文献情報
文献番号
199800534A
報告書区分
総括
研究課題名
オキュラーサーフェイスの臨床的評価法と外科的リハビリテーション法の開発に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
木下 茂(京都府立医科大学医学部)
研究分担者(所属機関)
- 今西二郎(京都府立医科大学医学部微生物学教室)
- 佐野洋一郎(京都府立医科大学医学部眼科)
- 山本修士(大阪大学医学部眼科)
- 大橋裕一(愛媛大学医学部眼科)
- 東範行(国立小児病院眼科)
- 坪田一男(東京歯科大学眼科)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 感覚器障害及び免疫・アレルギー等研究事業(感覚器障害研究分野)
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
35,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
Ocular surface を障害する疾患は多岐にわたるが、有効な早期臨床評価法および治療法が確立していないために視覚障害者が国内外に数多く生じている。そこで、全国に 1,000 万人規模で存在するとされるドライアイ患者を的確にスクリーニングすることを目的とした簡便な臨床的評価法の開発、および重症化した ocular surface 疾患に対する有効な外科的治療法として、新しい概念の生体組織を用いた角膜移植法の開発とその臨床応用を目指す。具体的には、細胞生物学的手法を用いた異種角膜組織や羊膜組織の基質移植、分子生物学的手法を用いた in vitro から in vivo への角膜上皮幹細胞移植、そして疾患の原因遺伝子の検索とそれらの遺伝子を標的とした遺伝子操作法の確立を行い、「拒絶されにくい」角膜移植組織の開発という新しいタイプの外科的リハビリテーション法の実用化を目指す。
研究方法
1)涙液油層を観察する装置の完成。開発した涙液表面の油層観察装置を用いてドライアイのスクリーニングが可能かどうかについて検討した。また、多施設によるプロスペクティブスタディを施行し、本装置の普遍性について検討した。2)新しい涙液の評価法の開発。ドライアイの新しいスクリーニング法として、瞬目に着目し、無侵襲瞬きアナライザーと眼表面からの涙液蒸発量を測定するモイスチャーセンサーを開発し、正常者とドライアイ患者について眼瞼の開閉時間および涙液蒸発量を測定し、比較検討した。3)羊膜移植の基礎ならびに臨床検討。家兎羊膜上に家兎の角膜片をのせ、数日培養し羊膜をメチレンブルーで染色、伸展した家兎角膜上皮の面積を測定した。また角結膜上皮の羊膜への接着・角結膜上皮の伸展について組織学的な検討を行った。臨床検討は1998年4月から1999年1月までの間に16眼の難治性の瘢痕性角結膜疾患に対し、凍結保存しヒト羊膜を用いた基質移植を行い、術後、角結膜の上皮修復、結膜下組織の再増殖や瘢痕形成、視力、合併症などを検討した。4)異種角膜表層移植の検討。凍結したマウス角膜実質組織をラット角膜実質内に挿入し、拒絶の有無を in vivo および組織学的に検討した。5)自己角膜上皮幹細胞移植の開発。凍結保存したヒト羊膜を基質として用い家兎角膜上皮細胞培養を行い、得られた上皮シートを羊膜とともに同一家兎の片眼に自己移植し、in vivo での培養上皮の生存を検討した。6)ocular surface 疾患における原因遺伝子の同定。インフォームドコンセントを得た後、前眼部形成不全患者 55 例および優性遺伝形式の角膜変性症患者 78 家系の末梢静脈血を採取し、ゲノムDNAを調整した。前眼部形成不全患者では各症例の PAX 6 遺伝子14 exonを PCR 法で増幅し、SSCP 法によって変異の有無をスクリーニングした。異常バンドのみられたものに関しては、直接法およびsubcloning によって塩基配列を決定した。角膜変性症患者ではケラトエピセリンを目標にした候補遺遺伝子アプローチを施行し、全症例の原因遺伝子変異を検索した。7)角膜組織への遺伝子導入法。非ウィルスベクターとして EBV プラスミドと、HVJ-リポソームまたは PAMAM デンドリマーを用いた複合ベクターを作成し用いた。in vivo での遺伝子導入効果を検討するため、ラットまたはウサギの結膜下と前房内に非ウィルスベクターを注入し,マーカー遺伝子の発現を検出した。
結果と考察
1)涙液油層観察装置の有用性。涙液油層観察装置の実用化の可能性を検討するため、 多施設でのプロスベクティブスタディを行ったところ施設間での結果の一致率は 83.9% であった。 また疾患のスクリーニング法としての感度は 53.7%、特異度は 97.8% であった。従ってこの装置はドライアイのスクリーニング法として普遍性があり、特異度が高い診断法であることが示された。2)無侵襲瞬きアナライザーとモイスチャーセンサーの有用性。無侵襲瞬きアナライザーにより一回の瞬きから次の瞬きの時間を求めた結果を比較すると、ドライアイ患者は正常者より数多く瞬きし一回の瞬き時間が短いことが示された。また、モイスチャーセンサーにより涙の蒸発量を比較すると正常者の蒸発量がドライアイ患者より多いことが
