抗原性物質への免疫応答に対するナノマテリアル経皮曝露の影響に関する評価手法の開発研究

文献情報

文献番号
201524010A
報告書区分
総括
研究課題名
抗原性物質への免疫応答に対するナノマテリアル経皮曝露の影響に関する評価手法の開発研究
課題番号
H26-化学-一般-004
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
安達 玲子(国立医薬品食品衛生研究所 生化学部)
研究分担者(所属機関)
  • 酒井 信夫(国立医薬品食品衛生研究所 生活衛生化学部)
  • 最上 知子(国立医薬品食品衛生研究所 生化学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 化学物質リスク研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究費
8,900,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年幅広く利用されているナノマテリアルについては物理化学的特性による健康影響の可能性が指摘されている。OECDでは、わが国も参加して、フラーレン、カーボンナノチューブ、酸化チタン、酸化亜鉛等、13品目の安全性評価が重点的に進められている。酸化チタンや酸化亜鉛は多くの日焼け止め製品に配合されており、ヒト皮膚と接触する頻度が非常に高い。一方で、最近、加水分解コムギタンパク質を含有する洗顔石鹸の事例のように、タンパク質が皮膚を透過して取り込まれ抗原となる経皮感作経路がアレルギー発症の重要な要因として注目されている。しかし、酸化チタン等のナノマテリアルがタンパク質経皮感作に及ぼす影響については未だ検討されていない。本研究班では、酸化チタン、酸化亜鉛等のナノマテリアルが抗原タンパク質の経皮感作に及ぼす影響に関する[1] in vivo評価系及び[2] in vitro評価系、及び、[3] ナノマテリアルのアジュバント活性に関する貪食細胞を用いたin vitro評価系を開発し検討することを目的とする。
研究方法
酸化チタンナノマテリアルとしては、粒子径35 nm(B)、15 nm(A)、6 nm(C)の3種を用いた。[1]に関しては、モデル抗原として卵白アルブミン(OVA)を使用し、マウスを用いたin vivo評価系(26年度に構築したもの)を利用して抗原の経皮感作に対する酸化チタンの影響について検討した。[2]に関しては、酸化チタンにより[3]の貪食細胞から産生されるサイトカイン類が抗原提示細胞の活性化マーカー発現に与える影響を解析する新たな評価系について検討した。[3]に関しては、抗原免疫時のアジュバント作用において決定的な役割を果たすNLRP3インフラマソームの活性化、及びそれに続くIL-1β産生を指標とする評価系(26年度に構築したもの)を利用して、更なる検討を行った。
結果と考察
[1] OVA貼付量を一定(1-2μg)にした場合、酸化チタンCでは125ngを共存させた場合に、また酸化チタンAでは12.5μgを共存させた場合に、抗原特異的抗体産生及びアナフィラキシー反応が増大した。一方酸化チタンBではこのような効果は見られなかった。従って、OVA経皮感作の際に酸化チタンナノマテリアルにより感作が増強されること、またその際に、酸化チタンのサイズにより異なる至適用量(OVAとの最適な量比)が存在することが示された。[2]酸化チタンにより活性化されたTHP-1-マクロファージ由来の炎症性サイトカインを含む培養上清の添加により、抗原提示細胞において、抗原添加時あるいは未添加時に、主要な活性化マーカーであるHLA-DR (MHCクラスII分子) 、CD86(共刺激分子)、CD54(ICAM-1)の発現量が増大することが示された。[3] THP-1マクロファージにおいて、酸化チタンは、NLRP3インフラマソームに依存的に、IL-1βだけでなくTNFαやIL-6の分泌も促進することが示された。またサイズが小さい酸化チタンCの場合は貪食阻害剤に全く影響されないことから、酸化チタンが細胞膜を透過して細胞に取り込まれNLRP3インフラマソームを活性化した可能性が示唆された。
今後、それぞれの検討項目において、ナノマテリアルの効果のメカニズムや異なる種類のナノマテリアルの影響等について検討を進める。また、3種の評価手法の結果を統合し、抗原性物質への免疫応答に対するナノマテリアル経皮曝露の影響に関して総合的な理解につなげるべく解析を進める。
結論
酸化チタンナノマテリアルが抗原タンパク質の経皮感作に及ぼす影響に関する[1] in vivo評価系及び[2] in vitro評価系、及び、[3] ナノマテリアルのアジュバント活性に関する貪食細胞を用いたin vitro評価系の開発・検討を行った。[1]に関しては、OVA経皮感作の際に酸化チタンナノマテリアルを共存させると感作が増強されること、またその際に、酸化チタンのサイズにより異なる至適用量(OVAとの最適な量比)が存在することが示された。[2]に関しては、酸化チタンにより活性化された貪食細胞由来の炎症性サイトカインを含む培養上清の添加によって、抗原提示細胞のHLA-DR、CD86、CD54の発現量が増大することを示した。[3]に関しては、マクロファージ系培養細胞において、酸化チタン粒子が濃度ならびにNLRP3依存的なTNFα分泌促進活性を有することを示した。IL-6産生促進も認められた。またサイズが小さい酸化チタン粒子の場合は細胞膜を透過して細胞に取り込まれNLRP3インフラマソームを活性化した可能性が示唆された。

公開日・更新日

公開日
2016-05-27
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201524010Z