ビキニ水爆関係資料の線量評価に関する研究

文献情報

文献番号
201525022A
報告書区分
総括
研究課題名
ビキニ水爆関係資料の線量評価に関する研究
課題番号
H27-健危-指定-003
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
明石 真言(国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構)
研究分担者(所属機関)
  • 児玉 喜明(公益社団法人放射線影響研究所 生物試料センター)
  • 辻村 憲雄(国立研究開発法人日本原子力研究開発機構 核燃料サイクル工学研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康安全・危機管理対策総合研究
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
4,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 昭和29年3月1日~5月14日までの間、マーシャル諸島のビキニ環礁で計6回の水爆実験が行われた。当該実験に関して、平成26年9月及び10月に厚生労働省(以下厚労省)が関係資料の開示を行った。平成26年度厚生労働科学特別研究事業「ビキニ水爆関係資料の整理に関する研究」では、研究期間が限られていたため、可能な範囲で、厚労省が開示した資料の検討及び実験当時の資料収集・整理を行った。平成27年度は、平成26年度の研究の成果を踏まえ、同省が開示した資料の整理及び約60年前の散逸した資料の収集を行い、線量評価の可能性について検討することを目的とした。
研究方法
 平成26年度は、約60年前の被ばく線量を評価するため、当時の記録、論文等の収集・整理を行った。平成27年度は、引き続き論文等の収集を行うとともに、平成26年度研究の成果を踏まえ専門家による分析等を行い、班会議で線量評価の可能性について検討した。資料の活用に当たり、放射線医学総合研究所 平成26年度第67回研究倫理審査会の承認を得た(研究計画書番号14-025)。
結果と考察
 公開資料中の血液検査データからは、明らかな放射線による影響を認める所見は確認できなかった。また、悪心、嘔吐、下痢、頭痛などの臨床症状が認められたとの記録があったが、被ばくに特異的な症状ではないため、慎重に評価する必要がある。これらの臨床症状が放射線によるものであれば、皮膚症状が合併することも考えられたが、確認できなかったこと、及び血液検査記録でも放射線の影響であると考えられる所見を確認することはできず、これらの臨床症状を放射線が原因とすることは困難である。また、ブラボー実験における外部被ばくに関する線量について、第五福竜丸を除けば、ビキニ環礁の東側海域に広がる高レベルの放射性降下物の分布域に、特に爆発後24時間以内に滞在していた船舶はない。放射性降下物分布の端で漁労活動していたものと、放射性降下物の降下後にその海域を通過した船舶の2パターンのみで、これらの船舶の外部被ばくによる線量は最大でも156 mR(1.12 mSvに相当)と見積もられた。これは、マーシャル諸島の南側の環礁(例えばマジュロ環礁)と同等もしくはそれ以下の被ばく線量である。
 今回推計した線量の増減要因として、①降雨等による影響、②船舶表面(甲板等)の有限面積、③放射性降下物の継続時間等が考えられる。
①については、放射性降下物が通過する経路上で、どの時期に降雨が生じるかによって、増減どちらも起こりうる。すなわち、降雨が、放射性降下物が船舶の真上に達したときであれば増え、それ以前であれば減る。②については、船舶表面(甲板等)の面積補正により、放射性降下物が沈着する面積が小さくなれば、線源となる放射性降下物の総量が減り、線量(率)は下がる。③については、今回の推計では、放射性降下物が放射性降下物の到着時間の時刻にその全量が沈着すると仮定した。移動中の船舶が降下中(継続した降下時間による)の放射性降下物に遭遇する場合、今回の推計よりも小さい線量となる。
 また、内部被ばくについて、第五福竜丸では、外部被ばく線量が詳細に推定されており、この船員の内部被ばく量が推計できれば、ビキニ環礁領域での外部被ばく線量に応じた内部被ばく線量の推計の参考となるものと考えられる。
 第五福竜丸船員の外部被ばく線量は、1,700~6,900 mGy(被ばく源となる放射線の殆どはβ線あるいはγ線であり、放射線加重係数が1であり、近似的にmSvに読み替えることができる)であるが、内部被ばくの実効線量は、60~330 mSv程度と推計され、またSimonらの論文では、マーシャル諸島で、緯度上、中から南部の環礁における主要な被ばくは、甲状腺を除いて外部被ばくより起きていることから、第五福竜丸以外の船員の内部被ばく線量については、外部被ばく線量に比べて小さい値と考えられる。
結論
 厚労省が開示した資料の整理及び約60年前の散逸した資料の収集を行い、線量評価の可能性を検討した。血液検査記録等からは、明らかに放射線の影響を認める所見を確認することはできなかった。また、米軍等の放射線モニタリング結果と船舶毎の航路から推計した被外部被ばくによる線量は、一定の仮定に基づく条件の下に分析した結果、最大でも156 mR(概ね1.12 mSvに相当)と見積もられた。なお、内部被ばく線量に関しては、外部被ばく線量に比べて極めて小さい値となるものと考えられる。これらの結果から、放射線による健康影響が現れる程度の被ばくがあったことを示す結果は確認できなかった。ただし、今回の分析は、船舶毎に一定の条件の下に推計を行ったものであり、個人の被ばく線量の評価については、それぞれの船舶内での行動様式を踏まえて検討する必要がある。

公開日・更新日

公開日
2016-06-20
更新日
-

研究報告書(PDF)

総括研究報告書
総括研究報告書
総括研究報告書
分担研究報告書
分担研究報告書
分担研究報告書
分担研究報告書
分担研究報告書
分担研究報告書
分担研究報告書
分担研究報告書
研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2016-09-14
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201525022C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本研究の目的は、厚生労働省が開示した資料の整理・検討及び約60 年前の散逸した資料を収集・整理し、評価を行うことである。 限られた期間において、これらの資料を収集・整理を行うことは困難を極めたが、可能な範囲で文献を収集・データを整理し、線量評価の可能性を検討した。放射線による健康影響が現れる程度の被ばくがあったことを示す結果は確認できなかった。
臨床的観点からの成果
該当なし
ガイドライン等の開発
該当なし
その他行政的観点からの成果
ビキニ水爆実験当時に被災した被ばく線量の評価に当たり、今般収集・整理した内容は、有用な資料となると考える。
その他のインパクト
該当なし

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
0件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2016-06-15
更新日
2019-06-18

収支報告書

文献番号
201525022Z