エビデンスに基づく日本の保健医療制度の実証的分析

文献情報

文献番号
201604001A
報告書区分
総括
研究課題名
エビデンスに基づく日本の保健医療制度の実証的分析
課題番号
H26-地球規模一般-001
研究年度
平成28(2016)年度
研究代表者(所属機関)
渋谷 健司(東京大学大学院医学研究科 国際保健政策学)
研究分担者(所属機関)
  • 多田羅 浩三(大阪大学名誉教授・日本公衆衛生協会・会長)
  • 岡本 悦司(福知山公立大学地域経営学部医療福祉マネジメント学科・教授)
  • 橋本 英樹(東京大学・健康社会学・教授)
  • 井上 真奈美(東京大学大学院、健康と人間の安全保障・特任教授)
  • 康永 秀生(東京大学・臨床疫学・経済学・教授)
  • 川上 憲人(東京大学・精神保健学・教授)
  • 飯塚 敏晃(東京大学大学院・経済学・教授)
  • 近藤 尚己(東京大学・健康社会学・准教授)
  • 小池 創一(自治医科大学・地域医療政策学・教授)
  • Stuart Gilmour(スチュアート ギルモー)(東京大学大学院、国際保健政策学・助教)
  • Md Mizanur Rahman(エムディー ミジャヌール ラーマン)(東京大学大学院、国際保健政策学・特任助教)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 地球規模保健課題解決推進のための行政施策に関する研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究費
4,424,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
世界保健機関(WHO)の制度比較の枠組みを用いた近年の我が国の保健医療制度の包括的分析としては、多々羅・岡本らによる「Health Systems in Transition(HIT)」レポート(2009年)、渋谷・橋本らによる「英ランセット誌日本特集号」(2011年)がある。ユニバーサル・ヘルス・カベレッジ(UHC:全ての人に基本的な保健サービスを支払い可能な価格で普及させること)が大きな政策目標となったグローバルヘルス分野において、我が国の知見がアジアを中心とした発展途上国から求められている。本研究は上記2つの包括的分析を行った研究チームが共同で研究を実施し、WHOのAsia Pacific Observatory on Health Systems and Policies(APO)との連携のもと、HITの枠組みを活用し、我が国の保健医療制度の現状と課題、そして、将来像を実証的かつ包括的に分析し、グローバルヘルス政策に資することを主な目的とする。特に最終年度は G7伊勢志摩サミットと神戸保健大臣会合への貢献を行う。
研究方法
平成28年度はHITの枠組みを活用し、都道府県別の疾病負荷(Subnational Burden of Disease)に関する包括的分析を行った。分析結果は、本研究課題の中心課題としてHITレポートの更新版の日本の医療政策概要に関する章に組み込まれる予定である。少子高齢化及び疾病構造の変化が医療制度にもたらす影響は日本全体の課題であるが、その影響は地域(都道府県)によって大きく異なる。この都道府県別の疾病負荷及び関連するリスクファクターに関する包括的な分析の結果は、医学誌ランセット(The Lancet)に掲載される予定である(受理済み)。現在は、HITレポート更新版の最終化に向けて、日本の健康格差、保健医療再建策、並びに高齢化のインパクトを見積もった実施報告書を作成中である。
結果と考察
少子高齢化及び疾病構造の変化が医療制度にもたらす影響は日本全体の課題であるが、その影響は地域(都道府県)によって大きく異なる。世界の疾病負担(GDB:Global Burden of Disease)の手法を用いて、米国ワシントン大学・保健指標評価研究所(IHME)との協力のもと、1990年から2015年の間における各都道府県における平均寿命、健康寿命、主要死因、DALY及びリスク因子等に関する都道府県レベルでの変化に関する分析を行った。1990年から2015年の間で、平均寿命は4.3年、健康寿命は3.5年の伸びが見られたが、同時に都道府県間の格差も2.5年から3.1年(平均寿命)、2.3年から2.7年(健康寿命)へと拡大が見られた。都道府県格差が生じる要因としてリスク因子、医療インプット(医療従事者数等)の分析を行ったが統計学的な有意差は得られなかった。今後、都道府県の健康格差を生む要因についてより詳細は分析を行っていく予定である。今後は、過去に行われた日本の保健システムの構造再建に関わる結果と比較し、日本の保健システム再建と将来需要に関する総括的評価を深める。また、現在、平成29年末をめどにHITレポートの更新版を発行予定であるが、本研究結果も主要課題として掲載予定である。
結論
平成29年末までにHITレポート更新版の最終報告書を出版予定であるが、研究結果はAPOネットワークを通じて広く公表される予定である。これらの研究から得られた知見は、UHCを達成した日本の足跡をたどる開発途上国が、疾病構造や人口動態の変化が医療財政制度に及びす影響についての対処を講じるために有用となる。今後は、APO研究のハブとして、国際共同研究ネットワークを我が国がリードすることも目指す。

