子どもの貧困の実態と指標の構築に関する研究

文献情報

文献番号
201601005A
報告書区分
総括
研究課題名
子どもの貧困の実態と指標の構築に関する研究
課題番号
H26-政策-一般-005
研究年度
平成28(2016)年度
研究代表者(所属機関)
阿部 彩(首都大学東京 都市教養学部 人文・社会系)
研究分担者(所属機関)
  • 田宮遊子(神戸学院大学 経済学部)
  • Movshuk Oleksandr(モヴシュク オレクサンダー)(富山大学 経済学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(政策科学推進研究)
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究費
4,900,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、EU等で主流となってきている剥奪指標を用いた非金銭的指標の開発を行うことである。物質的剥奪指標は、世帯所得や消費などの金銭的データから把握することができない実質的な子どもの生活水準を測るものであり、所得から推計される相対的貧困率を補完する指標として有効である。本研究では、特に、子どもの生活水準に着目した物質的剥奪指標を構築し、その貧困指標としての妥当性を検討する。
研究方法
【非金銭的の測定のための社会調査の実施】
欧州連合のSILC調査などを参考に、物質的剥奪指標の構築を行った。初年度に行った、どのような項目が現代日本において社会的に認知されている「必需品」であるかの意識調査の結果をもとに、剥奪指標の項目の候補となる変数を選定し、それらを実際のデータにあてはめて統計的に妥当か信頼性はあるかなどの検定を行った。用いたデータは、首都圏のX区の小学5年生の悉皆調査である。
結果と考察
非金銭的の測定のための社会調査の実施
本プロジェクトおよび平成28年度に行われた複数の自治体による子どもの貧困実態調査における物質的剥奪の変数を吟味し、小学5年、中学2年、高校2年の物質的剥奪指標を構築した。以下が指標に用いる物品のリストの剥奪の判別方法である。

以下の15項目のうち、経済的な理由で剥奪されている項目が3つ以上ある場合を「物質的剥奪状況」と判断する:
1. 海水浴に行く
2.博物館・科学館・美術館等に行く
3.キャンプやバーベキューに行く
4.スポーツ観戦や劇場に行く
5.遊園地やテーマパークに行く
(*高校生は「友人と遊びに行くお金」)
6.毎月お小遣いを渡す
7.毎年新しい洋服・靴を買う
8.習い事(音楽、スポーツ、習字等)
に通わす
9.学習塾に通わせる
10.お誕生日のお祝いをする
11.1年に1回程度家族旅行に行く
12.クリスマスのプレゼントや正月
のお年玉
13.子どもの年齢に合った本
14.子ども用のスポーツ用品
15.子どもが自宅で宿題をすることができる場所
〇日本において、子どもの社会的必需品として少なくとも過半数の一般市民が「(すべての子どもに)必要である」と考える項目は限られており、冷蔵庫などの家電など殆どが充足率がほぼ100%の項目であった。
〇(1)で挙げられた社会的必需品のうち、耐久消費財(冷蔵庫、洗濯機など)と貯蓄の項目を用いて剥奪指標を作成したが、欠如率が低いことや、所得との相関が低いこと、尺度としての信頼性が低いことから、貧困指標として妥当ではないと判断された。
〇(1)で挙げられた社会的必需品のうち、家計の逼迫を表す公共料金や家賃の滞納、食費、衣類費の困窮を用いた剥奪指標を作成したところ、すべてのクライテリアをクリアし、貧困指標として妥当であると判断された。この指標は、阿部(2014)が一般世帯の貧困指標としてその妥当性を検討したものと、ほぼ同じ定義であり、子どものある世帯においても本指標が適用できることがわかった。
〇子どもの生活水準と世帯全体の生活水準が異なることがあるため、子どもの活動・体験の欠如に関する剥奪指標を作成した。検討した16項目のうち2項目(「子どもの学校行事への親の参加」「誕生日のお祝い」)を除く14項目による指標の妥当性が確認された。
〇低所得、家計の逼迫を表す剥奪指標、子どもの活動・体験の欠如を表す剥奪指標の3軸からなる複合指標を作成した。この複合指標は、生活困難を抱える子どもをidentifyしたり、子ども間の格差を明らかにする上で優れていることが確認された。
結論
物質的剥奪指標は子どもの貧困指標として優れており、指標群に加えられるべきである。何故なら、物質的剥奪指標は、①統計データの信頼性が高く、貧困を把握するために優れていること、②アメリカのヒアリングにあるように、現物給付やサービス給付などの貧困対策による効果を把握するためには、非金銭的指標が欠かせないこと、③指標を計測するための調査が、市区町村など小規模の自治体においても実施可能であり、また、比較的に調査手法が簡易であるため、自治体間の比較が可能であること、である

