文献情報
文献番号
201605018A
報告書区分
総括
研究課題名
社会における個人遺伝情報利用の実態とゲノムリテラシーに関する調査研究
課題番号
H28-特別-指定-020
研究年度
平成28(2016)年度
研究代表者(所属機関)
武藤 香織(国立大学法人東京大学 医科学研究所)
研究分担者(所属機関)
- 櫻井 晃洋(札幌医科大学医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生労働科学特別研究
研究開始年度
平成28(2016)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究費
6,650,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
諸外国では、個人の遺伝学的特徴に基づく不適切な取扱いを法的に規制する国も多いが、日本では直接禁止する法的規制は存在しない。また、日本では遺伝学的特徴に基づく差別の実情や国民の懸念についての調査も行われていないが、実態等の把握を行った上で、法的措置も含めゲノム情報の取扱いに係る制度を整備する必要性について検討する必要がある。
本研究は、1)遺伝的特徴に基づく差別的取扱いをめぐる概念整理に関する研究、2)米国とカナダにおける遺伝情報に基づく差別をめぐる法的規制の動向に関する研究、3)遺伝情報の利用や差別的取扱いへの一般市民の意識に関する研究、4)遺伝的特徴に基づく差別的取扱いに関する患者・障害者のヒアリング調査、5)国民のゲノムリテラシー醸成のための啓発資料制作を行った。
本研究は、1)遺伝的特徴に基づく差別的取扱いをめぐる概念整理に関する研究、2)米国とカナダにおける遺伝情報に基づく差別をめぐる法的規制の動向に関する研究、3)遺伝情報の利用や差別的取扱いへの一般市民の意識に関する研究、4)遺伝的特徴に基づく差別的取扱いに関する患者・障害者のヒアリング調査、5)国民のゲノムリテラシー醸成のための啓発資料制作を行った。
研究方法
遺伝的特徴に基づく差別的取扱いの概念整理と米国とカナダでの遺伝情報に基づく差別をめぐる法的規制の動向調査では、関連法規、論文、報道記事等の文献を調査した。一般市民の意識についてはインターネット調査を行い、「遺伝情報」には遺伝学的検査等で得られた科学的根拠を伴うものに限らず、家族歴も含めた。患者・障害者のヒアリング調査は、機縁法等による半構造化面接を実施した。ゲノムリテラシー向上に資する啓発資料は、遺伝に関する正しい理解を深められるように、小学生、中学生、高校生、一般市民を対象とする4種類を制作した。
結果と考察
1)遺伝的特徴に基づく差別的取扱いをめぐる概念整理に関する研究
広義の遺伝的特徴には、「科学的根拠を伴う遺伝学的特徴」が含まれ、先進国の多くで人権問題としての位置づけがあること、保険や雇用など商取引での遺伝学的特徴の利用や私人間での遺伝学的検査受検要請などを優先して検討する必要があること、個人情報保護アプローチでは家族歴が保護されないこと、現時点では産業医や結婚相談所が積極的に遺伝学的検査の利活用を希望する状況にはないこと等が明らかとなった。今後、どのような行為を「差別」と指定するかについての検討が必要である。
2)米国とカナダにおける遺伝情報に基づく差別をめぐる法的規制の動向に関する研究
米国では、2008年に制定されたGenetic Information Nondiscrimination Act(GINA)によって健康保険分野、雇用分野における遺伝情報に基づく差別を禁止しているが、近年、雇用分野におけるウェルネスプログラムとの間で緊張関係が発生しており、時代に合わせた変革や国民理解に対する努力の必要性が示唆された。カナダでは、2017年にGenetic Non-Discrimination Actが可決され、保険の種類を問わずにサービスの提供や契約・協定を対象とした遺伝学的特徴に基づく差別の禁止を定め、雇用関連法制、人権擁護法制に遺伝学的特徴や遺伝情報に基づく差別を禁じる修正を加えていた。
3)遺伝情報の利用や差別的取扱いへの一般市民の意識に関する研究
回答者10,881人のうち、遺伝情報に基づく差別的取扱いを受けた経験がある者は約3%で、その原因の遺伝情報で最も多いのは家族歴であった。回答者は遺伝情報の利活用によるベネフィットを高く評価しながらも、遺伝情報の適切な取り扱いや遺伝情報に基づく差別に懸念を持ち、遺伝情報の取り扱いに関する法規制を望んでいた。
