高齢者医療の適正化推進に向けたエビデンス診療ギャップの解明‐既存データベースを利用した、京都大学オンサイトセンターにおけるレセプト情報等データベース(NDB)の活用方策の検討

文献情報

文献番号
201603003A
報告書区分
総括
研究課題名
高齢者医療の適正化推進に向けたエビデンス診療ギャップの解明‐既存データベースを利用した、京都大学オンサイトセンターにおけるレセプト情報等データベース(NDB)の活用方策の検討
課題番号
H27-政策-戦略-013
研究年度
平成28(2016)年度
研究代表者(所属機関)
中山 健夫(京都大学 大学院医学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 今中 雄一(京都大学 大学院医学研究科)
  • 奥野 恭史(京都大学 大学院医学研究科)
  • 加藤 源太(京都大学医学部附属病院診療報酬センター)
  • 黒田 知宏(京都大学医学部附属病院医療情報企画部)
  • 田中 司朗(京都大学 大学院医学研究科)
  • 田村 寛(京都大学医学部附属病院医療情報企画部)
  • 福原 俊一(京都大学 大学院医学研究科)
  • 福間 真悟(京都大学 大学院医学研究科)
  • 武藤 学(京都大学 大学院医学研究科)
  • 柳田 素子(京都大学 大学院医学研究科)
  • 山本 洋介(京都大学 大学院医学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(臨床研究等ICT基盤構築研究)
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究費
24,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
我が国は世界に先駆けて超高齢社会を迎えつつあり、我が国における「高齢者医療のあり方」の検討と方向性の提示は重要な国民的課題である。高齢者は複数の併存症を持ち、複雑な診療パターンをとるため不適切な医療行為が生じやすく、エビデンス診療ギャップが生じている。
一方、健康・医療に関する大規模データの分析結果の活用は厚生労働省における重要な課題の一つである。国レベルではレセプト情報・特定健診等情報データベース(National database;NDB)を基に平成26年度に東京大学と京都大学にNDBオンサイトセンターが設置された。このような背景のもと、本研究の目的は1)NDBおよびその他の大規模データベースを用いて4つの個別テーマに関し、リサーチクエスチョンの解決を通じて施策への応用が可能な知見を導出する、2)NDBの活用基盤を整備する、の2つとした。
研究方法
本研究では高齢者医療におけるエビデンス診療ギャップに関してNDBオンサイトセンター京都におけるレセプトデータ、京大病院データ、民間データベースを利用し、4つの個別テーマ(不適切処方、がん治療、慢性腎臓病(CKD)診療、終末期医療)についてリサーチクエスチョンを立て高齢者の診療実態を解明した。NDBのバリデーションを行い健康医療分野に関わる既存データベースの可能性と課題を明らかにした。
結果と考察
