視覚障害の早期発見および評価方法に関する研究

文献情報

文献番号
199800536A
報告書区分
総括
研究課題名
視覚障害の早期発見および評価方法に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
田中 靖彦(国立病院東京医療センター)
研究分担者(所属機関)
  • 清水敬一郎(国立霞が浦病院)
  • 野田徹(国立病院東京医療センター)
  • 簗島謙次(国立リハビリテーションセンター)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 感覚器障害及び免疫・アレルギー等研究事業(感覚器障害研究分野)
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
36,400,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
長寿、少子化に伴いQOLの面からも視覚、聴覚の重要性は益々増大している。また、日進月歩の発展を続ける情報化社会において一時も欠くことのできない機能である。視覚障害、視覚機能発達障害の予防、治療のためには早期発見が第一であるが、早期発見のための評価法は未だ確立していない。高齢者に特有の眼科的疾患、いわゆる生活習慣病と称される糖尿病や高血圧症など、知らぬ間に視力障害が進行してしまうような疾患、などをいかにして発見したらよいのか、など、まだ方法論が確立されていない。元来、視覚機能障害を有する場合、視覚器のみの異常である場合と重複視覚障害とがあるが、後者の場合が多い。このことは単に一般的な自覚的、他覚的検査では評価しきれないことを示している。殊に乳幼児における視覚機能発達を如何に評価し、如何にして未然に予防するかは、これからの長い生涯を考えるときそのQOLに最も密接に関わってくる重大な問題である。そこで重複障害者はもとより、乳幼児にも適合する視覚機能及び視覚機能発達の客観的評価法の開発が望まれる所以である。
研究方法
情報は主として視覚聴覚をとうして得られる。殊に視覚はその約80%を担っているともいわれている。視覚には、視力、視野、色覚、両眼視機能、コントラスト感度、動体視力など、多岐にわたる機能がある。いずれの一つが障害されても視機能は十分には発揮されない。すなわち、網膜でえた空間的、時間的情報は外側膝状体をへて大脳皮質に至り、そこから形態覚、色覚、立体覚、運動覚などの機能分化されたより高次の中枢にて処理される。この何処の箇所に障害があっても視機能は完成しない。このように視覚の発達はまさに中枢神経系の発達と相俟っているので、出生後急激に成長する運動系とともに重要な発達史のポイントとなっていることは言うまでもない。しかしながら、これを評価するには自覚的方法が主体であり、他覚的評価法は困難とされてきた。それでもこれまでに様々な視機能の他覚的検査法の研究がなされてきた。例えば、視力測定法のひとつとして視覚誘発電位(VEP)が開発されてきたが、この検査法は再現性に乏しく、また絶対値を示すことは困難であり、比較値を呈示して(例えば左右の比較)記録にとどめ、時間の推移とともに経過観察するにとどまっている。また視覚心理学的手法によるPreferential Looking法や、Teller Acuity Card(TAC)、視運動眼振誘発法、など定量性を求めて研究、開発がなされているが未だ確立されたとは言えない。一方、行動視力とも言うべき、行動観察によって視機能を評価する試みもなされている。各発達段階においてそれに応じた行動、態度、反応などを通じて総合的に評価する方法であるが、これもまだ実験段階である。しかし、日常生活の中からある特定の行動をとうして推察される視機能は、症例を重ねることによりかなり明らかになる部分があると思われる。
さまざまの脳機能解析法が近年開発されつつある。脳波(EEG)、視覚誘発脳波(VEP)、ポジトロン断層撮影法(PET)、機能的核磁気共鳴画像(fMRI)、それに脳磁図(MEG)と次第に微小な脳内におこる電気変化をとらえる事が出来る方法が開発されてきた。これらを応用して視覚の機能を各々分けて調べることの出来るシステムをつくりあげる必要がある。成人においては自覚症状を訴えてから自発的に検診を受けることになるが、それでは遅すぎることが多い。普段からの眼科検診が重要であり、関係科と常に連絡をとって、(たとえば糖尿病患者の内科医と眼科医)眼科的検査を受けさせる体制の確立が必要である。
