CBRNE事態における公衆衛生対応に関する研究

文献情報

文献番号
201525005A
報告書区分
総括
研究課題名
CBRNE事態における公衆衛生対応に関する研究
課題番号
H25-健危-一般-013
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
本間 正人(鳥取大学 医学部器官制御外科学講座 救急災害医学分野)
研究分担者(所属機関)
  • 小井土 雄一(独立行政法人国立病院機構災害医療センター臨床研究部)
  • 明石 真言(国立研究開発法人  放射線医学総合研究所 )
  • 松井 珠乃(国立感染症研究所 )
  • 黒木 由美子(公益財団法人 日本中毒情報センターつくば中毒110)
  • 阿南 英明(藤沢市民病院 救命救急センター)
  • 森野 一真(山形県立救命救急 センター)
  • 井上 潤一(山梨県立中央病院 救命救急センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康安全・危機管理対策総合研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
2,565,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
CBRNEテロ・災害に対する急性期医療に関して実効性ある体制整備に寄与することを目的とした。原因物質毎の対策でなく、テロ発生時の直近救急医療機関が、その原因物質の如何に関わらず、適切な初期対応が実施できることに主眼を置いた。
研究方法
各研究分担者の担当を以下の通り割り当てた。 (1) 化学テロを想定した机上ミュレーションの実施(本間正人研究代表者)(2) CBBNE災害現場での医療提供の条件と課題を抽出し、医療チームの活動内容や活動場所についての研究(阿南英明研究分担者)(3) 都市型爆発物・襲撃テロの教訓からわが国で必要かつ実施可能な体制についての研究 (井上潤一研究分担者)(4) 今後解決すべき課題についての整理・課題の抽出と研究成果の発表(森野一真研究分担者)(5) 化学テロにおける中毒情報センターと災害・救急医療体制の連携についての研究 (黒木由美子研究分担者)。 (6) 災害拠点病院のCBRNEテロ・災害患者受け入れの根拠についての研究(小井土雄一研究分担者)(7) 緊急被ばく医療体制と災害・救急医療体制の連携についての研究 (明石真言研究分担者)(8) 感染症医療体制と災害・救急医療体制の連携についての研究 (松井珠乃研究分担者)。
結果と考察
大都市において突然発生するサリン災害事象に対して、覚知と共に化学災害第二特別出動という理想的な対応であったとしても除染テントの立ち上げ完了は発災から40分後であり、また水除染の列数は2列であった。覚知から1時間以内に水除染が完了する人数は4名であり、2時間後16名、3時間後28名、4時間後40名、5時間後52名である。現在の計画ではDMATはWarm zoneにおいて活動できないため、呼吸停止に対する気管挿管と人工呼吸、痙攣に対するジアゼパムの投与、拮抗剤の硫酸アトロピン、PAMの投与は除染前には行えない。これらの理由で解毒剤投与を要するサリン中毒200名の被害者のうち、実に136名が死亡する結果となった。水除染の適応を限定化し、乾式除染(脱衣)の励行、Hot zone, Warm zone縮小による防護服着用下の動線の短縮、早期の医療介入と拮抗薬投与により死亡者を51名に減少させることが可能となった。以上より、各消防本部で発災から2時間以内に水除染が可能な人数を事前に明らかにし、それを超える傷病者が発生したと推定される場合には、乾的除染を優先して行い、coldゾーンに待機する医療チームが蘇生行為と拮抗剤の投与を行い病院に搬送する体制が不可欠である。
 医療機関においては、CBRNE事態に対する備え、設備、教育、訓練が十分でない。その最大の理由として、災害拠点病院の要件、地域医療計画、地域防災計画等公的な文書上に記載されていないように、CBRNE事態に対する医療機関の活動根拠が明確で無いことがあげられる。CBRNE事態に対する災害拠点病院の要件、地域医療計画、地域防災計画の記載が急務である。
 Warm zoneで活動できる装備と教育訓練を有した特殊医療班の必要性が以前より議論されてきた。また、医療機関に対して、日本中毒情報センターが主管するNBC災害・テロ対策研修実施してきたが、現場での対応を研修対象としていない。特殊医療班の任務としては①現場直近の医療機関を支援し、主に助言や医療機関敷地内のWarm zoneで活動する②サミットやオリンピックのような待機型の災害対応に関与する③CBRNE事態災害現場のcold zone で医学的助言(メディカルコントロール)や救護所での医療対応を行う④CBRNE事態災害現場のwarm zone で医学的助言(メディカルコントロール)や除染前や除染中の医療対応を行うことがあげられた。ただし、④CBRNE事態災害現場のwarm zone での活動に関しては、装備、訓練、補償等の面から実施不可能との意見があり、処置拡大等の法的な措置も含め救急救命士が医師の代理として実施する運用も模索すべきとの意見もあった。
 近年では、爆発や銃撃による同時多発テロが、ボストン、マドリッド、ブリュッセル、パリで発生している。これらの災害に対しても本研究班で指摘したとおり体制整備が求められる。
結論
本研究班の成果物としてMCLS-CBRNEコースや化学テロを想定した机上ミュレーションを開発・開催してきた。これまでは、ごく一部の専門家や専門部隊によるものと考えられがちなCBRNE対応の視点を、各現場レベル対応者の視点からの取り組みに変革したことは、画期的なパラダイムシフトである。これまで3年間の研究のなかで抽出してきた課題を「提言」という形でまとめ、日本集団災害医学会学術集会にて報告した。本提言を道標として、行政や消防、医療関係者等とともに解決策を施すことが喫緊の課題である。