公開日・更新日

公開日
2017-06-13
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201604001B
報告書区分
総合
研究課題名
エビデンスに基づく日本の保健医療制度の実証的分析
課題番号
H26-地球規模一般-001
研究年度
平成28(2016)年度
研究代表者(所属機関)
渋谷 健司(東京大学大学院医学研究科 国際保健政策学)
研究分担者(所属機関)
  • 多田羅浩三(日本公衆衛生協会、公衆衛生、会長)
  • 岡本悦司(国立保健医療科学院、上席主任研究官)
  • 橋本英樹(東京大学、公共健康医学専攻保健社会行動分野、教授)
  • 井上真奈美(東京大学大学院、健康と人間の安全保障、特任教授)
  • 康永秀生(東京大学、臨床疫学経済学分野、教授)
  • 川上憲人(東京大学、精神保健学分野、教授)
  • 飯塚敏晃(東京大学大学院、経済学研究科、教授)
  • 近藤尚己(東京大学、公共健康医学専攻保健社会行動分野、准教授)
  • 小池 創一(自治医科大学・地域医療政策学、教授)
  • Stuart Gilmour(スチュアート ギルモー)(東京大学大学院、国際保健政策学、助教)
  • Md Mizanur Rahman(エムディー ミジャヌール ラーマン)(東京大学大学院、国際保健政策学、特任助教)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 地球規模保健課題解決推進のための行政施策に関する研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
世界保健機関(WHO)の保健医療制度比較の枠組みを用いた近年の我が国の保健医療制度の包括的分析としては、多々羅・岡本らによる「Health Systems in Transition HIT」(2009年)レポート、渋谷・橋本らによる「英ランセット誌日本特集号」(2011年)がある。UHC(全ての人に基本的な保健サービスを支払い可能な価格で普及させること)が大きな政策目標となったグローバルヘルス分野において、我が国の知見がアジアを中心とした発展途上国から求められている。本研究は上記2つの包括的分析を行った研究チームが共同で研究を実施し、WHOのAsia Pacific Observatory on Health Systems and Policies (APO)との連携のもと、HITの枠組みを活用し、我が国の保健医療制度の現状と課題、そして、将来像を実証的かつ包括的に分析し、グローバルヘルス政策に資することを主な目的とする。
研究方法
本研究では、厚生労働省、内閣府およびOECDで公表済みのデータ及び厚労省二次利用申請済みデータを用いて、日本の保健システムに関するレビュー並びに分析を実施した。
結果と考察
我が国は1989年から一貫して世界第1位の平均寿命を誇っているが(東日本大震災があった2011年は除く)、これは特に心血管疾患及び悪性新生物による死因が減少したことが大きい。しかしながら、2005年を境に年齢調整死亡率・DALYsともに減少のスピードは鈍化を見せており、「保健医療2035」で提示されたようなパラダイムシフトが今まさに求められていると言える。
 平均寿命や健康寿命の地域格差は拡大傾向にあり、先行研究でも指摘されてきた通り、北日本に行くにつれその健康指標は悪化が見られる。これは、人口動態や疾病構造の変化への対応が地域間で公平ではなかったことを示唆するものであり、今後は各都道府県の事情に合わせた医療制度の構築が求められる。このような地域格差を生む要因として、生活習慣(食塩摂取や喫煙)との関連性を分析したが有意差は得られなかった。この結果からは医療制度の差といったその他の誘因によって地域差が惹起されている可能性があるが、他方で、地域レベルにおける危険因子に関するデータが本研究では不十分だった可能性もあり、この点については今後、さらなる検証が必要である。同様に、地域レベルでの医療資源の投入(人口当たりの医療従事者数、一人当たり医療費)と健康指標の地域間格差についても分析を行ったが有意差が得られなかった。今後は、健康指標に影響を与えうるその他の社会経済的要因について分析が必要である。
結論
1990年から2015年の間に、我が国おいては平均余命の伸長及び、死亡率・合併症の大幅な減少を見せた。しかしながら、その減少率は2005年以降鈍化傾向にあり、また健康指標の改善率には地域間格差があることもわかった。高齢化により、日本の保健システムが様々な課題に直面しており、安定的な財政と保健格差の不安は国際的にも周知の事実である。「保健医療2035」で唱えられたビジョンを踏まえ大胆な制度改革が望まれるとともに、国レベルでのより一層の予防対策の強化や、地域の実情に合わせた地域毎の対策強化が今後は必要である。

公開日・更新日

公開日
2017-06-13
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2017-06-13
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201604001C

