妊娠期のPFAAs・OH-PCB曝露による次世代への甲状腺機能攪乱作用と生後の神経発達へ与える影響の解明

文献情報

文献番号
201524024A
報告書区分
総括
研究課題名
妊娠期のPFAAs・OH-PCB曝露による次世代への甲状腺機能攪乱作用と生後の神経発達へ与える影響の解明
課題番号
H26-化学-若手-006
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
伊藤 佐智子(北海道大学 環境健康科学研究教育センター)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 化学物質リスク研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究費
1,700,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年、長炭素鎖有機フッ素化合物(PFAAs)製造量増加による一般生活環境での曝露量増加が報告されている。また、PCBは国内での製造が終了した後も、長い半減期のため未だ環境中から検出され、その代謝物の水酸化PCB(OH-PCB)曝露による健康への影響が懸念されている。本研究では出生前向きコホートで、長炭素鎖PFAAsおよびOH-PCBの妊娠期曝露による母児甲状腺機能攪乱作用への影響を解明と幼児期や学童期の発達障害との関連を明らかにし、化学物質胎児期曝露による次世代への健康リスク評価を行うことを目的とする。
研究方法
産科施設の協力により設定された二つの前向きコホートを用いた。地域ベースの37病院が参加している大規模コホート研究では,医師が記載した新生児個票から先天異常と55種マーカー奇形を調べ,思春期まで追跡をする。札幌市内一産科医院で実施した小規模コホート内で妊娠期母体血中OH-PCB濃度と代謝関連SNPsデータおよび母児甲状腺ホルモン値データが揃う母児260組を対象に、妊娠期母体血中OH-PCB濃度が児の甲状腺ホルモン値へおよぼす影響の検討と、母体血中の異物代謝関連SNPs解析を行った。北海道全体の産科医院を対象とした大規模コホートでは、H26、27年度で1,000組の母児について母体血中および臍帯血中甲状腺ホルモン値、抗甲状腺抗体の測定を行った。加えて、すでに母体血中PFAAs11種類の濃度が測定された489組を対象に、PFAAs濃度と母児甲状腺ホルモン値の関連を検討した。
結果と考察
(1)代謝関連SNPsの違いによる胎児期OH-PCB曝露と児の甲状腺ホルモン値との関連検討
OH-PCBの母体血中濃度が出生時の児TSH、FT4値へ与える影響を重回帰分析にて検討したところ、妊娠期母体血中ΣOH-PCB、4-OH-CB187濃度が高いと、児のFT4値が有意に高かった。さらにPCBからOH-PCBへの代謝に関連するとされるAhRR、CYP1A2などの各SNPsで層別化し検討したところ、AhRRのCC型では妊娠期母体血中ΣOH-PCB が高いと児のTSHが有意に高く、4-OH-CB187濃度が高いと児のTSH値が有意に高く、児のFT4値も有意に高かったが、CG型、GG型では有意な関連がみられなかった。CYP1A2のAA型では4-OH-CB187濃度が高いと児のFT4値が有意に高かったが、AC型、AA型では有意な関連がみられなかった。GSTPのAA型ではΣOH-PCB が高いと児のTSHが有意に高かった。また、4-OH-CB187濃度が高いと児のTSH値が有意に高く、児のFT4値も有意に高かった。一方、AG型、GG型では有意な関連がみられなかった。CYP1B1の各SNPsでは同様の検討を行ったが、SNPs間での差はみられなかった。これらの結果から、OH-PCBの胎児期曝露は児のTSH、FT4へ影響をおよぼし、その影響は母の代謝関連SNPs型によって異なっており、遺伝的OH-PCB曝露に対するハイリスク群の存在が示唆された。
(2)胎児期PFAAs曝露と母児の甲状腺ホルモン値との関連検討
大規模コホートでは、1,000組の母児について母体血中および臍帯血中甲状腺ホルモン値、抗甲状腺抗体の測定を行った。母体血中PFAAs11種類の濃度が測定された489組を対象に、PFAAs濃度と母児甲状腺ホルモン値の関連を重回帰分析で検討したところ、母体血中PFTrDA(C=13)濃度が高いと母のTSHが有意に高かった。児の解析では性別で層別化すると、男児では母体血中PFHxS(C=6)、PFDA(C=10)濃度が高いと臍帯血中FT3が有意に低く、女児において母体血中PFHxS(C=6)濃度が高いと臍帯血中TSHが有意に高く、PFDA(C=10)が高いと児のFT3が有意に高かった。母体血中PFAAs濃度と母児FT4の有意な関連はみとめられなかった。これらの結果から、PFOS(C=8)、PFOA(C=8)曝露と母児甲状腺ホルモン値との影響はみられなかった一方、長炭素鎖のPFDA(C=10)、PFTrDA(C=13)に加えて、短炭素鎖のPFHxS(C=6)が甲状腺ホルモンへ影響を与えること、児では性差がみられる可能性が示唆された。残り511組の対象者については、現在母体血中PFAAsの測定を引き続き行っている。
結論
本研究では環境化学物質に対して最も脆弱な集団である妊婦、胎児への曝露と、児の発育・発達に重要な甲状腺ホルモンとの関連がみとめられた。今後はPFAAs、OH-PCB曝露濃度が及ぼす神経行動発達への影響を検討・評価を行い、胎児期曝露による母児の甲状腺機能攪乱作用と幼児期・学童期の発達障害との関連を明らかにする。

公開日・更新日

公開日
2016-05-30
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201524024Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
2,210,000円
(2)補助金確定額
2,210,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 1,613,518円
人件費・謝金 0円
旅費 0円
その他 86,482円
間接経費 510,000円
合計 2,210,000円

備考

備考
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公開日・更新日

公開日
2018-05-29
更新日
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