気管支喘息の改善・自然寛解に関する分子生物学的機序の解明とその制御

文献情報

文献番号
199800545A
報告書区分
総括
研究課題名
気管支喘息の改善・自然寛解に関する分子生物学的機序の解明とその制御
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
大田 健(帝京大学医学部内科)
研究分担者(所属機関)
  • 森田 寛(東京大学医学部付属病院呼吸器内科)
  • 平井浩一(東京大学医学部付属病院生体防御機能学)
  • 羅 智靖(順天堂大学医学部 アトピー疾患研究センター)
  • 斉藤博久(国立小児医療研究センター免疫アレルギー研究部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 感覚器障害及び免疫・アレルギー等研究事業(免疫・アレルギー等研究分野)
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
17,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
喘息の治療は、持続的な薬物療法が主体となり、最近の傾向としては高血圧や糖尿病の
治療と同様に長期管理という観点でコントロールすることを目標としている。したがって
喘息発作が惹起される可能性は常に存在し、喘息死という不幸な転帰に終わる例も皆無で
はないため、根治的な治療戦略の確立が急務である。小児喘息の約70%は、成人へと成長
する課程で寛解することが知られている。しかし、一方で成人喘息では慢性的に持続する
気道炎症の存在が明らかになり、成人喘息は治癒しない、あるいは治癒する治療法はない
という方向で考えられている。さらに、 小児喘息が寛解する機序についての科学的な検
討による成果は、今のところ報告されていない。本研究
では、小児喘息の約70%が成人へと成長する段階で寛解するという現象に着目し、寛解を
規定する因子や治療歴などを明らかにすることで、根治的治療につながる治療標的とその
制御法を確立することを目的とした。研究対象としては、細胞では好酸球とマスト細胞と
いうアレルギー性炎症に特異的な重要なものに、また液性因子ではサイトカイン(ケモカ
インも含む)や炎症性メディエーターに的を絞って分子医学的手法を駆使して検討を行う。
具体的には、種々の遺伝子の多型性の検討、エオタキシンを含む種々のサイトカインの検
討、また臨床的に治療歴、気道過敏性を検討し、寛解を規定する因子、治療薬としてなに
が重要であるかを明らかにする。
研究方法
1)対象 ①小児喘息から成人喘息への移行例(非寛解例)、②小児喘息寛解症例(寛
解例) ③小児喘息症例 (小児例)④健常人の4群を対象にEDTA採血し、単核球分画よ
りDNAを採取した。同時に各群の患者について治療歴を聴取し、血清中総IgE、血清中
特異IgE抗体、好酸球数、アセチルコリンおよびヒスタミン吸入による気道過敏性の測定
を行った。
2)ムスカリンおよびヒスタミン受容体の多型性の検討 ムスカリンのM2、M3、ヒスタ
ミンのH1の遺伝子の全長を4~6個に分割し、適切なプライマーを設計した。
polymerase chain reaction (PCR)法により増幅し、ダイレクトシークエンスおよ
びsingle strand conformation polymorphism (SSCP)法で解析した。
3)トロンボキサンA2合成酵素(TXAS)遺伝子の多型性ーTXAS遺伝子の存在する
遺伝子の近傍に存在するD7S684遺伝子をマーカーにし遺伝子解析を行った。
4)Fc?RI?鎖の遺伝子の多型性の解析ー高親和性のIgE受容体の活性化シグナルの強度に
関係するFc?RI?鎖の遺伝子の多型性をPCR-SSCP法を用いて解析した。
5)血中エオタキシン測定ーモノクローナル抗体を用いたサンドイッチELISA法で測定し
た。
6)末梢血単核球をCCR5モノクローナル抗体をもちいてTh1/Th2 T細胞バランスを測定
した。さらに末梢血中マスト細胞および好塩基球の前駆細胞数を算定した。
結果と考察
各群の対象患者計72例について、同意を得てアセチルコリンまたはヒスタミンの吸入
試験を行い気道過敏性を測定した。ムスカリンおよびヒスタミン受容体の多型性について
は、研究の対象である M2、M3、H1それぞれの受容体について適切なプライマーを設計す
