文献情報
文献番号
199800530A
報告書区分
総括
研究課題名
加齢による視聴覚障害の危険因子に関する縦断的研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
下方 浩史(国立療養所中部病院長寿医療研究センター)
研究分担者(所属機関)
- 葛谷文男(名古屋大学名誉教授、社団法人オリエンタル労働衛生協会理事長)
- 長田久雄(東京都立医療技術短期大学部教授)
- 中島務(名古屋大学部医学部耳鼻咽喉科学教室教授)
- 三宅養三(名古屋大学部医学部眼科学教室教授)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 感覚器障害及び免疫・アレルギー等研究事業(感覚器障害研究分野)
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
34,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
現代情報の多くは視覚・聴覚を介して認識されるため、感覚器障害は社会との意志疎通を脅かしADLやQOLに多大な影響を与える。これらの障害の多くは不可逆性と考えられ予防が最重要である。視力・聴力障害の危険因子としては従来知られているものの他にコンピュータ作業や生活騒音、ストレスなど過去にはなかった因子や生活習慣が複雑に関与していると考えられる。本研究の目的は視聴覚機能の経年変化を縦断的疫学調査により検討し、視聴覚機能低下の危険因子の解明と予防・早期発見に資することである。数千人以上の対象者を用いた大規模な感覚器機能の縦断的検討は、通常は膨大な予算と人材を要するためほとんど行われていない。その上加齢や喫煙・飲酒などの生活習慣との関連を詳細に検討した研究は、非常に重要な問題にも関わらず国内外をみてもほとんどない。国民の関心も疾患から健康そのものに移りつつあり、より健康的な生活環境整備のために感覚機能低下危険因子の解明は早急に着手すべき問題である。
研究方法
(1)大規模集団における眼圧の縦断的研究:1993年もしくは1994年の人間ドック受診者のなかで、3年後に再診歴のある13,234人を対象とした。初回受診検査値(初期値)と3年後検査値とを比較し、眼圧に関与する要因として、性別、収縮期血圧、拡張期血圧、肥満度(BMI)、赤血球数、白血球数、血色素量、ヘマトクリット値、血小板数、γGTP値、総コレステロール値、フルクトサミン値、喫煙歴、飲酒歴について検討した。
(2)聴力の加齢変化と生活習慣に関する研究:1990年1月から1997年12月までに愛知総合保健センター人間ドックを受診した60歳以上の受診者から難聴群と正常群に属する者を抽出した。難聴群496人(男454人、女42人)および正常群2,807人(男2,230人、女577人)の合計3,303人(男2,684人、女619人)について加齢による聴力障害と喫煙・飲酒習慣およびスクリーニング検査所見との関連を検討した。
(3)語音聴力と言語および加齢に関する研究:バイリンガルの人において日本語、英語における語音聴力検査をおこない言語自体の影響につき検討を行った。対象は、米国オレゴン州ポートランド市近郊に住む23歳から85歳の男女23名である。
(4)高齢者の視聴覚機能とQOLに関する縦断的研究:東京都小金井市(都市)と秋田県南外村(農村)に居住する高齢者を対象に、聴力、視力とQOLに関する検討を行った。都市の調査開始時(1991年)の対象数は 814名 (男性368名、女性 446名)であった。農村の調査開始時(1992年)の対象数は, 748 名(男性300 名、女性 448 名)であった。解析の対象となった資料は、都市においては1993年(1st)と1995年(2nd)であり、農村においては1994年 (1st)と1996年(2nd)である。
(5)長寿医療研究センター老化縦断研究(NILS-LSA):長寿医療研究センターで実施を開始した老化の長期縦断疫学研究は、対象を当センター周辺(大府市および知多郡東浦町)の地域住民からの無作為抽出者(観察開始時年齢40-79歳)としている。調査内容資料の郵送後、参加希望者に調査内容に関する説明会を実施し、文章による同意の得られた者を対象者とした。対象は40,50,60,70代男女同数とし2年ごとに調査を行う。2年間で計2,400人の調査を目標としている。測定項目は感覚器機能の加齢変化に対してリスクとなりうる、もしくは感覚器機能の低下に伴って影響を受けると考えられる多くの項目について、感覚器機能を中心とした医学分野のみならず、運動生理学分野、栄養学分野、心理学分野のそれぞれの専門家が詳細な基礎データを収集した。今回は視覚に関する加齢変化について検討した。
