緑内障の発症、経過解析、治療に関する研究

文献情報

文献番号
199800533A
報告書区分
総括
研究課題名
緑内障の発症、経過解析、治療に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
新家 眞(東京大学)
研究分担者(所属機関)
  • 北澤克明(岐阜大学)
  • 三嶋弘(広島大学)
  • 阿部春樹(新潟大学)
  • 小口芳久(慶應義塾大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 感覚器障害及び免疫・アレルギー等研究事業(感覚器障害研究分野)
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
30,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
緑内障のスクリーニング、診断、経過観察及び治療法を確立し、さらに分
子遺伝学・分子生物学的手法および細胞生物学的手法を用いてその病因の本態を明ら
かにする。このことにより、緑内障による失明者の減少、緑内障罹患者の社会生活能
力維持及び制限のない生活の実現、その結果として国民の保険・医療・福祉の向上な
らびに国民医療費・国民福祉経費の削減が期待される。
研究方法
1)眼圧下降薬:α-遮断作用を有する薬物アモスラール、イフェンプロ
ビンの眼圧下降効果、眼圧下降機序と視神経乳頭循環に対する影響の関係を空気眼圧
計、レーザースペックル眼底血流測定装置等により検討した。
2)正常眼圧緑内障:各施設ごとの臨床データにより眼圧下降薬・循環改善薬等の効
果を検討し、またプロスペクティブスタディの対象となる症例データを収集した。視
神経乳頭形状を共焦点レーザーによる視神経乳頭形態解析装置、視神経線維厚測定装
置により解析・検討し正常眼圧緑内障の特性を検討した。
3)緑内障の診断・スクリーニング:共焦点レーザーを利用した視神経乳頭形態解析
装置、視神経線維厚測定装置により正常眼および緑内障眼データを収集し、それぞれ
の測定機器で得られるパラメータと視野測定結果に関してどのような判別式が最も有
効かを検討した。また新たに開発された視野測定方法に関しての検討を行い、視神経
乳頭形態解析装置及び視神経線維厚測定装置の各パラメータとの関連を検討した。
4)緑内障経過・予後判定法:千例以上の緑内障患者における視野検査結果をもとに
クラスター分析により、緑内障の経過を見るために、もっとも適した視野のセクター
パターンを決定し、このセクターパターンをもとに、視野経過をより精密に解析でき
るアルゴリズムを考按した。
5)緑内障における循環因子の研究:レーザースペックル現象を利用した視神経乳頭
血流測定装置に加え、超音波カラードップラー法による眼球後部血流動態に関する検
討を行い、視神経乳頭における血流の眼圧負荷、薬物負荷下におけるautoregulation
機能の検討および炭酸ガス・カルシウムブロッカーに対する反応性に関して検討した