明らかにされた。これらの診断法もドライアイのスクリーニング法として有用であることが示唆された。3)羊膜上での角膜上皮の増殖、伸展。培養 5 日後の羊膜上の角膜上皮化面積(cm2)は0.031+/- 0.059 に対し上皮を除した羊膜では 0.979+/- 0.353 であった。光学顕微鏡および電子顕微鏡にて角膜上皮の伸展および羊膜との接着構造(ヘミデスモゾーム)の形成が認められた。4)凍結保存異種角膜組織に対する免疫反応。新鮮マウス角膜実質組織は挿入後 14 日目に高度の拒絶反応を生じたが、凍結保存マウス角膜実質組織は挿入後 28 日以上にわたり透明生着が認められた。これらのことより、凍結保存された異種角膜組織は抗原性を減弱し生着しうることが示唆された。5)自己角膜上皮幹細胞移植の検討。ヒト羊膜を基質として得られた上皮シートを移植後、in vivo での培養上皮の生存を確認した。この結果より in vitro で培養した角膜上皮細胞は羊膜を用いて in vivo へ移植可能であることが示唆された。6)ocular surface 疾患における原因遺伝子の同定。Peters 奇形を含む前眼部形成不全 5 例で、E31A (Ex5; A509→C)、frameshift (Ex5; insG888)、S363L(Ex12 T1504→C)、Q422R(Ex13; A1682→G)、V54D(Ex5a; T20→A) の変異が見いだされ、ヒト前眼部の形成においてPAX 6 が重要であることが示された。蛋白の生化学的検討で、野生体に比べて R26G では100倍、V54D では 2-3 倍の結合能の変化が起こり、変異のあった部位の重要性が明らかになった。優性遺伝形式の角膜変性症において格子状角膜変性症III型はケラトエピセリン遺伝子の501番目のアミノ酸がプロリンからスレオニンへ、またReis-B歡klers corneal dystrophy での新しい原因遺伝子として 124 番目のアミノ酸がアルギニンからロイシンへ変異することにより生じることが明らかとなった。7)非ウィルスベクターによる遺伝子導入。ラットまたはウサギの結膜下と前房内に非ウィルスベクターを注入し,マーカー遺伝子の発現を検出した。結膜下注入では結膜線維芽細胞に,前房内注入では主として虹彩角膜角部に発現が見られた。組織学的に細胞障害,炎症像等は認めなかった。
明らかにされた。これらの診断法もドライアイのスクリーニング法として有用であることが示唆された。3)羊膜上での角膜上皮の増殖、伸展。培養 5 日後の羊膜上の角膜上皮化面積(cm2)は0.031+/- 0.059 に対し上皮を除した羊膜では 0.979+/- 0.353 であった。光学顕微鏡および電子顕微鏡にて角膜上皮の伸展および羊膜との接着構造(ヘミデスモゾーム)の形成が認められた。4)凍結保存異種角膜組織に対する免疫反応。新鮮マウス角膜実質組織は挿入後 14 日目に高度の拒絶反応を生じたが、凍結保存マウス角膜実質組織は挿入後 28 日以上にわたり透明生着が認められた。これらのことより、凍結保存された異種角膜組織は抗原性を減弱し生着しうることが示唆された。5)自己角膜上皮幹細胞移植の検討。ヒト羊膜を基質として得られた上皮シートを移植後、in vivo での培養上皮の生存を確認した。この結果より in vitro で培養した角膜上皮細胞は羊膜を用いて in vivo へ移植可能であることが示唆された。6)ocular surface 疾患における原因遺伝子の同定。Peters 奇形を含む前眼部形成不全 5 例で、E31A (Ex5; A509→C)、frameshift (Ex5; insG888)、S363L(Ex12 T1504→C)、Q422R(Ex13; A1682→G)、V54D(Ex5a; T20→A) の変異が見いだされ、ヒト前眼部の形成においてPAX 6 が重要であることが示された。蛋白の生化学的検討で、野生体に比べて R26G では100倍、V54D では 2-3 倍の結合能の変化が起こり、変異のあった部位の重要性が明らかになった。優性遺伝形式の角膜変性症において格子状角膜変性症III型はケラトエピセリン遺伝子の501番目のアミノ酸がプロリンからスレオニンへ、またReis-B歡klers corneal dystrophy での新しい原因遺伝子として 124 番目のアミノ酸がアルギニンからロイシンへ変異することにより生じることが明らかとなった。7)非ウィルスベクターによる遺伝子導入。ラットまたはウサギの結膜下と前房内に非ウィルスベクターを注入し,マーカー遺伝子の発現を検出した。結膜下注入では結膜線維芽細胞に,前房内注入では主として虹彩角膜角部に発現が見られた。組織学的に細胞障害,炎症像等は認めなかった。
結論
1)涙液油層観察装置、無侵入瞬きアナライザー、モイスチャーセンサーはドライアイを含む ocular surfac e疾患の簡便かつ的確な診断法として有用であり、ocular surface 疾患のスクリーニング法として活用できる可能性がある。2)種々の ocular surface 疾患での原因遺伝子の同定および角膜組織での遺伝子操作法の確立は、難治性、再発性疾患に対する遺伝子治療を提供することが期待できる。また、異種基質移植、羊膜基質移植、角膜組織への遺伝子導入法の確立により「拒絶されにくい」角膜組織の作製へ活用でき、その結果、重症化した ocular surface 疾患に対する新しい外科的リハビリテーションを提供することができると考える。
公開日・更新日
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