公開日・更新日

公開日
2016-06-20
更新日
-

研究報告書(PDF)

分担研究報告書
研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2017-06-29
更新日
-

文献情報

文献番号
201525005B
報告書区分
総合
研究課題名
CBRNE事態における公衆衛生対応に関する研究
課題番号
H25-健危-一般-013
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
本間 正人(鳥取大学 医学部器官制御外科学講座 救急災害医学分野)
研究分担者(所属機関)
  • 小井土 雄一(独立行政法人国立病院機構災害医療センター 臨床研究部)
  • 明石 真言(国立研究開発法人  放射線医学総合研究所 )
  • 松井 珠乃(国立感染症研究所  感染症疫学)
  • 黒木 由美子(公益財団法人 日本中毒情報センターつくば中毒110)
  • 阿南 英明(藤沢市民病院 救命救急センター)
  • 森野 一真(山形県立救命救急 センター)
  • 井上 潤一(山梨県立中央病院 救命救急センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康安全・危機管理対策総合研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
わが国においてCBRNE (Chemical Biological Radiological Nuclear Explosive)テロ・災害発生の蓋然性は決して低くなく、オリンピック・国際的会議の開催に向けて、医療体制整備は喫緊の課題である。本研究班はCBRNEテロ・災害に対する急性期医療に関して実効性ある体制整備に寄与することを目的とした。テロ発生時の直近救急医療機関が、その原因物質の如何に関わらず、適切な初期対応が実施できることに主眼を置き研究を行った。
研究方法
研究分担者で分担し下記の研究を実施した。
・2013年度
以下の内容を明確化した「CBRNE-DMAT現場活動マニュアル」を策定のために課題を抽出した。
・ CBRNEテロ現場への出動基準
・ CBRNEテロ現場で実施する医療の確定
・ WARM ZONEに入る基準
・ 消防(HAZMET特別部隊)との連携のあり方
・ 特殊医療班が必要な装備・資機材
CBRNE事態の現場で対処にあたる職種(消防・警察等)を対象とした、全国標準の研修コースを開発し、試行的コースを開催した。
・2014年度
前年に引き続きMCLS-CBRNE試行コースを全国各地で実施し、正式コース開催に向けて教育内容のブラッシュアップおよび全国に指導者を育成した。
大阪市消防局の協力の下、化学テロを想定した机上ミュレーションを実施し、CBRNE事態における医療・公衆衛生現場対応に関して、現状の活動計画の課題・問題点を明らかにした。
・2015年度
前年に引き続き、MCLS-CBRNE試行コースを全国各地で実施した。7月より正式コースを10回開催し全国にコアプロバイダーを育成した。東京消防庁本郷消防署と広島消防局の協力の下、化学テロを想定した机上ミュレーションを2回実施し、CBRNE事態における医療・公衆衛生現場対応に関して、現状の活動計画の課題・問題点を明らかにした。3年間の研究成果を、平成28年2月27日に災害医療を担う有識者が集う、日本集団災害医学会特別企画で公開し、提言を公表した。
