無侵襲脳局所酸素モニタによる聴覚障害の機能診断と治療への応用に関する研究

文献情報

文献番号
199800539A
報告書区分
総括
研究課題名
無侵襲脳局所酸素モニタによる聴覚障害の機能診断と治療への応用に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
森 浩一(国立身体障害者リハビリテーションセンター研究所)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 感覚器障害及び免疫・アレルギー等研究事業(感覚器障害研究分野)
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
-
研究費
43,200,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
聴覚・言語障害は、障害の部位や程度が患者によって多様であり、このことが治療やリハビリテーションを困難にする原因の一つとなっている。特に中枢性の原因が関与する聴覚障害に関しては、従来のMRIによる解剖的検査やSPECTの安静時脳血流測定では脳の機能から見た診断は十分ではなく、診断しえたとしても、機能測定ではないこととと、小児に反復実施が困難であることにより、日常臨床の場で経過の観察やリハビリテーションに活用することは困難である。したがって、脳機能の局在診断の研究がリハビリテーション等の治療に益するところは大である。本研究は、近赤外分光法(以下、NIRS法)による無侵襲脳局所酸素モニタを聴覚障害の機能的診断および治療に活用しようとするものである。種々の音や音声・言語に対する反応を直接脳から記録することで、行動や表出が未発達ないし障害されている患者の場合にも聴覚障害の機能的診断を可能にし、かつ繰り返し実施することを可能とすることを最終目的とする。
NIRS法の有効性の確認および比較研究として、fMRIとMEGによる記録を実施した。fMRIでは、聴覚野の活動を見る手法を新たに開発した。今後の精密なNIRS法との比較検討のため、fMRIでも聴覚反応が得られるように工夫する必要がある。脳磁図(MEG)では各種の誘発反応を記録し、その活動推定部位をMRI脳画像上に重ねて表示し、NIRS法実施のための基礎データとすることができる。各種の音ないし言語音に対する正常者および発達性言語障害児、発達性吃症例の記録を行った。
研究方法
平成10年度は、多チャンネル無侵襲脳局所酸素モニタによるトポグラフィ装置および単チャンネル無侵襲脳局所酸素モニタを導入し、両者を比較しつつ正常成人被験者で聴覚反応および言語タスクによる反応が得られることを確認した。11年度には小児への最適な適応法を研究し、12年度には障害者の治療やリハビリテーションへの活用を研究する予定である。
NIRSの測定方法としては、同時2波長の連続光によるものと、断続光で波長を切り替えるものがある。前者としてETG-100(日立メディコ)、後者としてOM-100AS(島津製作所)を使用し、比較検討した。OM-100ASは直径2 mmの光ファイパーで受光部のプローブを構成し、プローブ先端はファイバーと直角になっている。被検者に対しては、送・受光部を3ないし4 cm離して聴覚野上と思われる位置の頭皮上に、髪の毛を掻き分けてプローブ先端を圧迫固定した。ETG-100については、被検者にはプラスチック製のプローブ固定用モールドを左右側頭部に装着し、このモールドに3 cm間隔で9個のプローブを格子状に取り付ける。測定点は片側につき12、両側で計24である。
NIRSトポグラフィ装置による記録には、ETG-100を用いた。光プローブの装着位置は、最下位の列のプローブがBroca野から聴覚連合野を含む位置に来るようにした。被検者には筆記による単語の産出課題(対照は絵の模写)と音刺激課題(トレモロ音等と男性話者による日本語科学論文の朗読の聴取)を行わせた。筆記による単語産出課題においては、筆記そのものによる脳活動を統制するため絵の模写をバックグラウンド課題とし、単語産出時のoxy-Hb、deoxy-Hb、total-Hbの値を調べた。測定結果は、各課題10回の繰り返しのうち、粗大なアーチファクトを目視で除いたものを加算平均した。
fMRIによる聴覚皮質からの記録については、音の提示方法の改善と撮像条件の変更により、fMRIによっても聴覚野の記録が可能なような条件を工夫した。疑似耳での計測で防音特性が最も良かったDeciDamp2の中央に直径1.5 mmのチューブを通してfMRI用のインサートイヤホンとした。1.5 Tesla MRI 装置(VISART MRT-200/F1、東芝)にて記録した。スライス枚数5~7枚の撮像を記録周期10秒の最後に集中させることで、10秒中7~8秒は撮像のない時間があり、被験者は提示音を問題なく聴取できた。
