ラット前がん病変の生物学的特徴に基づいた新たな肝発がんバイオマーカーの探索

文献情報

文献番号
201524025A
報告書区分
総括
研究課題名
ラット前がん病変の生物学的特徴に基づいた新たな肝発がんバイオマーカーの探索
課題番号
H27-化学-若手-010
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
高須 伸二(国立医薬品食品衛生研究所 病理部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 化学物質リスク研究
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究費
2,250,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
化学物質の迅速なリスク評価を実現するうえで、動物個体を用いたハザード評価の迅速化・効率化は大変重要である。胎盤型グルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST-P)陽性細胞巣は、ラットにおける肝発がん性をよく反映する発がんマーカーである一方、発生するすべてのGST-P陽性細胞巣が腫瘍化するのではないことも知られている。我々はこれまでに、遺伝毒性発がん物質であるdiethylnitrosamine (DEN)誘発GST-P陽性細胞巣の多くは不可逆的な動態を示す一方、非遺伝毒性発がん物質であるfuran誘発のGST-P陽性細胞巣は可逆的である可能性を見出したことから、本研究ではGST-P陽性細胞巣の可逆性・不可逆性の差異に着目し、GST-P陽性細胞巣の生物学的特徴を考慮した新たな肝発がんバイオマーカー候補を検討する。
研究方法
GST-P陽性細胞巣における部位特異的な網羅的遺伝子発現解析を行うために、DENまたはfuranを投与したF344ラット肝臓のホルマリン固定標本および新鮮凍結切片に対して、抗GST-P抗体を用いた免疫組織化学染色を行い、レーザーマイクロダイセクション法を用いたRNA抽出を行った。また、連続新鮮凍結切片を用いた解析を行うため、トルイジンブルー染色新鮮凍結切片を用いてレーザーマイクロダイセクション法によるRNA抽出を行った。続いて、実際のDENおよびfuran誘発GST-P陽性細胞巣における部位特異的な網羅的遺伝子発現解析を行うために、6週齢の雄性F344ラットにDENを10 ppmの濃度で13週間飲水投与またはfuranを8 mg/kg体重/日の用量で1日1回、週5日間の頻度で13週間強制経口投与した。無処置群には基礎食および蒸留水を自由摂取させた。投与終了後、それぞれの群の半数のラットに関しては、肝臓を摘出した。また残りのラットは、投与終了後7週間休薬させたのちに肝臓を摘出した。摘出した肝臓は各葉から切り出し、それぞれホルマリン固定および新鮮凍結標本に供した。
結果と考察
抗GST-P抗体を用いた免疫組織化学染色を行った結果、新鮮凍結切片を用いたGST-P陽性細胞巣は、従来行われているホルマリン切片を用いた免疫染色と同様の染色態度を示したことから、新鮮凍結切片に対してもGST-P陽性細胞巣の検出は可能であると考えた。しかしながら、免疫染色を行った切片からは高品質のRNAは抽出できなかったため、連続新鮮凍結切片に対してトルイジンブルー染色を行い同様の検討を行ったところ、遺伝子発現解析が可能な品質のRNAを抽出できることが確認できたことから、本研究では、トルイジンブルー染色を施した連続切片を用いて解析を行うことが妥当であると考えた。DENおよびfuranを投与した際に認められるラット肝臓のGST-P陽性細胞巣における遺伝子発現変動を比較するために、F344ラットにDENまたはfuranを13週間投与したところ、furan投与群においてGST-P陽性細胞巣の発生を確認した。今後、これらサンプルに関してGST-P陽性細胞巣を対象とした部位特異的な網羅的遺伝子発現解析を実施し、それぞれのGST-P陽性細胞巣の生物学的特徴を明らかにすることにより、新たなバイオマーカー候補分子を探索する。
結論
GST-P陽性細胞巣における網羅的遺伝子発現解析を実施するために、レーザーマイクロダイセクション法を用いたRNA抽出法の検討を行い、その方法および有用性を確認した。また、GST-P陽性細胞巣における遺伝子発現変動を比較するため、GST-P陽性細胞巣の発生をエンドポイントにDENおよびfuranをF344ラットに投与し、肝臓のサンプリングおよびGST-P陽性細胞巣の発生を確認した。今後、これらサンプルに関してGST-P陽性細胞巣を対象とした部位特異的な網羅的遺伝子発現解析を行うことにより、それぞれのGST-P陽性細胞巣の生物学的特徴を明らかにし、発がん機序や生物学的特徴に基づいた発がん性を評価するための新たなバイオマーカー候補を探索する。

公開日・更新日

公開日
2016-05-30
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2017-01-20
更新日
-

収支報告書

文献番号
201524025Z