結果と考察
1)幅広く関係機関が机上でシミュレーション訓練をするMCLSの概念を発展させ、CBRNE災害に特化した「MCLS-CBRNEコース」を開発した。
2)サリンを想定した化学テロの机上シミュレーションを実施し、CBRNE事態における医療・公衆衛生現場対応に関して、現状の活動計画の課題・問題点を明らかにした。
3)化学テロ災害に対する医療対応の課題を整理し提言として公表し、今後のあるべき姿を明確とした。
4)ボストンマラソン爆弾テロ、2015年パリ同時多発テロ、2016年のブリュッセル同時多発テロへの対応の詳細を調査し、わが国の救急医療機関における爆弾テロ対応体制のあり方について研究した。
5)CBRNEテロ発生時、現関係機関の連携における医療のあり方について国民保護共同実動訓練からその課題を抽出した。
6)「CBRNE-DMAT現場活動マニュアル」策定にむけて、活動内容および解決するべき課題を整理し、医療チーム・DMATの在り方として求められている像を明らかにした。
7)EMISを用いて災害拠点病院のCBRNEテロ・災害に対する準備状況を把握した。
8)災害拠点病院がCBRNE傷病者を受け入れなければならない根拠を公文書上(要領、要綱など)で明らかにした。さらに、本邦で行われているCBRNE研修の受講者数を調査した。
9)「NBC災害・テロ対策研修」の受講生へのアンケート調査結果をまとめた。
10)生物テロにより引き起こされる疾患のサーベイランス強化、および東京オリンピックに向けての強化サーベイランスの構築のために、ロンドンオリンピック関連の公表資料から、感染症事例の探知における医療と公衆衛生の連携のポイントをまとめた。
11)福島の事故対応におけるDMAT活動の検証、Nuclear Radiological Disaster Casualty Management (NRDCM) Workgroupでの議論、参加者に行われたアンケートの分析から、NRテロ研修の方向性を模索した。
12)新しい原子力災害医療体制を調査し、現時点におけるわが国におけるCBRNE事態の医療体制の方向を模索した。
13)地域における特殊災害(CBRNE)事案対応について検討し、普遍的な課題を抽出した。
結論
本研究の具体的な成果物として
「化学テロを想定した机上ミュレーションの開発と実施」
「MCLS-CBRNEコースの開発と開催体制の確立」
を得た。3年間の研究成果を「提言」として公開した。本提言は今後、行政や医療関係者とともに解決策を検討する必要がある。今回呈示した提言をCBRNEテロ災害事態に対する体制整備の道標として活用可能である。

公開日・更新日

公開日
2016-06-20
更新日
-

研究報告書(PDF)

分担研究報告書
分担研究報告書
研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2017-06-29
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201525005C

