緩和ケアセンターを軸としたがん疼痛の評価と治療改善の統合に関する多施設研究

文献情報

文献番号
201607003A
報告書区分
総括
研究課題名
緩和ケアセンターを軸としたがん疼痛の評価と治療改善の統合に関する多施設研究
課題番号
H26-がん政策-一般-003
研究年度
平成28(2016)年度
研究代表者(所属機関)
的場 元弘(日本赤十字社医療センター)
研究分担者(所属機関)
  • 吉田 茂昭(青森県病院局)
  • 増田 昌人(琉球大学医学部附属病院がんセンター)
  • 東 尚弘(国立がん研究センター がん対策情報センター がん臨床情報部)
  • 吉本 鉄介(独立行政法人地域医療機能推進機構中京病院 緩和支持治療科)
  • 冨安 志郎(医療法人光仁会西田病院 麻酔科)
  • 三浦 浩紀(青森県立中央病院 医療情報部)
  • 山下 慈(青森県立中央病院 緩和ケアセンター)
  • 塩川 満(聖隷浜松病院 薬剤部)
  • 龍 恵美(長崎大学病院 薬剤部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん対策推進総合研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究費
7,077,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では、がん診療連携拠点病院の緩和ケアセンターを軸に、全てのがん患者を対象に実施されるスクリーニングによって抽出されたがん疼痛などの苦痛を評価し、苦痛等の問題点を担当医などにフィードバックすると同時に、対応の結果を合わせて評価しながら改善を促す「評価と改善を統合した臨床モデル」の開発を目的にした。
研究方法
緩和データ登録・集計システムと院内がん登録システムデータへの反映の検討、多施設のスクリーニングデータベースの構築と解析、がん疼痛などの苦痛抽出と緩和ケアチーム看護師等による介入プログラムの開発、がん専門家による緩和ケアの支援システムの開発、施設単位での除痛成績(除痛率)の改善状況と医療用麻薬消費量の変化の関係についての検討、蓄積されたビッグデータの活用法の検討。
結果と考察
DPCのEFファイルを取り込み、蓄積されたスクリーニングデータと合わせて解析することにより、月、半年、1年の期間ごと、各病棟、全病棟単位でスクリーニング実施率と除痛率が多機能携帯端末で参照可能になった。患者の苦痛に対する主治医対応とその後の改善状況が確認できるようになった。緩和ケアチーム専従看護師によるケアの推奨または緩和ケアチーム看護師とのカンファレンスによるケア推奨では、緩和ケアチームへの依頼が1.5~2倍へと有意に増加し、スクリーニング結果への対応件数と緩和ケアチームへの依頼件数に強い正の相関が認められた。外部専門家の支援では、テレビ会議での推奨された治療の採用率は84.8%、安静時疼痛(11段階NRS)は1週間で平均3.9から2.1と有意改善した。医療用麻薬処方量は除痛成績と連動(除痛率54.5→66.1%、モルヒネ換算一人当たりの麻薬処方量501.7㎎→631.6㎎)した。また、後期高齢者の除痛成績は、一般成人48.7%に対して36.9%と低かった。
結論
今後検討されるべきその対応策の結果を含めて継続モニタできることは、地域や国のがん対策にとっての意義は大きいと考えられる。