(2)聴力の加齢変化と生活習慣に関する研究:1990年1月から1997年12月までに愛知総合保健センター人間ドックを受診した60歳以上の受診者から難聴群と正常群に属する者を抽出した。難聴群496人(男454人、女42人)および正常群2,807人(男2,230人、女577人)の合計3,303人(男2,684人、女619人)について加齢による聴力障害と喫煙・飲酒習慣およびスクリーニング検査所見との関連を検討した。
(3)語音聴力と言語および加齢に関する研究:バイリンガルの人において日本語、英語における語音聴力検査をおこない言語自体の影響につき検討を行った。対象は、米国オレゴン州ポートランド市近郊に住む23歳から85歳の男女23名である。
(4)高齢者の視聴覚機能とQOLに関する縦断的研究:東京都小金井市(都市)と秋田県南外村(農村)に居住する高齢者を対象に、聴力、視力とQOLに関する検討を行った。都市の調査開始時(1991年)の対象数は 814名 (男性368名、女性 446名)であった。農村の調査開始時(1992年)の対象数は, 748 名(男性300 名、女性 448 名)であった。解析の対象となった資料は、都市においては1993年(1st)と1995年(2nd)であり、農村においては1994年 (1st)と1996年(2nd)である。
(5)長寿医療研究センター老化縦断研究(NILS-LSA):長寿医療研究センターで実施を開始した老化の長期縦断疫学研究は、対象を当センター周辺(大府市および知多郡東浦町)の地域住民からの無作為抽出者(観察開始時年齢40-79歳)としている。調査内容資料の郵送後、参加希望者に調査内容に関する説明会を実施し、文章による同意の得られた者を対象者とした。対象は40,50,60,70代男女同数とし2年ごとに調査を行う。2年間で計2,400人の調査を目標としている。測定項目は感覚器機能の加齢変化に対してリスクとなりうる、もしくは感覚器機能の低下に伴って影響を受けると考えられる多くの項目について、感覚器機能を中心とした医学分野のみならず、運動生理学分野、栄養学分野、心理学分野のそれぞれの専門家が詳細な基礎データを収集した。今回は視覚に関する加齢変化について検討した。
結果と考察
(1)大規模集団における眼圧の縦断的研究:3年間で追跡で眼圧は平均0.083 mmHg上昇した。高年齢群になるに従い眼圧変化量の減少が認められた。眼圧変動に最も強い正の関係を有する要因は収縮期血圧初期値、次いで収縮期血圧変化量、BMI変化量であった。γGTP初期値、γGTP変化量、フルクトサミン初期値、BMI初期値、飲酒歴も有意な正の関係を示した。眼圧変動に負の影響を及ぼす要因は眼圧初期値と年齢、性別(女性)であった。
(2)聴力の加齢変化と生活習慣に関する研究:1日20本以上の現在喫煙者は 非禁煙者と比べ聴力障害のリスクが有意に高かった(OR 2.24, 95%信頼区間(CI) 1.62-3.11)。喫煙指数も同様に正の関連を示した。一方、飲酒習慣については有意な関連は認められなかった。検査所見においては、聴力障害はGOT、GPT、γGTPとは正の関連、%肺活量、コレステロール値、ヘモグロビン値とは負の関連、BMIとはU型の関連を示した。また、血圧や眼底所見については有意な関連は認められなかった。
(3)語音聴力と言語および加齢に関する研究:若年群、高齢群とも特に50%以下の明瞭度を示す音圧で、日本語による明瞭度が優れていた。騒音下では日本語に対する明瞭度の優位性がさらに顕著となり、若年群の英語に対する明瞭度を、高齢群の日本語に対する明瞭度が上回る結果となった。
(4)高齢者の視聴覚機能とQOLに関する縦断的研究:都市および農村の1stと2ndの生活満足度尺度K (LSIK)、老研式活動能力指標(TMIC)を男女別に比較した。LSIKは、都市の男性で、1stと比較して2ndの得点が有意に低下していた。TMICは、農村の1stと2ndで、女性と比較して男性の得点が有意に高かった。LSIKは、1stの男女とも、農村と比較して都市の得点が有意に高かった。農村の男性では、視力の変化と正の、転倒とは負の、有意な相関が見られた。農村の女性では、視力の変化と有意な正の相関が見られた。都市、農村ともに、それぞれ男女別に、2ndのLSIK得点を目的変数とし、説明変数として、視力、聴力、咀嚼力、握力の変化と、転倒、および、1stのLSIKの得点を投入して、重回帰分析を行った。その結果、農村の女性で、視力の変化と咀嚼力の変化が有意な影響をもつことが示された。