成果

専門的・学術的観点からの成果
CBRNEテロ災害対応の課題が①現場レベル:水除染の固執による搬送の遅れと現場とくにwarmゾーン内の医療介入の欠如②病院レベル:除染や防護服など病院対応に必要な設備、装備の不足と受け入れ計画の欠如、訓練の欠如③国や都道府県におけるCBRNEテロ災害対応計画体系の欠如④CBRNEテロ災害対応が一般化されず、専門部隊の対応に位置づけられている。DMATに対するCBRNEテロ災害対応の知識の欠如であることを明らかとした。
臨床的観点からの成果
①課題を可視化し現場で活動する隊員自らが課題に気付くような現場レベルでのシミュレーション手法を開発した。②MCLS-CBRNEコースの開発実施を通して、従来専門部隊のみが知り対応していた特殊技能を、災害現場で初期対応する要員が理解しやすいように標準化し、CBRNE事態の現場で対処にあたる職種全てに対して広く教育を実施することが可能となった。このことの意義は、NBCテロ専門部隊から一般消防・救急職員へ、東京や大阪等の大都市、制令指定都市から全国へ標準的な知識・技能の普及が可能となったことである。
ガイドライン等の開発
MCLS-CBRNEコースを開発・標準化し、日本全国各地で開催できるように制度化した。MCLS-CBRNEコースは、CBRNEテロ・災害現場の初期対応においての以下の項目が達成することを目標とした。
① CBRNE全てに対して共通の初期活動を理解する(All hazard approach)
② 検知・ゾーニング・除染等、CBRNEテロ・災害の特性を理解する
③ 個人防護の重要性を理解する
④ 除染トリアージを理解し実践する
⑤ CBRNE災害現場において、他の関係機関と連携できる
その他行政的観点からの成果
松本サリン事件、東京地下鉄サリン事件から20年が過ぎた。同じ年に発生した阪神淡路大震災を契機に、災害時の初期医療体制、特に災害拠点病院、EMIS、DMAT、広域医療搬送などの体制が整備されてきた自然災害対応に比べ、CBRNEテロ災害対応がなかなか進んでない現状がある。現在の課題を「提言」という形でまとめ、災害専門家や行政に対して明らかにすることにより、今後の政策や研究の道しるべとすることにより、CBRNEテロ災害事態に対する体制整備が一層進むことが期待できる。
その他のインパクト
第21回日本集団災害医学会総会(平成28年2月27日 山形市)において公開シンポジウム「CBRNE 対応を考える 化学災害・テロ対応の現状と課題」を開催し、研究成果を発表した。現在の課題を「提言」としてまとめ公開した。

発表件数

原著論文(和文)
14件
原著論文(英文等)
20件
その他論文(和文)
21件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
8件
学会発表(国際学会等)
7件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
1件
第21回日本集団災害医学会総会(平成28年2月27日 山形市)において公開シンポジウムを開催した。

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Anan H, Akasaka O, Kondo H, et al.
Experience from the Great East Japan Earthquake Response as the Basis for Revising the Japanese Disaster Medical Assistance Team (DMAT) Training Program.
Disaster Med Public Health Prep , 8 (6) , 477-484  (2014)
10.1017/dmp.2014.113.
原著論文2
Homma M
Development of the Japanese National Disaster Medical System and Experiences during the Great East Japan Earthquake.
Yonago Acta Med. , 58 (2) , 53-61  (2015)
PMID: 26306054
原著論文3
Tominaga T, Hachiya M, Tatsuzaki H, et al.
The accident at the Fukushima Daiichi Nuclear Power Plant in 2011.
Health Phys. , 106 (6) , 630-637  (2014)
10.1097/HP.0000000000000093
原著論文4
Otomo Y, Burkle FM
Breakout session 1 summary: frameworks and policies relating to medical preparedness and health management in disasters.
Disaster Med Public Health Prep. , 8 (4) , 359-360  (2014)
10.1017/dmp.2014.72.
原著論文5
Burkle FM Jr, Egawa S, MacIntyre AG, et al.
The 2015 Hyogo Framework for Action: cautious optimism.
Disaster Med Public Health Prep. , 8 (3) , 191-192  (2014)
10.1017/dmp.2014.50.
原著論文6
Yamanouchi S, Sasaki H, Tsuruwa M, et al.
Survey of preventable disaster death at medical institutions in areas affected by the Great East Japan Earthquake: a retrospective preliminary investigation of medical institutions in Miyagi Prefecture.
Prehosp Disaster Med. , 30 (2) , 145-151  (2015)
10.1017/S1049023X15000114.

公開日・更新日

公開日
2016-06-15
更新日
-

収支報告書

文献番号
201525005Z