公開日・更新日

公開日
2018-03-16
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2018-03-16
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201601005B
報告書区分
総合
研究課題名
子どもの貧困の実態と指標の構築に関する研究
課題番号
H26-政策-一般-005
研究年度
平成28(2016)年度
研究代表者(所属機関)
阿部 彩(首都大学東京 都市教養学部 人文・社会系)
研究分担者(所属機関)
  • 田宮遊子(神戸学院大学 経済学部)
  • Movshuk Oleksandr(モヴシュク オレクサンダー) (富山大学経済学部)
  • 竹沢純子(国立社会保障・人口問題研究所 企画部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(政策科学推進研究)
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、子どもの貧困に関する指標の策定のために必要となる基礎的研究を行うことである。そのために、既存統計を用いた子どもの貧困指標の検討と、非金銭的指標の開発の二つのサブ・プロジェクトを行った。
研究方法
1)既存統計データを活用した子どもの貧困指標群の選定・分析
公的統計データにおいて、子どもの貧困に関するデータがどれほど存在するのかをレビューし、それらが子どもの貧困指標として機能するかどうかを検討した。
2)新しい子どもの貧困指標の模索
(A)非金銭的の測定のための社会調査の実施 
欧州連合のSILC調査などを参考に、物質的剥奪指標の構築を行った。初年度は、どのような項目が現代日本において社会的に認知されている「必需品」であるかの意識調査、2・3年目には子どもを対象とした物質的剥奪の調査を行い、統計的に妥当な日本版子どもの物質的剥奪指標を構築した。
(B)相対的貧困率の動態分析 
厚労省「国民生活基礎調査」(1985年~2012年、10回分)と総務省「全国消費実態調査」(6回分)の個票の二次利用申請を行い、所得データを用いた子どもの貧困率の動態とその信頼性の分析を行った。子どもの貧困率では、異なる貧困基準や、固定貧困線を用いる方法など、通常の相対的貧困率の算定方法と異なる方法も視野に含めて検討した。

(C)諸外国における子どもの貧困指標の策定動向のヒアリング
初年度は、ドイツ・デンマーク、アメリカ、また、2年目はイギリスのEUを訪問し、公的統計としての困指標の計測方法、また、指標(群)の決定方法、貧困指標をめぐる最新の状況などについて、ヒアリング調査を行った。
結果と考察
1)既存統計データを活用した子どもの貧困指標群の選定・分析
既存の(主に公的)統計データを用いて活用が可能な子どもの貧困指標群を検討・選定し、一般公開した。指標案は以下の通り:
<第一次指標>
1. 子どもの相対的貧困率、2. 子どもの固定貧困率、3. 物質的剥奪率(日本定義)、4. 朝食欠食児の割合、5. 高校非卒業率、6. 不登校の児童生徒の割合、7. 「低学力層」に分類される児童生徒の割合、
<第二次指標>
1. 子どもの相対的貧困率、2. 子どもの固定貧困率、3. 物質的剥奪率 (EU-定義)、4. 早産の割合
5. 虫歯(齲歯)のある子の割合、6. 学校外学習時間が1時間未満の児童生徒の割合
また、子どもの物質的剥奪率の項目リストについては、以下の項目が統計的に妥当と判断された:
以下の15項目のうち、経済的な理由で剥奪されている項目が3つ以上ある場合を「物質的剥奪状況」と判断:
1. 海水浴に行く、2. 博物館・科学館・美術館等に行く、3. キャンプやバーベキューに行く
4. スポーツ観戦や劇場に行く、5. 遊園地やテーマパークに行く、6. 毎月お小遣いを渡す
7. 毎年新しい洋服・靴を買う、8. 習い事(音楽、スポーツ、習字等)、9. 学習塾、10.お誕生日のお祝い、11. 1年に1回程度家族旅行、12. クリスマスのプレゼントや正月のお年玉、13. 子どもの年齢に合った本、14. 子ども用のスポーツ用品、15. 子どもが自宅で宿題をすることができる場所
結論
第一に、物質的剥奪指標は子どもの貧困指標として優れており、指標群に加えられるべきである。何故なら、物質的剥奪指標は、①統計データの信頼性が高く、貧困を把握するために優れていること、②アメリカのヒアリングにあるように、現物給付やサービス給付などの貧困対策による効果を把握するためには、非金銭的指標が欠かせないこと、③指標を計測するための調査が、市町村など小規模の自治体においても実施可能であり、また、比較的に調査手法が簡易であるため、自治体間の比較が可能であること、である。
第二に、最も一般的で国際比較も可能な指標としては、所得データによる相対的貧困率は欠かせないものの、いくつかの改善・追加が望ましい。一つは、固定貧困率の追加である。経済危機前後の貧困率の動態の分析から、社会全体の世帯所得が変動している時期には固定貧困率と相対的貧困率がかい離し、その動向も異なってしまうからである。貧困基準については、中央値の40%、50%、60%と変化させても動向に違いはなく、最も一般的な50%で問題がないと言える。

公開日・更新日

公開日
2018-03-16
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2018-03-16
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201601005C

成果

専門的・学術的観点からの成果
日本における子どもの貧困指標を多角的に検討し、研究者からの提案としてまとめた。また、EU等で用いられている剥奪指標の日本版を開発した。
臨床的観点からの成果
特になし
ガイドライン等の開発
特になし
その他行政的観点からの成果
子どもの貧困指標に関する一連の研究成果については、内閣府における子どもの貧困指標見直しの際に参照とされた。また、本PJで開発された子どもの剥奪指標は、東京都、広島県、長野県など多くの自治体における子どもの貧困実態調査にて採用された。
その他のインパクト
本PJによる結果は、「子どもの貧困指標―研究者からの提案」として平成27年7月10日に公表し、同時に、公開シンポジウムを開催し、官公庁、マスコミ、一般市民など約80名の参加を得た。

発表件数

原著論文(和文)
9件
原著論文(英文等)
1件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
8件
学会発表(国際学会等)
3件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
1件
その他成果(普及・啓発活動)
1件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2018-06-15
更新日
2019-05-23

収支報告書

文献番号
201601005Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
4,900,000円
(2)補助金確定額
4,900,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 825,355円
人件費・謝金 1,282,725円
旅費 437,376円
その他 2,354,544円
間接経費 0円
合計 4,900,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2018-04-13
更新日
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