平成28年度はデザインペーパーが国際誌に受理された。平成27年度に引き続き、4つのテーマについてNDBデータ、京大病院および関連病院院内データ、民間データを用いてデータマネジメントおよびデータ解析し、テーマごとのリサーチクエスチョンに対する知見を得た。学会発表、論文作成・投稿を行った。
「不適切処方」については、NDB特別抽出データ(平成22~23年)を用いて高齢者における不適切処方の実態を把握し、STOPPリスト、Beersリスト、Charlson Comorbidity Indexと照合した。その結果、解釈には留意が必要であるものの、不適切が疑われる処方に関する期間有病割合、ならびにSTOPPに関しては新規発生率の推定に成功した。得られた知見を基に、さらに条件設定を厳格化するなどして、今後、再検証を行う予定である。
「がん治療」について、高齢者における胃癌の治療実態把握を行った。NDB特別抽出データ(平成23~24年)をもとに年代別/施設別治療施行状況、治療内容を調べたところ、「がん診療連携拠点病院」で治療されている胃がん患者は胃がん患者全体の約1/4(がん拠点病院 47,002人、拠点病院以外 138,005人)であることが判明した。化学療法使用薬剤の上位3位はS-1、シスプラチン、パクリタキセル、シスプラチンであり、胃がんの治療ガイドライン推奨と一致した。NDBデータを基にしたこれらの知見は、今後のがん治療の発展のために有用な情報であると考えられた。
「CKD診療」に関してNDB特別抽出データ(平成22~26年)を用い、診療の質について京都大学が開発したCKD診療の質指標11項目のうち、レセプトで測定可能な3項目を選び、RAND/UCLA適切性メソッドを用いて評価した。抽出条件に適合した慢性腎臓病患者(60歳以上)を対象に、末期腎不全をアウトカムとして経時的にデータを追跡したところ、CKDステージが進行すればレセプト病名の感度は上昇することがわかった。また、NDBを活用し正しい結果を得るためには、臨床疫学的な課題を適切に対処できる臨床研究デザインや解析手法を選択することが重要である知見も得た。
「終末期医療」については、NDBサンプリングデータ(平成23~26年)を用い高齢者がん診療について米国の実態と比較したところ、日本は死亡1ヵ月前にかかる入院費は先進国中、高い方であった。民間データを利用してレセプトの死亡情報の妥当性についても検証した。
これらのデータ解析を通してNDBデータベースの可能性と課題を明確にした。レセプト情報等の第三者提供制度に関して普及・啓発を検討した。大規模データベース活用に際する倫理・法律・社会的課題も検討した。
結論
平成28年度は我が国の高齢者医療に関する4つの個別テーマについて解析作業を進めた。各データの特性を把握し、性能を評価した。一方でNDBデータの実際の利用に際しては、臨床医学や疫学のみならず、医療情報に関わる知識や保健医療政策の動向、保険診療の基本的な仕組み等、多岐に渡る知識・技術が必要である。今後は、既存のデータベースの潜在的な価値を認識し、データベース「単品」の利用はもちろん、データベース相互の横の連係も含めたシステムの構築を進め、各領域の専門家を効果的に配置する必要がある。その体制作りがNDBの利活用活性化のために重要であることが判明した。

