受精卵培養液中のフタル酸類の受精卵及び出生児に対する影響評価研究

文献情報

文献番号
201524017A
報告書区分
総括
研究課題名
受精卵培養液中のフタル酸類の受精卵及び出生児に対する影響評価研究
課題番号
H26-化学-指定-002
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
相崎 健一(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 毒性部)
研究分担者(所属機関)
  • 安彦 行人(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 毒性部)
  • 種村健太郎(東北大学大学院農学研究科・ 動物生殖科学分野)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 化学物質リスク研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究費
17,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ヒト体外受精で用いられる培養液中から、正常妊娠の妊婦の血清中平均濃度の10倍以上のフタル酸類(DEHP及びMEHP)が検出されたとの報告がなされたが、同濃度域における生体影響を確認するための実験動物を用いた曝露実験が充分に実施されておらず、また個体の発生・発達期に関する今までに蓄積された生物学的知見から予想されるエピゲノムや情動認知行動への影響などに関する科学的情報が不足しており、文献情報からは確実な安全性評価が行えないことが判明した。これを受け、体外受精に用いる培養液中に混入したフタル酸類(DEHP及びMEHP)が、受精卵及び出生児に及ぼす影響の安全性評価において不足している科学的情報を、マウスを用いて取得すると共に、初期胚の化学物質曝露に対する短期間且つ高感受性の安全性評価手法を開発する。
研究方法
本研究に於いては、一般的な病理検査に加え、高感度系として情動認知行動試験や、フタル酸類が結合する核内受容体の存在が知られていることを踏まえたPercellomeトキシコゲノミクス技術による網羅的遺伝子発現解析やエピゲノム解析を行う。
マウス体外受精はヒト体外受精に準じて行い、胚盤胞まで培養し、その間にDEHP、MEHPを曝露する。得られた胚盤胞は直接、遺伝子発現解析やDNAメチル化解析に供する(in vitro実験)と共に、偽妊娠雌マウスへの移植により個体作製を行う。産仔マウスは情動認知行動解析に供すると共に、その組織に対し遺伝子発現解析やDNAメチル化解析を実施する(in vivo実験)。
これと関連し、マウスES細胞とマウスEpiS細胞の差異を明らかする。ヒトES細胞に対する毒性の評価をマウスES細胞を用して実施する事例が報告されているが、ヒトES細胞はマウスEpiS細胞(胚盤葉上層由来幹細胞)と同等の分化段階にあること、すなわち、マウスES細胞とは異なる段階にあること知られており、DEHPやMEHPなどの化学物質に対する反応の分子機序レベルでの比較検討を行い、マウスES細胞を用いた化学物質の安全性評価のヒトES細胞への外挿性の改善の一助とする。
結果と考察
ヒト体外受精で用いられる培養液中に混入した微量のフタル酸類(DEHP及びMEHP)について、初期胚培養という特殊な環境における動態は明らかになっていなかったが、平成27年度の研究により、特に混入DEHPは、実際の不妊治療において一般的に用いられる流動パラフィン重層培養法では、受精卵培養中に培養液中からほぼ全量が消失(流動パラフィンへ移行しているものと推測)していることを確認し、DEHPによる受精卵曝露は軽微若しくは実質的に起こっていない可能性が示唆された。ただし、流動パラフィンを重層せず受精卵を培養し、不妊治療が実施されたケースも少数ながら確認されており、DEHP曝露による影響評価研究を継続する。
一方、MEHPに関しては流動パラフィンへの移行は殆どなく、計画通り曝露実験を進めている。人工授精時にMEHP曝露を実施した産仔マウスの情動認知行動影響解析において、低用量群に不安関連行動の逸脱と学習記憶異常を示す所見がえられた。その中で音-連想記憶異常は、低用量群及び高用量群ともに認められたことから、人工授精時におけるMEHP曝露の影響が有意である可能性が示された。
MEHP曝露における網羅的な遺伝子発現解析では、発現変動が微弱であるものの、発現変動のあった遺伝子の中には神経系発達やDNAメチル化に関与するものもあり、実施中のDNAメチル化解析の結果を加味して今後、総合的に評価する。
未受精卵母細胞のMEHP曝露(受精卵培養液に混入していたMEHP濃度の10倍量)による紡錘体形成不全は、今年度の追試においても再現した。この異常所見の誘発要因として染色体制御因子制御異常が疑われるため、紡錘体形成チェックポイントタンパクMAD2の動態を解析するとともに、早期染色分体分離(PCS)が生じている可能性も考慮して染色体分配異常の解析手法を検討中である。
結論
平成27年度は、実際の不妊治療で一般的に採用されている流動パラフィン重層胚培養法では混入DEHPが培養液中から流動パラフィンに移行するため、大多数の不妊治療においては受精卵のDEHP曝露は限定的である可能性を見出した。一方、MEHPについては流動パラフィンに移行しないことが判明し、計画通り曝露実験を進め、胚盤胞レベルでの網羅的遺伝子発現やDNAメチル化解析から、個体レベルでの情動認知行動解析まで実施して分子機序の解析に基づく安全性評価研究を行った結果、情動認知行動影響解析では音-連想記憶に於いて、また未受精卵母細胞のMEHP曝露では紡錘体形成に於いて、有意な異常所見を得つつある。平成28年度は引き続き解析を進め、示唆されている曝露影響の詳細を確認する。

公開日・更新日

公開日
2016-05-27
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2016-06-02
更新日
-

収支報告書

文献番号
201524017Z