働き方の変化に対応した今後の遺族年金制度のあり方に関する調査研究

文献情報

文献番号
201601018A
報告書区分
総括
研究課題名
働き方の変化に対応した今後の遺族年金制度のあり方に関する調査研究
課題番号
H28-政策-指定-004
研究年度
平成28(2016)年度
研究代表者(所属機関)
百瀬 優(流通経済大学 経済学部)
研究分担者(所属機関)
  • 丸谷 浩介(九州大学 法学研究院)
  • 嵩 さやか(東北大学大学院 法学研究科)
  • 渡邊 絹子(筑波大学 ビジネスサイエンス系)
  • 秋朝 礼恵(高崎経済大学 経済学部)
  • 丸山 桂(成蹊大学 経済学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(政策科学推進研究)
研究開始年度
平成28(2016)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究費
5,820,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
日本の遺族年金制度の現状や課題を把握すること、アメリカ、イギリス、スウェーデン、ドイツ、フランスの遺族年金について、その制度の基本理念や設計内容、制度の歴史や改革動向、制度が抱える問題点等を明らかにすることが本研究の目的の一つである。それらの成果を踏まえて、日本の遺族年金について、各国の制度との比較、現行制度の歴史的経緯や根拠の検証、今後の見直しに向けた論点整理を行うことも目的とする。
研究方法
本研究では、まず、有識者ヒアリングを実施し、遺族年金の現行制度の課題等を整理した。次に、研究分担者が、調査対象各国の遺族年金に関する文献・資料等を収集し、各国の遺族年金の基本的事項を確認した。また、現地調査も実施し、制度設計の詳細、その背後にある考え方や歴史的経緯、改革の背景や移行方法、改革が及ぼす影響や現地での評価等の把握に努めた。研究代表者は、分担研究者の研究報告、厚生労働省「遺族年金受給者実態調査」の二次分析、日本の遺族年金に関する先行研究、厚生省(厚労省)資料や国会議事録等をもとに、日本の制度の歴史的経緯、現状と課題、今後のあり方について検討し、研究全体のとりまとめを行った。
結果と考察
本研究により、調査対象各国の遺族年金の理念や特徴、改革動向等を明確にすることができた。また、各国の遺族年金の性格を、遺族の生活変化に対する一時的支援、現役期遺族や遺児に対する中長期的な所得保障、老齢年金の代替・補足(高齢遺族の所得保障)、死亡した者が獲得した年金受給権の遺族への継承の4つに整理できた。国によって、重視される性格には濃淡があり、それによって、制度内容の大枠が異なっている。さらに、各国において、女性の就業の変化に合わせて、(1)支給要件の男女差の解消、(2)遺族年金の有期化、(3)老後の所得保障としての遺族年金の見直しが進められていることも確認できた。(1)については、男女平等の理念の影響も大きいこと、拠出を行った女性労働者に対する差別の解消という観点もあること、(2)と(3)については、各国政府による遺族の就労促進の重視度、遺族配偶者の再就職の可能性、遺族が利用可能な他制度の実態等によって、その見直しの程度が異なることも指摘できる。最後に、各国調査の結果をもとに、制度設計のポイントごとに各国と日本の制度の比較を実施した。さらに、日本の現行制度の歴史的経緯や根拠の検証、日本の遺族年金受給者の実態等も踏まえて、日本の制度を見直すことの是非や見直しにあたっての留意点等を整理した。
結論
日本の遺族年金の今後のあり方に関する主な結論は以下の通りである。(1)遺族厚生年金において、死亡した者の父母等も支給対象とすることについては、扶養義務の強さ等から、その根拠は残るとの整理もできる。一方、皆年金体制の定着等から、父母等が貧困状態に陥るリスクには、遺族年金以外の制度で対応すべきとも考えられる。(2)遺族厚生年金における男女差については、女性の労働力率や賃金水準の上昇等にあわせて、男女差を解消すべきとの整理ができる。ただし、女性の非正規労働の割合や受給者の就労状況等を踏まえれば、単純な解消方法を取った場合、寡夫の過剰給付や寡婦の生活困窮が増加することに留意する必要がある。(3)日本でも、生涯未婚率の上昇、労働市場の男女差の縮小傾向、子の有無別の受給者の就労状況等を踏まえて、子のいない寡婦には、無期給付の必要性は乏しいとも考えられる。一方、子のいない寡婦であっても、夫死亡時には無職者やパート労働者が多く、(再)就職が容易とは言えず、低賃金となる傾向がある。子のいない寡婦に対する給付を有期化すれば、貧困状態に陥る寡婦の増加が予想される。公的扶助の捕捉率の問題とあわせて、この点を重く見る場合は、無期給付の意義はまだ残るとの整理もできる。(4)子のいる遺族配偶者については、就労制約や養育費負担の存在、子のいる寡婦の現在の経済状況等を考慮すれば、今後とも、遺族年金を通じた中長期的な所得保障の対象とすべきと整理できる。(5)現在の生計維持要件では、遺族本人の労働収入等で平均以上の生活水準を確保できる場合でも、遺族年金が減額無しで支給される。ただし、その基準額を下げることの弊害は大きい。一方、生計維持要件の代わりに所得調査を入れて対応する方法には、実務的な課題が多い。(6)高齢遺族に対する遺族厚生年金と老齢厚生年金の調整方法については、更なる見直しの検討余地がある。ただし、新たな方法でも、現行と同様の問題が残ったり、あるいは、別の問題が生じたりすることが予想される。(7)遺族配偶者の要件や再婚の取扱いについては、現時点では、現行制度を見直す必要性は低い。(8)専業主婦が死亡した場合については、所得の高い寡夫に対する遺族基礎年金の支給を調整することの検討が求められる。