6)分子生物学的研究:動物モデルとしてラット高眼圧モデル、ラット視神経虚血モ
デル、ラット視神経坐滅モデルを作成また網膜神経節細胞の培養系を確立し、網膜神
経節細胞のアポトーシスにおけるASK1の役割の検討、実験緑内障眼を用いた網膜神経
節細胞に対する神経栄養因子・NMDA受容体遮断薬の影響の研究を行った。また本邦人
緑内障患者におけるTIGR/MYOC遺伝子の変異の場所を特定し、そのphenotype解析を行
うとともに、線維柱帯におけるTIGR/MYOCタンパク質(ミオシリン)の局在について
も検討を行った。また、新たな緑内障遺伝子のクローニングを目指し、染色体1p36お
よび2番染色体上の新規遺伝子に関する解析を開始するとともに、先天緑内障原因遺
伝子に関する検索も行った。
結果と考察
1)眼圧下降薬:アモスラール、イフェンプロジルの眼圧下降効果は主
にぶどう膜強膜を介する房水流出を促進させることにより、またそれとともに視神経
乳頭循環を改善する傾向が認められた。このことはこれらの薬剤が新しい眼圧下降機
序を持つ眼圧下降薬であるばかりでなく視神経乳頭循環にも好影響を与え、緑内障治
療薬として優れたものである可能性を示唆した。
2)正常眼圧緑内障:正常眼圧緑内障において、末梢循環障害、乳頭出血等の非眼圧
要因が重要な病因となっている事を明らかにした。炭酸ガス負荷により緑内障眼の視
神経および視神経乳頭領域の血流が改善する事を示した。またニルバジピン等のカル
シウム拮抗薬が正常眼圧緑内障の視神経領域の循環動態を改善する事を明らかにした
。手術による十分な眼圧下降が正常眼圧緑内障の視野障害進行の停止に有用なことを
示した。正常眼圧緑内障患者を視神経乳頭形状は原発開放隅角緑内障に類似している
ものの傍視神経乳頭網脈絡膜萎縮の存在や局所的な深い陥凹等の特徴を有しているこ
とが明らかになった。これらのことより正常眼圧緑内障の治療として循環改善が重要
なものであることが示唆された。
3)緑内障の診断・スクリーニング:共焦点レーザーを利用した視神経乳頭形態解析
装置および視神経線維厚測定装置で得られる多くのパラメータから、緑内障検出に適
した数個のパラメータを抽出した。新たに開発された視野測定方法は、より短時間で
従来の方法に匹敵する緑内障検出能力を持ち、視神経乳頭形状との相関も良好である
ことが明らかになった。これらの研究結果は緑内障の診断・スクリーニング精度およ
び効率向上に役立つと考えられた。
4)緑内障経過・予後判定法:緑内障の経過観察に最も適したものとして決定した視
野のセクターパターンをもとに統計学的手法を用いて局所的視野欠損進行および全体
的な視感度低下を同時に検出可能な視野進行測定アルゴリズムを決定した。今後、こ
のアルゴリズムを用いることにより視野経過をより精密に解析することが可能になる
と考えられた。
5)緑内障における循環因子の研究:眼圧上昇および低下に対して視神経乳頭では血
流のautoregulationが存在することが明らかとなり、単純な眼圧下降のみでは視神経
乳頭の血流を増加させることは難しいと考えられた。また、炭酸ガスおよびカルシウ
ムブロッカーにより眼球後部血流が増加することが明らかとなり、これらの緑内障に
対する治療法として可能性が示された。
6)分子生物学的研究:NGF除去によってASK1が活性化され,さらにJNKを介してアポ
トーシスが誘導されることが分かった。また、実験緑内障眼の視神経乳頭部における
細胞外マトリックスの再構成にTGF-βの作用が強く関与している結果が得られ、また
視神経乳頭部ではNGF、BDNF、NT-4/5、CNTF、GDNFは視神経乳頭篩状板部付近を中心
に発現が低下し、BDNF、NT-4/5、CNTF、NT-3が篩状板より後方の球後視神経部で発現
が上昇していた。受容体はtrkA、B、p75NGFR、CNTFRでは篩状板部を中心に発現が上
昇していた。さらに、NMDA受容体遮断薬投与およびFK-506(タクロリムス)により網
膜神経節細胞の消失を用量依存性に抑制できた。この結果はこれらの薬物が将来の緑
内障視神経症治療薬の候補者となりうる可能性を示すものである。TIGR/MYOC蛋白の
ヒト線維柱帯における発現を免疫組織化学により検討したところ、各緑内障の線維柱
帯細胞および線維柱帯網、強膜に陽性反応が観察された。免疫電顕にては、細胞質全
体に反応がみられた。従ってミオシリンは正常な線維柱帯細胞構築および繊維柱帯構
築維持に関与していることが考えられた。緑内障患者におけるミオシリン遺伝子解析
では約3%にミオシリン遺伝子の変異を認めた。2番染色体短腕(2p21)に位置する
常染色体劣性遺伝先天緑内障(GLC3A)の疾患遺伝子であるCYP1B1遺伝子に関して2
4家系の先天緑内障患者を解析した。PCR-SSCP法にて4家系に変異の存在が疑われた
結論
本研究により、緑内障の発症機序、病態生理に関する新たな知見が得られ、ま
た緑内障の新たな治療方法の開発およびより鋭敏な緑内障診断、経過観察を一部確立
することができた。これらの結果は現在の緑内障診断、スクリーニング、経過観察お
よび治療に大きな影響を与えうると共に今後の緑内障研究の基礎となる成果であると
考えられた。

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