盲聾者を主対象にした任意の触読パターンが作成可能な三次元レーザ・プリンタに関する研究

文献情報

文献番号
199800541A
報告書区分
総括
研究課題名
盲聾者を主対象にした任意の触読パターンが作成可能な三次元レーザ・プリンタに関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
数藤 康雄(国立身体障害者リハビリテーションセンター研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 小田浩一(東京女子大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 感覚器障害及び免疫・アレルギー等研究事業(感覚器障害研究分野)
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
45,300,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
盲聾者と呼ばれる重複障害者は一般に視覚や聴覚からの情報入力が困難で、触覚が唯一の入力経路になる。このため点字に代表される触読法は彼らにとって極めて重要なコミュニケーション手段となっているが、点字の最大の欠点は、いかに訓練を行なっても後天的な盲聾者などの中には点字の読み書きを修得できない人も多い、ということである。したがって本研究の目的は、3年計画で、①点字の読めない盲聾者などの視覚障害者のために容易に触読可能な浮き出し文字を普通紙に出力できる小型の個人用三次元レーザ・プリンタを開発し、②そのプリンタを用いて触読に最適な浮き出し文字パターンを考案し(例えば英国ではAの浮き出し文字はΛというパターンに対応させている)、③浮き出し文字修得のための効果的な訓練方法を開発することである。
研究方法
研究1年目となる今年度は、まず半導体レーザ光を照射することによって普通紙に浮き出し文字を印刷できる熱膨張性インクリボンの開発とそのようなインクリボンを用いて普通紙に連続して任意の触読文字を印刷可能にする印刷機構の開発を行う。また印刷した触読文字の高さがどの程度であるかを測定するために、手軽に触読文字の形状を計測できる三次元形状測定器を開発する。さらに小型・軽量な印刷機構の開発のために2つの方式、すなわち①半導体レーザを移動台に載せ、一文字分のレーザ光走査はポリゴン・ミラーで行うポリゴン方式と、②半導体レーザは移動台に置かず集光レンズのみを移動台に載せ、半導体レーザと集光レンズとは光ファイバで接続するファイバ方式を試作する。そして触読文字につては、すでに実用化されているアルファベット文字(ムーン・レター)についてフォント・パターンなどを作成するとともに、日本語を使用する際に適したフォント・パターンについても検討する。
結果と考察
まず熱膨張性インクリボンの開発については、視覚障害者が一人で取り替えることのできるようにカセット式の構造を考慮して、リボンの長さは30m、幅は2.5cmのテープ状のものを試作した。このインクリボンは、ポリエステルフィルム(厚さ6μm)上に感熱接着層や特殊な発砲インク層、剥離層などを塗布したものである。そしてこのリボンを、後述するポリゴン方式の印刷機構に取り付け結果、ガイドピンの位置を工夫すれば、問題なく印刷することが可能となった。
三次元形状測定器についてはセンサが接触子タイプのものと半導体レーザのものについて検討した。接触子タイプのものは精度は高いものの、測定時間がかかるという欠点があり、逆に半導体レーザを利用したものは、測定面積は多少小さく精度も多少劣ることがわかった。しかし発泡高さの測定精度は、精密機械部品のような精度は要求されないうえに、半導体レーザを利用すると1万点を約7分程度で測定可能であるため、最終的には半導体レーザを使用した形状測定装置を開発した。そして今回開発したインクリボンの発泡状態を計測した結果、約0.3mmの膨張があり、この値は、現状の点字の高さ(0.43mm)に比べると多少低かった。次年度ではより膨張するインクを開発するとともに、現状の高さで問題になるかどうかについて検討していきたい。
印刷機構については、①ポリゴン・ミラーを用いたポリゴン方式、②半導体レーザ光を光ファイバで集光レンズに導く光ファイバ方式の二方式について試作し、その性能を比較することにした。まずポリゴン方式では半導体レーザと光走査を行うポリゴンミラーを移動台上に設置し、ポリゴン・ミラーの動きによって文字作成のための光走査を行うものである。光の集光にはfθレンズを使用した。この方式の利点は、既存技術の組み合わせで印刷機構を設計できるので開発にリスクが少ない点だが、逆に欠点は、使用した部品が高価なので実用化した場合の製品価格が高くなる可能性が大きいことや印字速度がやや遅いことなどであった。
一方光ファイバ方式とは、半導体レーザからの光を光ファイバ経由で集光レンズに送り、その集光レンズをリニアモータ2台で平面上を動かすことによって光の走査を行うものである。この方式では、高価なポリゴン・ミラーやfθレンズを使用せず、安価なリニアモータと単眼レンズですむため、製品化した場合にも価格を低くできる可能性があることがわかった。またリニアモータ2台で光を走査するというシンプルな印刷機構部を構成した結果、機械式の点字プリンタのような騒音は発生しないことも明らかになった。
この二つの方式を比較すると、ファイバー方式の印刷機構は、印字速度などの性能も優れているうえに、実際に製品化した場合には安価になる可能性が高い。この種のプリンタは、今後、職場や家庭において視覚障害者・晴眼者が使用するパソコンの出力装置のひとつになると思われるので、実用化については価格の要素が重要な決め手となるであろう。今回の試作品を評価した結果、次年度に予定している三次元レーザ・プリンタの開発は、光ファイバ方式でいくことにした。
点字の読めない盲聾者に適した触読文字については、イギリスではムーン・レターというアルファベット文字に近い文字パターンが実用化されているが、本邦ではこれまでまったくと言っていいほど検討されていないことがわかった。このためカタカナ文字を基本とした独自の文字パターンを作成しすることにした。そしてパターン作成の際には、文字を読む速度よりも、読みの確実性を重視するという評価基準で、点字を読めない盲聾者にふさわしい触読文字を開発することに決めた。
結論
点字の読めない盲聾者などの視覚障害者のために容易に触読可能な浮き出し文字を普通紙に出力できる個人用三次元レーザ・プリンタの開発を目的として研究を行なった。その結果、半導体レーザの短時間の照射でも発泡するテープ状のインクリボンを開発できた。また印刷機構についてはポリゴン・ミラーを利用する方式と光ファイバを利用する方式について試作し、その性能・価格などを評価したが、最終的に光ファイバ方式の方が将来性のあることが確認できた。この結論をもとに次年度では視覚障害者が手軽に利用できる三次元レーザ・プリンタを開発していきたい。

公開日・更新日

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