今後、遺伝情報やゲノム医療を取り巻く社会的状況、市民の態度は変化する可能性があり、引き続き、調査を行い、ゲノム医療を推進するための社会的基盤や法制度等に関する課題について検討する必要があると考えられる。
4)遺伝的特徴に基づく差別的取扱いに関する患者・障害者のヒアリング調査
26名の対象者のなかには、保険加入や婚姻時の不利益を受けた人がおり、自身らの遺伝情報を研究推進に役立てて欲しいと考える一方で、遺伝学的検査の受検や遺伝情報の提供に抵抗感を持つ人もいた。さらに遺伝的プライバシーの保護についても懸念があり、医療関係者等の守秘義務の強化は全協力者から支持された。
私人間での差別的取扱いに対する法規制は困難であるため、国民のリテラシー向上のための「理念法」制定等が有効であると考えられる。
5)ゲノムリテラシー向上に資する啓発資料の作成に関する研究
小学生、中学生、高校生向けの啓発資料、一般向け啓発ポータルサイトの作成を行った。啓発資料はその内容を文部科学省が制作・配布している副読本などでも参考にされることが望ましい。
広義の遺伝的特徴には、「科学的根拠を伴う遺伝学的特徴」が含まれ、先進国の多くで人権問題としての位置づけがあること、保険や雇用など商取引での遺伝学的特徴の利用や私人間での遺伝学的検査受検要請などを優先して検討する必要があること、個人情報保護アプローチでは家族歴が保護されないこと、現時点では産業医や結婚相談所が積極的に遺伝学的検査の利活用を希望する状況にはないこと等が明らかとなった。今後、どのような行為を「差別」と指定するかについての検討が必要である。
2)米国とカナダにおける遺伝情報に基づく差別をめぐる法的規制の動向に関する研究
米国では、2008年に制定されたGenetic Information Nondiscrimination Act(GINA)によって健康保険分野、雇用分野における遺伝情報に基づく差別を禁止しているが、近年、雇用分野におけるウェルネスプログラムとの間で緊張関係が発生しており、時代に合わせた変革や国民理解に対する努力の必要性が示唆された。カナダでは、2017年にGenetic Non-Discrimination Actが可決され、保険の種類を問わずにサービスの提供や契約・協定を対象とした遺伝学的特徴に基づく差別の禁止を定め、雇用関連法制、人権擁護法制に遺伝学的特徴や遺伝情報に基づく差別を禁じる修正を加えていた。
3)遺伝情報の利用や差別的取扱いへの一般市民の意識に関する研究
回答者10,881人のうち、遺伝情報に基づく差別的取扱いを受けた経験がある者は約3%で、その原因の遺伝情報で最も多いのは家族歴であった。回答者は遺伝情報の利活用によるベネフィットを高く評価しながらも、遺伝情報の適切な取り扱いや遺伝情報に基づく差別に懸念を持ち、遺伝情報の取り扱いに関する法規制を望んでいた。
今後、遺伝情報やゲノム医療を取り巻く社会的状況、市民の態度は変化する可能性があり、引き続き、調査を行い、ゲノム医療を推進するための社会的基盤や法制度等に関する課題について検討する必要があると考えられる。
4)遺伝的特徴に基づく差別的取扱いに関する患者・障害者のヒアリング調査
26名の対象者のなかには、保険加入や婚姻時の不利益を受けた人がおり、自身らの遺伝情報を研究推進に役立てて欲しいと考える一方で、遺伝学的検査の受検や遺伝情報の提供に抵抗感を持つ人もいた。さらに遺伝的プライバシーの保護についても懸念があり、医療関係者等の守秘義務の強化は全協力者から支持された。
私人間での差別的取扱いに対する法規制は困難であるため、国民のリテラシー向上のための「理念法」制定等が有効であると考えられる。
5)ゲノムリテラシー向上に資する啓発資料の作成に関する研究
小学生、中学生、高校生向けの啓発資料、一般向け啓発ポータルサイトの作成を行った。啓発資料はその内容を文部科学省が制作・配布している副読本などでも参考にされることが望ましい。
結論
本研究では、遺伝的特徴に基づく差別的取扱いの概念整理、米国やカナダでの法的規制の動向、遺伝情報の利用に関する一般市民の懸念、患者・障害当事者の経験や懸念などを明らかにし、今後の厚生労働行政の基礎資料とした。
また、国民のゲノムリテラシーの向上に資する啓発資料原案を制作することができた。
また、国民のゲノムリテラシーの向上に資する啓発資料原案を制作することができた。
公開日・更新日
公開日
2017-09-22
更新日
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