成果

専門的・学術的観点からの成果
WHOのAsia Pacific Observatory on Health Systems and Policiesとの連携のもと、医療制度レポート「Health Systems in Transition(HiT)」の枠組みを活用し、我が国の保健医療制度の現状と課題、そして、将来像を実証的かつ包括的に分析を行った。研究成果については3年間の研究機関を通じて合計14の海外査読誌に掲載された。
臨床的観点からの成果
本研究は、現在の「日本の保健医療制度」、「日本人の健康状態」及び「非感染性疾患(以下NCDs)による疾病負担の増大及び高齢化社会といった政策決定者が直面する重要な課題」を体系的に評価した。また、近年行われた主な政策転換の概要及び変遷を提示し、これらが医療施設及び介護システムにもたらした影響について量的手法を用いて検証した。
ガイドライン等の開発
WHO(世界保健機関)やWB(世界銀行)からなるパートナーシップであるAPO(Asia Pasicif Observatory)ではその成果物として各国の保健医療体制を包括的に分析した報告書「Health Systems in Transition (HiT)」を国別に発行している。本研究成果はHiTレポートの枠組みに沿って取りまとめられており、2017年12月に発行予定である。
その他行政的観点からの成果
過去10年にわたる日本の保健医療制度の変革から明らかになった教訓はアジアの発展途上国と共有され、各国のUHC達成への道しるべとなることが期待される。本プロジェクトの結果は特に以下の点において有用である。1)日本の保健医療制度が直面する課題及び解決のための今後の政策転換への示唆に関する系統的な考察、2)近い将来日本と同様の疫学的課題を伴う経過を辿るであろうアジアの発展途上国が課題を解決すべき政策戦略の提示及び共有、3)特定の価格と金融政策が保健医療制度の活用に与える効果に関する科学的知見の提供。
その他のインパクト
特になし

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
14件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
0件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Nomura S, Haruka S, Scott G, et al. (31 co-authors)
Slowed-down progress in population health and increasing regional variations of disease burden in Japan, 1990-2015: a systematic subnational analysis for the Global Burden of Disease Study 2015.
The Lancet  (2017)
原著論文2
Tokunaga M, Hashimoto H
The socioeconomic within-gender gap in informal caregiving among middle-aged women: Evidence from a Japanese nationwide survey
Social Science & Medicine , 173 , 48-53  (2017)
原著論文3
Islam MR, Rahman MS, Islam Z, Zhang C, Sultana P, Rahman MM
Inequalities in financial risk protection in Bangladesh: an assessment of universal health coverage.
International Journal for Equity in Health , 16 , 59-  (2017)
原著論文4
Rahman MM, Akter S, Jung J, Rahman MS, Sultana P.
Trend, projection, and appropriate body mass index cut-off point for diabetes and hypertension in Bangladesh
Diabetes Research and Clinical Practice , 126 , 43-53  (2017)
原著論文5
Reich M, Shibuya K
The Future of Japan’s Health System – Sustaining Good Health with Equity at Low Cost
New England Journal of Medicine , 373 , 1793-1797  (2015)
原著論文6
Liao Y, Gilmour S, Shibuya K
Health Insurance Coverage and Hypertension Control in China: Results from the China Health and Nutrition Survey
PLOS ONE , 11 , E0152091-  (2016)
原著論文7
Rahman M, Abe SK, Kana M, Narita S, Rahman MS, Bilano V, Ota E, Gilmour S, Shibuya K
Maternal body mass index and risk of birth and maternal health outcomes in low- and middle-income countries: A systematic review and meta-analysis
Obesity Reviews , 16 , 758-770  (2015)
原著論文8
Noguchi H
How does the price regulation policy impact on patient-nurse rations and the length of hospital stays in Japanese hospital?
Asian Economic Policy Review , 10  (2015)
原著論文9
Gilmour S, Liao Y, Bilano V, Shibuya K
Burden of disease in Japan; Using national and subnational data to inform local health policy
Journal of Preventive Medicine and Public Health , 47 , 136-143  (2014)
原著論文10
Okamoto E
Farewell to free access: Japan’s universal health coverage
East Asian Forum  (2014)
原著論文11
Ueda P, Kondo N, Fujiwara T
The global economic crisis, household income and pre-adolescent overweight and underweight: a nationwide birth cohort study in Japan
International Journal of Obesity , 1  (2015)
原著論文12
Bilano V. Gilmour S, et al.
Global trends and projections for tobacco use, 1990-2025: an analysis of smoking indicators from the WHO Comprehensive Information Systems for Tobacco Control.
The Lancet , 385 , 966-976  (2015)
原著論文13
Nishino Y, Gilmour S, Shibuya K
Inequality in diabetes related hospital admissions in England by socioeconomic deprivation and ethnicity: Facility-based cross-sectional analysis.
PLOS ONE , 10 , e0116689-  (2015)
原著論文14
Saito E, Gilmour S, Rahman MM, Gautam SS, Shrestha PK, Shibuya K
Catastrophic household expenditure on health in Nepal: a cross-sectional survey
Bulletin of the World Health Organization , 92 , 760-767  (2014)

公開日・更新日

公開日
2018-07-05
更新日
-

収支報告書

文献番号
201604001Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
5,750,000円
(2)補助金確定額
5,750,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 1,101,099円
人件費・謝金 832,363円
旅費 2,358,313円
その他 132,225円
間接経費 1,326,000円
合計 5,750,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2017-06-13
更新日
-