文献情報
文献番号
201606002A
報告書区分
総括
研究課題名
乳幼児突然死症候群(SIDS)および乳幼児突発性危急事態(ALTE)の病態解明等と死亡数減少のための研究
課題番号
H26-健やか-一般-002
研究年度
平成28(2016)年度
研究代表者(所属機関)
加藤 稲子(国立大学法人三重大学大学院 医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
- 戸苅 創(金城学院・名古屋市立西部医療センター)
- 高嶋 幸男(学校法人国際医療福祉大学 小児神経学)
- 中山 雅弘(地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪府立母子保健総合医療センター 検査科)
- 市川 光太郎(地方独立行政法人 北九州市立八幡病院 小児救急センター 小児科学)
- 中川 聡(国立研究開発法人国立成育医療研究センター 集中治療医学)
- 山口 清次(国立大学法人島根大学 小児科学)
- 成田 正明(国立大学法人三重大学大学院 医学系研究科 発症再生 医学)
- 平野 慎也(地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪府立母子保健総合医療センター 新生児科学)
- 岩崎 志穂(横浜市立大学附属市民総合医療センター 新生児学)
- 山本 琢磨(国立大学法人長崎大学 法医学)
- 児玉 由紀(国立大学法人宮崎大学医学部附属病院 総合周産期母子医療センター 産婦人科学)
- 吉永 正夫(国立病院機構 鹿児島医療センター 小児科学)
- 大澤 資樹(東海大学 法医学)
- 柳井 広之(岡山大学病院 病理学)
- 加藤 則子(十文字学園女子大学 人間生活学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 成育疾患克服等次世代育成基盤研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
SIDSおよびALTEの発症率軽減を目指して、SIDSリスク因子の検討、診断方法の確立、鑑別診断方法の確立、乳児の安全な睡眠環境の検討、有効な啓発方法の検討、ALTEの診断手引き作成を目的とする。
研究方法
SIDSは年齢素因的因子、睡眠関連因子、環境因子などが複雑に絡み合って発症することが示唆されている。病態解明およびリスク因子の検討として、覚醒反応等に関与して胎生期ウィルス感染のセロトニン受容体発現への影響、突然の胎児、新生児死亡および予後不良例での周産期リスク因子の検討を行った。昨年度作成したALTE診断ガイドライン(案)について小児科関連10学会に意見を求め修正を行った。鑑別診断としては、病理組織から次世代シークエンサーを用いた代謝性疾患および感染性疾患の鑑別法の検討、遺伝性不整脈については生後1ヶ月時の心電図検査による早期診断の検討を行った。脂肪酸代謝異常症における突然死、ALTEの発症予防管理方法を検討した。安全な睡眠環境については米国におけるSTSキャンペーンの歴史と現状について調査した。SIDSリスク因子解明を目的として法医学的病理学的に解剖にて診断されたSIDS症例の登録システム構築と解剖の現状および倫理的・法的問題について検討した。過去の疫学データの再検討を行い乳児の寝かせ方と突然死について検討した。普及啓発方法については両親学級での効果的な情報提供の方法について検討した。
結果と考察
脳内セロトニン神経系は胎内感染による影響を受けることを報告してきたが、セロトニン受容体発現は日齢19における胎内ウィルス感染動物モデルで有意に減少するものと有意に増加するものを認めた。周産期因子として突然の胎児死亡あるいは突然の徐脈から死亡や神経予後不良となる症例には、母体合併症や胎内感染が高率に認められた。
ALTE診断については、昨年度作成したALTE診断のガイドライン(案)について小児科関連10学会からの意見をもとに修正し、「ALTE原因疾患検索手順の手引き」として完成し、BRUEの概念についても言及した。SIDS, ALTEの鑑別診断としては、次世代シーケンサーを用いた検討が感染症および代謝性疾患の診断に有用である可能性が示唆された。脂肪酸代謝異常症と診断された症例において突然死、ALTEの発症を防ぐには乳児期の入院管理が重要であった。生後1ヶ月の心電図検査を10325人に実施し、QT延長症候群と診断されたのは10名、うち治療を要したのは5名であった。
米国STSキャンペーンは乳児睡眠関連死の全てを対象としていることが特徴であるが、SIDS発症予防を最大目的としていることはBTSキャンペーンと同様であった。今後、日本においてもSIDSに限らず、乳児の睡眠中の事故をも視野に入れた予防キャンペーンが必要であると思われた。
