妊婦健康診査および妊娠届を活用したハイリスク妊産婦の把握と効果的な保健指導のあり方に関する研究

文献情報

文献番号
201606004A
報告書区分
総括
研究課題名
妊婦健康診査および妊娠届を活用したハイリスク妊産婦の把握と効果的な保健指導のあり方に関する研究
課題番号
H27-健やか-一般-001
研究年度
平成28(2016)年度
研究代表者(所属機関)
光田 信明(地方独立行政法人大阪府立病院機構 大阪母子医療センター)
研究分担者(所属機関)
  • 木下勝之(日本産婦人科医会 )
  • 佐藤拓代(地方独立行政法人大阪府立病院機構 大阪母子医療センター 母子保健調査室  )
  • 松田義雄(独立行政法人地域医療機能推進機構 三島総合病院)
  • 上野昌江(大阪府立大学 看護学研究科)
  • 山崎嘉久(あいち小児保健医療総合センター・保健センター)
  • 板倉敦夫(学校法人順天堂 順天堂大学 産婦人科学講座)
  • 小川正樹(東京女子医科大学病院 産婦人科)
  • 荻田和秀(りんくう総合医療センター周産期センター・産科医療センター)
  • 立花良之(独立行政法人国立成育医療研究センター こころの診療部乳幼児メンタルヘルス診療科 )
  • 藤原武男(東京医科歯科大学大学院  医歯学総合研究科国際健康推進医学分野 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 成育疾患克服等次世代育成基盤研究
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究費
8,300,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
平成27年からの健やか親子21(第2次)において「妊娠期からの児童虐待防止対策」が重点課題の一つに設定された。平成28年には児童福祉法が改正され、妊娠期からの切れ目のない支援を強く目指したものになっている。そこで妊娠届、妊婦健康診査、出産状況等から子育ての困難さや潜在的に抱えている問題についての要因を明らかにし、その支援対策を検討することを目的とした。
研究方法
出産後の子育て困難に繋がるハイリスク妊娠を社会的ハイリスク妊娠と医学的ハイリスク妊娠に分けて検討する。妊婦の社会的ハイリスク要因をアセスメントする方法は行政の妊娠届と医療機関における妊婦健康診査の二通りである。アセスメントから知り得た情報の共有方法や出産後の育児状況の把握から「望ましい保健指導のあり方」を検討する。特に妊娠中の要因と児の成育状況との関連性について、実証的な研究成果を得ることを目指す。なお母体メンタルヘルスに問題がある場合、社会的ハイリスク状態である場合が多いため精神科疾患合併妊娠だけではなく、見過ごされがちな“こころの負担”を感じている妊産婦も包括的対象とする。

結果と考察
日本産科婦人科学会との共同アンケート調査より、分娩施設の37%が児童虐待事例を経験しており、社会的ハイリスク妊娠の多くが周産期センターで支援を受けている実態が明らかとなった。社会的ハイリスク妊娠の検証研究において大阪府の妊娠届時用アセスメントシートの要因が統計学的に有意であった。医療機関にて社会的ハイリスク妊娠であると判断した192人中、67人(34.9%)が特定妊婦に該当した。妊娠中のアセスメントは特定妊婦の同定に有用であった。A市における特定妊婦72例から出生した児の追跡調査において、出生後1年以上の時点で要保護・支援児童は34例 (47.2%)、終結は29.2%のみであった。特定妊婦以外の妊婦からの要保護・支援児童が2.2%という結果から、特定妊婦と児童虐待発生の関連性を実証的に示すことができた。児童虐待相談所に一時保護となった0~5歳例(虐待保護およびその他の養護を含む)のうち、症例入所群97件(虐待:70件、養育困難:27件)を検討した。入所群と対照群で有意差を認めた項目は、母体年齢や父年齢が若い・父親の年齢が母親の年齢より10歳以上年上・未入籍・初診週数が遅い・妊娠中に高血圧や尿蛋白陽性を認める・経済的な問題がある・早産・出生体重2500g未満・帝王切開・多胎・児の先天疾患の合併・母の精神疾患の合併であった。今後の妊娠期における虐待予想モデルの作成に有用であると示された。妊婦の社会的ハイリスク状況把握のために問診票を作成し、追跡調査を実施中である。さらに活用支援マニュアル(案)や社会的ハイリスク妊娠等の支援を必要とする妊婦への専門職用マニュアル(案)を作成した。3歳までの虐待リスク要因を妊娠届で把握する研究結果から望まない妊娠の予後として4か月、1歳半、3歳での子育ての困難さを確認できた。昨年作成したハイリスク妊産婦のチェックリストは、施設規模によらず使用可能で子宮頸部手術後妊娠を加え、チェックリストを完成させた。医学的ハイリスク妊娠の出産後の追跡調査において自己免疫疾患、婦人科系疾患、腎泌尿器科系疾患、精神科疾患の追跡率が50%以下であった。出産後の健康診査に新たな課題が示された。メンタルヘルスに問題があり介入が必要な妊産婦の頻度は4%で、全国で年間約4万人と推計された。要介入妊産婦は、病院は5.4%であり、診療所の2.4%の2倍以上であった。昨年度、本研究にて作成したマニュアルをもとに母子保健関係者を対象としたメンタルケア・サポーターを養成する「母子保健メンタルケア指導者研修」を実施した。研修前後における参加者の意識の変化について検証したところ、メンタルケアについての研修会や勉強会を開催したいと考える参加者が大多数であり、メンタルケアのスキルアップへのニーズの高さが明らかになった。大阪府小児救急電話相談は本来、新生児の相談窓口であるが親のこころの相談も混在しており、産後2週間がピークであった。これは産後の子育て困難と“親のこころの負担”に関連性があることを示している。「大阪府妊産婦こころの相談センター」運用からみた妊産婦メンタルヘルス対策は、妊産婦の自殺対策として都道府県レベルでは初めての事業で、現時点では数少ない有効性のある事業といえる。
結論
妊娠届や妊婦健康診査から社会的ハイリスク妊娠・特定妊婦を同定できることが示された。また特定妊婦と児童虐待発生の関連性を示すことができる。今後の課題として社会的ハイリスク妊娠の抽出方法の検証を行い、全国システム策定が望まれる。次年度は継続中の研究成果をまとめ、妊娠期からの望ましい保健指導、さらには切れ目のない子育て支援体制づくりを予定している。

公開日・更新日

公開日
2017-05-29
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2017-05-31
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
201606004Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
10,000,000円
(2)補助金確定額
10,000,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 2,047,424円
人件費・謝金 1,307,020円
旅費 1,609,685円
その他 3,336,274円
間接経費 1,700,000円
合計 10,000,403円

備考

備考
消耗品の購入の際に不足金額403円について自己資金を充当したため

公開日・更新日

公開日
2018-06-01
更新日
-