NIRS方にて記録する準備として、各種の大脳誘発反応を122チャンネルの全頭型MEG装置 (Neuromag 122) にて誘発脳磁界を選択的加算平均し、記録した。解析は主にN1mの反応極大の誘発等価電流双極子 (ECD) を求めた。音像移動誘発反応としては左右相関ノイズによる音刺激を、吃音者の記録では断定・質問・命令の3単語を使用し、オドボール課題でミスマッチ脳磁界MMFを検出した。日本語話者の英語/r/, /l/学習に関連するMEG記録については、右利き被検者を対象に合成音声の英語/ra/と/la/を刺激材料とし、オドボールパラダイムを用いたMEG記録を行った。
結果と考察
まずNIRS法の機種による相異を検討した。OM-100ASではプローブが太いので髪の毛を完全に避けることはできないが、感度が高いため、頭皮が見える程度に髪の毛を掻き分けておけば十分に記録可能であった。ETG-100では、18本のプローブを取り付ける必要があり、先端が1 mmと細いため、確実に毛髪を避けないと光量不足になる。このため装着にある程度の習熟が必要である。大きなアーチファクトは全時間経過の一覧波形を見ることでおおむね除外することができた。OM-100ASは1ヶ所の記録しかできないため、最適な記録位置を探るのは容易ではない。また、波長毎に異なる時刻にデータをサンプルしている影響と思われるノイズがまれに生じた。これは1点のみ離れ値として出現するので、アーチファクトとしての判定は容易ではある。ETG-100では面に近い計測のため、装着位置によって誘発反応を記録し損ねる危険は少ない。
NIRSトポグラフィ装置による記録は、単語の産出課題と、各種音刺激の聴取課題にて行った。単語産出中に左右半球ともすべての被検者で何らかの活動が観察された。左側頭の記録部位にoxy-Hbとtotal-Hbの上昇を75%の例で観察した。典型的にはdeoxy-Hbの量はほとんど変化せず、fMRIではあまり大きな変化としては捉えられない反応である。この反応の隣接部においては、deoxy-Hbの減少している部分もあったが、fMRIでよく言われているようにoxy-Hbが上昇してdeoxy-Hbが下降する例(2/8)より、両成分共に低下する反応の方が多くの被検者(3/8)に見られた。右側の記録部位においては、半数の例にdeoxy-Hbの変化なしにoxy-Hbとtotal-Hbが上昇する部位が認められた。これ以外には、両者の低下がみられた部位(症例)、oxy-Hbとdeox-Hbが同期して上昇または低下がみられた部位(症例)があり、一定した変化は得られていない。しかし、いずれの場合も単語産出と同期した変動であり、目立った運動によるアーチファクトもないことから神経活動にともなった血液量の変化による反応であると考えられた。他施設の研究でも、若年成人ではoxy-Hbの増加する反応がよく見られ、40歳代以降ではoxy-Hbとdeoxy-Hbの両者が下降する例が増えるとの報告もあり、今回の結果はそれに合致するものと思われる。
純音と帯域雑音による反応をみると、音の提示にともなってoxy-Hbとtotal-Hbの上昇が左右両側で同程度見られることがあった。また純音の反応は帯域雑音より小さかった。
将来的にNIRS法と比較する目的で、fMRIによって聴覚皮質からの記録が得られるように工夫した。最も遮音特性に優れた耳栓であるDeciDamp2を使用してインサートイヤホンとして刺激音伝達に用いた。これに加えて10秒周期の間欠撮像で記録すると全被験者について聴覚野の反応が得られた。
MEGによる記録において、移動音像については、記録側と反対方向への移動に対して大きな反応が見られた。左右聴力差のある被検者では、音圧を補正しても反応が弱かった。吃音者では、対照非吃音者とくらべて、音韻やピッチの変化に対する反応が左右共に非吃音者より小さく、かつ音韻の違いによるECDに左右差を認めなかった。日本語話者の英語/r/, /l/学習に関連しては、弁別訓練後の成績下位群では左右両半球でECDの大きさに差はないが、成績上位群で左半球のECDが右よりも大幅に増大しており、学習の進行と左半球の活動の優位性が並行していた。
結論
成人被検者に対して、NIRS法によって、言語課題による反応は全例で認められ、音の聴取課題においても多くの例で何らかの反応が見られた。反応の型は典型的にはoxy-Hbの増加であるが、deoxy-Hbの減少する場合や逆に上昇する場合があり、fMRIでは捉えられない変化も見える可能性が示唆された。
fMRIによって聴覚野の反応を記録するため、音刺激系と撮像スケジュールの両者を変更し、第一次聴覚野の反応が良く取れるようになった。これにより、にNIRS法との比較をすることができるようになった。
MEGでは音や言語に対する反応を記録し、将来NIRS法で聴覚・言語障害者に使用する刺激の種類を探った。

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研究報告書(紙媒体)