公開日・更新日

公開日
2018-06-06
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201603003B
報告書区分
総合
研究課題名
高齢者医療の適正化推進に向けたエビデンス診療ギャップの解明‐既存データベースを利用した、京都大学オンサイトセンターにおけるレセプト情報等データベース(NDB)の活用方策の検討
課題番号
H27-政策-戦略-013
研究年度
平成28(2016)年度
研究代表者(所属機関)
中山 健夫(京都大学 大学院医学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 今中 雄一(京都大学 大学院医学研究科)
  • 奥野 恭史(京都大学 大学院医学研究科)
  • 加藤 源太(京都大学医学部附属病院診療報酬センター)
  • 黒田 知宏(京都大学医学部附属病院医療情報企画部)
  • 田中 司朗(京都大学 大学院医学研究科)
  • 田村 寛(京都大学医学部附属病院医療情報企画部)
  • 福原 俊一(京都大学 大学院医学研究科)
  • 福間 真悟(京都大学 大学院医学研究科)
  • 武藤 学(京都大学 大学院医学研究科)
  • 柳田 素子(京都大学 大学院医学研究科)
  • 山本 洋介(京都大学 大学院医学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(臨床研究等ICT基盤構築研究)
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
我が国は世界に先駆けて超高齢社会を迎えつつあり、「高齢者医療のあり方」の方向性の提示は重要な国民的課題である。高齢者は複数の併存症を持ち、複雑な診療パターンをとるため不適切な医療行為が生じやすく、エビデンス診療ギャップが生じている。
一方、大規模データの解析結果の活用は厚生労働省における重要な課題の一つである。国レベルではレセプト情報・特定健診等情報データベース(National database;NDB)をもとに、平成26年度に東京大学と京都大学にNDBオンサイトセンターが設置された。このような背景のもと、本研究の目的は1)NDBおよびその他の大規模データベースを用いて4つの個別テーマに関し、リサーチクエスチョンの解決を通じて施策への応用が可能な知見を導出する、2)NDBの活用基盤を整備する、の2つとした。
研究方法
本研究では高齢者医療におけるエビデンス診療ギャップに関してNDBオンサイトセンター京都におけるレセプトデータ、京大病院データ、民間データベースを利用し、4つのテーマ(不適切処方、がん治療、慢性腎臓病(CKD)診療、終末期医療)について高齢者の診療実態を解明した。また、NDBのバリデーションを行い健康医療分野に関わる既存データベースの可能性と課題を明らかにした。
結果と考察
平成27年度は4つのテーマについて、NDBデータ、民間データベースを用いた知見を比較し、治療パターン・転帰・有害事象の相関解析アルゴリズム作成、NDBデータに必要な薬剤・病名のコーディング等のプレ解析を行った。得られた結果をもとに、学会発表と論文投稿を行った。
NDBのバリデーションについて、NDBオンサイトセンター京都の運営体制を確立し、試行的利用を開始した。平成28年2月にオンサイトリサーチセンター運用部を発足させ、京都大学内関連諸教室責任者の連携のもと、個別研究の進捗管理、データ研究の標準化、人材育成を包括的に推進する枠組みを構築した。これらの実務作業を通して、データ抽出・解析、データ運用マネジメントについて重要な知見を得た。
我々はまた、医療データベース研究の発展に向けた基礎研究として、国内外のレセプト情報のバリデーションに関する文献を系統的にレビューした。
平成28年度はデザインペーパーが国際誌に受理された。4つのテーマについてデータ解析、学会発表、論文投稿を進めた。
「不適切処方」について、NDB特別抽出データ(平成22~23年)を用いて高齢者における実態を把握した。その結果、解釈には留意が必要であるものの、不適切が疑われる処方に関する期間有病割合、並びに新規発生率の推定に成功した。さらに条件設定を厳格化するなどして再検証を行う予定である。
「がん治療」について高齢者における胃癌の治療実態把握を行った。NDB特別抽出データ(平成23~24年)を基に年代別/施設別治療施行状況等を調べたところ、「がん診療連携拠点病院」で治療されている胃がん患者は、胃がん患者全体の約1/4(がん拠点病院 47,002人、拠点病院以外 138,005人)であることが判明した。薬剤の使用傾向も胃がんの治療ガイドライン推奨と一致した。
「CKD診療」についてNDB特別抽出データ(平成22~26年)を用いて、診療の質評価の条件に適合するデータを抽出し、末期腎不全をアウトカムとしてデータ追跡したところ、CKDステージが進行すればレセプト病名の感度は上昇する知見を得た。
「終末期医療」について、NDBサンプリングデータ(平成23~26年)を用い高齢者がん診療に関して米国の実態と比較したところ、日本は死亡1ヵ月前にかかる入院費は先進国中、高い方であった。民間データを利用してレセプトの死亡情報の妥当性も検証した。
これらの解析を通してNDBデータベースの可能性と課題を明確にした。レセプト情報等の第三者提供制度に関して普及・啓発を検討した。既存データの解析を通して特性を把握し、性能を評価した。今後、性能評価を継続し、研究の目的に応じた適切なデータベースの選択の指針を提示したい。大規模データベース活用の倫理・法律・社会的課題も検討した。
結論
平成27~28年度に渡り、我々は我が国の高齢者医療に関する4つのテーマを立て、NDB及び大規模データベースを用いて解析し、実態に関する知見を得た。一方で、NDBデータの利用に際しては臨床医学や疫学のみならず、医療情報の知識、保健医療政策の動向、保険診療の仕組み等、多岐に渡る知識・技術が必要になる。既存データベースの活用に関しては「単品」での活用のほか、データベース同士の横の連係も含めたシステム構築を進め、各領域の専門家を効果的に配置する必要がある。その体制作りがNDBの利活用のため重要であることが本研究により判明した。