(5)長寿医療研究センター老化縦断研究(NILS-LSA):遠見矯正視力、コントラスト感度は40歳代と50歳代とでは有意差を認めなかったが、60歳代以降で有意な低下を示した。動体視力は40歳代に比べ50歳代から年齢とともに低下を認めた。屈折度は60歳代までは遠視化を示したが、60歳代と70歳代とでは有意差を認めなかった。色覚機能は年齢とともに低下を示したが、赤緑識別については70歳代で、また青黄識別については60歳代以降で有意な低下を認めた。立体視機能も年齢とともに低下する傾向を認め、60歳代以降に有意な低下を認めた。自動視野計による平均視野感度は年齢とともに低下を認めた。
(2)聴力の加齢変化と生活習慣に関する研究:1日20本以上の現在喫煙者は 非禁煙者と比べ聴力障害のリスクが有意に高かった(OR 2.24, 95%信頼区間(CI) 1.62-3.11)。喫煙指数も同様に正の関連を示した。一方、飲酒習慣については有意な関連は認められなかった。検査所見においては、聴力障害はGOT、GPT、γGTPとは正の関連、%肺活量、コレステロール値、ヘモグロビン値とは負の関連、BMIとはU型の関連を示した。また、血圧や眼底所見については有意な関連は認められなかった。
(3)語音聴力と言語および加齢に関する研究:若年群、高齢群とも特に50%以下の明瞭度を示す音圧で、日本語による明瞭度が優れていた。騒音下では日本語に対する明瞭度の優位性がさらに顕著となり、若年群の英語に対する明瞭度を、高齢群の日本語に対する明瞭度が上回る結果となった。
(4)高齢者の視聴覚機能とQOLに関する縦断的研究:都市および農村の1stと2ndの生活満足度尺度K (LSIK)、老研式活動能力指標(TMIC)を男女別に比較した。LSIKは、都市の男性で、1stと比較して2ndの得点が有意に低下していた。TMICは、農村の1stと2ndで、女性と比較して男性の得点が有意に高かった。LSIKは、1stの男女とも、農村と比較して都市の得点が有意に高かった。農村の男性では、視力の変化と正の、転倒とは負の、有意な相関が見られた。農村の女性では、視力の変化と有意な正の相関が見られた。都市、農村ともに、それぞれ男女別に、2ndのLSIK得点を目的変数とし、説明変数として、視力、聴力、咀嚼力、握力の変化と、転倒、および、1stのLSIKの得点を投入して、重回帰分析を行った。その結果、農村の女性で、視力の変化と咀嚼力の変化が有意な影響をもつことが示された。
(5)長寿医療研究センター老化縦断研究(NILS-LSA):遠見矯正視力、コントラスト感度は40歳代と50歳代とでは有意差を認めなかったが、60歳代以降で有意な低下を示した。動体視力は40歳代に比べ50歳代から年齢とともに低下を認めた。屈折度は60歳代までは遠視化を示したが、60歳代と70歳代とでは有意差を認めなかった。色覚機能は年齢とともに低下を示したが、赤緑識別については70歳代で、また青黄識別については60歳代以降で有意な低下を認めた。立体視機能も年齢とともに低下する傾向を認め、60歳代以降に有意な低下を認めた。自動視野計による平均視野感度は年齢とともに低下を認めた。
結論
国外を含むさまざまな集団を用いて、加齢による感覚器機能の縦断的変化を検討するとともに、聴覚機能低下の予防、早期発見に資するための検討を行った。眼圧は加齢により高くなること、血圧や肥満の影響が大きいことを示した。加齢による聴力低下には喫煙の影響が大きいこと、また日本語は聴力が低下しても聞き取り能力が残りやすいこと、視力とQOLとの関連についても明らかにできた。昨年度より長寿医療研究センターにおいて開始された感覚器機能の老化などを目標にした包括的縦断研究からは動体視力の早期からの低下を示すことがわかった。このような大規模かつ包括的で詳細な感覚機能の加齢研究は他になく、今後、世界的にも貴重な結果が得られると期待できる。
公開日・更新日
公開日
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更新日
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