気道障害性を指標とする室内環境化学物質のリスク評価手法の開発に関する研究

文献情報

文献番号
201524015A
報告書区分
総括
研究課題名
気道障害性を指標とする室内環境化学物質のリスク評価手法の開発に関する研究
課題番号
H27-化学-一般-009
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
神野 透人(名城大学 薬学部 衛生化学研究室)
研究分担者(所属機関)
  • 埴岡 伸光(横浜薬科大学 薬学部 公衆衛生学研究室)
  • 伊藤 一秀(九州大学大学院 総合理工学研究院 エネルギー環境共生工学部門)
  • 香川 聡子(横浜薬科大学 薬学部 環境科学研究室)
  • 河上 強志(国立医薬品食品衛生研究所 生活衛生化学部)
  • 小野 敦(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 安全性予測評価部)
  • 東 賢一(近畿大学医学部 環境医学・行動科学教室)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 化学物質リスク研究
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究費
17,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
現在、厚生労働省のシックハウス (室内空気汚染) 問題に関する検討会において、室内濃度指針値の改定あるいは対象化合物の追加に関する議論が進められている。第17回検討会 (平成25年8月1日) において事務局から提案された「室内濃度指針値見直しスキーム」によれば、全国実態調査等に基づく「初期曝露評価」に引き続いて既存のハザード情報を活用して「初期リスク評価」を行うこととされている。この「初期リスク評価」は、その後の「詳細曝露評価」および「詳細リスク評価」を実施するか否かを判断する重要なステップである。しかし、室内環境化学物質の「初期リスク評価」に資するハザード情報は比較的限られており、この段階が室内濃度指針値策定作業において律速となることが危惧されている。このような背景から、本研究では気道障害性に着目し、「ハザード情報の網羅的な収集ならびに不足情報の補完方法の確立」を目的として3つのサブテーマを設定して研究を実施した。
研究方法
サブテーマ1「気道内挙動のin vitro/in silico予測」では、化学物質の物性および室内空気中濃度から気道における障害部位やそこでの曝露濃度を予測するための数値モデル開発を目的として、実験動物およびヒトの数値気道モデル構築、ならびに気道内における代謝転換予測モデルの構築を進めた。
サブテーマ2「気道障害性のin vitro評価」では、気道刺激性の予測法としてTransient Receptor Potential (TRP) チャネルを標的とする化学物質のスクリーニング法、ならびに気道感作性の予測法としてDirect Peptide Reactivity Assay (DPRA) によるスクリーニング法の確立を行った。
サブテーマ3「気道障害性にかかる情報収集および優先順位判定」では、GHS分類評価結果を基に、気道障害性 (気道刺激性および気道感作性) を指標として候補化合物の選定を行った。また、室内空気全国調査で高頻度・高濃度で検出された化学物質を対象にして、国際機関や諸外国の規制状況に関する情報、ならびに評価値の導出に必要な有害性の量反応関係に関する科学的知見を収集した。
結果と考察
気道内挙動のin vitro/in silico予測では、鼻粘膜、気管および気管支粘膜における Cytochrome P450 (CYP) およびCarboxylesterase (CES) の発現について調査を行い、CYP2A6やCYP2B6がいずれの部位でも発現しているのに対し、CES2には部位特異性が存在する可能性を明らかにした。また、in silico解析に必要な数値気道モデル (ラット、イヌ、サルおよびヒト2種) を作製し、鼻呼吸時の定常状態 (吸気時) を仮定した解析により、気道内流れ場、温度場、粒子拡散場の特徴を明らかにした。
気道障害性のin vitro評価では、3種のヒトTRPチャネル (TRPV1、TRPA1、TRPM8) およびマウスTRPA1チャネル安定発現細胞株を樹立して侵害刺激のHigh-throughput Screening系を確立するとともに、DPRA法によるフマル酸ジエステル類およびマレイン酸ジエステル類の感作性評価を行った。
気道障害性にかかる情報収集および優先順位判定のサブテーマでは、気道刺激の蓋然性が比較的高いGSH分類化合物として74物質を選定するとともに、室内空気全国調査で高濃度/高頻度で検出されたTXIBや2-Ethylhexanolなどの化学物質の毒性情報収集ならびに初期リスク評価を実施した。
結論
本年度の成果により、室内環境化学物質の気道内代謝変換による物性の変化を考慮に入れた精緻な気道モデルの構築が可能となった。また、気道で発現する主要なTRPチャネルについて室内環境化学物質による侵害刺激評価系が完成し、DPRA法による感作性評価系High-throughput Screening系の構築も完了した。これらの要素技術を活用・発展させることにより、室内空気中濃度に基づく標的部位の曝露濃度予測や気道障害性の予測が可能となる。さらに、気道刺激性をはじめとする室内環境化学物質の有害性に関しても有用な情報が得られており、今後、これらの知見をシックハウス (室内空気汚染) 問題に関する検討会に提示することによって、室内濃度指針値の策定/改訂作業の一層の加速化を図れるものと期待される。

公開日・更新日

公開日
2016-06-09
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201524015Z