公開日・更新日

公開日
2018-06-07
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201603003C

成果

専門的・学術的観点からの成果
超高齢社会における高齢者のエビデンス診療ギャップについて不適切処方、癌、慢性腎臓病(CKD)、終末期に関し既存データから知見を得た。平成22-26年のレセプト情報・特定健診等情報データベース(NDB: National Database of Health Insurance Claims and Specific Health Checkups of Japan)他民間データを解析。同時に京大内に構築されたNDBオンサイトリサーチセンターの運営管理体制を整備、データの第三者提供普及啓発を推進。
臨床的観点からの成果
不適切処方:期間有病割合、並びにSTOPPリストに関する新規発生率の推定に成功したが、解釈には留意が必要である。がん:がん診療連携拠点病院で治療されている胃がん患者は全体の約1/4であることが判明した。CKD診療:60歳以上のCKD患者を対象としてデータを追跡した結果、CKDステージの進行に伴いレセプト病名の感度が上昇していた。終末期医療:高齢者のがん診療を米国の実態と比較したところ、日本は死亡1ヵ月前にかかる入院費は先進国中、高い方であった。
ガイドライン等の開発
解析により胃がんの化学療法使用薬剤の上位3位は胃がん治療ガイドライン推奨と一致しており、ガイドラインに準拠する治療の実例を知見として得た。
高齢者のエビデンス診療ギャップ回避のため、診療ガイドラインの開発や普及は急務である。中山は神経学会、消化器病学会、産婦人科学会、緩和医療学会、脳神経モニタリング学会、腎臓学会、等のシンポジウム等で診療ガイドラインの社会的責任について問題提示と意見交換を実施。診療ガイドライン作成統括委員・作成委員・外部評価委員等として作成にも参加した。
その他行政的観点からの成果
NDBデータの基盤整備、および将来的な第三者提供に関しては、厚生労働省の「レセプト情報等の提供に関するワーキンググループ」に加藤が構成員として参加。同グループ下の「NDBオープンデータ調査分析ワーキンググループ」で加藤は座長を務めた。オープンデータの内容や第三者提供のあり方、公表手順等のほか、国民に親しまれるデータとする工夫等について、民間模擬申出とヒアリングにより得られたニーズをもとに検討を行った(平成27年度10月6日、11月26日、平成28年1月28日、平成28年9月30日)。
その他のインパクト
報道
H27.12.18「千年カルテプロジェクト京都シンポジウム」
H28.2.17 厚労省プレスリリース
 レセプト情報等オンサイトリサーチセンター(京都)における試行的利用開始
H28.2.17 京大広報課発表
「オンサイトリサーチセンター京都 運用部」開設
シンポジウム開催
H28.2.26 『「保健医療2035」を巡って』
H28.3.7「個人情報の保護・活用の調和に向けて 現状と課題」
H29.2.8「健康医療分野のデータベースを用いた戦略研究」合同フォーラム

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
1件
プロトコル論文
その他論文(和文)
19件
レセプトデータ、ビッグデータ、糖尿病領域等
その他論文(英文等)
17件
慢性腎臓病領域、がん領域、データベース関連等
学会発表(国内学会)
19件
レセプトデータ、パフォーマンステスト(厚労省有識者会議)、情報マネジメント等
学会発表(国際学会等)
2件
高齢者処方薬剤関連等
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
2件
厚生労働省レセプト情報等の提供に関するワーキンググループ 1件 同省レセプト情報等の提供に関する有識者会議 1件
その他成果(普及・啓発活動)
8件
報道3件(厚労省プレスリリース、京都大学広報課発表)、シンポジウム5件(聴衆対象は学内・学外)

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Nakayama T, Imanaka Y, Okuno Y, et al.
Analysis of the Evidence-practice Gap to Facilitate Proper Medical Care for the Elderly: Investigation, using Databases, of Utilization Measures for National Database of Health Insurance Claims and Specific Health Checkups of Japan (NDB)
Environmental Health and Preventive Medicine (EHPM) , 22 (1) , 51-57  (2018)
doi: 10.1186/s12199-017-0644-5.

公開日・更新日

公開日
2021-07-14
更新日
-

収支報告書

文献番号
201603003Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
24,000,000円
(2)補助金確定額
24,000,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 335円
人件費・謝金 22,090,121円
旅費 59,640円
その他 1,849,904円
間接経費 0円
合計 24,000,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2018-03-30
更新日
-