公開日・更新日

公開日
2017-06-23
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2017-06-23
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201607003B
報告書区分
総合
研究課題名
緩和ケアセンターを軸としたがん疼痛の評価と治療改善の統合に関する多施設研究
課題番号
H26-がん政策-一般-003
研究年度
平成28(2016)年度
研究代表者(所属機関)
的場 元弘(日本赤十字社医療センター)
研究分担者(所属機関)
  • 吉田 茂昭(青森県病院局)
  • 増田 昌人(琉球大学医学部附属病院がんセンター)
  • 東 尚弘(国立がん研究センター がん対策情報センター がん臨床情報部)
  • 吉本 鉄介(独立行政法人地域医療機能推進機構中京病院 緩和支持治療科)
  • 冨安 志郎(医療法人光仁会西田病院 麻酔科)
  • 三浦 浩紀(青森県立中央病院 医療情報部)
  • 山下 慈(青森県立中央病院 緩和ケアセンター)
  • 塩川 満(聖隷浜松病院 薬剤部)
  • 龍 恵美(長崎大学病院 薬剤部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん対策推進総合研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では、がん診療連携拠点病院の緩和ケアセンターを軸に、全てのがん患者を対象に実施されるスクリーニングによって抽出されたがん疼痛などの苦痛を評価し、苦痛等の問題点を担当医などにフィードバックすると同時に、対応の結果を合わせて評価しながら改善を促す「評価と改善を統合した臨床モデル」の開発を目的にした。
研究方法
1)多施設で共用可能な多機能携帯端末による緩和データ登録・集計システムの開発により、がん患者の苦痛の評価法を標準化し、病期や病状、療養場所に関わらず、切れ目ない緩和ケアを提供するため電子化された「すべてのがん患者の苦痛のスクリーニングの実施とデータ集計・解析システム」を開発する。
2)スクリーニング結果を担当医や看護師にリアルタイムでフィードバックし、苦痛への対応と改善状況の評価を行う。蓄積されたスクリーニングデータから、苦痛の内容と頻度、苦痛への対応と効果、施設の医療用麻薬消費量等を評価する。
3)外部専門家による緩和ケアの支援ノウハウを蓄積し、専門家不在の地域や拠点病院などを支援するため、専門家が参加するテレビ会議システムを用いた症例検討やカルテ回診によるフィードバックを行い、支援の有効性を評価する。
4)全てのがん患者を対象にしたスクリーニング結果の現場へのフィードバックを通じて、施設単位での除痛成績(除痛率)の改善状況と医療用麻薬消費量の変化の関係についての検討、蓄積されたビッグデータの活用法の検討を行う。
結果と考察
多施設で共用可能な多機能携帯端末による緩和データ登録・集計システムの開発:多機能携帯端末データから、「痛みでできないことや困っていることがある患者」のリストを自動作成し、印刷などの出力も可能になった。また、DPCのEFファイルを取り込むことで、個人ごとの医療用麻薬消費量や、蓄積データとから月、半年、1年の期間ごと、各病棟、全病棟の単位で、スクリーニング実施率と除痛率などの成果が把握可能になった。スクリーニングへの主治医の対応の追加記録により、苦痛が持続している患者の把握が可能になり、対応すべき患者の把握が経過としても把握可能になった。
各地域における緩和ケアセンターを中心としたスクリーニングの実施状況:参加施設でのすべてのがん患者の苦痛のスクリーニングの実施状況(%)は、多機能端末を用いたスクリーニングシステム導入前後で青森県立中央病院42.7→57.5、鹿屋医療センター54.5→66.1、大船渡病院55.8→60.1、豊見城中央病院48.1→55.6、琉球大学病院38.2→36.1であった。また、テンプレート方式を採用している市立三次病院では52.5→49.4であった。
緩和ケアケアチーム看護師等が介入するプログラムの開発:苦痛症状がある10名に1名が緩和ケアチーム等のリソースが必要であること、痛みでできないことや困っていることがある患者の7割は動作時のbreakthrough painであり多職種の介入が必要であった。これら結果への対応として、緩和ケアチーム専従看護師によるトリアージによるケアの推奨または緩和ケアチーム看護師と病棟看護師間のカンファレンスによるケアを推奨した3施設では、対応前に比べ緩和ケアチームへの依頼が1.5~2倍へと有意に増加し、スクリーニング結果への対応件数とPCT依頼件数に強い正の相関が認められた。
多施設の蓄積データの活用:入院において、研究を開始した2014年度から2016年度の入院患者の除痛成績は、一般成人と比して後期高齢者の除痛率が低く、2014年46.2%vs33.8%、2015年度48.1%vs33.1%。2016年度55.4%vs47.8%であり、3年間の合計でも48.7vs36.9%であった。自発的な訴えがない高齢者の苦痛が明らかになった一方で、鎮痛薬の副作用への懸念により少なめの鎮投与量の設定などの問題があることが懸念され、高齢者に対するより手厚い苦痛緩和治療の提供についての検討が必要と考えられた。
緩和ケア支援システムに関する研究:非除痛513例から看護師介入165件を経て46件推奨があり、採用84.8%、安静時疼痛(11段階NRS)は1週間で平均3.9から2.1と有意改善。痛み以外トリアージ推奨は10件、7例が症状改善した。
結論
本研究のシステムは、病期や療養場所を問わず全てのがん患者の苦痛のスクリーニングの実施が可能であり、対応すべき患者と症状を明確にすることが可能である。また、本システムの収集したビッグデータから高齢になるに従って除痛成績が低下するという課題が明らかになり、今後の地域や国のがん対策にとっての意義は大きいと考えられる。

公開日・更新日

公開日
2017-06-23
更新日
-

研究報告書(PDF)

総合研究報告書
分担研究報告書
その他
研究成果の刊行に関する一覧表
研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2017-06-23
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201607003C