解剖により診断されたSIDS症例登録システムについては、SIDS問診・チェックリストを利用してリスク因子の検討が可能であると思われたが、システム構築のためには厳格な情報管理体制の構築が必要である。過去の乳児突然死症例の検討からは寝返りとの関連が示唆されたが、SIDS以外の疾患が含まれる可能性があること、解剖率の違いなどから、SIDSリスク因子解明のためには解剖率の高い地域で解剖により診断されたSIDS症例の検討が必要と考えられた。
SIDSの啓発については講義だけでは複数回行っても知識が持続しにくいという結果であった。SIDSの情報源としてはテレビ、インターネット、母子手帳が多かった。
ALTE診断については、昨年度作成したALTE診断のガイドライン(案)について小児科関連10学会からの意見をもとに修正し、「ALTE原因疾患検索手順の手引き」として完成し、BRUEの概念についても言及した。SIDS, ALTEの鑑別診断としては、次世代シーケンサーを用いた検討が感染症および代謝性疾患の診断に有用である可能性が示唆された。脂肪酸代謝異常症と診断された症例において突然死、ALTEの発症を防ぐには乳児期の入院管理が重要であった。生後1ヶ月の心電図検査を10325人に実施し、QT延長症候群と診断されたのは10名、うち治療を要したのは5名であった。
米国STSキャンペーンは乳児睡眠関連死の全てを対象としていることが特徴であるが、SIDS発症予防を最大目的としていることはBTSキャンペーンと同様であった。今後、日本においてもSIDSに限らず、乳児の睡眠中の事故をも視野に入れた予防キャンペーンが必要であると思われた。
解剖により診断されたSIDS症例登録システムについては、SIDS問診・チェックリストを利用してリスク因子の検討が可能であると思われたが、システム構築のためには厳格な情報管理体制の構築が必要である。過去の乳児突然死症例の検討からは寝返りとの関連が示唆されたが、SIDS以外の疾患が含まれる可能性があること、解剖率の違いなどから、SIDSリスク因子解明のためには解剖率の高い地域で解剖により診断されたSIDS症例の検討が必要と考えられた。
SIDSの啓発については講義だけでは複数回行っても知識が持続しにくいという結果であった。SIDSの情報源としてはテレビ、インターネット、母子手帳が多かった。
結論
SIDSの病態については、出生後のリスク因子だけでなく胎生期におけるリスク因子も関与する可能性が示唆された。覚醒反応の発達過程に関連すると考えられているセロトニン神経受容体に胎内ウィルス感染が影響を及ぼす可能性が考えられ、母体感染症や母体合併症についても検討していく必要があると思われた。
作成した「ALTE原因疾患検索手順の手引き」は小児科、小児救急関連施設に配布した。関連各学会にも了解を得て普及啓発していく必要がある。
SIDSの鑑別診断においては次世代シーケンサーなどを用いて代謝疾患、感染性疾患の鑑別が可能となると思われた。1ヶ月時の心電図検査が遺伝性不整脈の早期発見に繋がる可能性が示唆された。代謝疾患と診断された場合は厳重な管理が必要である。
乳児の寝かせ方に関しては豪州、米国、欧州の調査結果も考慮して我が国の歴史的文化も考慮しながら安全な寝かせ方を検討していく必要がある。リスク因子の検討では、解剖率を高めることとSIDS問診・チェックリストを利用して解剖によりSIDSと診断された症例の登録システム構築による解析が望まれる。知識の普及啓発については母子手帳を利用して厚労省HPの該当部分にアクセスできるような方法も有用と思われた。
作成した「ALTE原因疾患検索手順の手引き」は小児科、小児救急関連施設に配布した。関連各学会にも了解を得て普及啓発していく必要がある。
SIDSの鑑別診断においては次世代シーケンサーなどを用いて代謝疾患、感染性疾患の鑑別が可能となると思われた。1ヶ月時の心電図検査が遺伝性不整脈の早期発見に繋がる可能性が示唆された。代謝疾患と診断された場合は厳重な管理が必要である。
乳児の寝かせ方に関しては豪州、米国、欧州の調査結果も考慮して我が国の歴史的文化も考慮しながら安全な寝かせ方を検討していく必要がある。リスク因子の検討では、解剖率を高めることとSIDS問診・チェックリストを利用して解剖によりSIDSと診断された症例の登録システム構築による解析が望まれる。知識の普及啓発については母子手帳を利用して厚労省HPの該当部分にアクセスできるような方法も有用と思われた。
公開日・更新日
公開日
2017-06-01
更新日
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