文献情報
文献番号
201605017A
報告書区分
総括
研究課題名
遺伝学的検査の市場化に伴う国民の健康・安全確保への課題抽出と法規制へ向けた遺伝医療政策学的研究
課題番号
H28-特別-指定-019
研究年度
平成28(2016)年度
研究代表者(所属機関)
高田 史男(北里大学 大学院医療系研究科臨床遺伝医学)
研究分担者(所属機関)
- 福嶋 義光(信州大学 医学部)
- 小西 郁生(独立行政法人国立病院機構京都医療センター)
- 櫻井 晃洋(札幌医科大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生労働科学特別研究
研究開始年度
平成28(2016)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究費
8,854,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
遺伝学的検査は近年、医療の枠を越えて提供される様になり、医療機関を介さず消費者に直接販売される、「DTC遺伝子検査ビジネス」の市場は拡大傾向にある。「遺伝子検査ビジネス」には、検査の質保証、検査結果と解釈への科学的根拠の正当性や信頼性、結果を元に付加サービスを提供する際の科学的根拠と関連姓の有無、倫理的・法的・社会的課題、宣伝広告面での配慮・義務、検査前後に遺伝専門職が直接関わる遺伝カウンセリングの提供、顧客から収集した検体の保存や廃棄及び二次利用に関する適正な管理・運用、個人遺伝情報の利活用や、遺伝差別予防にも繋がる個人遺伝情報保護対策および検査実施前のインフォームド・コンセント等々の課題が挙げられるが、多くが未解決課題として山積する。一方、行政による監理面でも、欧米先進諸国と比較し整備面で遅れのある点は否めない。
本研究では、「ゲノム情報を用いた医療等の実用化推進タスクフォース」の議論を踏まえて、「ゲノム医療等の実現・発展の為の具体的方策について(意見とりまとめ)」として示された、検査の分析的妥当性の確保、科学的根拠の確保、遺伝カウンセリングへのアクセスの確保等について、課題の抽出・整理を行い、実効性のある取り組みの検討につなげることを目的とする。
本研究では、「ゲノム情報を用いた医療等の実用化推進タスクフォース」の議論を踏まえて、「ゲノム医療等の実現・発展の為の具体的方策について(意見とりまとめ)」として示された、検査の分析的妥当性の確保、科学的根拠の確保、遺伝カウンセリングへのアクセスの確保等について、課題の抽出・整理を行い、実効性のある取り組みの検討につなげることを目的とする。
研究方法
「DTC等の遺伝子関連検査の国内事業者・医療機関等に関する実態調査」として、DTC遺伝子関連検査を実施している事業者をWeb情報などにより網羅的に収集、これらの事業者及び医療機関を対象にアンケート調査を行った。加えて、多因子疾患の検査の科学的妥当性、国外の遺伝学的検査適正運用化へ向けての対応状況、生殖・周産期医療に関する遺伝学的検査の市場化に伴う課題、親子関係と法律・出生前親子鑑定事業の現状分析と問題点について、調査・検討を行った。
結果と考察
web上でDTC遺伝子関連検査を実施していると表明している事業者697機関にアンケートを実施、290機関から回答を得た。DTC遺伝子関連検査を現在実施していると回答した73機関のうち、経産省指針を遵守しているのは56%,個人遺伝情報取扱協議会(CPIGI)に加盟しているのは21.9%のみであり、きちんとしたガバナンスのもとで行われているとは言えない実態が明らかとなった。また、分析的妥当性の確保、科学的根拠の確保、および遺伝カウンセリングへのアクセスの確保のいずれも極めて不十分であった。そして、DTC遺伝子検査ビジネスと全く同じ検査が、医療機関において販売提供されている実態が明らかとなった。
多因子疾患の検査の科学的正当性に関する検討を行う中で、現在の「遺伝子検査ビジネス」のリスク判定の根拠に関して、リスク計算の具体的な手法が1社を除き示されていないこと、論文選定の具体的な手法と選定した(もしくは棄却した)根拠が示されていないこと、使用したリスク数値の由来が示されてないこと、リスクモデルの妥当性評価の手法を行ったかが示されていないことなどの問題が確認された。リスク判定の信頼性を担保するためには第三者が評価できるよう,上記について情報開示が必要であると考えられる。また、遺伝子関連検査への規制対応として、法的根拠に基づいた米国FDAの取組みや欧州におけるIVD規則案成立の見通しが確認された。
生殖・周産期医療および親子鑑定の検討においては、倫理的・法的・社会的課題の重要性とともに、生命の選択に関わる領域にもDTCによる遺伝学的検査技術の提供が拡がりつつある実情が浮き彫りとなった。
多因子疾患の検査の科学的正当性に関する検討を行う中で、現在の「遺伝子検査ビジネス」のリスク判定の根拠に関して、リスク計算の具体的な手法が1社を除き示されていないこと、論文選定の具体的な手法と選定した(もしくは棄却した)根拠が示されていないこと、使用したリスク数値の由来が示されてないこと、リスクモデルの妥当性評価の手法を行ったかが示されていないことなどの問題が確認された。リスク判定の信頼性を担保するためには第三者が評価できるよう,上記について情報開示が必要であると考えられる。また、遺伝子関連検査への規制対応として、法的根拠に基づいた米国FDAの取組みや欧州におけるIVD規則案成立の見通しが確認された。
生殖・周産期医療および親子鑑定の検討においては、倫理的・法的・社会的課題の重要性とともに、生命の選択に関わる領域にもDTCによる遺伝学的検査技術の提供が拡がりつつある実情が浮き彫りとなった。
結論
国民の健康と安全を確保する観点から、遺伝学的検査の提供に際しては医療・ビジネスに関わらず、分析的妥当性の確保、臨床的妥当性・臨床的有用性ないし科学的根拠の担保、遺伝カウンセリングへのアクセスの確保、倫理的・社会的・法的課題の解決、の4点についての対応が必要である。その上で、米国や欧州の遺伝子関連検査の分析的妥当性を確保するための取り組みは参考となる。検査提供機関全てに適用する我が国独自の枠組み、検査の質の担保にむけた、新法制定等も視野に検討が必要である。また、臨床的妥当性・臨床的有用性ないしは科学的根拠の担保の観点から、結果「解釈」及び、それを根拠に提供される医療やサービスの適正性について、評価・審査、規制を一元的に行う法律に基づいた機関の設置の検討も必要である。
膨大な数の因子が関与する多因子疾患や体質を扱う時代を迎え、統計解析をはじめとする「確率」の理解が極めて重要になる。そのため、遺伝カウンセリングへのアクセスの確保に加えて、遺伝統計学の専門家の養成も急務である。そして、倫理的・社会的・法的課題の解決や、民間保険への加入や雇用等に際しての遺伝差別防止策の検討も今後の課題である。
膨大な数の因子が関与する多因子疾患や体質を扱う時代を迎え、統計解析をはじめとする「確率」の理解が極めて重要になる。そのため、遺伝カウンセリングへのアクセスの確保に加えて、遺伝統計学の専門家の養成も急務である。そして、倫理的・社会的・法的課題の解決や、民間保険への加入や雇用等に際しての遺伝差別防止策の検討も今後の課題である。
公開日・更新日
公開日
2017-12-28
更新日
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