成果

専門的・学術的観点からの成果
疼痛治療の評価は痛みの強さの変化によって評価されてきたが、治療が必要な患者を特定し、治療結果の目標設定を容易にできる指標は存在しなかった。今回開発した「痛みでできないことや困っていることはありませんか?」という質問はこの両者への対応を可能にした。また蓄積データから、高齢者の疼痛治療の成績が不良であることが明確になったが、臓器機能の低下などの予備力に課題のある高齢者に対する治療開発の必要性が明らかになった。
臨床的観点からの成果
治療が必要な患者の抽出の基準はなかったが、「痛みでできないことや困っていることはありませんか?」という質問により治療ゴールの達成指標としても使用できることが明らかになった。この質問は高齢者を含めて回答が容易であり、全てのがん患者に質問することで、自発的に苦痛を訴えていなかった患者の痛みを明らかにできる。抽出された苦痛を担当医や看護師にフィードバックすることで緩和ケアチームの利用が促進され、除痛成績も改善した(25.9%から44.2%)。
ガイドライン等の開発
「痛みでできないことや困っていることはありませんか?」という質問により、治療が必要ながん疼痛患者をスクリーニングで抽出し、提供された疼痛緩和のゴール達成の確認が可能になった。この質問は厚生労働省医薬・生活衛生局 監視指導・麻薬対策課作成の「医療用麻薬適正使用ガイダンス」(平成29年4月改定)に反映された。本ガイダンスは、適切な緩和医療の実施とその際の管理のための簡便なマニュアルとして作成されており、診療ガイドラインに準じて現場で活用されている。
その他行政的観点からの成果
治療が必要ながん疼痛患者の抽出と、疼痛緩和の達成の確認・評価指標として、「痛みでできないことや困っていることはありませんか?」という質問を開発。厚生労働省医薬・生活衛生局 監視指導・麻薬対策課作成の「医療用麻薬適正使用ガイダンス」(平成29年4月改定)に反映し、全国で開催される、医療用麻薬適正使用講習会でもすべての参加者に配布、周知される。蓄積データから後期高齢者が一般成人に比べ除痛成績が悪いことが明らかになり、高齢者に対してより注意深い苦痛緩和を求める必要がある。
その他のインパクト
本研究の成果を共有し普及するため、平成28年11月12日に、全がん患者の苦痛のスクリーニングに関する研修会、「全がん患者の苦痛のスクリーニングを実践に活かす!-入院・外来のスクリーニング導入から対応、評価までのプロセス-」を開催した。また、平成27年5月31日に伊万里市で開催された市民鋼材において「痛みでできないことや困っていることはありませんか?」との演題で講演を行った。

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
8件
その他論文(和文)
6件
その他論文(英文等)
2件
学会発表(国内学会)
30件
学会発表(国際学会等)
3件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
1件
その他成果(普及・啓発活動)
41件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Yamaguchi K, Ono K, Matoba M他
Distinct TRPV1- and TRPA1-based mechanisms underlying enhancement of oral ulcerative mucositis-induced pain by 5-fluorouracil.
Pain , 157 (5) , 1004-1020  (2016)
10.1097/j.pain.0000000000000498.
原著論文2
Yoshimoto T, Tomiyasu S, Matoba M他
How Do Hospital Palliative Care Teams Use the WHO Guidelines to Manage Unrelieved Cancer Pain? A 1-Year, Multicenter Audit in Japan
Am J Hosp Palliat Care , 34 (1) , 92-99  (2017)
10.1177/1049909115608810.
原著論文3
Murakami S, Sudo Y, Matoba M他
Tris-hydroxymethyl-aminomethane enhances capsaicin-induced intracellular Ca(2+) influx through transient receptor potential V1 (TRPV1) channels
J Pharmacol Sci. , 130 (2) , 72-77  (2016)
10.1016/j.jphs.2015.11.009.
原著論文4
Inoue I, Higashi T, Matoba M他
A national profile of the impact of parental cancer on their children in Japan
Cancer Epidemiol , 39 (6) , 838-841  (2015)
10.1016/j.canep.2015.10.005.
原著論文5
Iwamoto M, Higashi T, Matoba M他
Accuracy of using Diagnosis Procedure Combination administrative claims data for estimating the amount of opioid consumption among cancer patients in Japan.
Jpn J Clin Oncol , 45 (11) , 1036-1041  (2015)
10.1093/jjco/hyv130.
原著論文6
Miyano K, Minami K, Matoba M他
Tramadol and its metabolite m1 selectively suppress transient receptor potential ankyrin 1 activity, but not transient receptor potential vanilloid 1 activity.
Anesth Analg , 120 (4) , 790-798  (2015)
10.1213/ANE.0000000000000625.
原著論文7
Hitomi S, Ono K, Matoba M他
Novel methods of applying direct chemical and mechanical stimulation to the oral mucosa for traditional behavioral pain assays in conscious rats.
J Neurosci Methods , 239 , 162-169  (2015)
10.1016/j.jneumeth.2014.10.013.
原著論文8
Kokubun H, Yoshimoto T, Matoba M他
Pharmacokinetics of Oxycodone After Intravenous and Subcutaneous Administration in JapanesePatients with Cancer Pain
Journal of Pain and Palliative Care Pharmacotherapy , 28 , 338-350  (2014)
10.3109/15360288.2014.969872.
原著論文9
榊原 直喜, 東 尚弘, 的場 元弘 他
がん患者の疼痛の実態と課題 外来/入院の比較と高齢者に焦点をあてて
Palliative Care Research , 10 (2) , 135-141  (2015)
10.2512/jspm.10.135

公開日・更新日

公開日
2017-06-23
更新日
-

収支報告書

文献番号
201607003Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
9,200,000円
(2)補助金確定額
9,200,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 1,878,722円
人件費・謝金 1,449,030円
旅費 2,512,137円
その他 1,237,968円
間接経費 2,123,000円
合計 9,200,857円

備考

備考
研究者自己資金による補填:844円
預金利息:13円
合計:857円

公開日・更新日

公開日
2017-10-10
更新日
-