早期発見には早期検診が必要である。小児については現在3歳児眼検診が一般化しているが、この時期では遅すぎる疾患が数多くあって、実際には機能していない部分がある。屈折弱視のスクリーニングに自動屈折測定装置がこれまでに幾つか考案され製品化されているが、改良すべき問題点が多々ある。屈折検査に限らず検査に協力の得られない小児や重複障害をもつ症例においては、簡便でしかも短時間に出来るだけ正確なデータが得られる検査装置でなければならない。
両眼視機能を調べる装置は、大型弱視鏡を始めとしてハブロスコープ、偏光を応用したチトマスフライテスト、など幾つか臨床上利用されているが、いずれも一長一短があり、熟練を要するものが多い。もっと自然環境に近い状態で検査がおこなえる装置の開発が望まれる。コンピューターをもちいたバーチャルリアリテイを応用して両眼視機能を検査する装置が考えられる。
視野検査も他覚的検査しか行われていない。自動視野計といえども検者のみならず被検者もかなりの訓練を要する。ましてや小児や痴呆老人には検査不能である。これもたとえば、微妙な瞳孔反応を捕えてコンピューターにて解析する方法や、視運動を惹起させることによってその運動を捕えて視野検査を行える可能性がある。
眼圧検査:閉険したままそのうえから装置をあてることによって眼圧を知ることが可能となる。緑内障患者などは自己管理を可能にする事が期待される。
結果と考察
平成10年度は1)新生児の眼科検診、2)視覚誘発脳波(VEP)の有用性について、3)屈折検査スクリーニングの方法、4)弱視の発生モデルとしての片眼性先天白内障症例の検討、5)網膜毛細血管障害に関与するアルドース還元酵素の研究を主に行った。
乳幼児の客観的視力測定法の一助として、視覚誘発脳波(VEP)測定がある。そこに記録される三つの成分、振幅比、振幅差、潜時に着目して、生後1か月から120か月(10歳)までの乳幼児について検討した。コントロールは片眼性疾患の他眼と、単なる屈折異常者とした。VEPは1)臨床的に患眼が弱視眼と考えられる群、2)正常に近い、あるいは回復してきたと考えられる群とに分けて検討した。年齢群は、1か月から18か月の乳児群50例、19か月から48か月の幼児群64例、49か月から120か月の幼稚園学童期群64例とに分けた。結果はいずれの成分においても統計学的に特異性は0、83-0、94と高いものの、振幅比および潜時は各年齢層において感受性は低かった。振幅差の感受性については他の2者よりも有意に高く、従って3つの成分においては、振幅差が片眼性の視力不良を最もよくあらわす指標であると考えられた。
MTIフォトスクリーナーは、準暗室で子供の前方1、4メートルに検者がこのスクリーナーを保持し、ピントあわせのための、エーミングライトを子供の額にあわせると同時にフラッシュさせ、垂直水平2方向の瞳孔から反射光をインスタントフィルムに2段に納められるようにセットされている。半月状の反射光の幅によって屈折度が判定できる。48名中4名に屈折異常が疑われ、眼科において精査の結果近視2名遠視2名(乱視を含む)が検出された。屈折度の判定は、半月状陰影の境界をどうとるかによってばらつきがでるが、これは判定を繰り返すことによって解決されるものと思われる。本器の特徴は、比較的距離を一定にとりやすいこと、すなわち、検査しやすい点にある。また必ずしも視能訓練士と限らず、経験した保健婦、看護婦、などでも扱えることである。焦点をあわせ、シャッターをきるだけのものである。ただ、判定が検査後に行われるため、うまく写真が撮れているかどうかは、その場で確認しておく必要があり、時間をその分必要とする。また、ポラロイドフィルムが特殊な作りとなっており、コストが普通のフィルムよりかかる、ことなどの問題がある。
形態覚遮断弱視原因の一つに片眼性先天白内障が挙げられている。形態覚遮断弱視の臨床的特徴として1、生後早い時期にある期間、外界からの視性刺激遮断がなされたとの経歴があること。2、鼻側偏心固視 3、外斜視を呈する。4、視力は0、2以下の強度の弱視であること、5、両眼視機能の欠如を主症状とする。過去のデータからretrospectiveに調査し、早期発見、早期治療によってこれを予防することが出来るか否か、手術を行った24例の片眼性先天白内障症例につき、1、手術時期、2、斜視のタイプ、3、固視点 4、視力 5、両眼視機能 につき検討した。その結果、1生後12週(3か月)以内に手術を行った症例6例中4例に0、4以上の視力がえられた。従って生後3か月以内に診断し、治療を行えば、弱視を予防可能であることが明らかとなった。

結論

公開日・更新日

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