公開日・更新日

公開日
2017-09-14
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201601018C

成果

専門的・学術的観点からの成果
文献調査と現地調査を通じて、アメリカ、イギリス、スウェーデン、ドイツ、フランスの遺族年金の理念や特徴、改革動向等を明確にすることができた。また、調査対象各国と日本の制度の比較検討、日本の現行制度の歴史的経緯や根拠の検証、遺族年金受給者実態調査の二次分析等を踏まえて、日本の制度を見直すことの是非や見直しにあたっての留意点等を整理した。遺族年金については、老齢年金に比べて研究蓄積が少なかったため、本研究は、この分野での基礎研究として意義もあり、今後の発展的な研究の前提資料としても活用されうる。
臨床的観点からの成果
-
ガイドライン等の開発
-
その他行政的観点からの成果
2015年1月の社会保障審議会年金部会における議論の整理において、遺族年金については、「社会の変化にあわせて制度を見直していくことが必要である」と記されている。今後、審議会などで、遺族年金の見直しが議論される際に、本研究の研究成果が、参考資料の一つとして活用されることも期待される。実際に、2019年3月13日の第8回社会保障審議会年金部会の資料4において、本研究事業の報告書の各論文が引用された。また、2021年度には公益財団法人年金シニアプラン総合研究機構の研究会にて研究成果を発表した。
その他のインパクト
研究代表者や研究分担者が、『週刊社会保障』、『年金と経済』、『社会保障法』、『企業年金』、『賃金と社会保障』といった専門雑誌にて、研究成果の一部を論文として公表している。その他に、研究分担者が執筆した「第13章 家族と社会保障」『ライフステージと社会保障』(放送大学教育振興会、2020年)、「年金保険」松村祥子・田中耕太郎・大森正博編『新世界の社会福祉第2巻』(旬報社、2019年)、「ロスジェネ世代の年金問題-ジェンダーの視点から」『世界』2019年11月号でも、研究成果の一部が活用されている。

発表件数

原著論文(和文)
7件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
3件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
百瀬優
遺族年金の性格と今後のあり方
週刊社会保障 ,  (2924) , 40-45  (2017)
原著論文2
丸谷浩介
遺族年金の性別条項と労働市場―イギリスの改正動向
週刊社会保障 ,  (2929) , 44-49  (2017)
原著論文3
渡邊絹子
ヨーロッパの遺族年金について
年金と経済 , 35 (4) , 43-49  (2017)
原著論文4
渡邊絹子
ドイツにおける遺族年金の概要と理念
社会保障法 ,  (32) , 139-148  (2017)
原著論文5
丸谷浩介
父子家庭への遺族基礎年金不支給をめぐる憲法判断
賃金と社会保障 ,  (1703) , 15-22  (2018)
原著論文6
渡邊絹子
遺族年金制度再考にむけて-ドイツ法を手掛かりとして-
企業年金 , 37 (6) , 16-19  (2018)
原著論文7
百瀬優
遺族年金の未来
企業年金 , 39 (3) , 30-31  (2020)
原著論文8
丸山桂
遺族年金受給世帯の家計に関する実証分析
上智大学社会福祉研究 ,  (45) , 64-83  (2021)

公開日・更新日

公開日
2022-05-31
更新日
-

収支報告書

文献番号
201601018Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
6,693,000円
(2)補助金確定額
6,693,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 2,500,887円
人件費・謝金 360,905円
旅費 2,037,522円
その他 920,686円
間接経費 873,000円
合計 6,693,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2018-03-16
更新日
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