診療科を対象とし、アンケート調査を平成28年2~4月に実施した。主な内容は、(1) 診療体制について、(2) 術前カンファレンスについて、(3) 治療方針の決定方法について、(4) 術後カンファレンスについて、(5) NCDデータ利用について、(6) 入院診療体制について、(7) インフォームドコンセントについて、(8) Safety Culture について、(9) 施設機能について、などの合計約50項目であり、WebアンケートとしてNCDシステムに実装した。
結果と考察
本アンケート調査では、1696施設診療科からの回答を得た(回答率57.1%)。アンケート回答施設診療科の2015年における登録症例数は100例未満が127施設診療科(7.5%)、100~999例が940施設診療科(55.4%)、1000~2999例が590施設診療科(34.8%)、3000例以上が39施設診療科(2.3%)であった。在籍医師数は平均7.3人で中央値は5人、在籍消化器外科専門医数は平均3.1人で中央値は2人であった。平成28年1月1日における消化器外科専門医は6128人であり、本アンケートで集計された消化器外科専門医は全体の85.6%であった。常勤として在籍する医師によりカバーされる専門領域(上部消化管、下部消化管、肝胆膵)は、1領域が416施設診療科(24.5%)、2領域が385施設診療科(22.7%)、3領域が710施設診療科(41.9%)であり、いずれもない施設診療科が185(10.9%)であった。術前カンファレンスは約9割の施設で週1回以上開催されているのに対し、術後カンファレンスの開催率は約7割、mortality-morbidity(MM)カンファレンス、教育・研究カンファレンスは約5割の開催率であった。手術適応、術式を異なる領域の消化器外科専門医が参加するカンファレンスで決定しているのはそれぞれ4割ほどであった。
NCDデータのフィードバックシステム「消化器外科リアルタイムフィードバック」は約2/3の施設診療科で認知されているものの、実際に利用しているのは約4割にとどまった。
施設機能については、ICT、NST、リハビリテーション科は9割弱の施設で設置されているのに対し、ICUの設置率は6割弱であった。手術開始時のWHO安全チェックリストの確認は約85%の施設で実施され、医療安全委員会は約95%の施設に設置されているなど、医療安全に対する意識は高く維持されていた。
以上の結果により、多くの施設診療科で異なる領域の消化器外科専門医が診療に携わり、術前カンファレンスが定期的に開催されているものの、MMカンファレンスの開催や、手術適応や術式決定における専門領域間の連携を実施している施設は5割に満たない現状が浮き彫りとなった。一方、手術開始時のWHO安全チェックリストの確認や医療安全委員会の設置はいずれも90%前後であり、医療安全文化に関する項目でも医療安全に対する意識は比較的高く維持されていた。
最も重要なことは国民がより良い消化器外科医療を享受できる環境を整備することであり、専門医制度もこの視点から検証すべきと考える。今後、これらの実証的なデータに基づいて新たに選定した専門医評価指標をNCDシステムに実装して現行の専門医制度を前向きに評価し、改善点を新たな育成プログラムにfeed backすることで、PDCAサイクルに依拠した再現性のある専門医育成システムが可能となると思われる。
結論
わが国の消化器外科医療においては、消化器外科専門医が良好な治療成績に大きく貢献し、その専門医制度は妥当なものであると考えられる。しかし、さらに安全で高質な医療を提供するためには、実証的なデータにより専門医制度を検証し、それによって導き出された改善点を新たな育成プログラムにfeed backできるシステムの構築が必要である。本研究の成果を基に、今後、専門医制度の評価・改善機能を実装したNCDシステムを構築することで、問題点の抽出、前向き評価、改善計画の策定、プログラムへの反映の流れを継続的に実行可能なフィードバックシステムの構築が期待される。