ることができた。そして研究対象者より同意のもとにEDTA加で採血し、リンパ球を分離し
てDNAを抽出した。M2とM3についてSSCPと遺伝子配列の解析(direct sequence法)によ
り変異の検討を行い、未だ例数は不十分であるがM2で有意な遺伝子多型(点変異)を示唆す
る結果が得られつつある。
TXASの多型性については、CA repeatsの異なった6種類の多型が認められた。そ
のうち非寛解例ではCA18 homoの頻度が少なく、寛解例ではCA23homoの頻度が少なかっ
た。
Fc?RI?鎖遺伝子の0エクソン1~7の遺伝子多型(変異)を解析すると、コドン237の野
生型はGluであるが、Glyに変異しているタイプが存在した。正常コントロール32例中、
Glu/Glu(wild homo)  27例、Glu/Gly (hetero) 4例、Gly/Gly     (mutant homo)
1例であり、多型頻度は15.6%であった。非寛解例ではGlu/Glu (27/39),   Glu/Gly
(11/39), Gly/Gly (1/39)で、多型頻度は30.8%であった。寛解例では、Glu/Glu (4/5),
Glu/Gly (1/5), Gly/Gly (0/5)で、多型頻度は15.6%であった。
エオタキシンの測定では、正常対照に比べ、気管支喘息の誘発痰中のエオタキシンは有
意に増加していた。また、誘発痰中のエオタキシンと痰中のECPに有意の正相関を認めた。
しかしながら、喘息患者の血清エオタキシン(74.2 pg/ml, n=100)は対照(70.7 pg/ml,
n=41)と有意差を認めなかった。
Th1機能とよく相関すると報告されているCCR5陽性CD4陽性細胞は、Th1機能と同様、年
齢とともに増加する傾向があった。しかし、アトピー患者で正常人と比較して低下してい
る傾向は今のところ認められなっかた。さらに、 末梢血中のマスト細胞前駆細胞を定量
することが可能となった。
ムスカリン、ヒスタミン受容体、 Fc?RI?鎖遺伝子およびTXASの多型性について解
析するシステムが整い、まだ途中の段階ではあるが、寛解例と非寛解例で遺伝子レベルで
差異が存在する可能性が見いだされてきた。しかし、研究対象群のうち特に寛解例を確保
することが予想以上に困難であり、寛解例の確保についてシステム化を計って問題を解決
する予定である。しかし、現在まで得られている遺伝子の変異の結果は今後、機能と結び
つく可能性を十分持っている。たとえば、M2受容体ははシナプス前に存在して、アセチ
ルコリンの放出量を制御すること、また気道炎症により気管支喘息患者でM2受容体の数
に減少を認めることから、気道過敏性を制御している可能性が示唆されている。 Fc?RI?
鎖については、Fc?RIの細胞膜への発現に?鎖は必須であるが、?鎖は必須ではないが細胞
内領域にはITAMと名付けられたシグナル伝達に関与するモチーフが存在し、この?鎖が?
鎖によるシグナルを約10倍程度増幅することが判明している。つまり?鎖の有無によって、
IgE-抗原による、Fc?RIを介した細胞活性化シグナルの強度が著しく影響されること、マ
スト細胞の感受性が変化することが明らかになっている。従って、この?鎖の多型が、ア
レルギーの、特にマスト細胞が主役となる効果相において、その遺伝的素因を規定してい
る可能性がある。
今後、例数を増やすとともに、気道過敏性の程度、サイトカイン、Th1細胞数、好塩基
球および肥満細胞前駆細胞数と遺伝子多型の関係についても検討を進める予定である。
これら、重要な因子や治療薬が明らかになれば、マウスを主体とする動物の喘息モデルを
用いて、それらがin vivoでも喘息の病態に重要な役割を演じていること、あるいは有効
であることを確認する。加えて新しい根治的治療戦略を開発する目的で、Fc?RI?鎖遺伝子
を用いた遺伝子治療、また好酸球の遊走、活性化に一義的に関与しているCCR3の阻害によ
る治療の可能性も明らかにしていきたい。
結論
小児喘息寛解に関連する遺伝子多型を検討し、ムスカリン受容体、FceRb鎖をよびトロン
ボキサン合成酵素阻害酵素に多型の存在する可能性を見いだした。

公開日・更新日

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