公開日・更新日

公開日
2017-06-23
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2017-06-23
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201607009B
報告書区分
総合
研究課題名
手術療法の標準化に向けた消化器外科専門医育成に関する研究
課題番号
H26-がん政策-一般-009
研究年度
平成28(2016)年度
研究代表者(所属機関)
今野 弘之(国立大学法人浜松医科大学)
研究分担者(所属機関)
  • 後藤 満一(大阪府立急性期・総合医療センター)
  • 森 正樹(大阪大学大学院 消化器外科学)
  • 宮田 裕章(慶應義塾大学 医療政策・管理学教室)
  • 太田 哲生(金沢大学 消化器・乳腺・移植再生外科)
  • 若林 剛(上尾中央総合病院 消化器外科)
  • 國土 典宏(東京大学大学院医学系研究科 外科学専攻 臓器病態外科学講座 肝胆膵外科・人工臓器移植外科分野)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん対策推進総合研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、これまでのNational Clinical Database (NCD)に登録された情報を基に、本邦における消化器外科手術の治療成績を評価し、消化器外科専門医のパフォーマンスを把握することによって、より質の高い専門医育成のシステムを構築することである。
研究方法
NCDに登録された医療水準評価対象の8術式(食道切除再建術、胃全摘術、胃切除術(幽門側)、結腸右半切除術、低位前方切除術、肝切除術(外側区域以外の区域)、膵頭十二指腸切除術、急性汎発性腹膜炎手術)を対象として、多重ロジスティック解析によりリスクモデルを構築し、後方視的に消化器外科専門医の関与と手術成績を検討した。また、NCD参加施設の診療体制や施設機能と治療成績の関連を評価する目的で、NCDシステムを利用したWebアンケートを実施した。
結果と考察
消化器外科医療水準評価対象8術式は、それぞれおよそ80%以上の手術が、消化器外科専門医が2人以上在籍する施設で実施されていた。専門医が4名以上在籍する施設では、全ての術式で手術死亡率のO/E比が1を下回り、volume effectで調整したリスクモデルによる施設ごとの専門医数による治療成績の検討では、低位前方切除以外の7術式において、専門医が2名以上(胃全摘、膵頭十二指腸切除)、3名以上(胃切除、右半結腸切除)、4名以上(食道切除、肝切除、急性汎発性腹膜炎手術)在籍することが独立した予後予測因子であることが示された。このことから、複数の消化器外科専門医、専門分野の異なる消化器外科専門医が所属することで、互いに個々の症例、治療方針、術後管理を相互評価し、最も妥当な治療戦略を構築できる可能性が示唆された。さらには、施設の診療体制、医療サポート体制の構築など、施設としての機能・質も大きく影響すると考えられ、在籍する専門医の数、専門医によってカバーされる細分専門領域、術前、術後カンファレンスの実施状況、Cancer Board設置の有無、インフォームドコンセントの実施状況などを内容としたWebアンケートをNCDシステムに実装して実施した。
アンケート調査は、2972の施設診療科を対象とし1696施設診療科からの回答を得た(回答率57.1%)。在籍消化器外科専門医数は平均3.1人で中央値は2人であった。常勤医によりカバーされる専門領域(上部消化管、下部消化管、肝胆膵)は、1領域が416施設診療科(24.5%)、2領域が385施設診療科(22.7%)、3領域が710施設診療科(41.9%)であり、いずれもない施設診療科が185(10.9%)であった。術前カンファレンスは約9割の施設で週1回以上開催されているのに対し、術後カンファレンスの開催率は約7割、mortality-morbidity(MM)カンファレンス、教育・研究カンファレンスは約5割の開催率であった。手術適応、術式を異なる領域の消化器外科専門医が参加するカンファレンスで決定しているのはそれぞれ4割ほどであった。
施設機能については、ICT、NST、リハビリテーション科は9割弱の施設で設置されているのに対し、ICUの設置率は6割弱であった。手術開始時のWHO安全チェックリストの確認は約85%の施設で実施され、医療安全委員会は約95%の施設に設置されているなど、医療安全に対する意識は高く維持されていた。
以上より、ビッグデータによるわが国の消化器外科手術の概要がはじめて明らかとなり、これらの結果は消化器外科専門医制度の妥当性を示すものであるが、同時に、医療の質のさらなる向上のためには単純に個々の手術における専門医の関与だけではなく、各施設の専門医数や診療体制など、チーム、病院としての機能を含めた施設の質を評価する必要があることを示した。さらにアンケート調査では、多くの施設診療科で異なる領域の消化器外科専門医が診療に携わり、術前カンファレンスが定期的に開催され、医療安全に対する意識は比較的高く維持されているものの、MMカンファレンスの開催や、手術適応や術式決定における専門領域間の連携を実施している施設は5割に満たない現状が浮き彫りとなった。
結論
わが国の消化器外科医療においては、消化器外科専門医が良好な治療成績に大きく貢献し、その専門医制度は妥当なものであると考えられる。しかし、さらに安全で高質な医療を提供するためには、実証的なデータにより専門医制度を検証し、それによって導き出された改善点を新たな育成プログラムにfeed backできるシステムの構築が必要である。本研究の成果を基に、今後、専門医制度の評価・改善機能を実装したNCDシステムを構築することで、問題点の抽出、前向き評価、改善計画の策定、プログラムへの反映の流れを継続的に実行可能なフィードバックシステムの構築が期待される。

公開日・更新日

公開日
2017-06-23
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2017-06-23
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201607009C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本研究により、今まで不明確であった本邦消化器外科医療に対する専門医の貢献がビッグデータを基にした実証的解析により明らかにされた。さらに、専門医制度の評価においては、単に専門医の手術への参加の有無の評価にとどまらず、施設の専門医数や診療体制、質など総合的な評価が必須であると考えられた。この結果を専門医育成プログラムに直接 feed back することにより、国民の視点に立ったわかりやすい制度の構築が可能になるものと考えられる。
臨床的観点からの成果
「がん対策加速化プラン(平成27年12月)」においては、がんに対する標準的治療の開発・普及は重要な課題として位置付けられているが、本研究の成果をさらに発展させることで、標準的治療を安全に実施可能な消化器外科専門医の育成を可能とし、地域の外科医療において中核を為す消化器外科専門医の標準化や地域医療の再構築、均てん化にも貢献することが期待される。
ガイドライン等の開発
該当なし。
その他行政的観点からの成果
特記すべきことなし。
その他のインパクト
特記すべきことなし。

発表件数

原著論文(和文)
5件
原著論文(英文等)
22件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
31件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Konno H, Kamiya K, Kikuchi H, et al.
Association between the participation of board-certified surgeons in gastroenterological surgery and operative mortality after eight gastroenterological procedures.
Surgery Today , 47 (5) , 611-618  (2017)
10.1007/s00595-016-1422-5

公開日・更新日

公開日
2017-06-23
更新日
2020-05-29

収支報告書

文献番号
201607009Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
12,168,000円
(2)補助金確定額
9,183,000円
差引額 [(1)-(2)]
2,985,000円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 93,900円
人件費・謝金 0円
旅費 268,460円
その他 6,013,047円
間接経費 2,808,000円
合計 9,183,407円

備考

備考
当初の予定では、「アンケート調査の結果解析」と「専門医制度前向き評価システム開発」をNCDに委託する予定であったが、「専門医制度前向き評価システム開発」を行う前に「アンケート調査の結果解析」をより詳細に行う必要が生じたため「専門医制度前向き評価システム開発」への着手を先送りにした。そのため、MCD委託費に余剰が生じた。(自己資金:407円)

公開日・更新日

公開日
2017-11-30
更新日
-